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そして映画はつづく

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ZAQブログ『コラムニスト宣言』に発表した映画レビュー記事がベース。ZAQ-BLOGariのサービス停止に伴い、記事に加筆修正をほどこしたうえでこちらに移行しました。DVD化され…
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#ジュリエットビノシュ

〈真実〉と〈虚構〉のあわい〜『トスカーナの贋作』

イランの名匠アッバス・キアロスタミが初めて祖国の地を離れて撮った長編劇映画『トスカーナの贋作』(原題《Copie Conforme》)はいかにもこの映画作家らしいトリッキーな仕掛けに富んだ作品です。 英国の作家がイタリアの南トスカーナ地方の小さな村に講演にやって来る。《贋作》という本を書きあげた彼は、芸術における本物と贋作の問題についてひとくさり喋ります。ギャラリーを経営するシングルマザーの女からアプローチされた作家は、誘われるがままに女の運転する車に乗ってドライブに付き

花の都で織り成される人間模様〜『Paris パリ』

パリの街並みが移動撮影で捉えられ、建物が滲むようにディゾルブする。次いで俯瞰ショットに切り替わって、これからお見せするのはこの街の物語なんだと口上を述べるかのように、この映画は始まります。フランス本国ではその「愛国的」な描きぶりが人気を得てヒットしたらしい。 主人公のピエール(ロマン・デュリス)は、ムーラン・ルージュのダンサーとして活躍していましたが、重い心臓病のため成功率40%の移植手術を受けるしか生き延びる可能性はないと医師から宣告されます。手術の日まで静かに暮らすこ