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眼福!~ナル男とCAの話し

ロングフライトを終えた…。制服を脱ぐも…。
まだ、安全域では無い。油断は禁物だ。
一応、流行りブランドの服に着替える。
空港内通路を、関係者に頭を下げながら通り過ぎ。
電車に乗り込むと、お洒落な街に降り立つ…。
私、バリキャリかCAですよ。と、言わんばかりの、異常に大きなトランクを引いている…。
まだ、気は抜けない。
綺麗なヒールを響かせて、颯爽と道を行き。
2年前に結婚した同僚から、格安で借りている。
独り暮らし…のマンションでエレベーターを待ち。
ぐはぁー。やっと…。自宅にたどり着いた。
「ダーッ!疲れたーッ!ふざけないでよーッ!」
玄関に入り、勿論。独り言で騒ぐ。
いや…。まるで意味は無い。誰がふざけた訳でも無く…。ふざけているとしたら…私か…?
家に着けば,こっちのもんだ…?途端。私は…きふじん…「生腐人」と化す。
今、流行りの夢見がちなBL好き「貴腐人」でも、勿論の事ながら。「貴婦人」でも無い。
分厚い化粧を落とし…窮屈な服とも、おさらばだ。
性格上。トランクの中だけは片付けて…。
後は…身なりも構わず、何もやる気が起きず、軽い石化を食らった様に、一応、辛うじて、動かせる…手の届く範囲しか動かず。
ビロビロのジャージにスッピンの束ね髪。
いわゆる、干物女子よりもまだ、年齢も、腐敗も進んだ。
女子力を一切捨て、生きながらも、腐っている方に近い人…。の、「生腐人」で有る。
杉浦京香、43歳。
そんな私の、唯一の楽しみ。と、言っては…。
留守中に録り貯めて有った、お気に入りのアイドル俳優が出ている番組を冷や酒、片手に見る事。
ソファーにあぐらをかいた挙げ句、寄りかかり…。
「カーッ!旨い。久しぶりーッ。眼福。フフッ。」スルメをかじり、テレビを見てニタニタする。
「ああーッ。この歳に、12時間は…流石に堪えるよな…。」
テレビに向かい、独りで呟くが…。
勿論。労う人の返事も無い。独り暮らしなんだから当たり前だ…。寧ろ、有ったら怖いわ。
ああ。先程から、CAとCAと言ってはいるが、CAと一言で言っても、ピンキリだ。
私の場合…カレンダーに選ばれる様な華やかな事も無く、皆様の想像するCAよりは、地味な顔立ち、擁するにキリの方に属するCAだと思って貰っていい。
そんな私にも、今回の仕事は、一つだけ良い事?も有った。
あれは…。きっと、聞き間違いだよな?
一週間前の事だ…。フライトの早朝、準備を済ませた私は、デカいトランクを引きずり…空港内を憂鬱な気分で行く。と…。
ドラマのロケをやっていた。
そんな事は珍しくも無いが…。
あっ!雅だよー。超ラッキー!ああ…。眼福ッ。
どうせなら、近くを抜けて行くかな?フフッ…。
昔から、唯一の趣味に愛でている、アイドル俳優、「結城雅」のロケだった。
もう、制服だった私は、かなりの興奮を押し隠し、通常の顔?で、チラ見をしながらゆっくりと、通り過ぎる…。
調度、私が現場の後を過ぎた時、何とッ。雅がこちらに下がって来た!グハッ!キターッ。
「右が、俺の一番カッコ良い顔なんだよッ。全く!」
不満顔で独り、ブツブツと文句を言う。
ヘッ…?聞き間違い?ああ…。セリフかな…?
私はその…ナルな言葉にも、ナルでも仕方ない程の美しい顔にも驚き…。ほんの一瞬、足が止まった。
バチッと目が合ってしまう…雅がハッとした。が…
瞬間的に。いつも、スクリーンの向こう側で拝見する、尊くて、眼福過ぎる笑顔を私に向けた。
ブッ。危ない!鼻血が出そうじゃー!と、鼻に手を当てていた。のだが…。
長年過ぎる勤務に…。制服を身に付けた時点から、CAに変身?する、習性?が備わってしまっている?私は…。
業務用の軽い微笑みを返し、頭を下げていた…。
もはや、職業病だわ…。これ。
私は、そのまま…眼福笑顔の興奮を胸の奥にしまい込み。スタスタとロケ現場を通り越したのだった。
「いやいや!あれぞ、眼福ッ。超綺麗な顔だったよな。グフフッ。」
スルメを噛み切り、デカい独り言を言う。
結城雅は、幼少の頃から俳優業をしてきたらしい…
彼が子役当時。地味めなCAなりに、私もまだ「結婚」と言う名の永久就職に憧れ、バブルも手伝った「合コン」なる物に興じていた頃なので、その業績は余り知らない。
一人、又、一人と…。同僚が恋愛を経て、結婚していく中で、私とて、自分なりに何回かの恋愛も、一応は経験してきた。
キリの立場で言うのもなんだが…当時、CAとの合コンは人気が有り、それなりの物件?…失礼。も、揃っていたのだ。
私でさえ、世の中では「セレブ」と呼ばれるで有ろう、有名チェーンの御曹司などと、付き合ったりもしたものだ。が…。
「今度、伊豆の別荘で、お爺様の誕生日パーティーが有るんだけど、君も来るだろ?」
彼は、私が喜ぶ。と言わんばかりに訊く。
「わぁ。素敵ね…。」 定型文的に答え、考える…。
パーティー?じゃあ、ドレスを持って…。別荘?って事は、カジュアルな格好の服も持って…。テニスやゴルフもやるかな…?ウェアを持って…。
靴だけでも、偉い量だな!おいっ。
こんな調子で、先々の事を考え、どうも…疲れる。
ずーっと、この人と暮らせと?
うわ…。面倒臭ッ。嫌かも…。
結果。結婚に踏み切るには至らない。
そんな自分の士気?を高める為に、料理学校などに通ってみたりもした。
「CAの仕事って、忙しいんでしょ?料理とか、する事も有るの?」
合コンで、意気投合した…かに、思えた人は訊く。
「はぁ…。一応、料理学校に通ってたから。」
私は正に!この答えの為に通っていたのだが…
「へー。本格的だね。作って貰うのが楽しみだな。」
これから、結婚に向けて、付き合っていこうとしている彼が言うも…。
ええー。フライト明けに、買い物をして…。エプロンも新しいのを買って?学校に通ってた。って言ったからには、「はい。茶漬け。」って訳に…。もいかないわなぁ。
うわ…。面倒臭っ。嫌かも…。
折角の士気も下がる一方。
それでも、一応…。同棲という程、大袈裟では無いが、一緒に暮らす。までいった事も有る。
「ちょっと、俺、野球を観て良い?その後でDVD借りてきたからさぁ、映画、好きだろ?観ようね。」
彼が言う。
「有難う。」 又、定型文を返して…。
野球?後で映画…。何時間掛かるんだろう…?
はぁ…。ベッドで横になりてぇ…。
折角のオフなのに。後にロングフライト有るし…
あぁ…。ウルサいな。テレビの音が耳障りだ。
映画も今日は観たい気分じゃ無いんですが…?
うわ…。面倒臭っ。嫌かも…。
長くは続かない。
自分が30の大代に乗リ、合コンの中でも「お姉さん」的存在になってきた頃には…。気が付いた。
うん。私、人との共同生活には、完全に向かない!
我が儘過ぎるんだな。結局は、「一人が一番!」と、言う事になった。
そこからは、淡々と働く。
一生を独身で過ごすには…。定年までを…。いや、少なくとも、55までは自力で働き、コツコツと老後の蓄えをしなくてはならない。
そんな、味気ない生活の中で…。
ボーッと観ていたドラマに、結城雅が出ていた。
当時、15歳だった彼は主役の弟役で…別に目立った演技力を発揮していた訳でも無かったが…。
それまで彼を知らなかった訳でも無かったが…。
突然。ああ…、綺麗な顔。ずーっと、観ていたい。こう言うのを「眼福」って言うんかな…?
などと、思った。
そのドラマを切っ掛けに、今日まで、13年間も彼だけを愛で続けているのだ!
ドラマの役以外での、番宣などでバラエティー番組に出ている彼を観ている限り、気取った所も無い、明るく。常に爽やかで、謙虚な態度の好青年といった、イメージだった。
しかも、俳優などという人種は、実在するが、実在しない様なもので…飯の心配も、こちら側の身なりの心配も無用だ。生活を乱される事も無く、実際の性格も知らずに、愛でたい時に愛で、理想の人物像を思ってニヤニヤしていられる。
私は二次元にハマる男性諸君の気持ちが、良ーく。解るよなぁー。などと考える、今日この頃だ…。
職業柄の利点も多少は有リ…
そう、空港内ロケに遭遇する事が有るのだ。
スクリーンを通さない、生の雅を見られるのだ。
やはり、生は迫力が違う。スタッフや共演者達と、はしゃぐ雅を…手を合わせ拝みたい気持ちで…。
「ああ、眼福、眼福。」 と、愛でる。
しかし!空港内は私にとって、職場で有り、戦場なのだ。
先日の様な仕事中は勿論。例え、フライト明けの帰宅時でさえ、同僚の目も有り、ロケ現場に張り付いてキャーキャー騒ぐ訳には、いかない。
この歳で、浮いた噂一つ無く、役職にまでなってしまった私の様な人間が、15も年下のアイドル俳優に狂っている様は…。決して世間で、褒められた事ではない。
色々なご意見は有るだろうが、私的に…自慢するよりは、隠したい方が強いと言うまでだ。
従って、ロケを見掛けても、一瞬の姿を目に焼き付け、さり気なく通り越し…。家に帰ってから思い出し、ニタニタと一人、悦に入る楽しみ方になる。
「ああ、面倒臭っ…。腹減った。何で、帰りに買わなかったかなー!自分。」
勿論。又、独り言だ。
早く帰宅したい余りに…、マンションの下に入っているコンビニに寄る事さえも、「まだ、お腹も空いてないからね。トランク邪魔だし。酒さえ有れば、おけっ。後、後。」などと…考えた自分を今、恨めしく思う。
しかも、今日から二日間は休み…。フライト前に冷蔵庫は空にした。
「ああ、ウメのお握りを誰か持って来てくれー!」
又、独り言だ…が、口にしたのがいけなかった。
もう、脳内がウメのお握りを食べないと、取り返しの付かない状態になってしまった…。
一旦こうと思うと、後に退けないタイプで有る。
「はいはい。買いに行きますよ!あれでしょ?どうせ、こんな時でも、一緒に住む人がいれば、買いに行ってくれるでしょ?って言いたいんでしょッ?私は!自分で疲れた足を引きずって、お握りを買いに行ってでも、一人が良いんだよッ!べーっ。だ。」
誰に言われたでも無いが…、過去に周りや、親から散々、言われ続けたフレーズを思い出し…。
苦情?を言いながら、キャップをかぶり…黒縁のだて眼鏡を装着した。
財布と鍵を手に、1階のコンビニに向かう。
深夜までにはまだ少しある為、コンビニも空いている時間帯だった。
買い物カゴを手に、残り少ないお握りの中から、ウメと昆布を入れる。
明日、起きた時に又、後悔しない様に食パンと卵も買っておこう…。
二日分を買うには、コンビニは高上がりだ。
結果、明日はスーパーに行くだろう。
でも、起きたてに、食べる物が無いのは悲しい。
パンと卵さえ有れば、何とかなるな。
ああ、どうせ来たなら…本来、余り興味も無いのだが、ファッション誌のチェックも軽くしてこ。
と、本のコーナーに足を向けた。
一人、雑誌を立ち読みしている男性が居た。
アダルト系の本なら悪い?ので…。そっと…後から雑誌を探し、歩いて行く…。
ブツブツと、独り言が聞こえてきた。
「スタイリストのセンスがいまいちだった。俺の顔でカバー出来てるけどねー。」
ハハ…。おいおい…。ナルか?俺の顔…?読モ?
少し離れた横に行き、さり気なく…顔を見る。
私が居るのに気付かなかったのか…?
人の気配にビクッ。とした男もこちらを見る…。
目深に被ったキャップから、口元だけが見えた…。
グハッ!み…雅!雅だッ。
13年間も見続けてきたんだ。口元だけで解るさッ!
一瞬だけ、私は、目を見開いてしまったかもしれない…。が…。
私達CAは有名人を見掛ける事に慣れてもいる、プライベートに立ち入る事はしない習性も、又、備わっているのだ。
私は、フッと目を反らし…雑誌を手にした。
内心では…。やったー!超、超ラッキー!綺麗なお口元だこと。ああ…、眼福、眼福。
オフショット、頂きましたー。感謝デスッ!と、手を擦り合わせていた…。
そのまま、雑誌をめくる振りをしていたが…
どうも…視線を感じる。
雅は…?帰ったのかな…?果たして…私は横を見ても良いものだろうか?
などと、視線を感じる事に対し、思案していた。
「CAさんだよね…?」
スッと、私の隣付近に寄り、雑誌を見る振りをしながら、13年間、聴き続けてきた…雅の美声がした。
とは言え、雅を見た後だから解った事だったがね…
いやいや…。それよりも!待てよッ。一週間も前に一瞬、ほんの一瞬、目が合っただけ。しかもッ、制服姿で化粧をしていた私と、スッピン、ジャージで、だて眼鏡まで掛けた私を見破った?事に驚いてしまい…。
チラッと横顔を見てしまった。
雑誌に目を落としたままで、口しか見えないが…。ピンクの唇に、バリッバリに萌えながら…。
嫌だなーッ。どうして、ドレスでも着てこなかったかなーッ。自分ッ!
いやいや、自宅下のコンビニにドレスに着替えて来るヤツいないだろ…?普通。
などと、自分にツッコミ。少々、パニック状態になりながらも、渋々と…。
「ええ。一応…。」 答えた。
いや、一応も、有ったもんじゃ無いが…。
変な返事を、私も雑誌を見る振りをしながらボソリと返した。
雅は、雑誌から目を上げないまま…
「…。もしかして…。聞こえちゃっ…」
訊き掛ける。
「いいえ。」
私は、くい気味に即答した…。
「聞きましたよ。私。」と…言ってる様なもんだ!
「はぁぁ…。この前のも?」
雅は…参ったな。と、言わんばかりに。又、私に訊いてくる。
ハタ目には、二人の客が雑誌を手に、微妙な距離感で…。個人個人、ブツブツと独り言を言っている様な可笑しい状態だ。
「いいえ。」
それでも、今度は、良い間?を開け、私は答えた。
リロリロン。
他の客が入って来た!
「会計して、外に出てよ。」
雅は呟き、雑誌を閉じる。
「なんで?」
私はまだ、雑誌を手に訊く…が…。
「早くしてね。」
雅は、答えずに店の外に出て行く。
ウェーッ!感じ悪っ。人の話は聞かねぇーし、しかも、物を頼む態度じゃねぇよーなッ。おいッ。
「690円になります。」
結局…。会計するんかい!私。
「有難う御座いました。」
釣りと商品を受け取り、コンビニを出た。
俯いて、歩道のガードレールに腰を下ろしていた雅が少し、顔を上げる。
ブハッ!カッコ良過ぎるーッ。何をやっても画になり過ぎるーッ。眼福過ぎるーッ。死ぬかもッ!
感じは悪いが顔が良きゃ、おけッ!いやいやッ。
私は、内心の大騒ぎを押し隠し、微妙に離れた場所に立ち止って、雅の方を見ないで…。
「で…。何?」 と、低く呟く。
雅もこちらを見ずに…。
「いや…。有難う。聞かない振り、有難うね。それだけ。じゃあね。」
と…言い、ガードレールから立ち上がった。
意外な言葉に…。一瞬、雅の方を見てしまったが…
直ぐに、目を反らし。
「いえ。失礼致します。」 
これは…。私から立ち去った方が良いのかな?と、感じた私は、お門違いの方向に頭を下げて…。
隣のドアからエントランスに入った。
前言撤回ね。感じまで良いじゃんッ!
事態の恐ろしさ?に…振り返る事も出来ず…。
フラフラと、エレベーターに乗り、自宅に着いた。
キッチンテーブルに荷物を放り出し…ガシャン。
「ウォーッ!卵ッ!ああ…。勿体ない!早くお碗に取らなくちゃッ!もー。明日の昼は、卵焼き確定じゃん!こうなりゃ、御飯も炊くか?」
又しても、長々と独り言を述べ…。
そのお陰?で、正気に戻った。
お茶を入れ、お握りを準備して…。今、自分に起きた大事件を思い返す。
本当に…私、結城雅と話しをしたんだよな?
グフフッ。堪らんッ。生、雅!超絶カッコ良いんですけどーッ!何?本当に同じ生物か?あれ。
いやいや、違うって!…。やはり、私の聞き間違いでは無い様だな?
爽やかな好青年だと思っていた、結城雅は…かなりのナルシストだった。て、訳だ。
しかも、常に…人に対して不服が有るらしいね。
でも…何故だろう?期待を裏切られた感が、余り、無いんだよな…。
小さな頃からカッコ良いと言われ続けてくれば、洗脳じゃあ無いが…自分をカッコ良いと思っても当たり前なのかもしれない。
毎日、スケジュールに追われていれば、人に文句も言いたくなるよな…?
しかし。凄いな…。なんで…私に気が付いたんだろうか?
好みのタイプだった?訳は絶対に!無いし。
犬じゃ有るまいし、匂いで解った?訳は無いし。
一度、見た人は絶対に忘れない?特殊能力かよ…。
いずれにしても…。私…見られて嬉しいカッコじゃなかったよな…。
でもっ。超ラッキーだっ!今まで、遙かに0だった接点が繋がったんだから!
ただ…。その接点が伸びて行く事は無いけどさ。
「ああー。眼福だった。良い声だったなー。耳福?だった。…。そんな、言葉ねぇしッ。ハハハッ。」
ご機嫌の余り、独り言に独りツッコミ。独り大笑いをして…
知らぬ間に、二つのお握りを食べ終えていた。
再生されるスクリーンの雅に向け…。
「大丈夫。誰にも、言わないよ。君がナル男だって事は、私と君の秘密だ!グフフッ。」
と、イヤラシく?笑ってみた…。

