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そして映画はつづく

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ZAQブログ『コラムニスト宣言』に発表した映画レビュー記事がベース。ZAQ-BLOGariのサービス停止に伴い、記事に加筆修正をほどこしたうえでこちらに移行しました。DVD化され…
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#黒沢清

死者も生者も風の中に〜『岸辺の旅』

黒沢清の映画では、風が見えます。 カーテンがそよ風に優しく揺れていたり、白い布が強風で捲くれ上がるようだったり、人の前髪が不気味にそよいだり。風がいろいろな風情を醸しながら存在感を示す場面が必ずといっていいほど出てきます。私は、黒沢の風を見るたびごとに、何か映画的なことに触れたような気がして満足感を得てきました。そのような映画体験のあり方は奇妙に思われるかもしれないけれど、何かとセリフで重要なことを伝えようとする文学的な映画作品の多いことに、いつの頃からか食傷していたことも裏

人が寝転んで起き上がる映画〜『トウキョウソナタ』

黒沢清の『トウキョウソナタ』は、ひたすら画面だけを凝視するならば、現代における家族のあり方を問う映画という以前に、端的に、人が寝転んで起き上がる映画であるということができます。主要な登場人物には、その具体的なシーンが実際に割り振られています。 父親は、リストラされた後、ショッピングモールの清掃員として働いている現場で妻の恵と遭遇して混乱に陥り、やおら街中に走り出し、道路でクルマにはねられて、道端で落葉の中に埋もれた屍のように朝まで横たわっています。 恵は、ある日、自宅に侵