木漏れ日を撮る男〜『PERFECT DAYS』
遅ればせながら『PERFECT DAYS』を観ました。
一見かったるい時間の流れ方はヴェンダース40年前の傑作『パリ、テキサス』を想起させますが、ここには良くも悪しくもジャポニスム的な空気が立ち込めています。
その線で感想を記せば「木漏れ日」がもうひとつの主役といいたくなるような映画。
エラ・フランシス・サンダースの『翻訳できない世界のことば』の中に日本語が四つ収録されているのですが、そのうちの一つが「コモレビ=木漏れ日」でした。日本語を母語としない人にとっては「木漏れ日」はことばとしても自然現象としてもすぐれて日本的な趣を感じるものなのでしょうか。
主人公・平山(役所広司)の部屋に落ちてくる木漏れ日。壁に映る平山のシルエット。前半から何度も挿入される〈影〉のショットが、ラスト近くで、平山に友山(三浦友和)が語りかける印象的なシークエンスへとつながっていきます……。
また、本作での小道具には昭和日本の味わいがあるものが多く登場します。
カセットテープ、フィルムカメラ、公衆電話。一時代も二時代も前のモノが随所に出てくるのも、とりわけ私のような昭和生まれの人間にはノスタルジーをかきたてます。一方、平山が掃除して回る渋谷区のトイレはいずれも現代的でおしゃれなデザイン。現代と昭和が混在する平山の日常の描き方は彼の複雑な履歴を暗示するものかもしれません。
それにしてもこの映画は、役所広司という存在なくしては成立しなかったでしょう。