「あーあ。良く寝たッ!自宅、最高ッ!」
寝起きの独り言を大声で言い。
昼過ぎに起きだした、昨日、割ってしまった卵の卵焼きで御飯を食べる。
ん?今日、明日が休みで…。ああ、明後日は、自宅待機の日だったわ。
急な欠勤者に備え、自宅で出勤要請を待機する日だった。
いつ、フライトになるやも解らない。休みの様でいて、気が抜けないし、勿論。外出などは一切出来ない。蛇の生殺し状態の日である。
が…。この日に掃除を済ませるので、部屋は惨状を極めなくて済んでもいた。
「二日分じゃ無いじゃん。三日分だよ!近間のデパ地下と思ったけど…。チェッ。無理、無理。」
予定をデカデカと書き込んだ、数字のみの…地味なカレンダーを見て、嘆く。
少し遠いがやはり、スーパーに行くしかない。
さすがに、ビロビロジャージって訳にもいくまい。
綺麗なジャージに着替えて…。変わりないって?
超適当に化粧をした。だて眼鏡は欠かせない。
「さーて、行きますか?」 又、独り言だ。
ジャージにサンダル履きで、優雅とは程遠く…。
ダラダラと歩いて行く。
本来…。街自体がお洒落地域である為、カフェや雑貨店、ブランドショップが立ち並ぶ。
サンダルを引きずって行くには些か気も引けた…。
移り住んだ当初は、そのお洒落にも、住んでいる自分にも、酔いしれて…。
一応、出勤程度の格好をし、ローヒール位は履いて出掛けたものだか…
人間、慣れと言うのは恐ろしい。
お洒落で人の憧れる街も、自分が住んでみると、居住地域とだけに化し…。
別に…誰も私の事など見ていまい。と、思ったが最後…。底無しに適当の一途を辿り…。
今のサンダル姿に至った。
慣れと言うより…歳なのかな…?とも感じるがね。
道を曲がり…。ああ…?又、ロケだよ…。
言い忘れたが…。お洒落なこの街も多々、ドラマや飲食関係のロケが行われる。
まさか…。又、雅?なーんてね。流石に虫が良すぎるか!
通行止めになっている。スパーは、この先だ。
仕方なし、立ち止まり…今、流行り?の女優さんがロケの準備をする姿を道の端に除け、眺めていた。
隣の道路沿いにワゴン車が急に止まった。
キーッ。音にびっくりして、除けた。
縁石の出っ張りに足を取られ、よろける。
車から降りた人物に腕を掴まれ、踏みとどまった。
「スミマセン。有難う…。」
ウへーッ!ま…又、雅だよッ。ストーカーか?
いやいや…。どちらかと、言うなれば、私の方がストーカーか…?
「フッ。休み?良く会うな。」
雅が口を動かさずに、顔を近づけ呟く。
観衆が雅に気付き。キャーキャーと奇声が上がる中…。私は流石に目を剥き、ただ…頷いた。
雅は、スクリーンの向こう側に観る笑顔を振り撒きながら、ロケ現場に入って行った。
私は…。「腕ッ!腕を掴まれたッ。こ…声、掛けるんかいッ!ギョエーッ。どアップ、キターッ。肌がツルピカじゃん。若っ。オーッ!良い匂いも、キターッ。おいッ。昨日から…何年間、人の寿命を縮めるんだ!って話しだよッ。」
と…。長々と叫びたかった。
心臓がヤバい事になってるし…。
これ…。完全に幸運期が来てるな。私。
でも…。どうだろう?たまにしか拝めない、生の雅だから、最高に尊いんであって…。
こうも…。まあ、二日だけだが。毎日、出現されたんじゃな…。
手を摺り合わせ過ぎて、指紋が無くなりそうなんですが?
などと、馬鹿な事を考えているウチに、撮影が移動するらしい。
私の隣の車に雅が又、戻って来る。
警備員が観衆に道を空ける様、促す。
私も後に下がった。
雅は目の前を通り越し…。車に乗り込む前に、チラッとこっちを見て、手を振った。
別に…別に。図々しく…。私に向けたものだと思った訳では無いが…軽く頭を下げる。
…ッ!雅も軽く、頭を下げた。
いやいや。だよね。これも…私に下げた訳じゃないってば!
紛らわしいタイミングで、頭を下げねーで下しゃいよ…。
なんて、考えたが…。
だよねー。私に下げたと思ってれば、一日が幸せじゃん。そうだよ。どーせ、二次元に近い人なんだもん。そう考えて幸せでいよう。
ああ、どアップ。グフフッ。眼福、眼福。
と、解除された道をダラダラでは無く。
仕事の様にキビキビと、スーパーに向かった。
重たい荷物を下げ、家に辿り着く。
いつもは、永遠…と、思われる道が足取りも軽く、妙に近く感じた。
冷蔵庫に食材をしまい込み、ビールを持ち出し、ソファーに腰を落ち着ける。
「待てよ?話し掛けられたのは本当だし…。ああ!腕を掴まれた…。」
雅に掴まれた自分の腕を、無理な体勢で頬に押し付け…スリスリしたりした。
もう…ただの変態だな。
ほっておくと、匂いまで嗅ぎそうな自分を制する為にも…。プシュッ。ビールを一気に煽る。
又、テレビに映る雅に魅入って…。
イヤラシい顔でニタニタしながら、知らずに眠ってしまった。
「ハ…ハクショイッ!」
自分の伊勢の良いくしゃみに驚き?目が覚めると…
すっかり、暗くになってるし…。
これが良い!別に何をする事も無く。慌てる必要も無い。
「ロングフライトで、疲れていたんだねー。京香。」
自分を自分で労う。
グウゥゥゥー。おいッ…。長過ぎる感がある、腹の訴えだ。
「へへへーッ。食べる物は沢山、有るもーん!明日も休みだッ。よしッ。ピザ、ワインでいこう!チーズの詰め合わせと…サラミも有るよ。先ずは、ピザを焼いて…。」
相も変わらず、だが、機嫌の良い?独りで話し…。トースターにピザをセットした。
他の準備を整えて、トースターのタイマーを回す。皿を出し。タバスコは絶対に外せない!
冷蔵庫を開け、タバスコを取り出す…。
「ギャーッ!嘘でしょう?ねぇーッ!マジ、止めてよッ。空じゃんッ!どーゆー事ッ。あ…。」
騒ぎ散らして、思い出す。
フライト前日にパスタを食べて…今度、帰りに買ってこよう。まだ、数滴は有る。冷蔵庫にしまった。
「ああー!なんで?なんで、思い出さないかなー!スーパーに行ったくせにッ。宅配のピザに付いてきたヤツ…。さえも、無いんだねッ!もー!焼き上がっちゃうよー。」
慌てて、キャップをかぶり、眼鏡どころでは無く。
家を飛び出し、コンビニに走る。
タバスコに一直線。レジを済ませ…。
急いで、店内から出ようとして人にぶつかる。
「スミマセン!」 と、一声。
通り過ぎる。
「おい。」
何か聞こえたが、私は謝ったんだから、おけっ。
道に出て…。「おい。ってばッ!」
後から、大きな声がする。
振り返ると…目深にキャップをかぶり、雅が立っていた。
ブッ!何なの?一体ッ!マジ、ストーカーかよ…。
今まで、2年以上も全く遭わなかったよなっ?
異常発生の虫かよ…。しかし…
ああ…、立ち姿に、後光が…。ま…眩し過ぎるッ!
じゃ、無くて…。
「ああっ!昼間はどうも…。今晩は。」
いやいや、近所のおばちゃんに挨拶してるんじゃないんだからさ…。
もう、普通に「今晩は。」かよ…。
「しかし、良く会うな。何?急いでるの?眼鏡も忘れてるじゃん?」
な…何を、貴方まで普通に話し掛けてるデスか?
結城雅さん…
変な日本語を心で呟き。
眼鏡のジェスチャーをする指を見て…
うわーッ。綺麗な手。綺麗な指。綺麗な爪…。有り難や。有り難や…。手を合わせ、拝む。
「はあ?何?ええーッ?神様かよ。俺。」
えっ?ああーっ!心で拝んだつもりが…。リアルに拝んでるじゃんッ!私。
「あ…。いえ…。ハハ…。いえ…。」
慌てて、手を戻し、作り笑いをしてみる。
「ねえ、急いでたんじゃないの?」
雅が訊く。
ああっ!ピザッ。ピザが焼けて、且つ、冷める!
と、思ったが…。
「いえ。大した用事では…。あの…ピザが…。」
年甲斐も無く、モジモジと答えた。
気持ちが悪いだけで有る。
「ビザ?えっ?日本人じゃないのッ?」
「は?いやいや、ビザじゃないよ。ピザッ。これ。」
思わず、タバスコを雅の目の前に突き出し…。
「一応、日本人で有ります。」
又、日本語が乱れた…
「ブハッ!ピザッ?ピザねぇー。ハハハッ。」
ギャーッ!笑った!え…笑顔!頂きましたッ!
ああ。眼福過ぎるうーッ!切り取って帰りてぇー!
いや、この等身大フィギュア、連れて帰りてぇ!
ひとしきり、心中で騒ぎ散らし。
「あ、コンビニに、ご用事でいらしたのでは?」
コンビニを指を揃えて指し、大人しく訊く。
「うん。…。腹、減ったからさ。」
ああ。腹なんか、お減りになられるのですね?
霞でも食べて、生息成されてるかと存じましたが…
「はあ…。左様ですか。では、失礼致します。」
私は…目の前に実在する、幻に頭を下げる。
「いやいや、そこは…。ピザ食べる?とか、訊かないの?」
幻が…言葉を話す唇を…ガン見していた。
「ん?何?誰が?」 
余りの美顔に頭が痺れ…。無意識に訊き返した。
「は?いやいや、今、家でピザ食べるんでしょ?」
「はい。頂きますが…。」
「だから、俺も一緒にどう?って誘わないの?って訊いてるのッ!」
私の呆然加減に呆れ、雅の声が大きくなった。
人が振り返る。
「ああ…。そこだよね?マンション。ともかくさ、入ろうよ。ここじゃ、目立つし。」
ともかく?入る…?ハッ?誰だ?この人。
「早くッ!行くよ。」
幻が…私の手を取り、隣のエントランスに引っ張って行く…。
行く…。じゃねーよッ!おいッ。
「ちょ…ちょっと、お待ち下され。」
やっと、事の重大さに気付き。エントランスで立ち止まる。
「ハハハッ。下され。って、何なのッ。ハハッ。」
腹を抱えて笑っても。ああ…。尊い…。眼福過ぎて、眼にバチが当たりそう…。
ああ、繫いでるッ!手を…。手を繫いで…。あっ…目眩がッ!
いや。じゃ、無くてッ。
「もしや…。我が家に…いらっしゃる。と…?」
もう一度、頭を白紙に戻してから…立ち直ろう。と…訊いた。
「はあー?そうでしょ?早く、ピザが冷めるよ。しかも、腹ペコだし、喉も渇いてる。見られてもヤバいっしょ?何階?」
いやいや、待てって!
「あの…。ウチはレストランやってませんよ?ピザと言いましても…。スーパーの市販物で御座いますが…。」
チンッ。
うわわーッ。人が降りてキターッ。いや、来たッ!
雅は、私の手を取ったままに…。後向き加減でスルーした。
緊急事態にすっかり、正気になった私は…
降りて来た隣人に頭を軽く下げ…。
済し崩し的?に、雅と…仕方なくエレベーターに乗り込んでしまった。
「ほら見ろよー。危なかっただろッ?早く家に入ろうぜ。ヤバいって。」
はあ?苦情デスか?何なの、一体!
「いやいや、これ…可笑しいって!マジで、来る気なの?ってか、もう、押したけどさー!言っとくけど、来ても、ウチ、何も無いよッ?」
私は異常事態に…興奮も忘れ、腹を立て始めた。
「ピザ、有るじゃん。分けてくれるでしょ?ねっ?」
スクリーンの向こう側の笑顔…キターッ。
ああ…。
チンッ。
感動に浸る暇も無く。無残にエレベーターが開いてしまった。
「はあ…。なんてこった。じゃあ、どうぞ。」
私は鍵を開け…。「結城雅」を招き入れていた。
「お邪魔しまーす。ああ、ピザの匂いがしてる!」
雅は、キチンと靴を揃え、普通に上がり込み…。
言った。
イヤラシい習性で…靴のメーカーを見てしまう。
グハッ。流石だな。って…そんな場合でもねえよ。
「そりゃ、ピザ焼いて行ったからね。匂いもピザだよね。まあ、座って下さい。今、出すよ。」
もう…。どーにでもなれッ。
雅はソファーに腰を下ろし…ダラけた格好で、すっかり、寛ぐ。
「ねえ、何飲むの?ビール、日本酒、ウィスキーにブランデー、テキーラ…大概の酒は有るよ。ちなみに全部、安物ね。私はワイン開けるけどね。ああ、普通に安いチリワインね。」
眩しさに目を反らし、且つ、半分ヤケクソ気味に訊いた。
「ハハッ。すげーッ。酒飲みなんだ?えーと…。名前は?」
酒飲み!はいはい。お察しの通りです。
「京香、杉浦京香デス。で?そちらは?本物の、結城雅さんで宜しいんデスかねッ?」
切り分けたピザを運び、ローテーブルに置いた。
「そうだよ。ハハッ。本物の雅だよー!うわー。旨そうじゃん?京香、俺もワインで良いよ。早く、食べようよ。」
ギェーッ!な…名前呼びかよッ!ヤバッ。し…幸せ死にするぅぅーッ!ハアハア…。
落ち着けッ。43歳ッ。相手は28の坊主だ。大丈夫!大人の余裕を見せてやれ。
「じゃあ、食べよう。ワイン開けるからね、お先にお食べあそばせ。」
だから…!日本語ッ。
「ブッ。うん。あそばすよ。面白れー!頂きます。」
一応、手など合わせるんだね…。可愛すぎるッ!こっちが手を合わせたいわ…。
「辛っ。か…辛い!京香!早く、早くワインッ。」
舌を出し…。ハアハアしてるよー!
ブッ。は…鼻汁…じゃ無くて、鼻血もんだーッ。
いや、鼻から内蔵が飛び出しそうなんですがッ!
「ああ、はいはい。ど…どうぞ。」
ワイングラスを二つ満たし、一つを雅の前に押し出した。
「早く、早く。」
ワイングラスを手に、雅が言う。
「は?どうぞ?」 私が言うと…。
「乾杯だろ?早く、京香も持って!」
ハアハア言いながら、雅が足をバタバタした。
「ああ、か…乾杯…。」
私は体中を甘く貫く、雅萌えビーム?にやられながらも…。
グラスを上げた。
チーンッ。軽やかな音が響いた…。
「乾杯、京香。はあー、助かった。へ…。美味しいじゃん。ピザも旨いよ。京香も食べな。」
と、雅が微笑む。
いやいや、これ。私のピザじゃけん。とは、勿論。思わず…。
「はあ…。頂きました。」
と…雅を見つめ…。手を長々と合わせていた。
「ハハッ。何?この人!面白過ぎるぅ。頂きます。だろ?頂きました。だって!何だよー。ハハッ。」
良く笑う男だな?いや、もっと、お姉さんに笑って見せておくれ。
いや…おばさんにデスか?
自虐的な考えに陥っていく。
「江戸切子…。良いよね。俺、好きなんだ。綺麗な物がね。」
ワイングラスを見つめ、雅が言い。
「自分の顔とかネッ。ハハッ。」 付け加える。
「うん。本当だね。」
切子の輝きを映す、綺麗な目を見て、くい気味に答えてしまった。
「ちょっとさー。これ、笑う所だよッ!京香…。ハハハッ。」
ナル男がバレている気楽さか?雅は言う。
私は、ピザを一枚、口に加えて、立ち上がり…。
「もう一枚、焼くよ。」
言いながら、キッチンに向かい…
「無理ない…。その顔じゃ、無理ないと思う。例えば、私が雅の…あ。呼び捨てで、失礼。雅の顔だったら…。一日中、自分を愛でてるよ。鏡を離さないね。ハハッ。」
タイマーを回して、戻る。
「…。京香、一緒にソファーに座ろうよ。寄り掛かって、楽にしなよ?俺がこっちで…。」
ウチにソファーは一つだが。かなり大きい?長い?大人なら五人は腰を下ろせる位だ…。が…
私は、隣に座る。などと、恐れ多い事は考えず…。ラグの上に座って居た…。今までは、緊張感と興奮に、疲れを忘れていた。
雅に言われて初めて…、ああ、寄り掛かりたいかもな…?感じた。
一つのソファーに二人で一緒に…。ブハーッ。た…堪らん!頑張れッ。心臓。
生涯最高で最後のチャンスだ。逃す手は無いッ。
しかも、良ーく、考えろ。ここは私の家じゃ。
「有難う。そーだね。じゃあ、私はこっちね?」
両サイドに寄り掛かり、お互いの足を中央に出す形になる。
「なっ?楽だろ?京香。」
なっ?かよ。偉そうに雅が言い。
「いや…。雅…。ここ、私のウチだし。」
「あ…。忘れてた。ハハッ。だよねー。しかも、これって。仲良しみたいだな!ハハッ。」
無邪気に笑い。「仲良し」などと…。グェッ!
終いには、髪などを掻き上げる。
クワーッ!やめておくんなさいッ!ハァハァ…。
な…なんて、画になる、男なんだいッ?君はッ。
ああ、私の家が…。週刊誌の見出し写真の撮影現場と化してるーッ!お助けーッ!
チンッ。昇天か?
ああ。ピザが出来たんだ。良かった…。リアルに戻れて。
「今度は俺が持って来る。京香は、休んでて。」
雅が起き上がり、恐ろしい事を言出した。
自分は寝転んでて…雅様に家事をさせるなど…。
末恐ろしい。バチ何処か…天誅が下るわッ!
「や…止めてぇー!火傷でもされたら、私、一生悔やんでも、悔やみ切れない!」
私は、飛び起きて…焦りの余り、雅の足を掴んだ。
「うわーッ。駄目、駄目。擽ったい。ハハッ。京香、足は止めてーッ!ギャハハッ。」
か…可愛すぎるッ!脳に爆撃波を食らった私は…。
頭脳が破壊したのか?調子に乗ってしまい。
「あら、良い事を聞いた。」
と、雅の足の裏を擽る…奇行に走った!
「ギャハハハッ。マジ、勘弁ッ!ギャハハハッ。」
スクリーンの向こう側では、見られない破顔で、雅が大騒ぎをする。
な…何をしてるの?私。
突然、我に返り。恐ろしくなった。
「ピザ、冷めるわ。持って来る。」
スッと立ち上がり、キッチンにスタスタと行く。
「京香ッ!汚ねぇーなッ。覚えてろよー!ダーッ!まだ、擽ったいッ。もーっ!馬鹿笑いしちゃって、美顔に皺が増えたら、京香のせいだからなッ!責任取れよなッ!」
私はピザを切り分け…。
「はいはい。ナル男君と、良いエステティックサロンにでも、お供いたしますかね?私の皺は、今や医者でも取り返しが着かないけどね。ハハッ。」
言ってやった。
「ねえ?何でさ…何で京香は…。俺がテレビと違う人格なのに、驚かないの?幻滅…しない?」
妙に真剣な訊き方だった。
「テレビと違う人格?そうかな…そのままじゃん?礼儀正しいし、人を思いやれて、良く笑う良い子だよ。驚く…?まあねー、この家に今、結城雅が寝っ転がっているのには、流石に驚くけど…。幻滅?全っ然。しないなー。」
奇行に呆れてはいますがね…。
幻滅どころか…真剣なお顔も素敵でらっしゃる!
グフフッ。…失礼。
ピザをテーブルに置き、ソファーに戻った。
タバスコを自分の分に、バシバシと掛けながら…
私は答えた。
「…。京香は…。テレビ、見ないだろう?テレビの俺を知らないから。そんなふうに言ってくれるんだよ。もっと、凄ーい、爽やかで、良い子なんだからね。自分で言うのも何だけど…。ハハ…。」
雅が少し、苦い顔で言う。
クッ。眉間の皺が尊い…。む…胸が苦しいー! 
雅さん。13年間も、殆どの番組を拝見させて頂いておりますよ。
ずっと、観てきた私が言うんだから、間違い無い。
「ハハッ。撮影中はナル男じゃないの?私には解らないけど…。自分を好きだって事は、寧ろ良い事でしょ?特に雅みたいな職種の人達は、少しナルシストじゃないと、やってられなそう。」
雅の視線を感じたが…怖くて見れない!
心臓を労りたいから…続けて言う。
「そうだな…。自分が一番、カッコ良い!って思い込む事でさ、益々。輝くみたいな感じ?かな。」
ピザをかじっても尚、色気のムンムンに漂う唇をガン見しそうだし…。
又、心が乱れ、手を合わせそうなので…。
一心にピザだけを見ながら、言った。
優雅にワイングラスにワインを注ぎ足し…。
私のグラスにも足してくれながら…
「そう…。そんな感じだよ。いや。自分が好きだって事は…。まあ、許すとしても。俺…。いちいち、周りの人の文句を言うだろ?」
へぇー。自分で気付いてらっしゃる?
ああ。もしかしたら…。私が自分を責めるのと同じかな?
「もしかして…。自己防衛?駄目だった時の言い訳かな?例えば…、雑誌で、評判が悪かったら、スタイリストさんのせい。とか…?私もね、良くやるんだけどさー。私の場合は、失敗した自分を責める。期待が大きい過ぎたね?所詮、貴方はこんなもんだよ。ってね。ハハ…。自虐的?」
しまった!チラリと、見た瞬間に。ワインを飲む雅の喉に目が向いてしまった。
綺麗な喉仏がワインを通し。怪しげに波打つ…
こ…これはッ!げ…芸術品の域だな。おいおいッ。
ああ…。私の眼に録画機能が備わっていない?事に、涙が出そうになった。当たり前だがね…
「自己防衛?いや…。違うよー。俺、マジで性格悪いから。ハハ…。ああーッ!嫌になる。二重人格になりそうだ。もう、なってるかもね。」
ん?酔ってる?随分と…ぶっちゃけてますよ?
大丈夫デスか?雅さん?
「もう、ずーっと、演じ続けている感じ。反動で…独り言がどんどん増えるんだ。ご存知の通り、愚痴ってか…人の悪口ばっかり!ハハ…。いつか。本人たちの目の前で言葉にしそうで…怖いよ。」
首を振り…顔を手で覆う。
はぁぁ…。眼福…。ドラマのワンシーンの様だ…。
いやいや…。泣き上戸とまではいかないが…
暗くなってきたな…。
さっきまでゲラゲラ笑ってたのに。面倒臭ッ。
「面倒臭ッ。雅、面倒な男だな。あのさ、サッサと目の前で言っちゃえば?少々…。長く生きてるから、言うけどね。言い方一つじゃないの?」
私が面倒臭い男だと言った事に、驚いたらしく…。
目を見開いて…少し、起き上がる。
「例えば…。いつも有り難う。って言った後に、右側のショットが好きならさ。右側から撮って貰うと嬉しいなー。俺、右側が気に入ってるんだ。ハハッ。とか。ああ。始めの有り難うと、この最後のハハッ。が大切だからね。ハハッ。スタイリストさんにも、こんな服が好きなんだ。宜しくね!ハハッ。とか…これ、感謝を始めに言うのと又、ハハッ。が大切!」
知らぬ間に、ベラベラと話し…。我に返って…
「い…言えたら、雅、苦労してないですよね…。ゴメン…。うん。でも、でもねぇ。結果、思い通りにいかなかったとしても。口に出して、言うと言わないのとでは、自分の中で違うんだよね…。ストレスがさ。しかも、自分で、性格悪いなんて気付いてる性格悪いヤツなんて居ない。なんて…。ハハ。」
一体…誰ですか?この説経ババアはッ?
マジで勘弁してよー。あんたが面倒だって話よ!
死にてぇデス。いやいや、洒落じゃないからね。
雅は、暫く私をガン見していた。
あ…穴が有ったら、掘りたい…。いや、入りたい!
「京香。言って…みようかな。俺。」
ウエエーッ!雅が呟いて…。今、気が付いた!
もし、それ言って、周りの人に雅のイメージがダウンしたら?私のせいじゃんッ!
20年以上の雅の苦労が水の泡…?こ…怖っ…。
怖いわッ!嫌ーッ。嫌だ嫌だ嫌だーッ!
「あ…あ…。スミマセンッ!私が考えてた事を言ったまででして…。そ…それで、雅様のイメージにキズが付く様な事が起きたら…。わ…私としては、大変!困る訳でして…デスね。もう少し、慎重にお考えあそばした方が宜しいかと…存じますです…。」
だからッ。日本語ッ。頼むは…。私。
「だよね。だから、これで売れなくなったり…。使って貰えなくなったら、京香に責任を取って貰う事にしたんだ。ヒモにして貰うからね。ハハッ。」
ギョエーッ!究極…。キターッ!
ヒモに…ヒモに…?ロープでも、綱でも、ご自由になさって下さいッ!
ん…。いやいやッ。無理、無理!
こんなのが四六時中、家に生息してたら…。
それこそ、毎日の鼻血で…出血多量死ぬわッ!
屁も出来んッ!…失礼。
「お…恐ろしい事をお考えになられるんですね…?」
「ハハッ。半分は冗談だよー。って言うか…。限界なんだ。もう、爽やかな芝居も限界なんだわ。だから、この大好きな仕事を続けていく為に、俺が決めた。それが例え駄目でも、京香のせいじゃないからね。気にしないで。」
魅惑的な微笑みを私に…私に向け、雅は言った。
「私…。冷や酒を頂きます。失礼。」
目の焦点を合わせ…頭を冷やす為、冷や酒を用意して…癖?でスルメと柿の種まで…。ご丁寧に手にしていた…
「凄ーッ。マジ酒飲みなんだ…京香。ハハッ。」
雅が笑い上戸に戻ったか…又、私を悩殺する。
「そうだよ。私、生腐人だもん。」
開き直った私は、スルメを囓って言う。
「は?冷や酒が…貴婦人なの?」
雅が何故か…スルメを取り…訊く。
「ハハッ。私は、生の腐った人。で、きふじん。」
おいおい…。スルメを…ガジガジッ。一生懸命に囓ってるよぉ…。
どんなに可愛いらしい小動物も、顔負けな可愛さなんですがッ!グハッ。ヤバっ!
「ハハハッ。京香!何それーっ。生腐人って!超ウケるぅー!ハハッ。」 雅は、又、ゲラゲラ病だ。
私は、超萌えるぅー!ははっ。
「いや、笑い事じゃない。マジでだよ。ロングフライトとか終わると、もう、動く気にもなれなくて。このソファーから動かず。ビロビロジャージ…ああ、こういうのね。で、酒と乾き物を手に、テレビ見て、ニヤけてる。生きてるけど…女…人として腐ってるんだわ。ハハッ。」
今の私の姿は…歴代の彼氏にも見せた事が無い。
ここまで来りゃー。隠し事無しの、ぶっちゃけさ。
「全てが面倒でさ。だからね。結婚もしない…は、格好良すぎか?出来ないしだね。ハハッ。」
私が今度は暗くなってきた…か?
「彼氏…。どうせ、そんな事、言ってもエリート彼氏はちゃっかり、居るんでしょ?」
雅はワイングラスを持ち…
習慣って恐ろしいな…。知らぬ間に…ソファーの上でいつもの様に、あぐらをかいていた私の膝に頭を乗せた。
頭を乗せた……んかいッ?
グホッ!…と…吐血する―ッ。
ヤバっ!ヤバっ!ヤバっ!足が震え出して…。
ワインを飲んでいた雅は…。ガタガタ揺れて…。
「ちょ…ッ。ちょっとー。京香!止めろよーッ!溢れるだろー!ハハッ。」
止めろと、仰られてもですねーッ!自然現象で…。
一応、苦情に対し、私は足を押さえ震えを止めた。
髪…。髪に…触れてしまったーッ。ラッキー!
いやいや、ラッキー!じゃ無くてッ。な…何?
これ…。私って、先日…確かに、成田に着陸したんだよね?
黄泉の世界とかじゃないよね?
足は…?ああ、足に雅の頭が有るんだから、足も有るよな…?
「ねえー?京香!訊いてる?彼氏!彼氏は居るの?」
頭を人の膝に乗せたまま、私の顔を仰ぎ見て雅がスルメを口にくわえ、訊く。
やりたい放題だな!コイツ。私を殺しに来たのか?
「居ないよッ!私は独りで生きるって決めたの!その為に血の滲む…は大袈裟だけど…。努力もしてきたのッ。」
と、言い切り…。今まで人と付き合ってみた経緯を一通り話して聞かせ…。
「結局ね。面倒臭ッ。嫌かも…。ってなるのよッ。私は、我が儘で独りが大好きな、生腐人なのッ!」
締めくくり、冷や酒を煽った。
「良かった。まあ、彼氏が居ても、俺は負ける訳は無いけどねっ。ええー。じゃあさ、俺が今ここに居るのもさ、京香、大迷惑?そんな事、無いよね?だって、俺、可愛いいもんね?ねっ?」
訳の解らない、言葉を話し出した。しかも…
はははっ。出たなっ!究極のナル男発言だよ。
「ねえー?」 雅が私の膝でゴロゴロする。
世界一、可愛い玩具なんですか?これは?
「そうだねー。いや…。ここまで、酷い姿を曝しちゃうと、楽だし…。久しぶりに、楽しいかもね!本当に雅は可愛いしねー。」
酔いが良い感じにまわってきた私は…雅のほっぺたを突く…奇行に及んだ。
とはいえ、酔っ払う訳ではなく…ちなみに、私は、今までに酔っ払う。といった体験をした事が無い。
余程、アルコールに強いらしい。
ただ…。この現実離れした空間に、酔っていたのかもしれない。
雅は、ほっぺたを突いた私の手を握り…
「良かった。実は、俺。気の弱い、ナル男だったりするから。俺も。久しぶりに楽しいなー。なんか…凄い楽だしね。」
と、私の手を舐めた…ッ!
な…ッ!な…何故かーッ!何故、舐めるッ?
「おいッ。な…な…」 余りの爆撃に…言葉が出ず…
「ハハッ。京香。感じた?ハハッ。顔ッ!目が倍になってるよ!ハハッ。」
小悪魔…いや、ただの悪魔は、世界の美を集結させた様な顔で笑っていた。
おー…落ち着けッ。43歳!い…犬が舐めた様なもんだろ?はははっ。…。
ああ…。一生、手は洗わないでいるかッ!
この舐められた手を今すぐに、舐めたい…。
些か、変態じみてきた自分に危険を感じ…
「あの…。そろそろ、お帰りにならなくて宜しいんでしょうか?明日のお仕事に差し支えたり…」
言ってみた。
「うーん…。ああ、そうしよう。」
「は?何を?」
一人で 何かに納得したらしい雅は…
「うん。帰るね。京香。又…来ても良いでしょ?」
普通に恐ろしい事を言い出す。
は?又?又、この私の残りも少なくなって来た?寿命を縮めに来ると…?
かっ…可愛い過ぎて、勿体なくて、断れねぇッ!
例え寿命を縮め様とも、私は、眼福に生きるゼッ!
ん?何マジになってるの?社交辞令…じゃんッ!
芸能人は特に、人付き合いの基本だね。はいはい。
「勿論だよ。又、来てねッ。待ってるよ。ハハ…。」
私はかろうじて。最後位は、社交辞令を織り交ぜ、まともな答えが出た自分を褒めたい心境だった。
玄関に二人で行きながら…。
ああ…。後ろ姿にまで後光が…。
見納めだ。マジマジ見ておかなくちゃ!
靴を履いた雅は…。
「うん。解った。じゃあ、ご馳走様ね。」
と、私の半分、渇いた…いや、乾いた。ほっぺたにキスをして出ていった。
はははっ。やだなー。雅ったら…
「ゲ…ッ!グ…ボ…ッ!ギャーッ!」
訳の解らぬ濁音を実際に叫び…。
玄関に座り込んでしまった。
暫く…何を考えていたのかを思い出せない程…。
頭が真っ白だった。
これ…腰が抜けたかもしれない…。

