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人類の先を歩んだ革命家!?〜『カストロとゲバラ』
◆広瀬隆著『カストロとゲバラ』
出版社:集英社インターナショナル
発売時期:2018年2月
フィデル・カストロとチェ・ゲバラ。キューバ革命を牽引した両雄です。
ラテンアメリカ諸国は20世紀の大国であるアメリカ合衆国の圧政を受けて苦しめられてきました。本書で強調されているのは、そうした歴史における「苦しめた側の人間の実名と、圧政の利権メカニズム」に関する解析です。その点に言及した書籍があまりに少ないと広瀬は考えているからです。そこで本書では、〈強欲なアメリカ資本〉対〈キューバの民族主義〉というわかりやすい対立図式をベースに一連の革命を素描していきます。
中南米における米国の帝国主義的な侵略や干渉を徹底的に糾弾する筆致は痛快です。その大きな見取り図に異論はありません。ただそれにしても、全体を通して「圧政の利権メカニズム」を強調するあまりキューバ革命を美化しすぎているのではないかとの印象を拭えませんでした。あらゆる革命が反動を抑えるために独裁化するのは宿命のようなものですが、外部からいかなる妨害があろうとも、史実を冷静に直視することは著述家に不可欠の態度でしょう。
けれども広瀬は「人類の先を歩む進歩した人間社会」(カストロ)を目指すものとして、キューバの社会主義に最大限の賛辞をおくっているのです。
人間社会を正当に評価するためには、政治リーダーの言動やメディアの情報だけでは無理があります。旅行者としての体験も充分な判断材料にはならないでしょう。カネを落としてくれる旅行者には優しくても、外部から来た定住者には冷淡な社会など掃いて捨てるほど存在するのですから。まずはその社会で生活することが必須ではないでしょうか。
ところが、広瀬が断定的に評価を与えている根拠は必ずしも本書で充分に提示されているとは思えません。何よりも本当にキューバ革命が「人類の先を歩む」ものであるなら、追随する国家がもっともっと現れてもいいはずなのですが……。
キューバが好きで、カストロやチェ・ゲバラをリスペクトしている読者にとっては、楽しめる本に違いありません。が、初学者が本書のみでキューバ革命を理解したつもりになるのは禁物。関連する書籍に複数当たることをお勧めしたいと思います。