創作への第一歩!?〜『散歩哲学』
◆島田雅彦著『散歩哲学 よく歩き、よく考える』
出版社:早川書房
発売時期:2024年2月
よく歩く者はよく考える。多忙であることを旨とする現代人には散歩が必要だと島田雅彦はいいます。本書は、都内近郊だけでなく、屋久島や秋田、ニューヨーク、ヴェネチアなどを飲み歩きほっつき歩いた記録を一冊にまとめたものです。
前半では萩原朔太郎や芥川龍之介、ベンヤミンの『パサージュ論』を引きながら、散歩の効用や意義を説きます。萩原も芥川も、散歩をすることが創作に重要な意味をもっていました。永井荷風の『濹東綺譚』は関東大震災後の東京フィールドワークといった趣で、今日の居酒屋放浪などの下町徘徊の原型との島田の見立ては興味深い。
荷風を継承するかのように郊外や地方を訪ね歩き飲み歩くリポートは、福田和也の『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』を想起させもしますが、作家らしい想像力が随所に発揮されていて面白く読ませてくれます。
「散歩は潜在的なタイムスリップ」だとか「練り歩くことは民主主義への第一歩」だとかいかにも島田らしいアフォリズムが随所に。本書が説く散歩哲学はなるほど哲学の名にふさわしい深遠なものといえましょう。