恐る恐る…立ち上がる。ああ…。良かったー。
「何だったの?今の数時間は?誰か教えてくれー!ここに…。結城雅が居たんだよ?ほら…。グラスが有るよな。ねっ?夢では無いじゃん?悪い病気じゃなくて良かった…。誇大妄想とか…ハハ…。」
又、独り言を言い。弱く?笑った。
雅が使っていたグラスを手に…。激しく頭を振り、グラスを舐めようとした自分を制した…。
風呂を入れる間に、思い出すと発狂しそうなので…一旦。無心になり、片付けをした。
風呂に入り…。初めて考え出す。
グハッ!駄目だ。マジで鼻血が溢れそう!
しかし…。綺麗な顔だったー。喉仏の色気ったら!
膝枕って…あぐらの膝枕だけど…。クッ!堪らん!
それにしても…。私。意外にも、疲れなかったな?いや、興奮疲れは有ったけどさ…。
何でだろ?自分でも、呆れる程…。雅に、気を遣わなかったよな?
ああ。そうか!私は思った。暇さえ有ればテレビで雅ばかりを観てるから…。現物?と、スクリーンの向こうの雅に、区別が付かなくなっちゃって…居ても当たり前。みたいになったのかな?
些か、「普段のままの私」過ぎた感はあったがね…。
まあ、良いさ。もう二度と経験する事の無い奇跡が私に起きたんだから。
神様は本当に居たんだなー。有難う御座いました。
風呂の中でも…又、手を合わせていた。
さあ、上がって、スクリーンの向こう側に、今日の眼福を合わせて、余韻に浸りますか?グフフッ。
風呂上がりのビールを水代わりに飲みながら…
「ああ、何か…。腹減ったな?作るのは面倒だしなぁ。御飯の余り、冷凍しなきゃ良かったよ…。あーあ、何にするかなー?」
ピンホーンッ。
はあー?驚き…、時計を見る。
えっ?10時なんですがッ!宅配業者でもあるまい?
ちょっと…。気持ち悪いなぁ。
43とは言え、女の独り暮らしである…。
ピンホーンッ。又、鳴る。
「はい…?」
インターホンに行き…躊躇いがちに出る。
と…。雅のどアップが映ったッ!
グハッ!美顔どアップ。キターッ!
じゃ…無くてッ。
「京香!早く開けてよッ。人が来ちゃうじゃんッ!早く、早く!」
えええーッ!
「は…はいっ!」
慌ててインターロックを解除した。
玄関に走り…ドアを開けて、雅を待つ。
一体全体、何事デスかッ?えっ?何が有ったの?忘れ物…。いやいや、無かったよなー?
エレベーターが開き…。色々、両手に下げた雅が走って来る。
「京香!たっだいまッ。待った?」
普通に…?雅は玄関に入って来て…靴を脱いだ。
「はい?ただいま…?待った?…。ん?」
ソファーに向かう雅を追いかける…。
「あーッ!俺も、ビール飲むッ。全く。京香は、冷たいなー!待っててくれないで、先に飲んじゃうんだからなッ。まあ、その気を遣わなさ?良いんだけどさ。ハハッ。」
すっかり…。ソファーに収まり、テーブルに荷物を置いた。
「えーと…?ですね…。」
流石の私も…。眼福どころでは無かったが…
「ねえねえ。。小腹空いたよね?ほら、そこの店のおでんでしょ?ウチの近所の寿司でしょ?これも、ウチの近くの夜までやってる便利なパン屋のパンでしょ?京香、明日の昼、作るの面倒だもんね?準備が良いだろ?俺。初めてこんな事したけどさっ!京香、嬉しい?二人で食べよ。ハハッ。」
いやいや…。ハハッ。じゃ無い。ハ?
え…?明日の昼と、いいましたか?
「ま…待てッ!雅…。えーと…何故、ウチに?」
私はやっと不思議さんに、質問をした。
「は?だって京香が、又、来て良いって言ったんじゃん?待ってるよ。って言ったよね?」
雅は当然の様に答えた。
「ええーッ!今日の事だったの?しかも…そんなの社交辞令かと思ったし…。」
「ええー。何で俺が京香に社交辞令なんか言うの?いやね。着替えも無いし、泊まるにしても、一旦、ウチに帰って、着替えたりしなきゃね?気を使ってお風呂も入ってきたよ。偉いでしょ?」
うん。偉いね。って…?何がッ?
いや。それよりもだ!その前に…。
な…なんて?なんて仰いました?
泊まるにしても…?と…?泊まる…って何語だ?
「えーと…。我が家にお泊まりになられる?と。」
「うん。俺、明日は一日中のオフじゃん?半日とかは有るけど、久々なんだ。さっき、そのカレンダー見たら、京香も休みでさー。運命ってヤツ?感じたねッ!良かったよねー。」
うん。良かったよねー。
いやいやッ!違うッ。オフじゃん?だと?
マネージャーかよッ?そんなの私…知らねぇよっ!
「ちょっとー。おでん冷めるよ!寿司も早く食べようよー。特上だよ!京香、好き?俺、風呂上がりで喉カラカラだしっ。」
特上…?ゴクンッ。そ…それも、違うッ!けど…。
京香、好き?…。はい。大好きデス。貴方がッ。
何だか…言葉も優しく…?なってるようですが…?
さっきのワインが残ってらっしゃる?
私はユラユラと、キッチンからビールを持ち。
おでんの皿と辛子までも準備していた。
していたんかいッ。お前には…呆れるわッ。京香。
「有難う!京香のビールもぬるくなるよ?はい。2回目の乾杯ッ!」
「乾…杯…?」
いやいや、乾杯…?は良いとして。
「あの…。せっかくのオフに、どちらか行かれる所とか…。お会いなられる方は、いらっしゃらないのでしょうか?」
私は結局…おでんを食べ、ビールを飲み、訊く。
「ええー。そんなの、休まらないじゃん。オフにはしっかりと休まなきゃね。あっ。辛っ!」
大根を食べてるよ…。ああ…。辛子にやられて…
そうでなくても、ウルウルしているお目々に、涙を浮かべちゃって…。美しい鼻なんか押さえたよ…。
「おーいっ。京香?何?俺に見とれてた?ハハッ。」
「ええ。お陰様で。」
あっ。又、くいぎみ、やっちゃったよ…。
「ハハッ。だからッ。これも、笑うところだよー!」
お寿司を開けてくれながら、首を振り又、笑ってるよー。
「京香、はい。ねえ、お寿司、好き?」
ええ。貴方の次に…。
いやいや、言葉には出すなよ!私。
慌てて、口を押さえ…。寿司を見る。
雅は、私が感激に口を押さえたと思ったのか…
「ええーッ!そんなに好きなの?良かった!俺も、好きなんだ。京香の次にねッ!ハハッ。」
と、ウィンクをした。
グヘッ…。こ…殺されるッ!が…眼福どころかッ!眼毒だッ!数時間後に生きてる自信が無い!
理性を粉々に破壊される前に…。目をそらし…
「ハハ…。大変、魅力的なウィンク付きの、リップサービス。有難う御座います。それでは。有り難くい…頂きたいと存じます。」
別の意味で…。雅に向けて、長々と手を合わせた。
「はあーっ?それ、嫌だなー!俺、京香にはさー、リップサービスなんか絶対しないぜ。社交辞令も言わないし。そんな他人行儀な事したくない。俺と京香はそんな事、無しの仲だろう。頂きます!」
あの…。私を身内か何かと、間違えてらっしゃる?
他人行儀…。我々は確か…他人デスよね?
考えながらも、無意識に寿司に手がいき。
大好物から、頬張っていた…。
「グハッ!旨っ!最高…。お茶だな。これは…酒を飲みながら食べる品物じゃ無いッ!もっと、有り難く頂かないと!いかんねッ。」
私は寿司の余りの旨さに、ニンマリ笑い。一気に通常?に戻る。
「京香…。旨いの?ヤッター!良かったーッ。CAさんは…グルメっぽいからさ、緊張したよ。嬉しいな。京香が喜んで!ハハッ。旨いんだ?ハハッ。俺も、お茶にする!」
キラキラ過ぎる笑顔で…私が喜んだ。と、はしゃいでいる。
本当に嬉しそうで…。私は、濃く、お茶を入れ…
意外と孤独なのかな…?なんて、考えていた。
どうやら、幼少期から、大人の世界に身を置いてきた、この美少年を喜ばせるには、私が素で居た方が良いらしい。
もう、充分にッ。素でいるが…もっと、雅に喜んで欲しい。よしっ。今、以上に素で居よう。この愛でても、愛で足りない程、尊い笑顔をもっと、もっと…。目の前で見ていたい…。
などと、良く張りに…思ったりして。
「はい。あがり一丁。ハハッ。雅には解らないだろうけどさ。私の歳になると、この時間のカフェインはね。ぶっちゃけ、眠れなくなるからさー。避けたいんだけど。こんなに旨い寿司を頂いたんじゃあ、仕方ないよな!ハハッ。」
まず、一段?として…言った。
「お茶、有難う。でも、京香、今日は大丈夫だよ!だってさ、俺が一緒に寝るんだぜ?ほら。俺って…超癒し系じゃん?きっと、良く眠れる。ねっ。」
スミマセン…ッ。貴方が隣で寝ていらして…。良く眠れるヤツが居たら、是非ッ。お目に掛かりたいんですがッ?
明らかに、眠れなそうなんですがねッ!
だ…駄目だ。手強過ぎる!素でなど…居られん…。
「はぁ…。人と寝るのって苦手だよ…。嫌いじゃないけど、結局…気を使って眠れない。」
特上寿司に舌鼓を打ちながらも…。ベッドは一つなんですよ?帰られた方が…的に私は言う。
「俺もッ。俺も全く一緒だよ。眠れないよねー?だからさ、お互い気を使わないで眠ろうね?俺なんかさ、人と御飯食べるのも気使うから、嫌なんだ。」
お寿司をパクパク食べて言う。雅を、眼福ってよりも…。奇妙な生き物の様に呆れて見て…。
「いやいや…。言ってる事と、やってる事が矛盾だらけだよ!雅。」
だったら、自宅でこの豪華なメニューを召し上がって、一人で伸び伸びと、お休みになられては如何なものでしょうか?
「はあー?何処が?京香。今、気を使って、お寿司食べてるの?」
ん?んん?大変に、美味しく頂いてます…。
「いや、美味しく食べてるよ…。本当に。お腹空いたな?何か作らなきゃ…。ああ、面倒臭。って考えてたら、雅がご馳走を持って来たから…。ラッキーだったよ!有難う。ハハッ。」
だよね?気を使った訳じゃ無く…。言っていた。
普段の私なら…寿司よりも、休みに人が居る事を嫌がるだろうに…。これも美顔パワーか?
「だろ?俺も、気は使って無い。えーっ。ラッキーなの?そう?ハハッ。京香は、俺が来てラッキーだったの?ハハッ。そっか。ラッキーね。」
堪らなく嬉しそう…満足気に頷き、又、喜ぶ。
「いや、俺が来て…ってよりも、寿司とおでんが来たのが、ラッキーだったんだけどね。ハハハッ。」
な…何ッ?誰?この失礼なババアは…どなた?
「な…ッ!そ…そんな失礼な事を言われたの、初めてだッ!もーッ!京香は…。こんなにカッコ良い俺よりも、寿司が好きなんだねッ?」
いやいやッ!何を隠そう…。三度の飯よりも、一番に大好きなのは貴方ですよ。雅さん!今日拝見したお顔の記憶をおかずに、白米3合はいけます!
「いや…。雅が気を使うなって言うからさー。寿司と張り合うなよ。それ、可笑しいだろ?しかもだ、こうして…お寿司には食べられないネタも有る。でも、雅の事は…端から端まで全ー部。好きだよ。雅の勝ちだ。良かったね?ハハッ。」
私は苦手なネタを雅の箱に移し…。
ダーッ!何様?これッ!良かったね?だとッ!
だ…誰?何様?殿様か?姫様か?何ッ!
遂には、とち狂った事をぶっちゃけていた。
雅は…。箱に置かれた寿司と、暫くの間…睨めっこをしていた?
し…しまった!とち狂い、ぶっちゃけ過ぎた私に危機感を覚えて、スーッと遙か彼方まで引いたか…?
「あ…。いやね…。雅がさ…」
私は言い訳を試みようと、言い掛けたが…。
雅が突然。私に飛び付いて来たッ!
おいおい。お茶に気を付けろよ?違うーッ!
ウエーェェッ!マ…待てッ!お…落ち着け!私。
じゃ無くて…。落ち着け!雅ッ。
ああ…。良い匂いだ…。シャンプーかなー?
いや。髪が…。顔に当たってますよッ!グハッ。
ああ…。久しぶりにハグなんかされたな。
人肌って…こんなに気持ち良かったか?
もっと…形式的で、厄介な物だったよなー?
温かい…。
ち…違うッ!どっぷり浸ってる場合じゃ無いぞッ。京香。早くッ。一刻も早く、この自体を終息させなければ。この小動物を押し倒して…。食い兼ねない自分が怖いわッ!
だけど…後少し、このままにさせてあげたかった。
図々しいが、自分がしていたかったのでは、決してな無く…。怪しいが…。
雅にそうさせてあげたかった。のだ。
私は…今日、何度目かの奇行に走り。
まるで、迷子の子犬を抱く様に…。雅の背中に腕を回し、片手で頭を撫でていた。
「…。京香…?子供扱いかよ?年上だろ?頭を引き寄せて…上手なディープキス位、しろよッ!」
抱き着いたままで、子犬がキャンキャンと騒ぐ。
で…デープキッス!デスかッ!…。デス。死。
ブハッ。い…逝かん。いや…。いかん。生命の危機だ!全身の穴という穴から吐血しそう!
私はスッと雅を離し…立ち上がり。
「ビールだな。うん。お茶の後はビールだ。」
スタスタとCAの動きで、冷蔵庫に向かった。
頭を冷蔵庫に突っ込み、良ーく、冷やした。
ビールを二つ持ち。
「ハハッ。雅君。年上ってのはねー。そんなに、ガッツかないものさ。余裕が有るからね。坊ちゃんの好きにさせてあげるのッ。ははは。」
ええー。この…年増。又、好き勝手に言っちゃってますが?
「詰まらないなッ。こんなに魅力的な俺にさえも京香は余裕なんだッ。なんか…、調子狂うな。京香と居ると。その…、狂ってる自分が、堪らなく気持ちいいんだけど。京香。はい。」
雅は相変わらずの、俺様発言と、京香病の後。私の食べ終わった寿司箱に一つのネタを置いた。
「ええーッ!何でッ。嫌いなの?これ?」
その、ネタを見て、私は訊いた。
私が一番好きなネタだったから。
「ううん。嫌いじゃないけど。京香が一番好きなネタだろ?俺はさ、寿司よりも、京香の美味しそうな顔を見たいんだもん。」
こ…殺されるッ!だもん。だとッ?しかも、首なんか傾げやがてッ!さては、さ…殺人鬼だな。
もしや!肩たたきか?会社の誰かが、私を辞めさせる為に、雅を雇って…。私の体力と少ない知力を奪って、廃人にしようとしてるに違いない。
スケールの大きな疑惑が頭を過る。
一体…。何処の会社が、安月給の社員一人を、今をときめく俳優を高いお金で雇って首にしたがるんだい…?って話しだ。
「有難う。何で…知ってるの?一番好きなネタだって?頂きます。んんーッ!最高。」
雅の手で持った物だから余計ねッ!グフフッ。
ヤバっ。又、変態じみてきた…。
「ハハッ。その顔だよっ!京香が一番に食べたし、凄い、美味しそうな顔してたからッ。ハハッ。京香は可愛いよねー?ハハッ。」
この顔の男に可愛いよね?と訊かれ、「はい。」と胸を張って答えられる位なら、無駄に高い身長と合わせて、ミスユニバースにでも出場してるわッ!
それよりも…
「み…見てたのッ?私が食べるところを見てたのかいッ?悪趣味だなっ!雅。あのさ、コンタクトでも忘れたの?可愛いって…。40過ぎには…余り使わないよな?」
私は年齢を自分から、バラしてしまう事にした。
自己防衛である。後で、40過ぎなんだから仕方ない。と、自分で納得出来る様にと…。
「関係ないよ。俺が京香を可愛いと思ったから、言ったんだ。90でも、可愛いお婆ちゃんは居る。京香がさ、俺の買って来たお寿司を嬉しそうに食べてるのを見てたら。ああ、この顔をずーっと見て居たいな…。って…。可愛いな…って思ったんだ。ちなみに両眼1.5だから。俺。」
ニコニコと笑って雅は答えた。
じゃあ、悪い病気か何かなんですか…?
しかし…
「あーあー。勿体ないッ!後、20、若い時に今の言葉を、雅から聞きたかったなぁ!そうしたら、迷わずに恋に落ちてたよ。私。ハハハッ。」
私は本気でッ!本気で、思った事をぶっちゃけた。
後、少し、後、少しで仕事を辞められる。と、生きてきて…。今、初めて若返りたい!と考えた。
「それ、違うな。きっと、俺は今の京香が好きなんだ。スルメと柿の種、冷や酒を片手にあぐらをかく…。今の京香にしか、きっと。萌えない。」
雅が頭を振り。
又。無意識に組んでいた…あぐらの脚に、頭を乗せてくる。
ギャーッ!又、キターッ。しかも!萌えない。って何ッ!萌えてんのは、こっちだって話しだわッ!
「雅は…。あの…。年上専デスか?」
予め、震える脚を抑えながら、質問をしてみた。
「全然。今までに一度も考えた事は無かったし、年上と付き合った事も無いよ。年上の女優さんに萌えた事も…うん。無いな。」
雅の長いマツゲ…薄茶の瞳…。薄ピンクの唇…。に魅了され…ボーッと下を向いていたら…。
口から…ヨダレが垂れてしまった。
「ウワッ!冷たいッ!な…ッ。何?」
あわわッ!グワーッ!取り敢えず、口を拭い。
慌てた私は、自分のビロビロのトレーナーで、雅の顔をゴシゴシ拭いて…。
「ご…ゴメン。余りの美顔に見とれ過ぎて、ヨダレがね…。ハハ…。」
焦りの余り、ぶっちゃけてるぅ…。
「ええーッ!ヨダレっ!ヨダレだったの?京香がヨダレを垂らしたのッ?俺の美顔に見とれて?」
な…ッ。言い辛い事を何回繰り返すかなーっ!
「そうだよっ!ヨダレが垂れましたッ!こういうねー、膝枕なんてふざけた事をすると、あれだよ…。ヨダレの天誅が下るんだよッ!」
な…何様だーッ!私。ヨダレ垂らした挙げ句、威張り散らすんかいッ?
「ハハハッ。ヨダレが…。天誅なの?ハハハッ。京香!トレーナーで拭いたねッ?最高ッ!顔にヨダレ垂らされたのなんて!初めてだよー。ハハハッ。あーあー。舐めれば良かった!俺。ハハッ。」
ようこそ。変態の世界へ。
…。じゃ、無くてッ!
「わ…私だって!人の顔にヨダレ垂らしたのなんてねッ。生まれて初めてだよっ!一生の不覚ッ!」
私は天井を仰いだ。うおおーッ!
ヘッ?ハッ?いやいや…。
ギャーッ!何…何…何…ッ!お助けーッ!
み…雅が…。私の腹に抱き着いて、顔をスリスリしてるぅぅーッ!
いやいや、いやいや…。贅肉が気になるっ。
違うッ!いや、違わないけど、そんな問題じゃ無くて…。
「ど…どうした?これこれッ!贅肉が…。雅?おねむなのかな?ん?」
雅は、顔をスリスリしながら…
「ここで、拭いてたでしょ?ヨダレ。だから、スリスリしてる。おねむってッ!俺、子供じゃ無いんだからねっ!」
トレーナーを通して、雅の声がお腹にビリビリ響いていた。
近くに居る…。尊い…とか、眼福…とかより、何故か?雅を、身近に感じた。
「ああ、元々、甘えん坊なんだね?雅は。…。いつも、そんな感じ?人懐っこいって言うか…。べったりな感じなのかな?」
私はスクリーンの向こうの雅を愛でて、グフグフしてた時にさえも、想像さえしなかったシチュエーションに…。
雅様に対し、年上染みた事を言い。髪を撫でるといった大胆な行動を又、おこしていた。
「全然。本当に全然。違う。甘えた事なんか1回も無い。常に、演じてる自分のままだった。付き合っても、ドラマの中みたいで…どっちか言うとクール?っていうより…人に執着出来ないんだ。」
いやいや…。実際に、スリスリしてるじゃん…。
この状態で、クールって言われてもねぇ…。
「そうなのー?」 疑いを込め、私は言った。
それにしても…。贅肉に声が響くなー。
「こんな、会って間もない人のウチに上がったり、ましてや、膝枕なんか…ドラマ以外で初めてした!自分の奇行に驚きだよ。ワインを人に注いだ事も、買い物してまで…。京香、喜ぶかな?なんて、考えてるのも驚き。人が準備して、人が俺を喜ばせて…当然。って思ってきたし、実際。そうされてきたからね。」
いや…。こっちの方が、貴方の100倍驚きデス。
いつまで…。この柔らかい髪を指でクルクル回したり、撫でたりしていて…良いんでしょうか?
ああ…。一本抜いて、神棚に飾りてぇー。
いやいや、神棚が無いし。
と…、スリスリを止め、雅が私の手をとった。
「京香に張り付きたくて、仕方ないんだ。触れて欲しくて仕方ない。今も…きっと、膝枕したら髪を撫でて貰えるよな。って、考えた。まさか…ヨダレまで垂らして貰えるとは…。思わなかったけどさ!」
っと…。又…。ま…又ッ!
「ギャーッ!こらーッ!だ…だからッ。な…何故。手を舐めるッ?汚いでしょッ!」
又、手を舐める奇行におよんだ、雅を怒鳴る。
わ…私がその手を舐めてしまったら、どーしてくれるんだいッ! そこかよッ!
でも。その奇行のお陰で…。雅の、最大級と思えるの愛の告白?と、勘違いしそうになる…。いや、私が20若けりゃ完全に勘違いしたであろう台詞を聞き流す事が出来て良かった。
この…。ゴロゴロしながら…まだ、人の手を離さない美の固まりに、果たして、何がおきたのか?
心を病んではいたが…。
彼女とか、周りの人と、何かあったのかな?
「全然、汚くないもんっ。ねえ…。京香さー。不思議に思っただろ?俺がコンビニでさ、CAさん。って訊いた事。」
あッ!一番に訊きたかった事を!尊過ぎる、雅美ビームにやられ続けて。「び」がやたら多いな。おい。いや…。忘れていたッ!
「それッ!そうだ。忘れてた!何でなの?私、仕事中は一応…気を使った成りで臨んでるつもりなんだけど…。スッピンジャージと、変わりないって事?意外とショックを受けてるんですが…?」
私はやっと、訊いた。
「これッ。」 雅は、私の手を上げた。
「ハッ?手が何か…?」
勿論。職業柄、派手なネイルなどしていない。
ベージュの無地のネイルを見つめて、訊いた。
「俺が空港ロケで、文句を言ってた時。京香が聞いちゃった事に驚いて、口を押さえただろ?その時…何故か。本当に何でなのかな?解らないけど…。ああ、この手をとりたい。って…思ったんだ。ああ、どうせ京香は訊くだろうから、言っておくけど…俺、手フェチじゃ無いぜ。」
鋭くなりましたね?雅君。
でも…甘いな。私はあの時ね、鼻血が出ない様に鼻を押さえたのだよ。はっはっは。
流石の君にも、想像出来まいて。
いや…。威張る事では無い。失礼…。
「でね。コンビニの雑誌を持つ手を見た時…。怖い事に、同じ感情が又、おきた。ああ、これ…俺の手だっ。ってね…。」
いや、私の手ですよね?ああ…。失礼。
「最後に。ハハッ。俺がピザとビザを間違えた時。京香がいきなり、俺に手を合わせてさー。ハハッ。コンビニを指した手と、タバスコを見せた手を見て、やっぱりこの手をとるべきだ!って感じた。だから、手をとって、京香のウチに行く強硬手段に出たんだ。」
こ…これは。「手教」とかいった新興宗教の信者か?
しかも…私が拝んだ事を覚えてるんかい…?
「やっぱり。正解だった。この手をとって正解だったんだ。だから、舐めちゃうんだ!俺。ハハッ。」
と、又してもッ!私の手を…。舐めて…。パッと直ぐに、腹に抱き着く。
「京香は直ぐに怒るからな。逃げないと。ハハッ。あーあー。こんな事、言った事無いし。思った事も無い。ちょっと、照れてる。俺。ハハッ。変なの。ハハッ。照れてるよッ。俺。」
ギャーッ!照れてるッ。ってか?マジ勘弁してぇ。
萌死にするッ!キュン死にするッ!もーッ。限界。ギブッ!絶対にヤバいッ。
だ…誰かーッ!この私の腹に居着いて、一人で照れてる、キュート生物を撤去してくだしゃいッ!
「ああ。俺も訊きたいんだった。コンビニでさ、結構バレた事無いんだけど。顔、余り見えなかっただろ?何で?直ぐに俺だって解ったの?しかも、こっちも向かないで…。普通に俺と話してた。何で?」
又、私の腹と話し出した雅に…。
君をもう、13年も見続けてる。口元だけで、充分に解るさッ!と…伝えるべきか?
私は…悩んだ。43歳にして…アイドル俳優を愛でているのはやはり、気持ちの良い物では無いかも?
このまま…今日だけは…こうして居たいな…。
「秘密。今は、まだ秘密だな。ハハッ。今度ね…。今度が有ったら、教えるね。」
私は雅の髪をクシャクシャと触り言った。
「ええーッ。俺だけに、沢山、告白させて、京香は内緒かよ?汚ねーなッ。」
いやいや…。待て。告白って…。貴方が勝手にベラベラと、自白しただけですが?
「雅。大人はね。汚い生き物なのだよ。直ぐに、自己防衛したがるからね。ハハ…。」
私は…自分に対して半分は言っていた…かも。
「じゃあ、今度、教えろよ?ねえ。京香、明日もここで、一緒に、こうやってるだろ?」
雅が顔を上げて訊く。
「まあ、私はいつも通り、こうして…生腐人で居ようと思ってたけど。雅はせっかくのオフに一緒に腐るつもりなの?」
もう、この手強い悪魔に、帰れと遠回しに言う事も諦めた私は、逆に訊き返した。
「ハハッ。出た。京香。生腐人だね?うん。じゃあさ、俺は生腐人のナイト「無人」になる。無い人って書くんだ。居ない人みたいに、邪魔にならない様にする。だからさ…。ずーっと京香と、一緒に居させろよ。ねっ?」
グハッ。まだ私の寿命を縮め足りないと…?
この強敵には…勝てない。もう、好きに生息させるしかないな。
「無人で居るなら、好きにして良いよ。結局。可愛くて、断れないしッ!今のところは、何故かねー?面倒臭ッ。嫌かも…。って。全然、思わないから。ハハッ。」
だからさ…。あなたは、何様なんですかッ!好きにして良いよ。って何?
完全に勘違いした、上から野郎になってるじゃん!
「ヤッターッ!好きにする!ああ。そうだよね。さっき、京香、言ってたもん。余裕が有るから、坊ちゃんの好きにさせる。ってねっ?」
クッ。堪らん!今度は、悪戯坊主の表情だよ…。
じゃ、無いッ!好きにって…。
「いやいや…。好きにって言っても…」
これ以上…好きにされたら…。召されますが…?
「もう、駄目だぜ。そっか、俺、好きにして良いんじゃん。さあ、寝るよ。京香。夜更かしは、俺と京香の美貌に悪いからねっ!ハハッ。」
いやいや…。俺様。あんたが、夜更かしさせたんじゃんッ!
「本当に、どーしてもッ。お泊まりになられる?」
私は最後のあがきを見せてみたが…
「うんッ!良かったね?京香。今日は、究極の癒し系を抱いて寝ていいからね。ハハッ。」
うん。良かった!って訳ねーだろッ!
駄目だ。もう、完全に一緒に眠る前提で居るし…。
「雅。待てッ。ここを片付けないと、性格上、眠れない。」
こうなりゃ。先に寝かしつけて…。ソファーで寝るかな?と、考え…。
「雅は、先に寝ていたまえ。そこが、洗面所だ。歯ブラシをお出しいたすかね?」
私は…変な感じで申し出た…?
「嫌だね。片付けを先ずは手伝うだろ。洗面用具は勿論。持ってきた。偉いんだよ。俺。」
ちなみに…。この偉い生物は、今だに…私の膝で生息し続けている。
「俺、片付けの後で、京香と並んで歯を磨く。ギャーッ!考えただけで照れるなッ?照れるよな?京香。ハハッ。」
こ…これは。もう、完全に新種の病気に違いない。
心療内科系だな?
ギャーッ!だと…?私、なんですか?雅さん。
気を確かにッ!
気の毒そうな目で?呆れて居る私を見上げ…。
「え…?照れないの?京香。はあ…。解ったよッ!どうせ、大人だから、余裕なんだろッ?チェッ。京香はノリが悪いんだからッ!一緒に照れろー!」
又、雅はスリスリしだした。
ウォーッ!か…可愛過ぎるぅぅーッ!
駄目だ。この…とんだ勘違い男には、ハッキリと正直に言っておかなくては…。
すっかり、私の事を恋愛慣れした、イケてる女と勘違いしきっている!
取り敢えずは、間違いを訂正しよう。
「雅。長いから、良ーく、聞け。君は大きな勘違いをしているよ。良いかい。私はね。前にも言ったけど、恋愛もろくにしてないんだよ?イチャイチャする、なんてした事は今までに無い。今、雅が抱き着いてるのも…。大変に、心臓の負担になってるんだよ。」
雅が…ソロソロと、お腹から顔を上げた。
私はチラリと雅をみたが…ヨダレを心配して…
顔を背け…。続けた。
「それなのに、照れろよ!と言われてもだね…。ぶっちゃけ。照れてる余裕も無いんデスよ。余裕なんだろ?ハハッ。冗談じゃあ無い…。さっき、玄関で、雅がキ…キスをして、スタスタと帰った後。腰が抜けて、玄関で座り込んでいた。これ以上、何か起きたら…。救急車を雅が呼ぶ羽目になる。良いのかい?号外。出ちゃうかもよッ!」
私は見たくないが、反応を知りたいし…。
仕方なし、雅をみた。
グハッ!な…。なんか、ピンク色のほっぺになってるぅぅ!何…これッ?
い…色気が半端ねッスっ!眼福の極み。キターッ!
「京香。助けて…。俺がヤバいかも。マジで。躰に力が入らない…。京香の言葉が嬉しくて…。何、この痺れ?ウワーッ!て、叫びそうになった。これって、恋の病かな…?」
いや。変な病だよ。失礼…。
「多分。そうだな。へぇ…。凄いな。ある意味、半端無いエクスタシーだ…。京香。大好きッ!」
私も大好きッ!デス。いや…。マジで…デス。死。
あれ程、注意を促したにも関わらずッ!
雅が私に飛び込んできて…又、キ…キスをしやがりました。
「…。どーしてもッ!救急車を、呼びたいらしいね雅。うん。ここは…一旦、落ち着いて。明日になって、全てを考えよう。うん。」
私は廃人寸前で…。立ち直った。
「うん。良いよ。でも、一緒に片付けを手伝だってから、一緒に照れながら、歯を磨いて、一緒にベッドで照れながら、抱っこして寝よう?約束ね!」
どうしても、照れさせたいんだな?じゃ無いッ!
ブーッ!鼻血が…。出てませんか?私。
もしもし…。心臓も稼働してますか?私。
テ…テキーラでも、一本開けますか?足りないッ!
薬だ。そうだ!眠剤を飲もう。本来、フライト前にしか使用しないが…やむを得まい。
キン緩和剤だな。緊張も解れるしな。
ハア…ハア…。頑張れ。43歳ッ!

シャカシャカッ…。
「フフッ。照れてるね?京香?フフッ。」
歯磨き粉だらけの口で雅はモジモジする。
唯々。無限可愛いッ!
片付けを遂に終えてしまい…。渋々。寝室で色気のない綿のパジャマに着替えた私は…
ダイニングで着替える雅の所に、腰を抜かさぬ様、ソロソロと松の廊下を行くが如く…いや、別に雅を斬ろうとまではしてないが…歩いて行った。
ギャーッ!グハッ!が…眼福ーッ!
シルクと覚しき、光沢の有るパジャマ姿の雅が…
ソファーに寛いで居る!
こ…ここは?何処ぞの、インペリアルスイートか何かかいっ?
もしくは…スタジオの豪華なセットなんですか?
ギャーッ!蝋人形館に飾りてぇー。
そんで、それを盗みてぇー。泥棒かよッ!
や…役得だ。え?何のって?知らねぇーよッ!
ともかく、有り難や…。有り難や…。
私は、ドアの隅から、ダイニングを除き…。
手を合わせていた。
「あっ。京香?ハハッ。だから、何だよ!それッ!又、拝んでんじゃん。京香。何なの?」
あっ。バレた。ヤバっ!
「いやいや…。寒くなったかな…?なんて?ハハ…」
「じゃあ、早く、歯を磨こッ。その後、俺が京香を温めるからさ。グハッ。て…照れるな。」
グヘッ…。こ…殺されるぅーッ!何々…?
苦行?えっ?滝に打たれた方がマシなんですがッ!
「行こ。京香。」
と…言われ、手を繋がれたと思いますが…脳細胞が破壊寸前で良く解らないままに…今、歯を磨いております。はい。
あ…。照れるね?と訊かれましたね?私。
「照れてはいると存じますが。脳細胞が停止寸前で良く解りかねます…。はっはっは。あわわ…。」
馬鹿な事を変な日本語で言い…。
ご丁寧に、ヨダレまで、又、垂らした。
「ハハッ。京香ッ!又、ヨダレだよー!あわわ…。」
人を馬鹿にし笑った雅が…ヨダレを垂らす。
「ハハハッ!天誅ッ!」
遂に又、壊れ…。開き直った私は自然に笑った。
「あ…甘いな。俺はねー。わざと、京香に合わせたんだよッ!優しさだぜっ。ああ…。」
雅は、長々と…言い訳をした挙げ句、遂にはパジャマに歯磨き粉を垂らした。
「あーあー。ほらッ!全く。」
私は歯ブラシを加えたまま。タオルで雅のパジャマを拭いた。
「た…楽し過ぎるぅーッ!何これッ!幸せってやつッ?うん。幸せッ。京香。」
ワーッ!ま…待てッ。何がどうした?
雅がまるで私の様に発狂し…。抱き着いた。
「お…落ち着けぇーいッ!ああっ!高級パジャマに私の歯磨き粉が着いたー!こらッ!雅。廊下で眠らせるよッ!離れて、大人しく、サッサと磨きなさいッ!」 遂には怒鳴り出す。
「ええーッ。何処?京香の歯磨き粉、何処?俺、舐めちゃおッ。」
再び、ようこそ。変態の世界へ。じゃ、無いッ!
私はサッサと雅から、離れてタオルでゴシゴシと歯磨き粉を拭き…。
「変態かよッ?全くッ!」
本来、この人も私にだけは言われたくはない…。
「ああっ!拭かれちゃった!もーッ。」
グハッ!歯磨き粉の着いた口を尖らせたよッ!
クッ!も…萌死ぬぅ…。違うッ!
「もーッ。じゃ、無いのッ!雅は廊下、確定だね!」
ガシガシ、歯を磨き又、怒鳴る。
「じゃあ、京香も廊下だね?一緒に抱っこして寝ようね。って、約束したもん。」
もん。は…止めれっ!キュン死にするわっ!
ぜっ。って言いなさい。
約束したぜっ。って…。グハッ!そ…それも又。た…堪らんッ!
もう…。一言も…喋らんでくだしゃい。
「は…早く、磨くッ!ハアハア…。」
「ハハッ。怒られてばっかり!俺。ああ、幸せッ!」
こ…コイツは…。マゾの世界へようこそ。
じゃ、無くて!マジどうした?
酷く、何かに洗脳されている様子だな?
付き合って、浮かれていると、後で痛い目に合うに違いない。気を付けなくては…。
この歳でのダメージは長引くからな…。
老いらくの恋ってヤツだ。怖っ。
先ずは、あれだ。雅の言う事を、一々、真に受けない事だな!うん。
私は、歯磨きを終え。
「ああ、雅のコップ持ってくるよ。」 言った。
「ううん。嫌だ。俺、これ使う。」
私のコップを指差して言う。
後で舐め…。いやいや。
又、頭をを振って自分を抑えた。
「これ、使ったら…間接キスだね?ハハ…。照れるよッ!嫌だなー。京香。」
スミマセン。照れるなら、言わなきゃ良いと存じます。はい。
私は、コップを取りガシガシと水道で洗う。
「ああっ!なッ…何でーッ。どうして、そんな意地悪するんだよーッ!京香の馬鹿ッ!」
雅は地団駄を踏んで、泣顔で苦情を言う。
かっ…可愛過ぎるぅぅ!意地悪が過ぎたか…?
仕方ない…。
「照れたんだよッ!もー。雅。早く、寝るよッ!おいてっちゃうからねッ!」
正直に、言った。
雅を睨み見ると…。ボーッと手を止め、私を見て…
「も…萌死にするぅぅ!京香ッ!可愛過ぎるッ!」
ええーッ!私の病気が移ってますが…。怖っ!
「ま…待ってね。おいてっちゃ駄目だよ。」
ああ…。ブクブクしてるよ…。
グハッ!尊い…。この姿は…余りに尊過ぎるッ!
あっ…。明後日から…私、廃人確定だ。
このフィギュアも明日までの限定物だからな…。
そうじゃん。沢山、愛でておこう。自制なんてしてる場合じゃ、無いじゃんッ!
ああ、今まで目を反らしたりした時間を返してくだしゃい。
だよね?後悔しても仕切れない。なんてならない様に、ガン見しておこう。
それが…なかなか…ね。ああ…。私が精神分裂症かな?自分が…いや。自分を…どうしたら良いか、解らなくなってきた!
「京香ッ!見て、見て。ギャーッ!ねえ。ベタ過ぎかな?うわ…。ハズっ。て…照れるな?」
何の騒ぎかと…雅のはしゃぎ様に呆れ、見ると…。
歯ブラシが2本、コップに立てて有る。
こ…これはッ!幸せの風景じゃ、あーりませんか?
古っ。いやいや…。
「こ…これは…。流石に照れるなッ!雅。ハハッ。」
私は突然、素直になってみた。
「明日も、一緒に磨こうねッ?京香。ハハッ。」
了解デス。デスッ!
「さあ、ベッド行こ。京香も廊下じゃ、嫌だろ?手を繫いでね。ブハッ。何やっても、照れるなー。しかし、完璧に可笑しいよな…。俺。ハハッ。」
ああ。ご自分でも、お気づきでしたか?ははは。
手を繫がれて、寝室に向かった。
ええーと…。幾つでしたっけ…。京香さん…?

