マガジンのカバー画像

そして映画はつづく

78
ZAQブログ『コラムニスト宣言』に発表した映画レビュー記事がベース。ZAQ-BLOGariのサービス停止に伴い、記事に加筆修正をほどこしたうえでこちらに移行しました。DVD化され…
運営しているクリエイター

#役所広司

木漏れ日を撮る男〜『PERFECT DAYS』

遅ればせながら『PERFECT DAYS』を観ました。 一見かったるい時間の流れ方はヴェンダース40年前の傑作『パリ、テキサス』を想起させますが、ここには良くも悪しくもジャポニスム的な空気が立ち込めています。 その線で感想を記せば「木漏れ日」がもうひとつの主役といいたくなるような映画。 エラ・フランシス・サンダースの『翻訳できない世界のことば』の中に日本語が四つ収録されているのですが、そのうちの一つが「コモレビ=木漏れ日」でした。日本語を母語としない人にとっては「木漏れ

語られない真実に宿る真実!?〜『三度目の殺人』

冒頭でいきなり殺人の現場が描かれます。観客は当然それが事件の真実だと思いこみます。けれどもそれが確かな真実なのか、映画の進行とともに揺らいできます。被告の三隅(役所広司)の話が二転三転するからです。最初は犯行事実は認めていたのに、最後には……。あの冒頭のシーンは何だったのか。誰かの幻想なのか。検察官の見た夢なのか。 少し遅れて担当になった弁護士の重盛(福山雅治)は、真実の追求よりも法廷での勝利のみを目指すクールで冷徹なエリート弁護士。事実の可能性が複数あるのなら、依頼人の利

大立ち回り、そして最後は……『十三人の刺客』

これは掛け値なしに面白い時代劇映画です。ふと「活劇」という言葉を思い出したくらいです。暴君を討つ。何よりも単純な筋立てがいい。そこに「武士道とは?」「家臣とは?」というような葛藤も紛れ込んでくるのですが、基本的には大立ち回りを楽しめば良い映画なのです。 松竹出身の生真面目な監督がナントカいう時代劇を成功させてからというもの、やたら処世訓を物語に仮託したような辛気臭い時代劇に接する機会が多く寂しい思いをしていたのですが、この作品には素直にブラボーを叫びたい。時代劇はやっぱり

ハートウォーミングなお笑い人間讃歌〜『ガマの油』

役所広司の第一回監督作品『ガマの油』は、一見したところ愛する者の死を悼むことをテーマとしています。ラスト近くのシーンで「人間は二回死ぬ。一度目はその人の身体が死んだ時。そして二度目は、その人を思い出してくれる人が誰もいなくなった時。だから忘れずに思い出してさえいれば、その人は生きている」と警句的なセリフを主人公が発するのを聴く時、観客はこの映画のとりあえずの「メッセージ」を感受して安心することでしょう。 とはいえ、この映画は人の死がしばしば呼び寄せてしまう過剰なドラマ性やセン

日本の刑事裁判を再考しよう〜『それでもボクはやってない』

「痴漢の冤罪事件には、日本の裁判の問題点が詰まっている」──役所広司扮する弁護士のこのセリフが、この作品の問題意識を端的に言い表わしています。 周防正行は、素材の面白さで勝負してきた生粋の映画監督ですが、本作では、エンターテインメント性にあえて固執せず、一心不乱にわが国の刑事裁判への疑問をスクリーンに定着させることだけに集中しました。結果、2時間23分の長丁場を一気に見せ切ってしまう見応え確かな映画が私たちの眼前に出現することとなりました。 日本の刑事裁判の有罪率が99%