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【ショート ショート】 クリスマスの奇跡

小さな街に、からくり時計台の鐘が響き渡る。
時間とともに現れる3人の少女人形たちは、決められた動きで、人々を癒す。
その中の1人に、ぼくは恋をした。

人形に恋をしたなんて、おかしいだろう。
だけど、恋に落ちるスピードは誰にも止められないんだ。

きみは、からくり時計の中に棲んでいるから、時間にならないと逢えないね。
きみに恋した日から、ぼくは毎日ここに通っている。

叶わない恋なのは、わかっている。
きみは人形で、ぼくはしがない羊飼いだから。
だけど、きみが好きだよ。
きみの目に、ぼくはどう映っているんだろう。

ぼくは、どうかしている。
最近では、きみが人間の少女にならないかとさえ、不毛
な想いを抱いている。
日々、募っていく想いがそうさせるのかな。

けれども、奇跡は稀にじゃなくて案外、毎日起きていたりする。
今日は、クリスマス。
この神聖な日にこそ、奇跡は起きるはずだ。

神さま、ぼくには何もありません。
名声も、財力も。
ただ、愛はあります。
それなら、誰にも負けない。

もしも願いが叶うなら、きみが人間の少女になってぼくの前に現れて欲しい。

少年は、祈りを捧げた。
長い時間、時計台の前で。

「メリークリスマス」
突然の声に振り向くと、少女が笑っていた。
あの、少女人形だ。

少年は、ロザリオを握りしめて笑った。
「メリークリスマス」
そして、十字架にキスをした。




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