「ねえ?京香はどっち向く?」
私は自分が照れ死にしない様に、先にベッドに入ってくれたッ。
「はい。どうぞ。」 
と、ベッドを叩き言うと…今の質問がきた。
「ええーと。左が下かな?」 答える。
「じゃあ、俺。左側だ…。グワーッ!何、これッ!何でッ!凄い。緊張するんですがッ!こ…こんな事無かったのに…な。じゃあ、こっちね。ギャーッ!待ってッ。照れるなッ?」
と…。一人で騒ぎ立てる、雅をみていたら…
緊張し過ぎを通り超したか?時間的にナチュラルハイになったのか?
「ハハハッ!天下のアイドルが、40過ぎのおばさんのベッドに入るのに、何をアワアワしてんの?雅。最高!可愛い過ぎーッ!可笑しい!ハハハッ!」
本当に可笑しくて、嫌、頭も可笑しいかも?
笑いが止まらなくなった。
「いやいや…。笑い事じゃないから。手が…震えてさ。ほら。」
まだ、ベッドの横に立ち、手を出して見せる雅に…
「ええー?ハハハッ!手に汗搔いてるじゃん!ハハッ。はい。」
つ…遂に。と…とち狂ったなッ!自分ッ。
雅に向かって…両手を広げていた。
雅は…尊い程、綺麗な目を、大きく見張り…。
「グッ。す…好き過ぎるぅぅーッ!京香ッ!」
又、私が乗り移った様なリアクションで…
飛び込んで抱き着いた。いや、抱き、締めた。
「グエッ。雅ッ。ギブッ。ギブッ!」
雅の背中を叩き、息苦しいのか、興奮で胸苦しいのか、解らない状態から、逃れようとした。
「ああっ!ゴメン。何だか…。嬉し過ぎて、頭真っ白でさ…。ああ、自分がヤバかった。京香を襲うとこだった。怖っ。怖いね…恋って。」
頭をブルブル振り。マジ顔で、「恋って。」などと、戯けを大袈裟に言い出した雅が又、可笑しくて。
「ハハハッ!私を襲ってみたら、一気にその恋とやらも、覚めるよ。雅が付き合ってきた程の女では無いからね!私。ハハハッ!」
自虐ネタに走り出した。
「…。良い?本気で…襲って良い?それで…この俺の初恋が覚めなかったら…?京香に溺れたら…。責任取ってくれるの?」
雅のマジな声が…鎖骨に響く。
じゃあ…。雅が覚めたら?廃人になった私の責任は誰が取ってくれるの…?
40過ぎの責任は…自分で取るしか無いんだよ…。
私は…怖かった。リアルが怖かった…。
「ええーッ。責任?面倒臭ッ。嫌かも…。やっぱり雅、襲っちゃ駄目ーッ!ハハッ。」
ふざけた調子で言う。
「ええーッ。嘘でだろ?今更…駄目なのッ?京香ッ!俺を弄んだんだね?その気にさせてッ!この、悪魔めッ!」
おいッ!その言葉をまんま、あんたに返してぇッ!
「雅、そうやって、余り大人を揶揄うとねえ…。ウゲッ。く…苦し…」
又、雅の絞め技が来た。
「京香…。俺、揶揄って無い。もう一回、俺の気持ちを疑う様な事、言ったら…マジで押し倒すよ。今でも、自分が信じられない程。一杯一杯なんだ。本気にしないなら…知らないよ。俺。」
頭の先から足の先まで…甘い痺れが走った…。
鎖骨に感じる、雅の吐息のせいか…?
キツく抱き締められすぎてなのか?
このまま、二度と無い時に身を任せてしまいたい…
が…。自衛本能が勝ってしまう。
歳だな…。これは本当に…ね。
この…何かに洗脳されている坊ちゃんには、せめて本気の返事を返そう。少なからず…今は、真剣らしいから。
「苦しいよ。雅。顔を見せて。あのね。私が本当に20若かったら、この流れに身を任せてた。冗談じゃ無くてね。今の雅の言葉に躰が甘く痺れてる。でもね。人間、歳を重ねると。疑い深くなるんだよ。」
私の顔を、真剣な顔で見つめる雅が…。
「やっぱり、京香は。疑うの…」
言い掛けた…。私は、その唇を軽いキスで止め…。
「しぃー。雅を疑うんじゃない。自分に自信を無くして、自分を疑うの。こんな、私をまさか?ってね…。だから、慎重になりたくなる。年上…。しかも、40過ぎとの恋愛は、雅が思う以上に大変だと思うよ?若い人と付き合う…10倍以上は、好きだって示して貰わないと、信用出来ないと思う。面倒臭いんだよ。もし…。こんな疑い深くなった私が。雅の気持ちを…。自分を。信用出来たら。その時は…こっちから、マジで押し倒すから。ハハハッ!」
リップサービスも社交辞令も言わないと言った雅に、私も正直に気持ちを言った。
雅は…ポカーンとして…長い話しに呆れたか?
「おいッ!聞いてる?」 私は、雅の顔を挟んだ。
「あ…。ゴメン。京香のキスの後…。余り、聞いてなかった。あ…頭が痺れてて。俺…。腰抜けてるかもしれないぜ。」
ああ。私はどうしたのだろう。
この眼福をどアップにして、尊さよりも愛おしさが勝ってきている。
きっと、雅は休みの安堵感から…極一般人の珍しい世界を覗いて興奮しているだけなのだろう。とは、思うが…。
その初めての気持ちに、一般人として付き合いたいと、強く感じていた。
それにしても…
「は?聞いてなかった?マジかッ?あのさー。私、生まれて初めて位、本音を一生懸命話したんですけどッ!聞いてなかった?この…ッ!」
まだ、ポカーンとした、可愛くて堪らない顔の雅を擽った。
「あ…。ギャーッ!ハハハッ!嫌だっ!京香ッ。駄目。駄目ッ。まだ、躰が痺れてるのにッ!ギャハハハッ!止れってぇーッ!」
人を脚で蹴って、ジタバタ大暴れする。
「天誅だよッ!ハハハッ!痛いッ。蹴るなッ。雅。どうどう。落ち着けってばッ!ハハハッ。もう、止めたよッ!痛っ。おい。追い出すぞッ!」
ピタリと動きが止まり…。
「嫌だ。」
私にしっかりと抱き着き。
「嫌だ。」 頭をぶんぶん振った。
おいおい…。髪が…。あ。ハ…
「ハ…ハクションッ!」
鼻に髪が…。ね…。
「ウワーッ!び…ビビったぁッ!何だよッ。京香!」
雅が反撃に出て、私を擽る。
大人になり、今までに擽られる体験が無かった。
かなり…弱かったらしい。
「や…ギャハハハッ!止めれーッ!仕方ないじゃない。クシャミはッ!ま…待って!ヤバッ!ギャーッ!し…死ぬーッ!」
無意識に私も蹴っていたらしい。
「痛っ。おいッ!ハハハッ!痛っ。京香ッ!役者の躰にッ!うッ。落ち着けーッ!」
雅の、役者の…で、我に返る。
「あっ!ああっ!雅の尊い躰にアザでも出来たら!大変ッ!大丈夫?」
突然。素に戻った私に驚き…。
「いや…尊いって。ハハ…。俺、ヤバっ。嬉し死ぬーッ!京香、好きッ。好きッ!京香。大好きッ!」
グハッ!出たなッ!究極のデス文句連発が。
私は一億倍、好きだって話しよ。なんたって歴史が違うんだよッ!
なんて、私に抱き着き、ブンブンと人を揺さぶる。
無敵可愛い生物に対して思う。
「ああ…。俺、ヤバかった…。」
雅が抱き着いたまま、言い出した。
「いやいや…。それ可笑しいって。雅が擽って、私がヤバかったんだけど…?」
私は言った。
「違う。京香を擽った時、薄いパジャマの向こう側に…京香の肌を感じちゃって…。堪らなく、欲情した。こんな事…。こんなヤバい状態は初めてだった。凄いな…。恋は。京香を思って…躰が自分の物じゃ無くなる。マジ、ヤバっ。」
雅の無自覚に甘い言葉で、私の躰が又、ジンジン痺れる。
「トレーナーを着て来るよ。」
私は自分の欲情を抑える為に、雅の堪らなく、本当に、堪らなく嬉しい言葉を冗談にする。
「え…?う…嘘だよ…。大丈夫だよッ!ちゃんと、我慢するもん。俺、まだ我慢するんだ。京香が…もう嫌だ。って言う位に、俺の愛を感じて…。自分から押し倒してくれるまで、待つ。今は、この堪らないエクスタシーを感じる甘い躰の痺れだけで、幸せだから。京香が大好きだよ。100倍でも伝えるからね。俺。」
キスの後は…聞いてなかった?嘘つき…。
全部、聞いてるじゃない…。
私は、雅の頭を引き寄せ…。上手とは、言い難いディープキスをしていた。
な…何ッ!下手で呆れた?ええーッ。期待外れ?いやいやッ!そこまで…酷かったかぁぁー?
雅の頬に涙が…。
慌てて、顔を私の胸に押し当てて…。
「はぁ…。京香の嘘つき…。大人は余裕だから、ディープキスしないって言った癖に。駄目…。俺。これだけで…いきそうだ。ハハ…。」
フッ。いやいや…。その言葉だけで、こっちが逝きそうデスがッ!デス。
「フッ。嘘つきは雅でしょ。聞いてなかった。なんて言って…。全部、聞いててくれたんじゃない?今のは…嘘つき君に天誅だ。」
私は雅の頭を軽く撫でる。
「こんな天誅なら…大歓迎だよ。京香。いや…。やっぱり、天誅だな。超ヤバいもん。俺。」
ギューッと雅が抱き締める。
「ほら。俺様の美容に悪いから、もう寝よう。明日も…今日だけど。一緒に…歯磨きするんでしょ?照れながらッ。ハハ…。」
私は背中をポンポンして言った。
「ハハッ。そう。照れながらねッ。ねえ…。京香、お願い。もう一度…。キスして。」
潤んだ瞳の雅が言った。
ブハッ!無理。勘弁してくだしゃい…。堪らんッ!
「み…雅がすれば…」
私の頭を引き寄せ…。上手であろうと思えるディープキスを雅はした。
長い長い…。うッ。自分がヤバい…。と感じた。
私は雅を離し…。
「ヤバい…。自分の心の納得とは、別で、雅の色気に押し流されそうだ。ああ…。勘弁してよ。」
「ウッワーッ!京香の言葉の方がヤバいよッ!嬉しくて…又、暴れるよ。俺。」
頭を抱え雅が叫ぶ。
「え?追い出すよ。」
「嫌だ。」
「じゃあ、究極の癒やしを抱っこして眠るかな。お休み。雅。」
私は雅のおでこにキスをした。
「京香…。大大大好きッ!お休み。出来るかな…?」
二人で抱き合い…興奮疲れに意外な程、直ぐに眠っていた。

昼過ぎ位かな…。微睡みながら考える。
重い…。何よ…?
ブーッ!美顔どアップッ。寝起きに…キターッ!
ま…眩しいッ。ギャーッ!止めてェーッ。
駄目だッ。尊いなんてもんじゃないッ!
こ…これは…、リアル寝顔だよーッ。
ああ…。唇が開いてる…。唇…?
ギャーッ!き…昨日、いや。今朝…どっちでも良いわッ!この唇と…。キ…、ギャーッ!
待って。待ってッ!お…落ち着け。
やっぱり…。長ーい、夢じゃなかったんだな。
だとしたら…?雅が私を好きだって言ってだね…。
はあ?何それ?何処の国の夢物語だよッ!
いや、明らかに可笑しいだろう。
無いな。無い無い。
実は酒に弱くて、見た目には解らず、泥酔してた?
いずれにせよ、起きて…我に返るだろうな。
期待は…しちゃいけない。って事だ。
起きて、気まずさに直ぐに帰るかもしれないな…
取り敢えず、寝起きに私の顔を見て、嫌な顔をされて、傷付くのも勘弁だからね、先に起きて…
などと、寝顔を有り難く拝みながら、対策を立て様とした時…。
パチッと雅の美眼が開いた。
ウェーッ!手遅れかッ!
「ああ、良かった…。京香が先にベッドを出てさ。歯を磨いちゃうんだよ。悲しかった…。良かった。京香が居た。お早う。」
予知夢なんですか?ええ、今、正に起きようと…。み…雅の酔いは覚めていなかったッ!
ブハッ!鼻血がッ!只今、真っ昼間デスが?
勘弁してくだしゃい…。
雅は私に…お早うのキスをしたのだ。
お早うのキスってさ…。漫画?ドラマ?外人か?
「京香は?ねえ、お早うのキスは?」
ブーッ!な…何ッ。脈…脈は?打ってる…?
いやいや…。万が一だよ。万が一ッ!
この生き物と結婚でもしたら…いや、だから、万が一だってばよッ!
毎朝、いや、昼間だけど。毎起きがけに、こんな…デス台詞を言われるのか?
ええ…。面倒臭ッ。嫌…じゃないかも。
嫌じゃないんかいッ!本当にお前には呆れるなッ!
だって…。嫌じゃないんだもん。
いや、歳ッ!もん。って気持ち悪いだけだ。
「ねえッ!京香ー。キスッ!」
寝ぼけ眼で、雅が私を揺すって…目を閉じる。
グハッ。い…頂きます。
「もう…。お早う。雅。」
私は…寝起きで汚い挙げ句、ニタニタと締まらない顔で…キスをした。
もう…も、あったもんじゃない…。
「グハッ!た…堪らないッ!生きてますか?俺?」
ええーッ!完璧に…私の病気がうつってるぅーッ!
「ハハハッ!幸せ過ぎて、照れるんデスけどッ!私は起きる。雅は好きにして良いからね!」
起き上がり掛け…。
「待ってッ!京香。俺。今の京香の言葉に痺れて…動けない。後、1分だけ、一緒に居てー。ねっ。」
私を抱き締め、雅がどアップでせがむ。
ギ…ギャーッ!近ッ。美し死ぬッ。
キスまでしても尚、慣れない美顔どアップに…
「面倒臭ッ。嫌…じゃないかも。可愛くて!」
こうなりゃ…好き勝手にやったもん勝ちよッ!
と、思って。
おでこやほっぺや調子に乗って首にまで…
キスを連発してしまった。
鳥が餌を突いている様だ…。色気もありやしない。
「ウォーッ!ヤバっ。ヤバっ。ギャーッ!こ…殺す気ッ!京香ッ!お…俺を殺す気なんだねッ!」
結果…。雅の方が先に飛び起きた。
ハハッ!又、私みたいな反応だよ。可笑し過ぎる!
「だって、可愛いかったんだもん。」
だからッ。キモいってば!おばさんッ!
「だもん…。か…可愛い死ぬーッ!き…京香ッ!早くッ!起きるよ。こんな所に居たら…。俺。命が幾つ有っても足りないよッ!ああ…。まだ首がヤバいーッ!ギェーッ!」
ハハハッ!まんま、お返しします!その言葉ッ!
昨日から…。嫌ッ。13年間も貴方に殺され掛け続けたんだからねッ!私は。
雅が私の手を引っ張り、起こす。
「歯を磨いて。雅が買ってくれた。パンを食べようね。コーヒーを入れるよ。」
「うんッ!京香。恋って…。怖くて、幸せだね。」
手を繋いで、いや…年齢は知ってます。はい。
洗面所に行く。二つ歯ブラシが並ぶコップを眺め…
「クッ。やっぱり…。照れるぅーッ!」
雅がジタバタ暴れる。
「ハハッ。幸せですッ!みたいで、照れるよねッ!」
私も付き合って足をジタバタした。
「や…止めてェーッ。京香ッ!好き死ぬッ!」
雅が胸を押さえ、ゼイゼイした。
「ハハハッ!私を見てるみたいッ!」
「エッ?京香を?何で…?」
「あっ…。まだ…。秘密。又、今度ね。」
「な…ッ。昨日からッ!超気になるんデスけどッ!ドラマの台詞を間違えたりしたら、京香のせいだからなッ!」
「ハハッ。結城雅は、大丈夫。プロだもん。」
歯を磨き、それぞれのコーヒーを持ち、ソファーに行く。
パンを食べながら、お互いの普段の仕事の話しをしたりして、笑っていた。
目の前のカレンダーを見ながら、雅は…。
「へー。待機なんて有るんだ?考えたら、納得だけどね。あの…結婚式ってのは?」
「ああ、私の結婚式だよ。」
「え…?き…京香…。」
「嘘だよッ!ハハッ。そんな訳無いじゃ…」
ええーッ!嘘でしょーッ!いやいや…。勘弁して…
「雅…。あの…ゴメンッ!いや、本気にするとは思わなくて…。ゴメンね。」
雅がポロポロ泣いていた。
口を押さえて…
「良かった…。嘘で良かった…。本当にき…京香が結婚しちゃうって…。だって、俺だけが、京香を好きだから…。ずっと不安で。嘘だって聞いて、安心したら…。涙が…。」
私は…堪らなく自分が卑怯に思えた。
今、直ぐにテレビをつけ、結城雅、一色に埋まった、予約画面を見せてあげたい衝動に駆られたが…
まだ…怖かった。自分の方が好きだと伝えるのが、自分に起こった事を、本当だと信じるには時間が足りなかった…。
だから…雅を抱き締め、涙にキスをした…
「意外とね…憂鬱なの。同僚の結婚式。いや、自分自身はね。もう、結婚しないって決めてから、何も思わないんだけどさ…。」
雅は涙も止まり…。話し出した意外な告白に、耳を傾けていた…
「皆、年下じゃない?呼ぶ方も来てる同僚も、私が行参加する事で…。微妙な気を使う感じでね。新郎の友達が、そりゃ、やっぱり若いCAに話し掛けるでしょ?私が一人で居るのが…気の毒みたいな雰囲気かな?本人は、慣れっこだし…何も思って無いのにねっ。逆に…キツいよ。今回は、ホテルでも…。立食のガーデンウェディングだから、まだ気が楽なんだけどさっ。だからね…憂鬱で、冗談を言っちゃったのっ。ゴメンね。雅を傷つけて…ゴメン。」
と、雅を揶揄った訳じゃ無い事をせめて、伝えた。「へ…。なんか…解るよ。要らない気を使われるのって、一番、キツいよね。俺もしょっちゅうだ…」
他の誰かに、もし、「解る」と、言われたら…。何が解るの?と、思っただろう。
でも…。雅には、本当に解るんだろうな。
何故か、そう思えた。
「ハハッ。私、雅が解ってくれれば充分だ。憂鬱じゃなくなっちゃったな。有難う。」
私は雅の頭を撫でた。
幸せそうにニッコリ笑い…。
「京香に撫でられるとさ…髪の一本一本にね。心臓が有るみたいに。ドキッドキするんだ。堪らなく気持ち良い。俺。これから、本気だって…。京香に沢山、伝えるよ。俺なりの本気を伝えるから。」
と、言った。
その後も、私はスッピンジャージの生腐人のままで居たのだが。
普段と違ったのは…。無人…ナイトが私のお腹付近に横たわって…。スヤスヤと一緒になって眠っていた事だ。
浅い眠りに目覚めては…。
寝顔を見つめ…ニタニタとする。
テレビモニターがリアルに変わっただけで、なんの負担も感じない自分が不思議だった。
でも、明日からは…又、いつもの生活だ。やはり、そう思う事にした。
今、家の中で…。例え、雅の気持ちが本気でも…
世界の違いは、否めない。
実際の話し、スケジュール的にも、アイドル俳優と、CAではキツい物も有る。
例え、携番やLINEを交換したところで、お互いを思えば、不用意に携帯さえも鳴らせない。
いつ寝て、いつ起きるかも。二人して、解らない生活なのだから…。
雅は明日から、又、ハードスケジュールに追われる中、色々な出逢いも有るだろう。
二、三日ウチには、私の存在など忘れているかもしれないな?
ちょっと、切なくもあるが…。誰に話しても信用して貰えそうも無い…この2日間に起きた奇跡を胸に頑張れる。
それ程のときめきと、幸せを貰った。
「京香…。フフッ。」
雅が…寝言を言う。
アハハ…。今、私は世界一の幸せ者だッ。胸を張って言える気がした。
雅の髪を掻き上げ、綺麗なおでこにキスをする。
「ん…。あ…。京香。大好きッ。」
起き掛け直ぐにそれかよッ!
又、抱き着いて離れない寄生虫に…
「時間。良いの?私、お腹空いたから…何か作って食べる。」
私は言った。
「じゃぁさ、何か、デリバリーで頼もうよ。二人で食べて、それで今日は帰る。」
雅が言い…
「あ…。じゃあ、そこの中華飯店の出前で良い?日本の中華が食べたくて。」
私は、このタイミングで手料理を振る舞うよ。
と、言わない自分に些か呆れた。
スッピンにジャージで。全ての、食料調達までさせて…雅に対して…良いとこ無しだが…
「うん。良いね!俺もラーメン食べたいッ!美味しいの?楽しみだな。まあ、今の俺は、京香が居れば何でも美味しく感じちゃうけどッ!なんて…ギャーッ!やっぱり…。照れるねッ!」
ブハッ…。駄目だッ!顔に両手なんか当ててッ!
妖精の化身なんデスかッ?
残りわずかな眼福時間だと思うと…又、変態性が発揮されてくる…。
ラーメンが届き、食べている間中…。
雅は、又、酷い、勘違い病に掛かり…
「ねえ、京香…。乗客に誘われても、勿論。断るでしょ?断れよなッ!」
「いや、この歳で…誘われないし。」
心配するかな…?普通。
「あのさ…。パイロットは、男でしょ?飲みに行ったりしないよね?断れよなッ!」
「いや、もっと、若いの誘うだろ?」
嫌がらせか?この坊ちゃん…。
「あの、地上勤って…男性社員も多いの?心配だ…誘われても…」
「誘われねえよッ!雅ッ。早く食べなさいッ!」
私が心配するなら話しは良ーく、解る。
何で?何故、結城雅が私の心配をするッ?
その後も無駄な心配を繰り返し、何故か、携帯を出しカレンダーの写メを撮ったりして、又、心配をする。何度か怒鳴られ。雅は帰る時間になった。
一応、携番を交換はしたが…私から掛ける事は、まずないだろと思う。
玄関で私を抱き締めた雅は…。
「京香には、解らないんだ。俺、小さな頃から業界しか知らないから。世間の会社が解らない…。心配で、心配でさ…。ウルサく言ってゴメン。でも…こんな気持ち事態が初めてだからさ。面倒臭ッ。嫌かも。ってならないで…。京香、大好きだよ。」
と、耳元で言った。
ああ…。そうだった。不安で当たり前なんだ…。
私は…
「大丈夫。実は、私も、凄い心配してた。雅の周りは綺麗な人だらけだし…。私にも雅の仕事が解らない世界だから。同じだね。だから、大丈夫だよ。私は大丈夫。」
と、正直に言った。
「そっか…。京香もか。良かった。又、連絡する。俺の好きを行動で伝えるからね。京香…。キスしても良い?」
何故…?今更…?
「勿論…。…?」
雅は長い長い…ディープキスをして…
首に…。キスをした。
「や…ヤバっ。俺、帰るッ。おやすみ。京香ッ!」
ギ…
「おやすみ。雅…。」
ギャーッ!ヤバっ。ヤバっ。ギャーッ!
ガクンと又、玄関に座り込み…
首に手をやり、のたうち回っていた…。

その翌日の自宅待機は、まだ夢の中に居る様で…。
普段より一層、フ抜けた状態で過ごした。
良かったよ…。非常勤になってたら、ヤバかった!
次の日からは、国内線の折り返しフライトがチラチラと続いた。
あれ以来、やはり、雅からの連絡は無かった。
次の日にも連絡が来るかの勢いだったがね…
悪い病も治り、夢からは覚めたらしいな。ハハ…
私は又、普段通りの淡々と仕事をこなす生活に戻っただけだ。
ただ…家での唯一の楽しみで有った、結城雅の録り溜めは、ちょっと…キツくて、観られなかった。
そのウチ、良い思い出として…観られるよなッ!
考えて…。変態性が無くなった、生腐人になった。
ファーストクラスの乗務はやはり、気を使う。
他が使わない訳では無く、前にも言ったがフライト前は、眠剤が無ければ眠れない…。ただ、やはり気を使うお客様が多いと言う点でファーストクラスはカレンダーにも書き込み、精神的に備える…?
第一便は特に緊張が有る。
バックの仕事を終え、機内アナウンスに向かう。
「アテンション…ッ!フリーズッ。」
ハハハッ!乗客がザワザワと笑う。
「エ…エクスキューズミーッ!アテンション プリーズ…」
グガッ!な…何。この男ッ。マジで勘弁してッ!
何とッ。客席で、雅がヒラヒラと小さく手を振って居るではないかッ!
腰が抜けなかった自分を褒めたいわッ!
ああ…。仕事か。沖縄フライトだもんな。ロケやグラビア撮影とか…有るよな。
ただの客じゃん…。そうだよ。落ち着けッ!43歳。
「チーフが…。珍しいですね?ミス。ハハ…。」
バックヤードで、後輩に笑われてしまう…。
「何だろうね?ははは。」
お…覚えてろよッ!あのガキッ!何が愛を伝えるだよッ。又、人の寿命を縮めに来て、殺人鬼めッ!
あっ。だから、お客様だってばっ!
「あわわ…。結城雅が居ますよ!超ラッキー。」
後輩が、バックヤードに入って来て言う。
ええ。居ますよね。アンラッキーッ!
「ハハ…。そう。はぁ…。」
「ええ?お疲れですか?チーフ…。」
「ハハ…。やっぱ歳には勝てないネーッ。ハハ…。」
機内サービスを配りに行かなきゃいけない…。
客の一人だ。そうそう。お客様のね。
「いかがですか?」 
チョコを差し出して繰り返す。遂に刺客の席だ…。
「いかがですか?」
「グハッ!京香ッ。制服。萌ーッ!ヤバっ。」
小さく口を動かさず雅がお馬鹿発言をする。
お前は…ッ!生まれ代わった私かよッ!
「いかがですか?…変態さんッ。」
私も小さく付け加えた。
チョコを選ぶ振りをしながら…
「驚いた?京香?会いたかった?俺に。」
下を向き言う。
「ええ。お蔭様で。びっくり。お仕事?」
私も、コーヒーなど入れながら…。言った。
「違うよ。会いに来た。大好きッ。京香。」
「有難う。存じます。失礼致します。」
頭を下げ、立ち去った。その後も何回か私が通る度に、何やかんやと頼み事をして…
「京香ッ。浮気してない?好きだよ。」
「大好きッ。京香。ねぇ、京香は?」
「ああ…。キスしたい。大好きッ。京香。」
グハッ!仕事に集中出来んッ!これが二十歳を超えた大人のする事かよッ!
全くッ!凄い迷惑で…。嬉しいじゃないッ!
嬉しいんかいッ!呆れ果てるなお前にはッ。京香!
「なんか…ついてますよね?チーフばっかり、結城雅に頼まれ…」
後輩が言い掛けた…。
「絶対ッ。たまたま、だよッ!ははは。」
超くいぎみ…で、強く答えた。
魔のフライトが終わり、出口でチラリとこっちを見て、結城雅は立ち去った。
「ああ…。10倍以上疲れた…。」
休憩室で少しの時間を休み、折り返しのフライトになる。
何だったのッ?危険極まりないじゃん!バレたらどうするつもりよッ!何がだろ?
ともかく、グッタリしながら腹を立てた。
好きだ、好きだって…。ウルサいんだから…。
グフフッ!今日も超絶綺麗な顔だった…。
ああ…。やっぱり、眼福。ニタニタとし始めた。
雅に対しては…怒るか萌るかどっちからしい…?
これで、又、暫くは幸せだッ。
さあっ!頑張ろうッ!
しかし…。まだ、魔のフライトは終演を迎えてはいなかったのだッ!
折り返しの客席にも…悪魔は鎮座していた…。
ブーッ!な…ッ何なの?幻か…?
「会いに来た。」 雅の言葉が蘇る…。
まさかーッ。無い、無い。幾ら馬鹿でも…ファーストクラス使って、私に…なんて。
図々しいお考えは捨てる事だ!自分をわきまえろ。
しかし、帰りの便でもやはり…。
「夜から仕事なんだ。会いに来ただけだから、好きだよ。京香ッ。ギャーッ!照れるね?」
馬鹿の一つ覚えの様に「好きだよ。」と繰り返し…。
降臨した悪魔は、絶大な疲労を人に残して、去って行った。
そのエネルギーを他に使えよッ!
全くッ!馬鹿みたい!…に、嬉しかった。
「どうしたんですかねー?結城雅?忘れ物かな?」
同乗したCA達が不思議がり、首を傾げ…。
「そ…そうだねッ!忘れ物だねッ?絶対そうだ。」
又、私は…。くいぎみに強く言い切った。

