『彼女は頭が悪いから』レビュー
『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ著を読んでの感想です。
この本、面白かったかと問われれば、期待してたほど面白くはなかったと答えたいです。物語り内容はだいたい分かっていました。わたしの期待した読み口と違っていたとうだけです。柴田錬三郎賞に選んだ方々など、面白かったと言ったり感動したと表現しているので、この文章構成を良しとするれば、良しということでしょう。別の言い方するなら、わたしの好みに合わなかったと言うことです。
第一章から第四章まであって、一章から三章までは主に、後で加害者になる男達の背景と東大出身というだけではない家柄と見合った努力(偏差値、内申のポイント積み重ねる努力のこと)、と小悪党さが語られていきます。それと被害者になる女の子の普通に生まれ育だったことが五人の男達と対比として書かれいます。といっても主役(ヒロイン)は彼女で、相手役――ライトな(軽い・明るい意味で)カレシ・カノジョの関係にあった――に東大出身の男の子がいる、という流れで進みます。本の内容を簡単に書けば、「主人公の平凡な(偏差値48の大学に通う)女の子に、東大生(平均偏差値67.5)のカレシが出来て、交際を続けようと平凡に努力していました。しかしある日、東大生という肩書きを一番の自慢にして男達五人に、服を脱がされて裸にさせられイタズラをされてしまい、心身に命の危険を感じ男達から逃げて助かった」という物です。逃げたヒロインは、例えるなら、オス猫たちが子ネズミをいたぶってる程度、シャチの群れがオットセイを咥えて投げてラグビーのようなスポーツをした程度の認識で、東大出身の男達は自分を弄んでいると、心身の危険を感じて裸でもマンションから町に逃げ、公衆電話から警察に助けを求めました。
四章の中盤から後半にかけてイタズラが行われ、男達五人は捕まり、裁判になります。
イタズラが(子供の)悪戯といえるレベルなのか、性的に猥褻な悪戯なのか、それともレイプ未遂なのか? を加害者と加害者の家族はこだわり、彼らを弁護する東大出身の弁護士も争点にしようとします。基本的な部分はそこではないということ、加害者側は全員思い当たらないです。
四章はキモなので期待通りの読み応えでした。しかし一章から三章までは、男達の自慢話、悪さ自慢が書かれていて読み続けるのに辛い。ヒロインと東大生の男との交際もそこそこ描かれいます。ここも辛い。東大生とか大学生とか肩書きに関係ない、男の身勝手な優越感からくるもの、または男尊女卑からくる傲慢さが文章から滲み出て辛い。
2000年始めに起きた「スーパーフリー事件」を想起されるレベルの身勝手な悪い行為。読んでて本当に辛い。東大だから許される、男だから許される、親が資産家だから許される、代々地元の名士の家柄の者だから許されるといった感じなので、本当に辛い。スーパーフリー事件の首謀者たちも、東大生、早稲田大生、慶応義塾大生の学生でした。あの事件の首謀者と、頭と価値観が共通している五人の男達です。ね、辛いでしょう?
小学校五年生、六年生にも成れば、女の子のスカートめくりをする男の子たちに対して「もう子供じゃないんだから」と学校の先生も、その男の子の親も言って注意するでしょう? まして男の子のズボン、パンツ、女の子のスカートまたはズボン、パンツを脱がせたら「何考えてるんだ! 子供だからって許される悪戯じゃないことくらい、11歳(12歳)にもなれば分かるだろう!」と周囲の大人はイタズラをしただけという子供に怒ると思うんです。
この小説に出てくる、加害者の男五人、その両親、その加害者を弁護して不起訴または無罪にしようと考える弁護士たちは、上にあげた事柄すら理解できない。この物語りの中で一番被害者の女子の気持ちを理解しているだろう、被害者の女の子が通う大学の教授のことばを上げて説明します。
「息子さんを含む、事件に関わった5人の男子学生の前で、あなたが全裸になって、肛門に割り箸を刺して、ドライヤーで性器に熱風を当てて見せるから示談にして、とお申し出になって見たらいかがですか」被害者にお金を払って示談にしたいから協力してくれと頼まれた教授が、加害者の一人の母親に言ったセリフです。被害者の女の子がやられたのは、それだけじゃないです。全裸にされ、お尻を含めた全身を平手でバシバシ叩かれ、乳首を痛いくらい摘ままれ、ブス、デブを罵られ、馬乗りされ加害者がカップ麺を食べるときのイス代わりにされたんです。レイプ行為がある・ないだけで昭和63年64年に起きた「(女子高生)コンクリート詰め殺人事件」の犯人達とやってることは同じレベル。(コンクリート詰め殺人事件の加害者はライターで被害者の肌を炙ってを大火傷させたけど、東大生たちはそこまでしてないか…。でも、彼女が逃げなかったら煙草くらいは押し付けていたかもしれません。そう思います。姫野さんの頭の中しだいだけど)
これがイタズラ? 二十歳を越えた男のするイタズラ?
東大生だとか、将来嘱望されている人材だとか、代々の家柄の男子とかを理由に許される行為? どんな肩書きの人間だろうと、遣っちゃいけないし、悪戯というレベルじゃない。恥ずかしいと思わなければならないことでしょ。あとイラッとさせられるのが、五人と関係した女性達の未来の計算からくる黙秘と五人の男達へのアリバイ協力。自分がされたらどうするの? だいたい普段痴漢にあったときに無力さを感じたでしょ。こういった事件のときに、事件を起こした男共への増幅された怒りや憤りに繋がらないの?
東大出身だから、財務省のエリート官僚だから、三井、住友、三菱、安田、丸紅、伊藤忠、電通のスーパーエリートだから許される。ないないない
一人の人間として、悪戯とか出来心とか、不注意でとか、浮気だったんで本気じゃなかったんでとか、男だからとか、男女の仲の話しだからとか、年上だから年下だから、そういう言い訳を用意して他人を傷つけて良いわけがない。
身勝手な言い訳をして、女の人、子供を傷つけて良いわけはないです。
面白い本ではありませんでしたが、考えさせられる物語りでした。
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