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【ショート ショート】 キセイチュウ

俺の友人に、ユキオというちょっと、とっ散らかった奴がいる。といっても性格は良いし、頭も仲間内では一番良い。
何がとっ散らかっているかって?
とにかくせっかちで、あまり人の話を聞かない奴なんだ。そのせいか、聞き間違いが実に多いし、思い込みが激しい。
天然といってしまえば、聞こえはいいが。

GWに何処かに行こうかと、みんなで話し合っていた時のことだ。小澤は実家の都合で、いま九州に帰省しているから、ここにいるのは俺と、幼馴染の惣一郎とユキオの3人だ。

「あれ?小澤は?」
キョロキョロしながら、ユキオがいった。
小澤は、家の都合で帰省すると、前々から言っていた筈だ。俺と惣一郎は、もちろん覚えていたが、案の定
ユキオは、キョトンとした顔で聞いてくる。

「ああ、小澤はいま帰省中だから」
俺はいつものように、何でもないていを装って教えてやる。
「えっ!寄生虫?」
ユキオは叫んだ。それもとびきり素っ頓狂な声で。
「そうだよ、帰省しないといけないって言ってただろう?」
「・・・寄生?・・・どこに?」
ユキオが突然、真面目な顔で聞いてきた。
どうやら今日は、聞き間違いではなく、意味を取り違えているらしい。惣一郎は、一瞬で全てを悟ったらしく、笑いをこらえながら
「帰省するっていったら、実家だろう?普通は」
といった。

その時、俺のスマホの電話が鳴った。
小澤からだ。スピーカー機能をONにして、みんなに
聞こえるようにした。

「おぅ、小澤、どうした」
「それがさぁ、参ったよ。高速道路で多重事故があって
いま規制中なんだ」
「そっかぁ、それは大変だな」

その時、またもや勘違いのユキオが登場した。
「・・・お前、いま・・寄生虫なの?実家に寄生するって聞いたけど、もっとさぁ、言い方があるだろ?
寄生っていう言い方は・・」
「へっ?ああユキオか、そうなんだよ。いま規制中で
身動きがとれなくてさ」
「お前・・寄生虫になっても、話せるのか?」
「はぁ?規制中でも、話ぐらいは出来るよ」
たぶん小澤の頭に?(ハテナ)マークが飛び交っていることだろう。惣一郎は、ユキオの天然っぷりに腹を抱えながら
「あいつ、ヤバイな」
と俺に耳打ちした。俺は黙って頷くと
「じゃあな小澤、気をつけて帰れよ」
といって、電話を切った。

ユキオはまだ、ポカンとしていた。
頭は悪くない筈だ。ただピンと来ないだけなのか、そもそも俺たちとは頭の構造が違っているのか、謎だ。
「小澤、寄生虫だってさ。よりによって何で寄生虫なんかになっちゃったんだろ」

だんだん可哀想になってきたのだろう。惣一郎は、ユキオの肩に手を回しながら、笑っていった。
「ユキオ君、また間違えてるから」
「えっ?どこを?」
「キセイを。まず、小澤は郷里にキセイ(帰省)そして
高速道路で交通キセイ(規制)お前がずっと勘違いしている虫のキセイ(寄生)音だけだと分かりにくいけど
字で見ると分かりやすいだろう」

「ああー何だ!そっちかぁ」
ユキオは、本当に安心した笑顔を見せた。
「そういえば、GWはどこに行く?」
相変わらずの天然っぷりだけど、何故か憎めない奴だ。




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