ロングフライトを一本終え、久々の自宅に帰った。
「魔のフライト」以来…。雅からの連絡は無い。
忙しいんだろうな…?少し…寂しく思う。
それと、普段なら、ここからの休みが楽しみで仕方ないのだが…。
「ああ…。面倒臭ッ。嫌かも…。」
又、独り言の日々に戻っていた。
面倒臭いといえども…明日の結婚式は避ける訳にはいかない。
そう…。せっかくの休みも明日の結婚式で憂鬱なのだ…。サッサと終わらせて帰れば良い。
雅に憂鬱さを解って貰えたもんね。充分だ。
その次の日も休みなんだ。明日は頑張るぞ。
私は、先日の「魔のフライト」以来、又、結城雅をスクリーン内で楽しむ趣味を再開していた。
残りの休みも、又、録り溜めた映像を楽しもう。
グフフッ!ああ…。キスシーンだ…。
グヘッ。綺麗だな…ああ、眼福ッ!
不思議に…。他の女優さんとキスをする雅を観ても心は、病まなかった。
私は…本当に雅が好きなのかな?普通は…このシーンって心が病むんじゃないかな?
眼福なんて言ってる時点で只のファンじゃん?
だけど…。雅と居た時間に、彼を俳優として観ていたのなら…。雅の目から流れた涙も、笑顔も、真顔も、全部。お芝居だって感じるハズだよな?
1回たりとも、私は、そんな風に思わなかった。
わざわざ、昼間のオフに沖縄を折り返してまで、私に会いに来てくれた。
そうとしか…思えないよなー?あれは…。
やっぱり…。認めたく無いけど…いや。認めるのは怖いけど…
雅が私を好きだって、認め始めてるんだな。
雅の本気の愛情を沢山、感じてるから…他の人とのキスシーンを観ても、仕事だと、落ち着いて居られるんだ。
今度…。雅がウチに来たら、伝えよう。
こんなにも、雅を観て来た事を。
キチンと…。私も、大好きだと伝えよう。
そして…押し倒…。ギャーッ!無理。無理ッ!
ああ…!何であんな調子こいたんだろッ?
押し倒してから…。どうしろと?土俵から出すか?
いやいや、相撲かよッ!
なんで、如何にも大人なんで、慣れてるしッ!
みたいな発言した?自分ッ!
そうだ!仕方ない。それも、無理だと謝ろう。
などと、来るとも決まって無い事をグルグルと考えて…少し、その夜はうなされた…。
出来るだけ目立たない…シンプル且つ、一応、高目のお値段のドレスやアクセサリー、靴、バックで身をブランドで固める。
私にだって、この歳のプライドがそれなりに有る。
普段は使わないタクシーも使い、式場に着く。
形式的な儀式は淡々と進む…左程、気も使わない。
この後の会食がくせ者なんだよな…。
今日、結婚する娘は25歳。相手も28ときたもんだ。
両親の方が歳、近いわッ!ハハッ。あー。憂鬱。
さっさと、一生、戻る事の無い祝儀の分。沢山飲んで沢山食って。チャッチャと帰ろッ。
案の定。周りの後輩に気を使われながら、会食が始まった。
いつもの通り、結局は一人きりで、シャンパンなどに舌鼓を打っていた…。
もう、気の毒に…と思われるのにも、慣れている。
「おーいッ!京香…。京香ッ…。」
ヘッ?何…?「京香ッ。」って聞こえたけど…?
まあ、そんな名前は、山の様に居るわな。
大安の式場。ここは垣根だけで、仕切ったガーデンウェディング会場だ…。
回りの道を通る、他の式の人達も沢山居る。
キャーキャーッ! 随分と、盛り上がってる…。
この会場の内も、ザワザワしてきた…
何だか妙に騒がしい…?何…?振り返り…。
「おーい。京香ーッ!おーい。」
ブーッ!シャンパンをリアルに吹き出したッ。
はぁぁぁッ?ええーッ!マジで。勘弁してよーッ!
いやいやッ!冗談にも程が有るって話しだッ!
雅が手を振り回しながら走って来る。
しかも…。馬鹿が着く程、デカい声で私の名をよんでるじゃねぇーかッ!
ギャーッ。嫌だーッ!お…お助けーッ!
いやいやッ!おいっ。待ってッ!
いやいやッ!あの、人…素のままなんですがッ!
ウェーッ!キャップはどーしたッ?って。
いや、大声過ぎて、そんな問題じゃねぇー!
もう、超バレてっしッ!絶対、嫌だッ!
瞬間的に私は、この場から逃げだそうとしたが…。
もう、この式の人々も、道行く人々も、全員が一人残らずって程…。悪魔を観てるぅッ!
私は、シャンパンを手に…。
口には、吹き出したシャンパンを垂らかしたままで…。
立ち尽くす事しか出来なかった…。
さては…石化だなッ!馬鹿な事だけは、考える。
雅、ご本人は、ご機嫌で私に駈け寄り…。
会場の垣根もなんのその。
ズカズカと入って…。私の目の前に来た。
おいッ!キターッ!じゃ無いッ。
マジ来たよッ!
「ああ、良かった。間に合って!フライトお帰り、京香ッ。俺、超会いたかったッ!」
庭木の一部と化す程、棒立ちの私に、抱き着く。
おいおい。落ち着け。シャンパンが…じゃ無いッ!抱き着かれるんですかッ?
低い垣根の向こうにまで、人の垣根と…。
携帯のカメラ群…。
唖然としたり、奇声で騒ぐ観衆もなんのその。
「あー。京香ーッ。又、ヨダレ?違うか。シャンパンを溢してるじゃんッ!もー。舐めちゃうよ?俺ッ!ハハッ。」
ポケットから、ハンカチを出し…。私の口を拭く。
いやいやッ!舐めちゃうよ?じゃねぇーよッ!
幾ら思っても、言葉が出ないーッ!
パクパクしているだけ…池の鯉状態だ。
「俺、後、一本だけ仕事だから。その後、京香の家行くね?ああ、それとも、今日はウチに来る?京香、明日も、休みだろ?」
しれっと…。京香、京香って、京香強化月間かい?いやいやッ!上手い事を言ってる場合でもねぇー!凄い聞き耳立てる、人数の前で…。リアル過ぎる、末恐ろしい事をのたまった。
おい。狂ったのかい?狂ってるんだね?
「おーい。雅ッ!そろそろ時間だッ!行くぞーッ!」
マネージャー?らしき人が、叫んでいる。
「解ったーッ!」
雅は叫び返し。
「チェッ。時間だってさ。後でね。京香ッ。」
挙げ句、ご丁寧に、観衆に負けず劣らず、唖然とする私の頬にキスまで致し。
ブーッ!致すんかいッ!ここは、日本ですがッ!
「あっ!ハハッ。お騒がせ致しました。本日は、ご結婚おめでとう御座います。では。」
と…。頭を下げて。走り去って行った。
嬉しいじゃないッ!とかじゃ…事は済まないじょ。
あ…あんたはね…去って行った。で、良いけどさ!
このまま、残された私はッ?腹が立ち。
「ば…馬鹿者がーッ!雅ーッ!てめぇー。あ…。」
思わず、叫んでいた。失礼。
「ハハッ!俺、又、怒られた!大好きッ。京香ッ。」
走りながら、手を振り回す。
寿命が…残す方が少ない程。縮んだ。
ゲージも残り、1㎜。躰も1㎜位に縮みてぇ…。
「ハァハァ…。あの野郎…。覚えてろよ…。足の裏擽り倒してくれるぅーッ!あ…。」
CAに相応しく無い言葉が口をつき…。又、失礼。
ハタと、我に返った。
怒鳴ったままの体制で…下を向いていたが…
怖くて…頭が上げられないんですがッ!
でも…。この、シーンと静まり返る会場の後始末を逃げたヤツの代わりにつけない訳にはいかない。
スッと、顔をあげ…。引き攣った笑顔で。
鳩が豆どころじゃ無い…ただの鉄砲を食らってしまった様な人々に…。
「ち…ちょっとした…サプライズでした!ホホ…。お気になさらず…。引き続き、御歓談下さい。ああ、外の皆様も全くッ。お気になさらずに…。」
頭を深々と下げた。
あの…。雅さんッ!本気は充分に解りましたがッ。他の手段ってのは御座いませんかねッ!
ああッ!考えたら…私どころか。
あの携帯カメラ群だ…。もう、この情報…。状況は、かなり拡散してるのでは…?
どうするつもりだろう?雅…。大丈夫かな…?
などと、心配している場合では無かったッ!
気づけば。カシャッカシャッと何台もの携帯が…。地味な挙げ句、怒りと心配とで微妙に歪んだ、40過ぎの私の顔をバシバシと映している。
いやいや。こ…これは、時に…。うん。便所だな。
「失礼…。」 誰にともなく、頭を下げ…。
もう、スピードで走り出していた。
今度こそは、腰を抜かさず走れた自分を褒めてもバチは当たるまいてッ!
その後…。勿論。便所から、家に帰ってしまう訳にも行かず。
渋々と会場に戻って…。
「チーフ!何、今の…。だから、今まで結婚してなかったんですね?」
いやいやッ!関係ねえー。違うしッ!
「この前の沖縄フライトも…。そう言う事ですか?酷いな、私達を騙して!」
いやいやッ!乗るなんて、知らねぇしッ!
「へーッ!雅って…年上好きだったんですねー?」
いやいやッ!違うって本人が言ってたしッ!
「ねえねえ、かなり、ベッタリだったけど?普段って、どんな人なんですか?甘えた?」
いやいやッ!こっちが訊きてぇーしッ!
「えー。この状況って…。結婚って話しですか?」
いやいやッ!それ一番、こっちが訊きてぇーしッ!
もう、主役の結婚式そっちのけでギャーギャー質問の雨あられだったが…。
雅の出方が解らない限り、私が何を答えろと?
「いや、知り合い…?」とか…?
抱き着き、口を拭き、キスをする知り合いかいッ!
「いや、良く解らない…?」とか…
ウチに来て、舐めちゃうよ?とか言う仲で、解らないんかいッ!
主には「ハハ…。ハハ…。」と…壊れた様に笑って過ごした。可笑しくもなかったがねッ!
我が社に新聞が有るならば、間違いなく…。号外もんだ!って騒ぎだった。

どーっぷり、疲れ、家に辿り着く。
先ずは、冷や汗をッ。軽く洗い流して。
ビロビロジャージに…。ん?雅が来るんだよな…?えーと、だから?
うん。ビロビロジャージに着替えよう。
ああ、質問攻めに、やたら喉が渇き。些か、飲み過ぎた!
シャワーの後、コーヒーを手にし、ソファーに横たわる。
今がどんな状況かは、考えない。
面倒臭いし、テレビが騒いでいたところで、今の雅の状況の真実は、解る訳が無いから。
ただ、絶対に大騒ぎになってる事だけは確定してるな…。まあ、本人が来れば、解るだろう。
ウトウトと微睡み…。実に呑気なもんだ。
ピンポンッ。ピンポンッ。
チャイムでハッ。と起きた。
インターホンに行き…。「はい。」
ブハッ!やっぱり…。美顔どアップ、キターッ!
「京香ッ。早くッ!」
ほら、案の定、焦ってるよな。
「雅、お帰りー。」
のんびり答え、玄関を開けて待つ。
エレベーターが止まり、雅が走り込んで…。
やっぱり…。抱き着いてきた。
ふわりとシャンプーが香る。グヘッ。た…堪らん!
雅もお風呂に入ったか?軽装になってるし。
「京香ッ!ただいまーッ!本当はね、そんな場合でも無いんだけどさ。でも、今、お帰りー。って言われたのが、嬉し過ぎてねッ!京香ッ!大好きッ。」顔中にキスをしまくる。
ブーッ。まだまだ慣れない…。た…堪らん。
そりゃ、そんな場合でも無いだろうね。
「み…雅。落ち着けーッ!何か有ったの?」
私は雅を軽く抱き締め、背中をポンポンした。
「ハッ?京香…。まさか…知らないの?」
雅は私を呆れて見た。
ブハッ!落ち着けば、落ち着く程。尊い…。
じゃ無くて。
「何が?まあ、雅。入りなよ。何、飲む?私、コーヒー飲んでたんだ。」
「ハ…ハハハッ!凄いな、京香はッ!俺も。コーヒーにするッ!」
雅がソファーに行きながら、笑って言った。
「ええー。何が?」
キッチンでコーヒーを落とし、持ってソファーに腰を下ろし、訊いた。
「有難う。ああ、美味しい。えーと…今、実は凄い騒ぎになってるんだよね…。」
雅は…私が怒る。しかも、マジで迷惑がって怒ると思っているのだろう。
少し…言い辛そうに言う。
「ハハッ。だろうねー。」
私はしれっと、言ってやった。
「えッ?騒がれてるの…知ってるの?」 
「いや、知らないよ。今、世の中がどんなんかは知らないけどさ、考えなくても、解る事じゃん。そんな、世論はね、はっきり言って。どうでも良い。」
私の言葉に、大きく見開かれた、雅の目を愛でながらも。訊く。
「で?雅は今日、式場に自分勝手な判断だけで来ちゃったの?結城雅の事だから…勿論。違うよね?」
雅はまだ、私の意外な反応に、驚いている様だ。
40過ぎまで、お世辞にも楽とは言えない環境で働いてきた一人として、又、結城雅の一ファンとして、自分達の恋愛とは別に、仕事の事が気に掛かる。
「雅。今、私が訊きたいのは、私の事で、事務所や仕事関係と問題が起きてないのかって事だよ。周りに迷惑を掛けてないのかって事だけだ。どう?」
私は、雅が私に対して悪いだの、ゴメンだの言う作業?を省き、簡潔な答えを導いた。
雅は驚きから醒め、私に話す為、ソファーから足を下ろし、姿勢を正す。
私は、あぐらを組みなおした。
おい…。足を下ろすんじゃないんかいッ!
「うん。話すね。京香の家から帰った日、俺、そのまま、社長に電話をした。好きな人が出来たって。俺、四歳から同じ事務所にいるからさ、親みたいなもんなんだよね。今までに人と付き合うからって。わざわざ連絡した事なんか無かったから。余程の事だって解ったみたい。ハハッ。」
雅は、照れた様に、私を見る。
クッ。いやいや…。まあ、聞くか。
「先ずは、京香の仕事とかを言って、会いたくて堪らないんだって話してね、仕事を無理矢理、詰めて時間を作って貰った。沖縄に行った日の事ね。その日、京香を見ちゃったお陰で…。仕事は勿論。きっちりやった。けど…、もう、京香に触りたくて…。溜息ばっかりついてたんだよ。見かねたのかな、社長が飲みに行くぞッ!って。」
雅の話す、穏やかな顔に社長の人柄までが伺えた。
「俺が京香に言われた事を話したら…。お前、恋の病だな。って笑って!お前には10倍以上好きだと伝えてる時間が無い。この商売は特に、付き合う人に安心感を与えないと難しいぞ。お前が本気だって事、解ったよ。もう。いっそ世間に公表しな。って…。例え、振られてもその人が好きなんだろ?なら、お前の気持ちだけで進め。って言わた。」
意外過ぎる展開に、私は…雅じゃ無くて。その社長に惚れそうになったッ!
いやいや…。言葉ッ!
「お前が今まで、積み上げてきたものは、そんな事じゃ揺るがないさ。ましてや、この頃のお前はスタッフや周りにも、前よりもずっと評判が良い。変えたのは、彼女なんだろ?いつも有難う。と、先ずは言えるお前にしてくれた彼女に俺は是非、会いたいね。って…。俺、誰にも会わせたく無いけど…。」
いやいやッ!私が会いたいッス。社長ッ!
「雅。女はな、サプライズが大好きだぞ。お前が後は考えて、頑張りなさい。って言ってくれた。それこそ…色々、考えたよ。それで、今日、結婚式場に寄るって話したらさ、最高に愉しいな、それ。って…。マスコミより、一般の方が先に知るってのが気に入った!って大笑いしてね。」
前言撤回ッ!あの、惨事を許したのは貴方でしたかッ!社長ッ。頼むわッ!
「でも、仕事は大丈夫なのか?って訊いたら。例えば、キャンセルされる物が有ったとしても、その事によって、新しく来る仕事も絶対に有る。ノープロブレムさ。そろそろお前も、演じてばかりいないで自分の人生を大切にしろ。って言われた。」
又、前言撤回ね。ただもんじゃねぇーな。社長ッ!
惚れるぞ!私。いや…。
「だからね。京香が心配してくれた今の件は大丈夫なんだ。まさか…先ず、仕事関係から心配してくれるとは思わなかったから…。有難う。京香ッ!流石は、俺が選んだ女だけ有るなッ!大好きッ。」
いや…。結局。俺様かよッ!
ああ…。このタイミングなのかな…?
「他の相手ならね…。先ずは、自分がどうなるか?の方を、心配するよ。でも…私。結城雅だけは、そうもいかないのよ。」
私は13年間、結城雅を愛で続けてきたと、告白しようと思った。
「エッ?な…何で?しかも、結城雅って…。」
私はおもむろにリモコンで、テレビを付け…。
雅の報道に沸く番組を無視して…番組の予約画面を出した。
かなり過去の物まで、全てが、「結城雅」一色の番組で埋め尽くされている。
式場の私に負けない程の驚く雅を見ながら、やっと自分もサプライズ出来た事を、愉しく思い…。
「結婚に向かない自分に気付いてから、13年間。私の唯一の楽しみは、結城雅を愛でる事、一色だったんだよ。」
まだ…口もきけない、現実の雅を愛でながら…。
「フライトの疲れも、職場の嫌な事も、全部。スクリーンの向こうの雅が私に癒やしをくれて、乗り切って来た。雅が空港で、ナル男発言をした事もね。この顔じゃ余り前。忙し過ぎれば、周りにあたっても当然って思っただけだった。ああ、ちなみにね。私、あの時、口を押さえたんじゃないよ。生の雅に萌え過ぎて、鼻血が出そうで鼻を押さえたの。ハハハッ!甘かったね。雅。」
馬鹿な話しに…。やっと、雅が画面から目を離し、見開いた目で、私を見た…。
「コンビニで、何で解ったかって、雅が訊いたじゃん?そんなの、口元を見ただけで、直ぐに解った。声もね。13年間も雅だけ見てるんだもん。そんな人が、ウチに来るって言うじゃない?心臓がヤバかったわ!雅の仕草、一つ一つに。私がどれだけ…。寿命を縮めたかッ!終いには、腹立ってきた位ねッ!ハハッ。」
雅の大きく開かれた目からポロリポロリと、涙が落ちる。
全く、涙もろい。愛おしくて仕方が無いじゃない。
「今まで…。言わなくてゴメンね。自分の方が好きだって伝えてる勇気が無かった。雅の気持ちが本気だって信じられたら、一番にこの想いを伝えたい。って、思ってたよ。」
私は泣き顔の雅を、キツく抱き締めた。
「も…もう。俺、今の言葉だけで、人生、最高のエクスタシー。感じちゃった。世界一の幸せ者だよ。京香を驚かせたつもりが…。100倍返しされちゃったな。ハハ…。」
良い雰囲気中に申し訳無いが、ハタと思い出した。
「ああ。もう、一つね。私から、押し倒すのは無理だからね。今ので解ったでしょ?そんな、御神体の様に崇めてきた雅を押し倒すなんて…とても、とても。寿命が無くなるわッ!って事でね。」
このタイミングにしれっと言ってしまい。
安心したな。良し。
しかし…。カバッと私から、離れた雅は…。
「だ…駄目ッ!そんな…。嫌だッ!嫌だッ!嫌だーッ!それだけは、駄目だよッ!俺が、その為にどれだけ我慢してきたかッ!」
思い掛けない程の勢いで、ジタバタ暴れた。
私は雅を揶揄いたい衝動にかられ…
「今さー。人生、最高のエクスタシー感じちゃったって言ったじゃない?私が押し倒したところで、それには勝てないもん。ねぇ?」
暴れていた雅がピタリと止まり。
「そ…それは…。あれだよ…。その…精神的な面って言うかさー。あの…。あれだよ…。躰はサ…、別って言うか…。ね…。」
ブハッーッ!何?この独りで照れてる幻の生物は?
ツチノコ…?いや、それ可愛くねぇな。
手をモジモジ動かしてプチプチと言う。
「良いじゃない。もう…。雅の好きにして良いんだよ?私からは…ってだけでさ。」
うつったか?私まで、照るてんじゃんッ!
チラリと雅を見たら…又、池の鯉だよ…
「クッ。ああ…。いきそう。俺、今すぐに、す…好きにしたいよッ!だけどさー。京香から…って言うのがサ…。」
こ…これは…。別の世界をあけたか?雅。怖っ。
この、モジモジした生物をもう少し、愛ででよう…
「ああ、じゃあ私からにするね?ちょっと…。何年掛かるか解らないけどね…。」
ブハハハッ!さあ、どうでる?
「え…えええーッ!いや、良いんだよ。気にしないで、やっぱりね。俺が京香を好きなんだから、俺から行くべきだ!うん。全然ッ!気にしないでッ!」
遂には立ち上がり、熱弁を振るい出したッ!
「ハハハッ!駄目だッ!雅。可笑し過ぎるぅ。もーッ!可愛い死ぬわッ!」
ソファーに寝転び、腹を抱えて笑ってしまった。
「ええーッ!京香ッ!俺を、揶揄ったのかよッ!凄いッ。凄いッ。焦ったんだぜッ!この先何年も、なんて…。出家した方がマシだと思ったよッ!」
出家…ッ!ああ…。スキンヘッドの袈裟姿の雅…。
ブハッ!堪らんッ!見てぇーッ!
その後に及んで…。そこかよッ!私。
私は真剣にそんな事を言う雅が、愛おしくて…。
「ハハッ。おいで、雅。」 手を広げる。
「き…京香ッ!」
ソファーに寝転がる、私の上に飛び付いてくる。
柔らかな髪の頭を引き寄せ…ディープキスをした。
顔中に、キスをして。首にも…。
「ウッ。はぁ…。」 雅の深い吐息が洩れた。
「ベッドに行こうか?雅…。」 囁いた。
「ハァ…。お…俺、歩けるかな…。ヤバっ!」
「二人で…。手を繫いで行こうか?照れながら…」
「ああ…。クッ。本当…。俺、限界。照れながら行こ。二人で…。」
ベッドに行き、私は又…。手を広げた。
繰り返す私の拙いキスに…。
「気持ち良い…。京香…。大好きじゃ…全然、足りないよ…。愛してる。」
雅が甘い言葉にキスを重ね…。私の躰を甘い痺れが支配していく。
「はぁぁ…。ン…ッ。」 口からも甘い吐息が幾度となく洩れ…。
「い…色っぽい声…。出さないで…。京香…。俺、もう…。駄目だッ。」
「ン…ッ。ンンッ!ハァハァ…。」
「ハァハァ…。京香。俺…。こんなに、痺れが続くの…。は…初めて…ッ。ヤバっ…。凄い…。ヤバ過ぎる…。」
「ああ…。私…なんか。まだ…ヤバい…。」
「俺…も。まだ…ヤバいっ…。」
二人が…ヤバい病だ…?
「京香ッ!俺、まだまだするッ。気持ち良過ぎッ!」
雅が私に抱きつく。
「ええーッ?しないよ。まだ…、しない。」
「ええーッ。嫌だッ!嫌ッ。嫌ッ。京香ー。」
私の胸でいやいやをし始める。
「ン…ッ。あのねー。後…には必ず。先ずは、ビールでしょ?宴会の始まりと一緒ッ!先ずは、ビールッ!そうじゃないと…。私、面倒臭っ。嫌か…」
私がかつて、付き合いをやめてきた時のセリフを言い掛けたから、雅は、焦った様だ。
「あわわ…。ま、先ずは、ビールだよッ!決まってるよッ。俺もビールだよ。調度、喉がカラカラだった!忘れてただけだッ!て…手を繫いで、先ずは、ビールだ。照れながらねッ!ははは。」
ブハッ!い…今更だが。起き上がった上半身に目がいってしまったッ!ヤバっッ。
ギャーッ!こ…これは、影向だ…ッ!
神か?仏か?ま…眩し過ぎるぅーッ。だ…駄目だ。
こんな、ヤツとは…。ハッ?何…?
「ギャーッ!ま…眩しいッ!駄目だよッ!は…早く、京香ッ!服きてよッ。綺麗過ぎてッ!押し倒したくなるーッ!俺、嫌われたら…。生きていけないんだからッ!グワーッ!ヤバっ。ヤバっッ!」
気が付くと、ギャーギャー言いながら…。
雅が私の裸を…。ガン見して…んじゃねぇーよッ!
「み…雅ッ!40過ぎの女と付き合う鉄則ッ!第二弾。裸をガン見しない事だッ!」
私は、布団で躰を隠した。
その布団をバッと剥ぎ取り、雅が…。
「と…年下男と付き合う鉄則ッ!京香が言ったんだからなッ。坊ちゃんの好きにさせる事ッ!俺は、京香の綺麗な躰を一生、ずーっと、見ていたいんだッ!俺だけの物だッ!好きにするんだもんッ!」
もん。は良いですが…雅さん…。プロポーズの言葉になってますがッ!
お言葉にご注意あそばせッ。
「京香になんか、解らないんだッ!俺が、どれだけ京香を好きになってから、ずーっと、抱きたい。抱きたいって思い続けたかッ!どれだけ、この綺麗な肌に触れたかったかッ。」
雅が私に抱きつく…。
私は雅がどんどん愛おしくなって…。抱き寄せ。
「坊ちゃんの好きにして良いよ。私は…。大人だからねッ!」
と、髪を撫でた。
「ほ…本当。本当に良いのッ?京香ッ!ヤッター!嬉しいッ!京香ッ!大大大好きッ。」
いや…。何?そんなにかい…?
まあ、結局は…。この可愛いさには、勝てないさ。
「京香ッ!ビールだね!乾杯だッ。ハハハッ!」
無駄に楽しそうだ事…。雅さん。
「ハハハッ!乾杯しよう。」
たまには…私もね。ご機嫌に付き合うよッ!
二人は手を繋ぎ。ソファーに戻った。

「ねえ、どうしても、テレビ局が来ると思うよ。京香…。嫌?」
二人で乾杯の後、ビールを飲み、雅がマネージャーに頼んだと言う、デパ地下のお洒落オードブルを摘まんでいた。
「ああ、今、どうなってるって?テレビ局が…?まさか、ウチにまで来るの?」
今の、色々ウルサい御時世だ、まさか、そこまでしないって。
思いながら、私は訊きいた。
「ん?今?ああ。でも、この下にはもう、居るかもしれないね。情報流れるの早いもんね。いや、テレビ局は、式の時の話しだよ。」
雅がビールを飲みながら言う。
「え?四季…?春夏秋冬。が…?」
「ハハハッ!京香、そっちかよッ!俺達の挙式にテレビ局がって話しだよッ!四季って…ハハッ。」
ハハッ。じゃ無いッ!
な…なんて?ハハハッ。挙式。っていうのはあれですね?
あの、燕尾服…。タキシードの人と、ウェディングドレスの人が…。あ。もしや、別の業界用語か?
「ええと。挙式とは?」
「ん?ええーッ。京香、式しない派の人?いや、参ったな…俺、業界、長過ぎるじゃん。やっぱり、一応、呼ばなきゃいけない人とか、多いんだよね。身内の式は又、別にやるとしてもさ…。京香?」
式?呼ぶ?身内?…こ…これはッ!
「け…結婚式…だね?結婚式の話しなんだね?」
私は、自分自身と雅に向けて、訊く。
こ…これはッ!私、本人が知らない間に…。結婚式になってますがッ?
まさか、違う人の話しか?
こ…怖くて、確認が出来んッ!
「京香は…。派手なの嫌?俺的には白無垢の京香もウェディングドレスの京香も両方見たいッ!お色直しは…3回以上は違うドレスの京香を見たいな今、派手にやらないから…。たまにはど派手な結婚式が有っても良いかなー。なんてッ!ね。ギャーッ!て…照れるぅ。結婚式だってぇーッ!」
照れるのは自由だが…やっぱり、私達の結婚式だったか…。ああ、スッキリした。
いやいやッ。待て…。待ってくれッ!
思い出せ、京香。
さっき、プロポーズというワードが頭を過った様な…?
ああーッ!「ずーっと、一生見ていたいんだッ!」って…。
ウェーッ!私…。「坊ちゃんの好きにして良いよ。」
などと口走りましたねッ!
妙に喜ぶな…?などと思った覚えがッ!
ド…ドヒャーッ!いやいやッ。付き合うのとは…話しの度合が違うデスよ!マジデス?死。
け…結婚かいッ?いやー。無いっ。無いわーッ!
一体、どのツラ下げて、白無垢?ウェディングドレス?お色直しだとッ!歳ッ!私の歳ッ!
ああッ!嫌だ…。雅のご両親に何て思われるか…
絶対、私がたぶらかしたとか、思われるぅーッ!
ハ…ッ?いつの間に…。
独り妄想にうなされていて、気が付くと…
雅が電話で話しているじゃん…?
「うんッ!京香だよ。でしょ?綺麗なのは、名前だけじゃないよ!ギャーッ!照れるなッ!O.K.だってッ!ハハハッ!今、式の話ししてた。ハハハッ!凄い…。嬉しくて…。俺…。有難う。又ね。」
いやいやッ!感動して、泣いていらっしゃるのは良いですがね…。
綺麗なのは、名前だけじゃないよ。…だとッ?
ギャーッ!照れる…だとッ?
今、式の話ししてた。…だとッ!だとッ?
その、危険極まりない、馬鹿電話をどちら様に?
「あの…。感動中のところ大変、恐縮ですが…。」
まだ、涙を拭いている感激屋の尊く、愛くるしい私の雅に…。
あっ。尊く、愛くるしい私のって要らない?ハハ…
「今のお電話は…?どちら様に?」
と、恐る恐る…訊いた。
「ああ、両親だよ。」
ああ、ご両親。ね。ふーん…。じゃ無いッ!
「ご…ご両親ッ!」
自分の可愛い息子が年増に取られて…。泣いたに違いないッ!
ああ…。なんてこったい。
「良かったねーッ!って親父が泣くからさ…。俺まで泣いちゃった。ハハ…。」
そう…。良かったね。ってね…。
ハァーッ?良かったね?ええーッ。何処がッ!
「いやいやッ。ご両親は反対しないんかいッ?あれか?私の歳、隠してるってヤツかッ?」
絶対にッ!可笑しいだろっ。どう考えても、良くはないだろうッ?
「いや、京香の事は、社長以外、両親にも相談したんだ。ウチの母ちゃんってさー。16歳、親父よりも年上なんだ。だから、参考?になるかと思って。」
16ッ!負けた…。いやいやッ!違う!勝ち負けの問題じゃあねぇーしッ!
「親父がね。相談した時から、雅。年上は、良いよなっ!てさー。意気投合してね。ハハッ。」
ハハッ。そうなんだー。
いやいやッ!それ、違うだろうッ!
「母ちゃんは、あらー。お相手の方、大変よね。なーんてねッ。なんて微妙な事、言い出して、親父にギャーギャー騒がれてたよッ!ウチの両親、半端なく仲良しなんだよね!ハハッ。」
お母さん、解るぅー。ハハッ。じゃ無いッ!
一体…。どうなってるの?これ?
ああ、こんな…幸運を手にしてしまったら…
他に、何も、私の人生…手に入らなくなるッ!
ん?他に…?何か要るかな?ん…?
ピリピリッ。ピリピリッ。
ん?
「京香、携帯鳴ってるよ。さっき、ベッドにいた時から…。ギャーッ!ベッドって。て…照れるッ!」
馬鹿を相手している場合じゃない。
「ええーッ。本当?耳までとおくなったか?よいしょッ。どれ…。ギャーッ!10件以上も着信入ってるしッ!ギャーッ!実家だッ。うわッ!兄だよ。あーあ…。妹まで掛けてきてる。あっ。切れた。」
ま…まあ、あれだ。お…落ち着け。
「ええと…。世間は…かなり、凄い事に?」
私は、さっき、聞き流した事を雅に訊いた。
「凄いよ。式場の後から、直ぐにね。今、テレビは俺達の事、一色じゃん?ハハッ。」
ハハッ。…。ギャーッ!
おいッ!ベッドでイチャイチャしてる場合じゃないじゃんかッ!
ピリピリッ。ピリピリッ。
「私も、映ってるんだね?テレビ…?」
「ハハハッ!勿論さッ!ああ、大丈夫。目は隠してあるよ。」
そう。じゃあ、大丈夫だねッ。ハハッ。
馬鹿者ーッ!そ…そんな…。
ああ、電話か。
「もしもしぃー。…。ちょっ。声がデカすぎて、何言ってるか…。どうなってる?こっちが聞きたいよッ!自分も知らないウチに結婚する事になってたんだよッ!ああ、驚きだろうねッ!貴方達に負けず劣らずッ。私が驚きだわッ!ええーッ。そっちにも?ええと…。一応、知りません。解りません。聞いてません。で、通して。こっちで…。何とかする。ええー。有難う。なのかねッ。はいはい。又ね!あ…待って、え?何?」
雅が手を出して私を突く。
「京香。俺に変わってッ!」
「いや…。そんなの、良いよ。あ…。」
雅が携帯をむしり取ってしまった。
「お電話変わりました。結城雅です。初めまして。えっ?ハハッ。有難う御座います。ご迷惑お掛け致しまして。ええ、少し前に、京香さんにプロポーズしました。いやッ!俺が、京香さんを好きで、好きで、追い掛け回して…。ハハッ。ちょっと、無理やり、うん。って言わせたくて…。騒ぎになってスミマセン。やっとO.K.貰えたので。はい。絶対に幸せに致します。約束します…。はい…。京香と、か…変わりますね。」
ええーッ!親にはまともなプロポーズするんかッ?
あーあー。又、泣いてるよ…。
グハッ。泣き顔!萌ーッ。いやいやッ!違うッ!
「もしもし…。はぁ、あんたもかい…?はぁ?バチが当たる?私も今、そう思ってたよッ!はいはい。じゃあね。又、連絡する。」
ハァ…。偉いこっちゃ。皆で泣いてるよ…。
私も泣くかい?
ピリピリッ。ピリピリッ。
ギャーッ!泣いてる場合じゃねぇーしッ!
か…会社だよ…。
「はい。杉浦です。ええと。只今、こちらも混乱している状況で…。ご迷惑お掛け致しまして。はい。後ほど、又、ご連絡致します。失礼、致します。」
いやいやッ!洒落にならねぇ…な。
「京香…。会社に迷惑が…?」
涙を拭いて、雅が流石に焦ったらしく…不安そうに訊いてくる。
もう、ここまできたら、ケセラセラだな。
さっき、思った。私の人生に、この涙脆い、愛すべき、人物以外に何が要るだろうか?と…。
この、美生物を愛でて居られるのなら、何も要らないな、怖い物さえも無いと思えた。
泣き顔の雅を抱き寄せて…。
「大丈夫だよ。結婚式の人からバレたのかな?ウチのCAかって訊かれたから、存じあげません。って答えたってさ。それだけだよ。」
安心させてやった。
「ただ…。実家には報道陣が来てるみたい。ああ、大丈夫。楽しんでるから。ふざけた家族なのよ。ハハハッ!」
「ウチも似たようなもんだ。ハハッ。」
雅が安心した様に笑う。
「でも…。困ったな…。」 私は言う。
「え?困る事が他にも…?」
雅が又、心配顔になり訊いた。
「凄く、困る。腹が減った。式から、オードブル三昧だから…。まともな、飯が、食べたい。フライト後だし、出来れば和食。冷蔵庫は殻だ。下には敵が居る。困るよねっ?」
私は眉間に皺を寄せ、言った。
「…。ハハ…ハハッ。流石は、京香だ。うーん。そうだな…待ってて、電話を掛けるから。」
又、独りで…納得してるよ。
一体、この眼福男が独りで納得すると…ろくな事が起こらないんだよな…。
「社長?うん。京香のマンション。今ね、プロポーズO.K.貰った。ハハッ。有難う。でね?出掛けたいんだけどさ、下に…。じゃあ、もう、やって良いね?うん。好きにやるよ。ああ、和食予約出来る?宜しく。又ね。」
私が、ダラダラと、考えを巡らせている間に電話が終わり。
「ねえ、京香。予約入れたから、和食を食べに行こうよ。でさー。下の報道陣にもう、結婚会見?しちゃうよ。京香の両親にも知らせたし、会社の関係もあるだろ?はっきりさせて、今、話しを詰めてるから、又、知らせるって言わないと、もっと迷惑が広がるからさ、取り敢えず、撤去して貰うには、今、下で俺達が言っちゃうしかない。おけッ?」
予約の和食。ゴクンッ。じゃ無いわッ!
って…。騒いだ所で、この騒ぎだし、両方の両親にまで言っちゃって、会社にも報告するって言っちゃって…。和食まで予約しちゃって。ゴクンッ。
土俵に上がる以外…。何処に私の逃げ道が…?
押し出しで雅山の勝ちッ!いや…。相撲じゃ無い!
「で。私は何を着れば?夜会のロングドレスでも?」
私は覚悟を決め、雅に訊いた。
「ロングドレスって…ハハハッ!そのまま…。じゃあ、京香、嫌だよね?」
いやいやッ。どうせ、予約の店はそれなりの所だ。
報道陣うんたらじゃ無くても、このビロビロじゃ、行けねえーよッ!
逆に悪目立ちするわッ!
「適当で良いのね?さて、戦闘服に着替えるよ!」
私は立ち上がって言う。
「コスプレ…。ギャーッ!京香の戦闘服…。ああ、考えただけで…。」
雅が私になって?鼻を押さえる。
いやいやッ。キャラッ!クールキャラはッ!
「馬鹿者ッ!私にとっての戦闘服とは、出勤時の格好と、制服だよッ!」
又、パッと雅の顔が輝いた。
ハ…?今度は何ですか?変態さん。
「初めてッ!初めて見るよ。京香の私服姿ッ。楽しみだなーッ!早くッ。早くッ。」
はしゃぐ雅に呆れるよりも…。自分が怖くて、固まってしまった…
初めて…。ゲーッ!私、雅と会う時…。ビロビロジャージと制服しか着てないッ!今日のフォーマル抜かせば…。ほぼ…ビロビロジャージ。と、くればスッピン。
いやいや…。綺麗な格好に化粧をした所で、何?って程度だけどさぁーッ。
幾ら何でも…。良く、結婚なんかする気になるな?
しかも…。さっきだって、普通は綺麗な格好で勝負下着を着けて…夜景を望むスイートで初めて…。
って女性が、結城雅にはお似合いなのにね…。
愛されてるなー。私。うん。雅は、本当の私を愛してくれている…。
「ねえ、雅が選んでよ。私、結城雅の選んだ服で、結城京香…になる報告をしたいから。」
と、手を差し出した。
「グ…グハーッ。生きてる?俺、生きてますか?もう駄目だッ。京香と、四六時中なんていたら…。萌死んじゃうよッ!俺ッ!結城京香…ギャーッ!」
いかん。私病が悪化してるよ…。このままじゃ…事が進まん。
私は、雅の手を取り寝室に連れて行った。
行った。は、良いが…。クローゼットを開くも…。
雅は、チラチラと、ベッドに気を取られ…。
服選びが進まないッ!
怒鳴るか?怒鳴るまいか?悩んだ末。
「もーうッ!雅ッ!」
「は…はい…。だって…。」
「早くしてよねッ!」
と、ムードの欠片も無い言葉を発しつつ…ベッドで手を広げる…。
広げるんかッ!つくづく…。甘いな!私。
寄り切って…又、雅山の勝ちだ…。チッ。

「京香、俺、このワンピースが、良いッ!」
私は先にシャワーを済ませ。
「了解ッ!早く、雅もシャワー浴びて着替えなッ!」
又、雅を怒鳴っていた。
「うん。ああ…。まだ、余韻がね…。」
吞気に浸っている雅に…
「あのねッ!私は、会見なんか、約束事じゃないから多少は構わないのッ。料亭の予約を入れた事に急いでるの!あちらでは、待って頂いてるのよ?雅達が、幾ら顔馴染みかは知らないけどね、私は、嫌なの。ご迷惑をお掛けする事をしたくない。」
雅は…私をマジマジと見つめ。
「俺は…。ここから先、どれだけ京香に魅了され続ければ良いんだろ?多分。一生だ…。超急ぐッ!」
私にキスをして、シャワーを浴びに行く…。
片や…。急げと怒鳴った私だが…。
雅の見つめた真面目美顔ビーム&キスにやられ…
暫し、動きを止めていた。
ハタとして支度を急いだ…。雅が上がってきたら、示し?が着かないッ!
雅はシャワーと支度を終え、先にソファーで電話を掛けていた。
「ええ、これから会見を済ませ向かいます。ハハハッ!ツレが、そちらで待っているのを気にして…。ハハ…俺が言うのも何ですが…。自慢したい程、偉いんです!ハハッ。では、後程。」
偉い…ッ?自慢ッ?又だ…。
その…自慢電話をどちらにッ?雅さんッ?
嫌な予感に立ち尽くす私に…。
「ああ、京香。出来た?ギャーッ!良いね!ワンピースッ。しゅてきッ!あ。今ね。女将に電話しておいたよ。普段から、時間も解らない事が多いし。ご丁寧に、って珍しがられて、それは、素敵なお考えの方ですね。って言われたから、又、自慢しちゃったよー。俺ッ!やー。照れたッ!グフフッ!」
私も照れたッ!じゃねぇーッ。
しかも、グフフッ!って止めれッ。キャラッ!
その…自慢で人々が私に期待したら、どーしてくれるんだいッ?
これ以上の、強プレッシャーを私に掛けてんじゃねぇーよッ!年寄りの心臓をもっと労れやッ!
心中で、雅に悪態三昧付き…。
「では…。雅。参りませう。」 と、真顔で言う。
「ハハハッ!始まったよッ!京香の謎キャラッ!初めて、ここに来た時から、これにも、ハマってたんだよなーッ。俺ッ!さあ、行こうか。姫ッ!」
ひ…姫ッ!ドヒャーッ!時代物ッ?
せ…戦国キャラかッ?コ…コスプレさせてぇーッ!
グハッ。堪らん。じゃ無くてッ。
「ああッ。雅。取材の方々、焦るだろうからね。ゆっくり準備の時間をあげてね。呉々も、怪我の無いように。後は、歩行者と、住人の方々に迷惑の無いよう…。キッチリ仕切りなよ。良い?」
誰?この仕切りババアは?良い?じゃねえー!
お前が自分を仕切れって話しよッ。
「又だ…。又、俺…。京香に惚れたッ。了解ッ!」
私も惚れたッ!いやいや、もう、急げよッ!
キスを交わし。急げってッ! 二人は出陣した。
立て籠もりを続け、朝方に雅だけが、出て来るだろうと、長期戦をみていた取材陣は…。
キャップも、マスクも、サングラスさえ無しに、二人が揃って、しれっと出て来た事に、案の定。度肝を抜かしたらしく。
一瞬、シーンと、フリーズした様な間が有った。
サプライズ好きの雅は、その様子にご満悦?だ。
「ご苦労様です。お待たせして、スミマスンッ!結婚会見の予告?を始めますが、ゆっくりと、準備に掛かって下さい。急がずにね!」
異例の、自分仕切りでの記者会見を始めた雅に…。
慌てて、腰を上げたリ、カメラを担いだりしていた取材陣は…又々、驚きながらも…。
「ああ…。待って下さいッ!」だの…。
「で…出来ました。」だの…。
「今、直ぐに…。」だの…。
声が方々から、掛かり。
早くもカメラを回し始めた局も有り、シャッター音も半端ないッ! 
そんな中、雅は、続けて…
「逃げも隠れも。今日はしませんッ!自分がお騒がせしておいて、なんですが。女房から言われてます。どうか焦らず。怪我の無いようにして下さいッ!それから、歩道とエントランス入口は開け、歩行者や住人の方に迷惑が掛からない様にお願い致します。これ、守って貰わないと、俺が怒られるんで、宜しく。ハハハッ!」
ザワザワと、準備をしながら、雅の態度に戸惑いながらも、「ハハハッ!」笑いが起こる。
私は引き攣った笑顔で…。又、心中でこの悪魔を呪っていた。
「出来ました。」の声が方々から、掛かり。
整然と固まりを作った取材陣を前に、結城雅は、話しを始めた。
「この度は、お騒がせ致しまして。申し訳御座いませんでした。俺の気持ちを信じてくれない、彼女に真剣な愛を伝える為、ちょっとだけ、やんちゃをしちゃいました…。ハハッ。」
取材陣にもざわめきと笑いが起こる。
「実は、先程、やっと。プロポーズにO.K.を貰ったばかりなんです。いや…。本人からは。まだ、うん。とはハッキリ言われてない状態でして。「好きにして良いよ。」と言われただけです。そこで俺は…。皆様の前に連れ出してしまえば、断る事も出来なくなるだろうと、考えたッ!ハハッ。」
笑いが又、広がる。
「だから、皆様が証言者になって下さい。ハハッ。今から、食事をとり、うん。と、言わせる努力をして来ます。二人で美味しい物を食べ、美味しい酒を飲ませて、必ず、頷かせます。ハハッ。その後、会見の御連絡を各社に致しますので、今は、静かに俺の幸運を祈っていて下さい。お願い致します。今日は有難う御座いました。」
雅が、深々と、頭を下げる。
一瞬の間の後…。誰かが…
「グッドラックッ!」 声を掛けた。
「頑張ってッ!」
「酔わせちゃえーッ!」
いや…。甘い。それは無理。じゃ無いッ!
しかも、威張る事でも無いッ!
各社から、応援の声が多々上がり…。
気付くと、道行く人々までが声を上げ、拍手をしていた…。
私は、後で小さくなっていたが…歓声に、結城雅の社長が言った。「築き上げてきた物」を見た気がしていた…。
「有難う御座います…。」
グハッ。又、感激屋さんの坊ちゃんが泣いてるぅ。
雅は、私の腰に軽く手を回し、頭を下げながら、会見場?を後にした。
なんとも…居心地が悪く…。小さくなりながらも…
ハンカチで涙を拭う、愛しい人を…。自慢に感じていたりもした。
ほらな…。予約はやはり名の通った有名店だった。
着替えなきゃ来れやしないッ。
「女将、遅くなって、ゴメンね!待っててくれて、有難う。」 
雅が、声を掛け…。
「申し訳御座いませんでした。」 私も、続けた。
「まあ…。まあまあ…。いらっしゃいませ。構わないんですよー。こちらが…。まあ。思った通り、素敵な方でらして。」
少し驚き顔の女将が、これはリップサービスも入っているで有ろう事を言った。が…
「でしょーッ!今ね。プロポーズしたんだ。必ず、「うん。」って言って貰える料理を出してねッ!」
でしょーッ!だと…ッ?
雅が馬鹿な事を言い出す。どんな料理だよ。それ!
「…。まあまあ、責任重大だこと…。板長に心して造るよう、伝えます。フフッ。さあ、どうぞ。」
戸惑いがちな女将に連れられ、個室に入る。
襖が閉じられ…。音が遠ざかるのを聞き。
「あの…」 早速、私は雅を叱ろうとしたが…。
「ギャーッ!俺、怒られるんだろッ?でもね。坊ちゃんは好きにして良いんだ!京香。俺はね。今、言葉で伝えられない程。嬉しいんだよ。だから、さっきの会見でも、女将にも。全部、俺の本心を言った。逆に普段しない言葉にしたんだ。本心を他人に話すなんて…。結城雅になってから、無い事だった。実は、皆、驚いていると思うよ。ハハハッ!」
雅はご機嫌でベラベラと話し、笑う。
確かに、皆。戸惑いがちではあったが…。
コンコン。
女将がビールとグラスに、素敵な突き出しを持ち…
二人にビールをつぎながら…
「フフッ。本当に、お珍しい。声を上げて笑う姿を初めて拝見致しましたわ。余程、愉しくてらっしゃるご様子で…。」
と、又、戸惑い半分で話し、出ていった。
私は、怒る…怒鳴る機会を雅と、女将に遮られ…。
「はい。乾杯ッ!」
怒り半分で言った。喉がカラカラだったからっ!
「うんッ。乾杯ッ!京香。」
ビールを手に、ニタニタに近い?ニコニコ顔の雅を見て、頭を振った。
勝てないなッ!可愛すぎて…。と、思ったから。
突き出しから、口の中を魅了する味に舌鼓を打ちながら。
「うん。」 と、私は言った。
「ん?ああ、美味しいのッ!京香?」
雅がキラキラの顔を乗り出して訊く。
「勿論。とても、美味しいよー。でも、今の「うん。」は、プロポーズの返事だ。私にうん。と、言わせるって言ってたじゃない?だから、言った。」
私は照れない様にさり気なく言う。
「ブーッ!」 雅がリアルに吹き出した。
いやいや…。キャラッ!
「おいッ!落ち着き給え。雅君。舐めるよ!私。」
私はまだ、目を剥いている雅の口を、式の時とは逆に拭いてあげ。マネして言った。
「ギャーッ!こ…殺されるぅーッ!京香ッ!舐めるよ?って…。まだ、何も食べてないけど、帰ってベッドに押し倒すよッ!俺ッ!」
雅が、興奮し騒ぎ立てる。
「ええー。嫌だよ。」 
私は空のグラスを雅に突き出す。
ねえ?さっきから…貴方は、何様になっちゃったんですかッ?
自分をわきまえろよッ!43歳ッ。
はい。
雅は…。「ああ…。」と、ビールを持ち注いだが…。
ガタガタガタガタッ。私の膝枕状態の挙げ句。
グラスを見ずに、私の顔を見ているのだから…
堪ったもんじゃないッ!ビールがこぼれるわ、あふれるわ…。大騒ぎだ。
「ちょッ!ちょっとーッ!雅ッ。勿体ないなーッ!」
本音と、貧乏性が私の口からは…こぼれる。
「あわわ…。」
私の怒鳴り声に雅はテーブルを拭きながら。
「ううんっ。あの…デスね。今、プロポーズの返事を頂きましたでしょうか?私。」
と、訊く。
私。ってか。グハッ。それ又…。堪らん。
いやいや…。違うッ!何それ?お前は…私かよ!
「はい。差し上げたと存じますよ。「うん。」とね。」
私は、しれっと言い。
懲りたので、自分でビールを注ぎ…。
雅にもビール瓶を差し出した。
呆然とした、キラキラの透き通る様な肌をした綺麗な顔で雅は…。
あ。ここまでの説明、要らない?はい。
ビールを無意識にあおり、空のグラスを私に出し。
注がれたビールも一気に飲み。
又、グラスを出した…。これじゃあ…。
私が飲めねえーよッ!怒鳴ろうとしたら…
コンコン。
何人もの女中さんが沢山の料理を持ち、女将と入って来た。ゴクンッ。
「フフッ。お邪魔しても、なんですので、今日は一気にお持ち致しましたわ…。は…?」
雅は、女将の着物の袂を引っ張っていた。
ええーッ!何ッ。又、何か、おっぱじめたよ…。
この、悪魔ッ!何ッ?何ッ。怖いんですけどッ!
「き…京香ッ。もう一度、言って。」
な…何を?はッ?
「うん?な…」
「聞いたッ?女将。聞いたねッ!うん。って!」
雅の勢いに…。
「はぁ…。」
恐れをなし?女将が半信半疑で答える。
いやいやッ!「うん?」の後、何を?と、続く予定でしたがッ!
「やったー!ハハッ。うん。だってッ!ハハッ。」
一人で、扇子でも広げて踊り出しそうな、雅を…。
私も混ぜた、全員が呆れて見ていた。
いやいや…。さっき、まともに答えた返事は聞かずに…今のは、「うん。」になるんだね…?
もう…。雅が嬉しいなら、どうでも良いか。
私を不思議そうに見る女将に…。肩を上げ、苦笑いをして見せた。
皆が含み笑いで、首を傾げつつ、下がった後…。
「京香ッ。お…」
満面の笑みで言い掛ける雅を遮り…。
「てぇいッ!雅。黙る事。私が何故、一番初めに返事をしたかというと、この、御料理を静かに有り難く頂く為だ。給料も下がった昨今では、なかなか、来れない名店の味を心穏やかに頂く為だ。うん。解ったな?雅君。さて、頂きます。」
私は向かいで唖然として頷く雅に、手を合わせた。
「い…頂きます。」
雅は、今にも何か言いたそうに、私の顔ばかりを見ていたが…。
「んんーッ!旨っ。フグだよー!良い味!」
「ギャー、天ぷらッ!最高ッ。食べたかったー!」
「ウワッ。鱧、堪らないッ。ねっ。雅。」
「グハッ。この寄せ…鯛?フワ旨っ。」
「ああ、幸せーッ!後で、バチが当たりそうだな?大丈夫かなー。食べてる?雅ッ?」
「いやいやッ!しっかし、和食ってのは、素晴らしいねッ!雅?ん…?どうした?」
雅が笑いを堪え…。
「京香さん…。言ってる事とやってる事が全ッ然。違ってるじゃんッ!ちっとも、心静かに食べちゃいねぇーしッ!ハハッ。最高ッ。やっぱり、京香は可愛いいよねー?俺、京香の美味しい顔、大好き!」
「私、雅の全部の顔、大好きッ!」
まだ、言うか。私。はい。
あ…。今、口に出したかッ?
「ブーッ!」
…。又、かよ。雅が吹き出した…。
「ハハッ。いやね。いつもは、心で、密かに思ってたんだけどさ。もう、カミングアウトしちゃったしねー。つい、口に出ちゃったなッ。ハハッ。」
ええーッ!又、泣いてるんですけどッ!
百面相か?今度は…?何ッ!
又、私は雅の口や涙を拭いていたが…。
「俺…。京香の家にお寿司持って行った時、雅がっていうか、お寿司が来たのがラッキー。って言われたからさ。今も、早く、この御飯が食べたいから、「うん。」ってプロポーズの返事したのかな?って不安だった。だから…今の言葉が嬉しくて…。」
ポロポロ流れる涙を拭きながら。
本当に…気の弱い、ナル男なんだから…。
益々、惚れちゃうじゃない。なんて、思い。
泣き顔に、乗り出して、キスをする…。
「いくら生腐人の私でも、御飯の為だけにプロポーズを受けたりはしないよー。雅を安心させて、自分もスッキリして、美味しく食べようと思ったの。言葉が足りなかったね。余計、雅を不安にさせた。ゴメンね。」
ビールを飲み。キスでご機嫌が直ってきた雅を見ていたら…。堪らなく、笑顔が見たくなった。
「ふぅ…。いやいや、三度の飯より、貴方が一番、大好きデスよ。雅さん。今日、拝見したお顔の記憶をおかずに、白米三合はいけますッ。これがね…。こんなカッコ良い俺より、お寿司の方が好きなんだね?って訊かれた時に心で私が思ってた事だよ。ちょっと、変態か?位に雅が好きなんだよね。私。じゃなきゃ…13年も雅だけを見つめていられないでしょッ!ああー。泣くなよ。これ、笑うところだからねッ!ハハッ。」
私も、少しはぶっちゃけて良いだろう。
泣かせてばかりじゃ、嫌われたらこっちが困るし!
「ワーン…。京香は俺を泣かせてばかりだ!汚いよなッ。俺ばっかり正直に気持ちを言ってて、そんな…。嬉し死んじゃう様な事、心に隠してたなんてさッ!しかも、嬉し泣きで、明日、俺のカッコ良い顔の目が腫れてたらどうするんだよッ!」
グハッ。久々の俺様発言!しかも、泣き顔付き。
頂きました。泣いても尚、眼福ッ!
しかも、笑うところなのに、怒りだしたよ…。
「私が責任取るよ。雅をヒモに…。あっ。馬鹿な事を言ってられない。ねえ、会社になんて言ったら良いの?私。」
私はハタと現実問題に戻った。
働いてなきゃ、ヒモにする事も出来ないッ。
いやいや!ヒモにする前提かいッ?
「急遽、結城雅と結婚する事になりました。御迷惑をお掛けするかもしれませんので、出来るだけ早くの退社をお願い致します。だね?」
雅はサラリと言った。
「じゃあ。辞めるんだね?私。」
超嬉しくて、思わず訊いた。
「ええーッ!京香…。嫌なの?いやいやッ!駄目、駄目だなッ!絶対に辞めろよ。俺、心配で仕事にならないッ!しかも、俺が帰った時に。「おかえり。雅。」って、毎日、今日みたいに言って欲しいんだもん!」
グハッ。辞めろよ。かーッ!カッコ良過ぎるぅー!
だもん!キターッ! じゃなくてッ!
「もー。雅は…甘えん坊なんだからッ!仕方無いから…辞める。って言うよ。私。」
はぁー?なんてッ?もー。だと?
仕方ないから?いやいや、辞めたくて堪らなかったよなー?京香さん。
マジ、何様ッ?
自分の白々しさに…些か、呆れてます。はい。
「ほ…本当ッ?京香、毎日、ウチで待っててくれるのッ?ああー。幸せ過ぎるぅー!バチが当たりそうだなッ。俺。」
いや。まんま、お返し致します。雅様。
でも…。実際、会社に迷惑が掛からない為には、雅が言った様に事実を言うしかないだろう。
「じゃあ、明日、会社に電話する?」
「今。今すぐして。」 雅が真顔で言う。
「ハッ?今すぐ…。」
「うん。会社に言っちゃえば、もう、京香は後に退けなくなるもんッ。こっちのもんだ。」
こ…ここまで、私の返事に信用が無いってのも…
どーなんだいッ?
疑り深い、男だな!若い癖にッ。
「ハハッ。ってのは、半分は冗談で。京香の言葉だよ。俺はさっき、報道の人達に、見守ってくれって言った。皆が応援してくれたんだ。後で、各社に連絡するとも、言った。早く、知らせてあげたい。その気持ちは、京香が俺に教えてくれたんだ。でも、京香の職場に知らせた後じゃないと、筋が通らないよ。騒ぎになってから、実は…。じゃ、キッチリ働いてきた、京香の信用に傷が着く。だから、今、報告して欲しい。」
無邪気で可愛くて愛おしいとばかり、愛でてきた。
雅を、初めて大人だと感じた…。が…
「いやー。俺、凄いな。人を愛すると、自分の事より、先に相手を思うんだね。いやいや、成長した自分が眩しいよ。ねっ。京香。」
本当、眩しいねっ。じゃねえーッ!
けど。ニコニコ顔の眼福には…やはり、勝てない!
「それ、自分で言わなきゃ…。もっと、カッコ良い男だと存じます。雅…。」
一応、注意は促した。
自分の亭主にナル、男だ。ナル男ではね…。
「はい。ご連絡が遅れ、申し訳御座いません。いえ…?私だけだと思いますが…。宜しく、御配慮お願い致します。失礼致します。え?」
会社の上司に連絡をして、事情を話した。
又、雅が私を突き、電話を取る。
「あ、お電話代わりました。結城雅です。ハァ…。恐縮です。この度は私の軽率な行動で、御社に御迷惑をお掛け致しまして、申し訳御座いません。京香さんは何も知らなかった事で…。え…?有難う御座います。明日、会見を予定しております、又、御迷惑をお掛けする事が一切無いとも、言い切れませんので…。宜しくお願い致します。」
私に電話を渡し…。
「ハハ…。有難う御座います。はい。宜しくお願い致します。」
ふぅ…。終わったッ!
「何だか、上司が、突然。ご機嫌になってさ…。礼儀正しい方だなー。感心しちゃうなー。って…。」
私は首を傾げ言った。
「子役の時から、素晴らしい演技を拝見しております。ファンです。って言ってくれたよ。恐縮しちゃった。ハハハッ!」 雅は言った。
な…ッ!何ッ?
「だからかよッ!明後日、辞表を出すのに、雅も来るのか?って言うからさー。変な事、訊くな?って思ったぜッ!一体。辞表出すのに、何処の亭主が着いてくんだって話よッ!全くッ。」
私は事情が解り、呆れて言った。
雅はサイドバックから、手帳を取り出し。
「おっ。良かった!着いてくよ。」
しれっと言う。
いやいや…。手帳まで、高価な物をお使いで…。
違うッ!そのブランド癖を無くせよッ!私。
「いやいやッ!そんなの…マジで聞いた事ないし。良いよ。キチンと休んで欲しいから。」
「大丈夫。って言うかさ。京香がもし、迷惑じゃ無いなら、行きたいんだ。俺。やっぱり、特殊な事情だし。今日、迷惑掛けた事に変わりは無いから。謝りたい。後ね、京香が長く居た職場も見たいんだ。駄目かな…?」
ギャーッ!甘えて、おねだりッ。キターッ!
こ…断れんッ。
いやいやッ!断らないんかいッ。しかし…甘いな!
「でもさ…。何か…。皆に自慢してるみたいじゃんか…?如何にも、私が、結城雅を手に入れました!みたいな?」
考えた事を言ったが…
「グハッ。て…手に入れました。ってッ!京香のスケベーッ!駄目だっ。ハズっ。照れるよ、俺。」
駄目だっ。お前…。話にならん。
確実に、私が知ってる。結城雅じゃ無いな。もう。
ギャーッ!逆に…。私、だけが知ってる。結城雅じゃんッ!
有り難や…有り難や。
違うッ!私も、駄目じゃんッ!はい。
「はあ…。じゃあ。一緒に来る?」
「うん。一緒に照れながら、手を…。」
「つなぎませんデス。」
それこそ、デス。

美味しい料理に舌鼓を打ち。
玄関に見送りにきた女将に。
「女将。今日は待たせてゴメンね!有難う。お陰で良い返事を貰えた。板長に宜しくね。」
雅がこれ又、流石の靴を履きながら…。いう。
だから、やめろってッ。一々、見ない事ッ!
「ご馳走様でした。美味しかったです。お騒がせ致しまして…。ハハ…又、寄らせて頂きます。」
私もそこそこの靴を履きながら、言った。
「フフッ。是非、又。おこし下さい。あんな、珍しい姿が拝見出来るのなら…。楽しみにお待ちしておりますわ。フフッ。」
女将が愉しそうに言った。
「ハハ…。」
私は苦笑いをして…。頭を下げた。
食事をしながら、話し合い。
明日の会見と、明後日の私の会社に同行する事を加味し、私が着替えを持ち、雅のマンションに行く事が決定していた。
新居は何処に住む事になるにせよ。一度は来てみてよ。と、雅から言われたからだ。
いわゆる、タレントマンションと、世間的に呼ばれているタワマンらしいが…。
それを、嬉しく思い、自慢に感じるには…、歳を取り過ぎたかな?ハハ…。
自分に責任が有り、誰のせいにも出来ない身の上にして、この結婚は…早急だったか?
私はすでに、ちょっと憂鬱だった。
私のマンションへの道を辿る足も重くなる。
「京香。俺をだけを見ていてね。」
繋ぐ手に力を入れ、雅が突然、言い出した。
私は別に、今の思いを顔や態度に出していた訳では、無かった。ので…
「えー。どうしたの?突然に…。」
雅を見る。
雅は、先程までの浮かれた様子と違い。
悩み深そうな…。不安気な顔をしていた。
「あーあ。京香が、ミーハーな人間だったら、俺は悩まなかった。でも、惚れてもいなかったかな?俺が京香の手を取るって決めて、無理やり部屋に上がり込んだ日、本当は、そのまま一緒に俺のマンションに連れて行こうと思ってた。でも、怖くて言えなかったんだよ。」
雅は夜の道にも光を放つ様な髪を掻き回した…
「怖い?」 
私は、意味が解らず…話しの続きを促す為の質問をそっとなげる。
「ええー。面倒臭ッ。嫌かも…。って言われるのが堪らなく怖かった。無自覚だったけど、その時には京香をもう、離したくなくなってたんだろうな。こう言っちゃ何だけど、俺のウチは、普通の女なら少なからず喜ぶであろうお洒落なタワマンなんだよ。でも…京香は、自分の生活に満足していてさ。本当に、伸び伸びとしてた。それ以上の贅沢にも、お洒落な夜景のタワマンにも、興味が無いなって直ぐに思もったよ。無いどころか…。そんな物は、面倒臭いの種でしか無いんだろうな?…って、強く感じたんだ。だから、言えなかった。」
私は…正直、雅の言葉に驚いていた。
正に…今。私が憂鬱になっている事だったから。
と言うより、それに気付いた雅に驚いた。
「京香と過ごす時間に安らぎを覚えるのは、京香自身が飾らず、その時間を過ごして居るからだって思った。自分が京香を手に入れる事で京香のその自由を奪う事になったら…って悩んだよ。」
マンションのエントランスに入り、灯りの下で見えた、雅の顔は…深刻過ぎて…。
萌えるのも忘れていた。この私がだッ!
「京香が言っただろ?ナルシストじゃないと、俺達の商売はやっていけないって…。何か、それと微妙に似ていて…。ちょっとは、ミーハーな所がないと、こんな商売のヤツの嫁には向かないのかな?って…。京香がタワマンに住む自分を自慢する様な人間だったら楽なのに。ってね…。」
チンッ。
家に着き、私は…この話しをいい加減に終わらせてはいけない気がして…
「ねえ。お茶してから、支度する。座って話そうかね。雅。」
と、声を掛け、ソファーに雅を落ち着かせた。
お茶を入れる間…。自分も落ち着かせた。
ソファーに座り。お茶をすすり…雅が話す。
「だけど、ミーハーじゃない京香を俺は好きになって、どんどん、好きになっちゃって。俺は、きっと爺ちゃんになっても俳優業だろうから、俺の俳優業を支えていって貰えるのは、京香しか居ない。って決めた時、俺の幸せの為に京香には、俺の生活に付き合って貰うしかい。って決めた。」
雅は言い切り、良いね?と言う様に私を見つめて…
俺様全開だな…。おいッ!
「なんで、こんな事を言い出したかって思ってるだろ?俺、京香が俺の女房って立場になって、今の自分を変えないといけないか?って憂鬱で、やっぱり面倒臭いって思ってる気持ちを理解してるつもりだよ。でも、それだけを考えないで、俺を好きだって言ってくれた思いを忘れて欲しく無いんだ。俺達は好きだから、一緒に居たくて、結婚するんだ。」
ごもっともだとしか、言いようがないな…。
一体、何を憂鬱になど思ってしまったのか?
30で諦めた、恋が実ったからでも無く、辞めたくて仕方が無かった仕事を辞められるからでもなく。
この、感激屋さんの眼福男を愛おしく思い、ずーっと愛でていたいと思って私は結婚を決めたんじゃないか。
結城雅の女房が面倒臭い…。なら、結城雅が貴方の人生から、居なくなるのとどっちを取るの?
訊かれるまでも無い事だった。
私は迷わず、結城雅を取る。
もう、スクリーンの向こう側の雅を愛でているだけの、自分には戻れない。
幸せにして貰い、幸せにしてあげたい…。そんな気持ちはもう、止められる物じゃないんだ。
43歳にもなって、若輩者の坊ちゃんに、ガツンと食らってしまったな…。
「京香。変わる必要はまるで無いよ。周りの環境に流されない京香で居て。ビロビロジャージに、スッピンの京香が俺の京香なんだから。ただ…。お酒は少し、控えてね。飲むなって言うんじゃないよ。CAは、大変な肉体労働だ。仕事を辞めれば、嫌でも運動量は落ちるよね。躰に負担がある程は飲まないで欲しい。俺…。京香と、ずーっと居たいから。お爺ちゃんとお婆ちゃんになっても、手を繫いで照れながら、歩いて居たいから。」
今度は、私に雅が…。うつったかな?
私はいい歳をして、女泣き?に、泣いていた。
ボロボロ涙が溢れてきた…。独りで頑張ると決めて以来。初めて、ここまで泣いたかもしれない。
「な…生意気だなッ!私を泣かせるなんて。変われないよ。10代や、20代じゃ無し、この歳で自分を変える事なんか出来るもんじゃ無いんだよッ!」
雅は、下ろした足に頭を乗せ、贅肉に抱き着く。
私は、愛おしく髪を撫でながら…。
「知らないからねッ!雅の奥さんは、いつも汚い格好してるって評判になってもッ!それでも、変わらないけどねッ!雅愛も変わらない。ずーっとね。」
雅が、顔をあげ…。
「ずーっと?ずーっと、俺にドキドキしてくれる?」
グハッ。もう、既に拝みそうですがッ!
が…眼福。キターッ!コッチヲ見んでくだしゃい!
「あ…後、変わっちゃう所もあるからねッ!」
眩しさから目を反らし、言う。
「ええーッ!嫌だよ。京香。」
雅は又、お腹でイヤイヤを始めた。
「先ずは、結婚したら。私が、料理を作るよ。」
な…ッ。あんたは専業主婦になるんですがッ!
ドヤ顔をする事でも無いだろうッ?
スミマセン…。はい。が…。
「ええ…。京香がぁ?ええー。」
酷く、疑わしそうに…?いや、嫌そうにッ!
雅が顔をあげ、訊く。
腹立つはッ。クソガキッ!失礼。
「あのネーッ。失礼だよ。私だってスルメだけ囓って生きてきた訳じゃないよっ。」
「そうなのッ!」
雅が目を見開く。
見開く。じゃ無いッ!
いやいやッ!そこ、驚くんかいッ!
スルメだけ囓って生きてるヤツが居たら会いたいって話しだわッ!
いや、逆に会いたくねぇわ…。
「私もだねー。一応、結婚などを夢見て、料理学校などに通った、勘違い時期が有ったのだよ。」
私は、安心しろ!死に至る様な物は、食わせんッ!
と、遠回しに言ったのだが…。
「グッ。グェーッ!な…何ッ!雅ッ。ギブッ!」
又、雅の絞め技が炸裂した。
「良かった。誰にも取られなくて。もし、京香が結婚してても、絶対に奪ったけどね。俺。」
危ないわッ!言葉ッ。国民的アイドル俳優さん…。
「さて、着替えを持って、ビロビロジャージも、忘れずにね。甘えん坊も連れてかないとね!」
「京香ッ!子供扱いは止めろよッ。俺、ちゃんと、ベッドの中では、色っぽかっただろ?」
いや…。そうは、思っておりました。
大変に、色っぽかったと、存じますが…。
自分で言わなきゃねッ!ナル男君ッ!
「ギャーッ!ベッドだってッ。嫌ーッ!思い出しちゃった!ヤバっ。ギャーッ!」
独りで、のたうち回らせておき、準備を始めた。

「こ…こちらで御座いましょうか?」
又、日本語が乱れ始める。
「うん。ペントハウスじゃないからね。期待しないでよ。下の階なんだ。」
いや…。ペントハウスだったら、帰ります。
意味は無い。
下の階でも…。少々、帰りたい気味だす。
ピーンッ。
グハッ。エレベーターの音まで違うんですね?
「京香…。もしね。このマンションだと、芸能人も居るし、気を使う様なら、家を建てれば良いんだから。遠慮無く言ってね?」
雅が、明日のパンを買う様に…言う。
気楽に…「家買ってよ。」言えねえーしッ!
「ちなみに…。お部屋はお幾つ御座いますか?私の少ない荷物位は…。置けたりするかね?」
私は訊きたい様な訊きたく無い様な気持ちで訊く。
「ああッ!そうか…部屋が足りないかも!じゃあ、京香が見て…。やっぱり何処かのペントハウスに移るか…?」
いやいやッ!勘弁してッ。
私、実は高所恐怖症でして…。
自分。CAでした。嘘です。はい。
ペ…ペントハウスッ!要らないッ。
掃除が面倒臭い…。じゃ無いッ!ハァハァ…。
「と…取り敢えず…。私、お部屋を見せて頂くわ。雅さん。ホホホッ。」
今度は何が乗り移ったんだい…?私。
「ハハハッ!謎キャラ京香だッ。」
ピーンッ。
流石に長いなッ!おいッ。着いた様だ。
扉が開き…。目の前に、ずーっと人気を保ち続けるのアイドルのケイが立っていた。
雅は私の腰に手を回し…。トランクを引きながら…
「ようッ。オフ?どっか行くの?」
普通に声を掛け…。
「いや…。これから仕事ですッ。俺、テレビ、観ちゃったよ。」
ッと、私をチラリと見る。
だよねー。タレントマンションだもんねー。
ごく、軽く私は頭を下げた。
伊達に20年以上働いてない。芸能人は慣れっこだ。
結城雅を除けばねッ!
「あっ。観ちゃったの?俺、観てないのよー。ハハハッ!照れるねッ!これから、宜しくね。じゃあ、頑張ってッ。バイバイ。」
雅が軽く手を挙げる。
「ご機嫌だねッ?ハハッ。又。」
向こうも、軽く手を挙げ、私に頭を下げた。
私も馬鹿の一つ覚えで、頭を下げた。
「だよねー。」
私が言う。
「な…何ッ?京香ッ!好きなのッ?あいつが、好きなのッ?」
はぁ?な…何?この人…?
「いや…。こうして、沢山のキラキラした方達がお住まいなんですね?と思ったまでで…。」
私は感想を言ったが…
「京香ッ!キラキラって…。浮気は、絶対にッ。駄目だよッ。嫌だよッ!」
確実に何かに脳が冒されてるだろ?
先ずはッ。あっちが相手にしねぇーよッ!
「馬鹿な事を言ってないで、早くッ。開けろよ。」
いや…。さては…、殿様だろ?私。
「京香ッ!ハッキリ!しないって言えよーッ。」
玄関を開けながらまだ、ギャーギャー言ってるよ…
「はいはい。しないよッ。ああ…面倒臭ッ。嫌…」
トドメの文句を言い掛けつつ…中に入る。
「あわわーッ!き…京香ッ!いらっしゃい。ねぇねぇ!部屋を見る。そ…それとも、ベッド行くッ?ギャーッ!ま…まだ、早いよねッ。ハ…ッ?京香…。いや…。俺はね…」
ええーッ!いやいやッ!待って。
想像と、覚悟はしていた積もりだし…、今までにもある程度のボンボンのマンションに遊びにも行っているが…。
夜景、ドーンッ!リビングの広さバーンッ!悪デカいテレビ、ボーン!
それは…凄いがまあ、想定内だ。
想像と、違ったのは、インテリアのバランスの良さだった。
白や黒で統一された、如何にも、洒落です空間を想像していた。
もしくは…、少し成金趣味的な感じとか…。
俳優ですから。的な部屋を、ともかく思い浮かべていたのだが…。
私の想像した物とは、まるで違い。
質の良い、様々な色のインテリアが程良く配置され、住む事を疲れさせない柔らかな空間が広がるダイニングに驚いた。
頭を巡らせ、キッチンを見る。
これ又、そこに自らが立ちたくなる様な空間だ。
雅はまだ、ブツブツと言い訳をしていた。
「京香…。嫌かも…。ってなっちゃったの?嫌だよー。ねえ。心配しちゃっただけなんだ。京香。結婚するよねッ?嫌かもじゃないよねッ?」
「良い…。凄く、好き。」
「お…俺もだよッ!京…」
「部屋がッ!凄く、好きッ!」
「え…。ええーッ!俺じゃないのッ?京香ッ!相変わらず、失礼だよッ!俺よりも、部屋が…。」
「早く。早く、雅。他の部屋も見せてッ!どっちが好きかは後で決めるよ…。わ…。本当、素敵ッ!」
ちょ…ッ!言って良い事と悪い事の区別も着かなくなりましたか…?
「きょ…京香ッ!あ…後。後ってッ!」
雅が目を剥き。このままではウルサくてかなわん。
「後で、ベッドで決めようかな…?」
私はチロリと色気も無い様な目を雅に向けた。
「べ…ベッドで…?そう。いや、早く来て、ザッと案内するよ!早くッ!」
この男…。結城雅ですよね…?怖っ。
ってか…。43の躰を武器に出来るあんたが怖いって話しよッ!
これは…。可笑しいよ。部屋の数がッ!普通の家だろ?これッ!
私の荷物は全然ッ。余裕だな。
雅のクローゼットルームの品物にも度肝を抜かれたがね…。だから。一々ブランドを見ないッ。はい。
しかし…。どの部屋も、浅さを感じない、素晴らしい、インテリアで溢れている。
これはショールーム…?しかも、ちょっとやそっとの域じゃ無いお値段とセンスのね。
まさか、スタイリストが家まで来るハズも無し…。
インテリア好き?へ…。意外な趣味を発見だ。
「こ…ここが…。ううん。寝室で最後。」
気の弱いナル男が恥ずかしそうに言う。
「へー。やっぱり、素敵。でも、部屋が余ってて、勿体ないね。別々に…」
日本では見掛け無い程の重厚且つ、センスの良いベッドに魅了されながらも、又、可愛い、美生物を揶揄う。
「だ…駄目ッ!他の部屋は使っちゃ駄目なんだよ!あの…ほら、この辺は物騒だから、一緒に居なきゃあ…危ないしッ。」
セキュリティー抜群の24時間警備付き…。エントランスにフロントマンやフロントレディーまで居るタワマンが、危ないと…?
「ハハハッ!そうか。じゃあ、一緒に寝るッ。しかし、凄いよね?雅って。」
「ええ…。そ…そうかな?俺は、普通の人並みだと思うけど…。凄いって、嫌…」
「好きなんだ?インテリア。これは…普通の人並みって域じゃないよッ!」
「ヘッ?インテリア…?ああ、インテリアがねッ!ハハッ。紛らわしいよ…。京香、寝室で…。好きなんだ?とか…え?別に俺は好きじゃないよ。」
「ハッ?紛らわしい?何が?インテリア、好きじゃないの…?嘘でしょう?生半可じゃない、素敵なインテリアばかり、センスも抜群じゃん?」
ハッ。天性の物かッ!美しい挙げ句に…天は、まだこの男にこんな才能まで…?
「母ちゃんだよ。彼女は、元インテリアコーディネーターだったから。ああ、親父は輸入家具や雑貨の会社やっててね。だから、勝手にウチをコーディネートしていくんだ。」
ああ…。天に与えられた才能じゃ無くて良かった。
他の人が気の毒過ぎるもの。
私も、混ぜてねッ!
しかし…。家族の職までお洒落でいらっしゃるッ。
「へ…。勿体ない。お母様、素晴らしいコーディネーターなのにね?何故、お辞めに?」
私は雅と、ダイニングに戻りながら訊く。
「ハハッ。本人、曰く。才能に溢れたコーディネーターだったのに、親父の我が儘で辞めさせられた。日本にとって、大きな損失だったッ!って事らしいよ。ハハハッ!」
いや…。そうかも。あながち、大袈裟じゃ無い程、素敵なセンスだ…。
「お父様が?なんで…」
輸入雑貨と、コーディネーターなら、最高の組み合わせでは?
「余程、ウチの男は嫉妬深いらしいねッ?親父も、外に母を出すのを心配して嫌った。自分が、帰った時にいつも、家に居てくれなきゃ嫌だッ!って駄々をこねたみたい!俺も…。優秀なCAを辞めさせて、損失を与える一人になる訳だな…。」
いやいや…。肩たたき寸前のCAですが?ハハ…。
雅は取り敢えずのビールを持って来て、メイン?のソファーに私を誘う。
「沖縄フライト。京香がやっぱり、一番素晴らしい対応だった。全ての後輩のミスも自分で謝って、始末を付けて。プロだなー。って…。又、惚れた。」
働く私をずっと見ていてくれた雅に、又、惚れた。
プロ?嫌だーッ。年甲斐も無く照れて…。
「それは…。年数が違うし、ミスも上司である私の責任だからね。」
人の家でも又、あぐらをかこうとして…ワンピースで無理なので、足を組んだ。
ヒャーッ。又、雅は頭を乗せて寝転んだ。
太股が…。擽ったいーッ!
ジャージじゃ無いから雅の体温が直に…クッ。
「違うな。どれだけ長く働いても、自分で成長しようと思わない人はいるよ。自分が努力したって豪語するだけあるよ。京香は。辞めさせてゴメンね。」
いや、辞めたいッス。もう、今すぐにでも。
キツいッス。あの仕事ッ。この歳にはッ!
「いや…。私はさ、自力で生きていく為だけに努力したってだけでね。雅のお母様みたいに、格好良いような。続けたい!なんて、高い志は、一切ないからね。ハハッ。」
正直に言う。
「京香は優しいね。俺に負担にならないように言ってる?それとも…。」
いや…。あなたが優しいわ。その考え…。
「本心。私と雅は社交辞令もリップサービスも無しの仲なんでしょ?マジ、キツい作業なの。CAは、お客様の眼福抜きでも、若い子の仕事ッ。」
私は眼福の髪を撫でながら言う。
「京香…。ジャージと違って、素肌みたいでヤバいね。これ…。」
雅がストッキングの膝を撫でながら言う。
ゾワゾワ…。キターッ!いやいや…。
「ジャージに着替えるよ。」
「ええーッ!気持ち良いのにぃーッ!京香は直ぐ、俺に意地悪するからなッ!」
それも有るが…。有るんかいッ!
いやいや。冗談抜きで…。話したい事もあるしね…
結構…。真面目。且つ、微妙な話しが。
「雅。取り敢えず、いつもの私になってさ、もう少しだけ、話しを詰めよう。ね。」
この…幼少期から、大人の世界で働く子は…。
さっき、私の憂鬱を察知したのもそうだが、実に、察しが良い…。
微妙な話しがある事を感じ。
「うん。京香はやっぱり、スッピンジャージじゃ無いとねッ!ハハッ。」
駄々をこねず、直ぐにどいた。
別の部屋でトランクを開け、ビロビロに着替えて、ダイニングに戻ると…。
雅は、ビロビロじゃない。ブランドジャージに着替えて、ソファーに寝そべって居る。
グヒッ…。オフショット。頂きましたーッ!
眼福、眼福ッ。ご馳走様デス!
又、手を擦り合わせる。
気付いた雅が…。
「ああッ!それだッ!それ、それッ。訊き忘れてたよッ!いつものそれ、何なの?ピザの日も…。」
訊くッ?それ…訊いちゃうんだね。チッ。
「眼福ッ!だよ。」
「え?満腹…?って…。」
いやいや、確かに。じゃないッ!
「私の眼が雅を見れて、幸せ…?まあ、満腹みたいなもんだ。満腹の眼バージョン?雅の尊い姿に眼福で、有り難いから、手を合わせてたのッ!ほら、私って、雅フェチだからさー。ハハッ。」
と、ソファーに座り、雅を抱き締め顔をスリスリしてみた。
たまには、素直にもなる。ごく、たまに…。
「キーッ。嬉し死ぬぅぅーッ!しかもッ。キツいーッ。京香ッ。話しが有るんでしょッ!余り、誘惑しないでよッ!真面に聞けなくなるよッ!モーッ。」
負けじと私にスリスリしてきた雅に…
「いやいや…。雅が…。手を合わせるの何って訊くからさー。答えたんじゃん?落ち着け。」
雅は私から離れ…
「マジに聞く話しなら、寝転がらないけど…?」
言う。
「いや、多分。雅の事だから…もう、考えたと思う。楽にしてて、私もそうする。」
「りょっ!んで…?」
私はあぐら、勿論。雅は膝の上だ。
決まり事の様になってきている…。ムハッ。
「ちょっと、真面目。子供…。無理かも。雅は一人っ子じゃん?悪いかな…ってね。」
私はこれ…結構、重大な事にも感じていた。
だから…雅のご両親が賛成してるって事に驚いたのもあった。
「母ちゃんが言ってたよ。私も年齢的に子供の事で結婚の返事を悩んだ。ってね。私は雅を授かったけど、CAさんは多分。気圧の関係も有るし…難しいかもね。ってね。」
雅は、ビールを飲み。私を見上げて、続けた。
「でもさー、貴方は、京香さんさえ居れば良いんでしょ?だったら、ウチの事は考えなくて構わない。ああ、初めから考えてないわねッ?貴方は。ハハハッ!ってね。」
雅は、又、私に張り付き。
「ねえ、京香?良くさー、一人っ子だった人は、子供を沢山、欲しがる。とかって言うけど。俺…。全然違うんだよ。出来れば、京香を独り占め出来た方が良いな。京香は、ずーっと。二人じゃ嫌だ?」
例によって…。私の贅肉に雅は話す。
うーん。実に、難しいな。
どっちだろ?本心かな?気を使ってかな?
顔が見えないし…ああ。面倒臭ッ。訊くわ。私。
「雅。それは?本心?気を使ってくれて…?」
雅はくい気味に…。
「本心だよ。逆に軽蔑されるかもしれないけどね。幻滅…。かな?ゴメン。京香。でも、やっぱり、子供にさえ、京香は譲れないんだ。どうしても、独り占めしたいんだよ。出合うのが、人よりちょっと遅れた分。俺。まだまだ、二人きりでやりたい事ばっかりなんだよね。」
雅は起き上がり、真剣な顔で…。
「人はきっと、これを間違った事だと言うだろう。けど…俺は、京香を愛してるから抱くんだ。子孫繁栄の為じゃないんだよ。ねえ。京香は?これは、遠慮無しに答えてよ。子供が欲しいなら、俺も真剣に考え直さないとならない。ずっと。二人は嫌だ?」
真剣な雅に対して…。嘘事は言えない。
こんな事は…、今まで口に出してはいけない事だと思い続けてきた。
誰に言った事も無い。いや、言えない。
それこそ、世論では…今の日本を考えろ。人間の屑だな。と、言われそうだから。
でも…。私は、雅に話し出す…。
「ずっと。二人が絶対に良い。あーッ!誰にも言えなかった!雅。誰にも内緒にしてよね?凄い、苦手なの。子供が苦手なの。私、我が儘だって言ったでしょ?自分がね大人になりきれないのよ。子育て?超絶、自信ない。怖いでしょ?私自身、怖いよ。でも、私にそれなりの覚悟が無いなら、世界一、幸せにする気持ちが無いなら、生んじゃいけない。それだけは、ハッキリと思ってる。」
私は自分が嫌になりつつ、真実を話し続けた。
「その代わり、本気で避妊はする。私も雅が好きだから抱かれたい。今日も安全日だった。本当に、本当に。気が楽になった。雅を軽蔑する?とんでもないッ!きっと、人間、向き不向きが有るのよ!私は世間から、屑だと言われても、向かない側の人間なのっ。雅の方が軽蔑するんじゃない?されても、私は、ずーっと二人が良いッ!」
話すと言うよりは、独白や力説の域だが…。
「でも、なのよ。でもねッ!これだけは言っておくよ。雅、人は歳を重ねて変わる。雅が、周りの人達を見ていて、父親になりたいと思う日が来るかもしれない。その時になって、私との結婚を後悔しても遅いんだよ。今は、私だけを好きでもね。ああ…遅く無い方法も有るけど…。離婚とかね。ギャーッ!怖っ。こんな腐った人間じゃ仕方ないけど…。」
最後は自分の最悪な妄想に鳥肌が立った。
「京香。先の事を考えるのは大切な事だけど、俺はこの先、例え意見が合わない事が起きようとも、自分の人生を京香と生きる事を決めた。京香が居る事が一番大切だから。京香が俺との生活を楽しめる様に努力するからね。」
努力…?いやいや、前例からして…何もして頂かない方が無難かと存じますが…。
人にとっては一番、結婚に大切な話しは終わった。
雅は明日、会見を開く事を社長と話していた。
手筈は、もう。整えて有った様だ。
流石は私が惚れ掛かった…いやいやッ!社長だ。
電話の後…。
「もーっ。社長が京香の事ばっかり褒めるんだッ。俺だって頑張ったのに。いやね、そんな事は良いけど。惚れそうだな。会わせろよ。って…。その言い方が嫌だッ!」
雅はプンプンと言う。
社長、いやいや、同感です!フフッ。違うッ!
けど…
「ハハ…。プレッシャーだわ。いやね。会わない訳にもいかないだろうし、私も、素敵な社長だな…って思ったから、会いたいとは思ったけ…」
ギャーッ!又、雅がパクパクと…。池の鯉に…
あーあー。学習しろよッ!自分ッ。
このナル男に他人を私が褒めることは禁句だった。
「き…京香ッ!社長の…」
私は、被せる様に言葉を遮り。
「雅。眠い。ベッド行こうよー。ね。」
目も口も大きく開き…文句を言おうと構えていた、雅は…
「え…。そ…それは、大変だ。早くしないと。そっか、京香。眠いか。そっか。へへッ。」
ご機嫌全開だ…。
本当に…。こんな可愛い生き物を独り占めして、申し訳ない。少し、自慢。失礼…。
「京香ッ!俺、お姫様抱っこで連れてくよッ!」
いやいやッ!ぎっくり腰にでもなられたら、堪ったもんじゃないッ!
「て…手を繫いで行きたいな。雅と、照れながら!」
私は殺し文句を言う。いや、こっちが雅のピンクに染まる頬に殺されそうデスが…。慣れん。デス。

本来はオフだった午前に会見は行われた。
「観ていてね。京香。」
雅は朝からご機嫌で…。私が…。
「まあ、眼福だもん。観るよ。」 キスをすると…
ニタニタしながら出掛けて行った。
大丈夫かよ…。はぁ…。
大ホールを埋め尽くす報道陣に話題性のデカさを今更ながら思い知り…。ぞっとしたし…
あぐらをかいたまま、背筋が伸びた。
今日は流石に雅仕切りではない。が…。
「本日はお集まり頂き、有り難う御座います。」
雅は開口一番、挨拶をした。
予め、決められていたで有ろう記者から、順番に質問が繰り出された。
「やはり、フライト中に知り合われたのですか?」
だよね。普通の質問だな。
「いえ。ああ、一番初めは空港ロケでした。ただ、目が合っただけでしたが。」
雅の答えにザワつき…。
「一目惚れ…。ですかね?」 
あのね…。この記者。嫌がらせか?
「いや。一目惚れって言葉は…。顔のイメージが強いな?俺の場合、一目でこの人の手をとりたいって思ったんです。訳が解らないですよね?俺にも解りません。理屈抜きです。質問されても…困る。」
ザワつきが大きくなった。
「そこで、知り合いに…?」
「いや。流石に、そう簡単じゃないよー。」
雅は笑い、続けて…。
「その時、フライト前の彼女は戦闘服だった。ああ、制服姿の事です。出勤時の服と、制服が戦闘服だそうですよ。ハハッ。次に会ったのはコンビニ。スッピンで、束ね髪。ビロビロジャージ。ああ、これも彼女の言葉、普段使いの洗い古されたジャージの事らしい。」
なっ?だと、思ったよ。
どうせ余分な事しかッ。言わないんだよなッ!
この、眼福男はサッ!
「コンビニで、俺は又、手をとりたくなった。で、声を掛けました。CAさん?って。ビックリしてましたよ。暫く前に一度、目が合っただけの自分を覚えていたから…では無くて。制服姿と、スッピンジャージの自分が変わりないのか?って事にです。かなり、ショックだったらしい。ハハッ。」
まあ、これは、事実だな。
記者さん達…。笑ってんじゃないよッ!
「その後、ロケ現場で偶然会った。その時は…お出掛け用のジャージだったな?良く会うな。って、思わず、自分から、又、声を掛けてた。」
おいッ。ジャージ、ジャージって。
まるで、ごくせんの山口先生だなッ!私。
「4回目は…。やっぱり、スッピンジャージの彼女と、コンビニの出口でぶつかった。俺、又、手をとりたくなった。明らかに、可笑しいでしょ?俺も、可笑しいと思ったから。手、とってみました。ここで言い訳です。普段は絶対にしませんからねッ!こうみえて、意外と用心深い人です。俺。」
ハハ…。又、笑いがおきた。
いやいや…。本当に用心深いか?コイツ。
「手をとってから、スッピンジャージの彼女の家に無理やり押し入りました…。俺、言葉にすると、まるで強盗みたいだよね…?ハハッ。ここまでが出逢いかな?」
私は、ストーリー仕立てみたいな雅の話しに、興味を覚え、質問を考えてた記者さんは、多分。質問を変えたと思った。
他人事なら、私も続きは気になるしね…。
「で…?」
次の人の質問がこれだ。普通じゃないだろ?
で…?ってさ…。
「ハハッ。で?が質問ですか?じゃあ。で、俺が押し入った事に呆れる彼女に、スーパーで買ったピザと、彼女曰く、安いワインをご馳走になった。敢えて自分で言うけど、結城雅がウチに来てるのにね。ハハッ。彼女は緊張感も無く。淡々としてた。逆に俺は柄にも無く、セッセとワイン注いだりして…。スッピンで、ビロビロジャージの彼女が、妙に気持ち良くて…。ああ、これも、何故かは質問しないで下さい。解らないから!ハハッ。」
ハハ…。戸惑った笑い…。
当たり前だ、話しが一向にお洒落で素敵になって来ないんだからねッ。
結城雅の恋バナだよ?
いやいや…。そこは、せめて、デリバリーピザとか、何年物ワインとか、言えって話しよッ!
腹立つわッ!ガキッ。失礼。
「で…?」
いやいや、記者さん。楽しすぎッ!
しかも、このくだらない話し、まだ、訊く?
「ハハッ。凄いですね?又、で?ハハッ。で、気持ちの良くなった俺は、普段、人に話さない事まで色んな話しをしてた。その時の、彼女の答えが…。俺を変えたかもしれないな?それが今の俺ですね。変われましたかね?俺。ハハ…。」
いやいや、坊さん並みに、凄い良い説法した様な話しに、なってますが…。雅さん?
もう。やめて、次の質問行きましょうよ。
怖くて、聞いてられんわッ!
「ええ、変わられましたよ。素敵に!で…?ハハ…」
まだ、訊くッ!はぁ…。
「有り難う御座いますッ!へへ…。で…、ハハッ。彼女は突然。立って、冷や酒とスルメと柿のタネを持って戻り、ソファーにあぐらをかいた。結城雅が居るのにですよ?ハハ…。彼女の囓るスルメが堪らなく旨そうで、俺もスルメを口に加えてみたら…。なんだか、益々、愉しくて。わーいッ!って叫びたいみたいに、心がムズムズするんですよね…。気付いたら、俺は彼女の膝に頭を乗せていた。」
なっ?こうだよッ!冷や酒とスルメの話しまで話すんだよコイツって奴はさーッ!
ほらみろッ!皆、呆れてるわッ!
ああ、お母さん、親不孝をお許し下さい…。
「で…?」
もう、何も言うまいて…
「で、俺は…。考えられない程…。はしゃいじゃって、自分がとりたくなった彼女の手を舐めたり、しちゃって…。ええ!何か厭だな…これも、言葉にすると変態みたいだね。ハハッ。」
まんま、変態デスよー。皆さんッ!
「で…?で…?」
ゲーッ!おいッ。2回かよッ!何処の局だっ?
「ハハッ。2回ですか?で…。いや、しつこい様だけどね、俺は、結城雅なんです。なのに…。彼女が、なんとッ。そろそろ帰れって言うんです!悪いけど、俺、帰らないで。と言われた事は有っても、帰れなんて言われたの初めてで…。あっ。自慢ぽくて嫌な感じ?俺。ハハッ。」
皆さんッ!こういう男ですよーッ!
ああ、会見に参加して、仕返ししてぇーッ!
なんで、女優じゃなかったかな?自分ッ。
いやいや、無理、無理ッ!はい。
「ハハッ。でー?」
いや、友達の恋バナ聞いてるみたいになってるし!
「でー。ハハッ。そんな態度を取られたってのに、まだ、彼女と居たい自分に驚いて。次の日偶然にも二人がオフだった事に一人で、運命すら感じたりしてた…。大袈裟かな?ハハッ。色々と話してる中で、彼女は、人が居る事で気を使う。それが面倒臭くて、付き合っても直ぐ別れる。って言ったのを思い出して、無理やりここに居て、泊まる。ってなったら…?お風呂を借りて、歯ブラシもパジャマも借りて。ウワッ。如何にも、面倒臭がられそうだな。って考えてた。」
今さーッ!この女の何処が気を使ってるの?とか、思ったでしょーッ!フンッ。
それよりも…。泊まるって考えるなよッ!って誰か言ってやれよッ!
常識をこの男に、伝えるヤツは居ないのかよッ?
「でー?」
皆さんッ!話しに、夢中過ぎッ!
「でー、でも、奇跡のオフ重なりを諦めたく無い。そうだ!家に一旦帰って、全てを自分で済ませ、何一つ、負担を掛けない状態で戻れば大丈夫かな?って考えた。で、又、来て良い?って訊いたんです。そしたら、待ってるよ。って彼女が言った。その言葉が、超嬉しくて、彼女の頬に思わずキスしてた。後日談ですが、俺のキスに驚いて、玄関で座り込んでたらしいですよ。彼女。ハハッ。」
ハハッ。 じゃ無いッ!大馬鹿者ッ!
おいッ。皆さんも…笑い過ぎッ!
一体さーッ!こんなにリアルな話しをする会見、観た事無いんだけどッ!
何これッ!明らかに、可笑しいでしょッ!
「でーッ?」
おい…。力、入って来たし…。
「プッ。ちょっと、もう、砕けた口調でいかせて頂きますが。失礼。ハハッ。でーッ。彼女のウチを出た後の雄姿?を皆さんに、見せたかった位だよッ。猛スピードで帰って、シャワーして、ロングロケか?って程に洗面用具から着替えまで全部揃えて、気分はもう、修学旅行だよ。家を出てからは、頭の中が彼女に喜んで貰いたいばっかりでさ。寿司屋に寄るは、次の日も負担を掛けない様にってパン屋に寄るは、おでん屋にまで寄っちゃって。そんなに浮かれて、バタバタしてる自分が、愉しくて仕方なかったッ!ハハッ。」
私が眼福の余韻に浸っている間、雅はそんな事をしていたんだ…。へぇ…。
なんだか…。スミマセン。
「それで、戻って…。で…?」
おっ!違う事を言うかッ?と…思った私が馬鹿だったな。
「で、戻った俺に彼女は驚いて、又、来るって、今日の事だったの?しかも社交辞令かと思ってた。って、言うんだよ!それでも、荷物を広げて、明日のパンも有るよ。って言ったんだ。そうしたら、私、人と寝るの苦手。とか、言い出してッ。如何にも帰ってよ。って感じでさーッ!俺は、それまで、一緒に寝てくれと言われて、断る側の人間だったのになぁ…。何が起こってるんだ?これって感じで…。」
えー。帰って欲しいの、気付いてたのかいッ?
それで、良くあの態度でいたよな…?
「ええー。で…?」
それに戻るんかいッ。
もう、お前ら、朝ドラ並みに夢中だなッ!
「で…。それでも、負けずに?ハハ…。買ってきた物を開いたよ。凄い美味しそうに寿司を食べる彼女に魅入っていた。雅が来てくれてラッキー。って笑うんだよ。嬉しくて堪らなかった。そうしたら…。雅ってか、寿司が来てラッキーッだな!ってッ。流石に失礼だろ?驚くより先に、俺より寿司が好きなのか?って、真剣に彼女へ、詰め寄ってた。馬鹿だろ?相手は寿司だよ。ハハッ。」
いやいや、笑い過ぎッ!ギャハハ…。ってッ!
こうやって聞くと、超酷い奴じゃん。私。
「で…?寿司に負けた?」
負け決定かい?しかも、皆さんもタメ口かよ…。
「ハハッ。で…、詰め寄った俺の前に、一つのネタを置いて、彼女が言ったんだ。こうして寿司には食べられないネタが有る。でも、雅の事は、端から端まで好きだから、雅の勝ちだ。良かったね。って。その言葉で、完全に落ちたよ。俺。」
ギャーッ!今、思ったでしょッ?何様?その女?って思ったんでしょッ?
と…殿様です。はい。カァーッ。もう、嫌ッ!
「おめでとう御座いました。ハハッ。で…?」
めでたいのかッ?それ。馬鹿にしてるな?
落ちたのにまだ、訊くッ!
「で、もう。そこからは彼女を落とす事で一杯一杯だった。好きの連発。ハハ…。でも…、全然ッ。信用しないんだよね。こっちも、自分の気持ちが初めてだし、引けなかった。彼女は…、自分の事を信用出来なくなってる40過ぎと恋愛するには、若い人の10倍以上、気持ちを伝えて貰わないと無理だ。厄介なんだよ。って言った。」
ねえ、マジで、私は何様ッ?
自分が痛いわッ!激痛ッス…。
「で…?どうやって?」
どう?ええ、そりゃあ、酷いもんでしたよ…。
「ハハッ。無理やり時間を作って、沖縄まで、彼女のフライト乗務の姿を往復で見にだけ行ったりして。まるで…ストーカー寸前だよ。ハハッ。見かねた社長が、10倍伝える時間が俺には無いから、本気なら、世間様に公表しちゃえって、言ってくれたんだ。で、昨日の式場乱入事件に至った。ハハッ。」
ハハッ。ご苦労様。じゃ無いわッ!
もう、いい加減、良いだろッ?
「あれは…驚いた。で…?」
ねえ、驚いた!じゃ、済まねえよ。
こっちは、人の100倍、驚いたって話しよッ!
「で…。怒ってるよな…?って怖かったけど、ハハッ。いや、笑い事じゃ無い。マジで怒るんだよ。結城雅をだよッ?しつこい?ハハッ。でも、俺、怒られてでも、会いたくて。テレビでは大騒ぎだし…。困ってるよな…?って。そしたら、普通に「おかえり。雅。」って…。しかも、寝ぼけ眼でねッ。」
ええ、誰かのお陰で、疲れたものでねッ!
「はぁ…。でー?」
はぁ…。って何ッ?文句?文句なのッ?
「世間を騒がせて…いや、俺がだけどさ。昼寝してられる彼女に…又、惚れてた。ハハ…。一応、彼女に、大騒ぎだよって伝えた。「だろうね。」ってサラッと言って、世論は良い。私が知りたいのは、雅の会社や関係者に迷惑を掛けてないのかって事だよ。って…。俺…。どうしてくれるのッ?とか…。自分の事でパニックだと思ってたから。俺の方の仕事を心配してくれるなんて…。思いもしてなくて。又、惚れてた。」
ほぉ…。感心?の声が上がる。
いやいや、皆さん。私の年齢なら…当たり前では?
「で?でしょ?ハハッ。彼女も俺の本気が解った。なら良いけどね。実際は、これ以上コイツに何かしでかされたら堪らないッ。てのが、本音かな?ハハッ。その後のドサクサに紛れて、彼女に、一生、見ていたい。って言ったんだ。彼女は、もう呆れて、好きにして良いよ。って答えた。」
良かったーッ!コイツの事だから、一部始終をぶっちゃけるかと…。いや、それ、18禁だ…。
「それがプロポーズ?まぁ、で…?」
でしょーッ。プロポーズ?だよねーッ。
解らないよね?これじゃッ!
「ハハ…。俺、チキンでさ。まともなプロポーズも出来ない癖に…。もう、絶対ッ。絶ー対にッ!彼女と結婚したかったからね、その遣り取りを、O.K.の返事だ。ってして、彼女のご両親に電話で結婚するって言っちゃった。汚い?ハハッ。だって、彼女の居ない人生は、堪らなく詰まらないよ。彼女、親に、「私も知らない間に結婚になってたんだよッ!」って、怒鳴ってた!ハハッ。俺、ご両親に、言ってる振りをして、彼女に向けて…。初めて。絶対幸せに致します。って口にした。」
そうなの…。
私に言ったんだ。そうか…。
「…。で…?」
ね。私も感動したな…。知らなかった…。
「で、お互いの両親や会社関係に連絡をして、全てが終わった。のに…。困ったなー。って彼女が深刻な顔で、言うんだ。まだ、何か有るのッ?って訊いた俺に、腹減った。和食を食べたい。下には皆さんが居る。困ったよな?って…。言っちゃっ悪いけどさ、この、結城雅にプロポーズされて、人生を決める一大事に…。腹減った。だよ?ハハッ。」
ハハッ。人間だもの。by、みつを。違うッ!
だから、笑い過ぎッ!皆さんッ!
「ハハッ。最高。でッ?」
短くしたな?
「で?これは、チャンスだと、思った。会見でも、言ったけど、皆の前に出しちゃえば、こっちのもんだってね。料亭に予約入れてからも、自分の作戦に嬉しくなって、ダラダラ纏わり付く俺に。「早くしなさいっ!」って彼女は怒鳴って。雅がどれだけのお得意様かは知らないけど、私は。予約をして待って頂いてる料亭にご迷惑は掛けたくない。ってさ…。自分が恥ずかしくて…。又、惚れてた。」
いや…。偉い人じゃん。私。
一般人なら、当たり前でも、この人達には…
ほぉ…。なんだ?
「ほぉ…。で?」
いや…。短っ。
「で、慌てて支度して。ああ、この時、初めて彼女の戦闘服。出勤時のワンピース姿を見たんだ。凄い綺麗だった。けど…俺が一番、萌えるのは、制服姿でも、綺麗な服でも無く、やっぱり…ビロビロジャージにスッピンの彼女なんだ。ハハッ。で、準備が整った時、彼女が俺に言った。下の記者さん達が慌てるだろうから、怪我の無いように時間をあげて。一般の方と住民にご迷惑が掛からない様に、雅がしっかりと仕切りなさい。って。俺、一生この人に惚れ続けるんだろうな…。って思ってた。」
だから…ッ!言葉ッ!
私が命令してるみたいじゃんッ!
ん?ああ、まんま言いましたね?私。
命令しましたよッ!何かッ?
「で、今に至る訳でした。これが俺に起きた奇跡の数日間と…。一生続いていく、結婚の報告です。ご静聴?ハハッ。有難う御座いました。」
雅は頭を下げ…。
「あーあ。どうせ又、怒られるよ。俺。ハハハッ!」
非常ーにッ!余分な一言を付け加えたッ。
「ハハハッ!有難う御座いました。楽しかった!」
皆さんが口々に言う。
ハハハッ!楽しくも。可笑しくも無いッ!
ええッ。怒ってますよッ。
でも…感動した。なんて、普通の感想を私が言う?
言わないねッ!いやいや…。眼福ッ!
グハッ!何?誰よ?このイケてる俳優さんッ。
私の亭主?いやいや…。堪らんなッ!
下向き加減の伏し目も、照れたはにかみ顔も…
と…尊過ぎるぅぅーッ!
これと、24時間過ごせと?萌死ぬぅーッ!
どうも、スクリーンを通すと、病状が悪化するな?
いやいや…。違うぞ。私の前の雅がギャップ有り過ぎるんだよッ!
可愛くて、綺麗で、カッコ良い事に変わり無いけどさー。あ。ムカつく?失礼。
ああ、恐ろしい者を手に入れちゃったよな…?
銀行の貸金庫にでも預けるか?
馬鹿な事を考えてる場合じゃ無い。
明日は、地上勤務だが。その前に、辞表を出しに雅と行く。この…雅と。が問題だよな…。
ああ、面倒臭ッ。ケセラセラだな。なるようにしかならないもんねッ!ハハ…。ハ…ア。
テレビでは、繰り返し会見の模様が映り…。
ブハッ!美顔どアップ。頂きましたッ!
有り難や。有り難や。又、テレビの眼福に手を合わせてた…。大丈夫か?私。

こ…これは…。堪らんなッ。私が雅と来るのを知ってか?取材陣がまだ、チラチラいるからか?
皆。お洒落はしてるわ、化粧も…気なし濃くねぇ?
私は限りなく地味な服を着て来たが…。
後に、ニタニタ…。いや、失礼。ニコニコ顔の結城雅を従えてるんじゃ…ね。価値ねぇーよッ!
しかも、何故か、この男、私のジャケットの裾に捕まっているッ。
社まではマネージャーの車で来た。待機して貰い、出社したのだが…。
「チーフ。お早う御座います!」
後輩達が声を掛ける度に…。
「あ、おは…」
「お早う御座いますッ!」
雅が、一早く、元気に答える。
私が睨んでも、満面の笑み…。勝てない笑みだよ…
グハッ!が…眼福ッ。じゃ無いッ!
「わぁー。お早う御座いますぅッ!」
いや…。答える方も、満面のニヤけ顔で、壱オクターブ声が高ーしッ。
「チーフッ。おめでとう御座います。」
又、声が掛かる。
「いや…。あり…」
「有難う御座いますッ!へへへッ。」
いや…。結城雅。へへへッ。って。やめれッ!
ああ、やっぱり…。連れて来なきゃ良かった…。
グッタリしながら、上司の部屋に行くと…。
「いやいやッ!わざわざ、起こし頂いて。お会い出来て、光栄です!」
いやいやッ!わざわざ起こしって…。辞表を提出しに来たんですが…?
貴方に会いに来た訳じゃねぇしッ!
「あの。辞表を…。」
私は、お世話になったとかさ…、一応。言うつもりでいたのだがね…。
「ああ、はいはい。まあまあ、お掛け下さい。」
辞表をアッサリ受け取り、雅をソファーに誘う。
「この度は…。お騒がせ致しまし…。」
雅が謝り始めたが…聞いちゃいねぇ…。
「いやいやッ!私ね、結城さんが四歳の当時から全ての作品は拝見しておりましてね…。」
ゲロッ!ファン歴。負けてんじゃんッ!私。
恐れいりました…。違うッ!
コンコンッ。
「失礼。致しましす。」
出たッ!我が社、一押しの美人CAさんが何故か、制服で…。コーヒーの配達だッ!
力入ってんなーッ。おいッ!
私は立ち上がり…。
「有難う御座います。」と、頭を下げた。
外では結城雅の?雅は…。
「有難う。」
クールビューティーに微笑む。
おいッ!その顔を家でも保てやッ!
「ごゆっくりどうぞ。」
こちらのクールビューティーも、負けてない…。
地味な私と上司も、引き攣った笑顔を見せた。
ほっとけやッ!
熱心な上司のファン語りを暫し聞いてあげてッ。
「杉浦については、異例の、即日退社を認める。と上の方から、申しつかっておりますので。それで、宜しいでしょうか?」
やっと、仕事の話しになったは良いが…。
何故に?雅に訊くッ?おいおいッ!
「俺は、嬉しいけど…。京香。良い?」
「ええーと。では…。本日中に、残務を終えます。ご迷惑お掛け致します。有難う御座いました。」
いや、ご迷惑は、あんたじゃ無くてッ。シフトが狂うCA達にねッ!
心で騒いだッ。
「結婚式につきましては、又、ご連絡致しますね。」
やるんだね?式…。呼ばない訳にもいくまい。
ずーっと、本人は聞きたかったに違いない…。
超くい気味に…。
「はいッ!お待ち致しております。いやー。皆も楽しみだろうね。杉浦君ッ!はははッ!」
超ご機嫌じゃん…。何?この人…?
その変わり様が、ツボだったのか?雅は笑い。
「ハハハッ!あのー。逆に恐縮なんですが…。宜しいければ…俺、サインな…。」
雅が言い掛けた、途端。
「良いんですかッ!いやーッ!調度、色紙が…。スミマセンねーッ!いやいやッ!役得だな。おい。杉浦君。役得だなッ!」
超くい気味に…。しかも、2回言ったよ…。
ヤケに、速やかに、机から色紙を持って来たよ…。ペンまで付けてね…。早っ。
昨日から、準備してたな…。おいッ!
「せ…瀬川と申しますッ!」
うーん。でも、気持ちは痛い程、解るんだよなー。私の場合。
まさか、同じ穴の狢だったとはね…。
ってかッ!私もサイン欲しいッ!って話しよッ。
いや…。家に飾るのも、変なもんだよな?
サラサラとサインをする雅を、上司と二人で愛でると言う。変な?時間の後…。
雅は又、結城雅になり、愛想を振りまきながら私と出口まで一緒に行き…。
「じゃあ、行って来ます。京香も頑張ってねッ。」
と、まだまだ人の目も有る場所で、キスをして…
ギャーッ!おいッ!職場ッ。神聖なる職場ッ!
「あのねーッ!ここは…」
怒鳴る私に…。
「ギャーッ!又、怒られるよ!行って来まーすッ。」
と、舌を出し、走って逃げて行った。
グハッ!舌を出したよッ。クッ。堪らん!
ニヤニヤしそうになり、わざと怖い歪んだ顔で、人目を無視して、歩き出した。
部署に戻ると…。ギャーッ!待ち受けてるよ…。
ズラリとCA達が並んで、質問責めの体制?を取って居るし…ッ!と、思った。
私は…両手で制し。
「待ってッ!本当に待ってッ!あのね。言いたい事が有るのは解るけど。滅茶苦茶に振り回されてさ、今日。今日だよ。辞めなきゃイケないのッ!残務と引き継ぎをしないとならないから、仕事をさせてよ。しかもだッ!私に何を訊かれても、殆ど解らないのッ。隠すんじゃないよ。マジでねッ。結婚する事自体知らなかったんだからッ!どうせ…。知ってるよねッ?ただ。結婚式とやらはやるらしいよ。さっき、雅が部長に言ってたからね。又、上を通してご連絡致しますッ!はい。」
ゼイゼイしながら、一気に私は言う。
「ハイッ。了解でーすッ!私達が訊きたかったのは、式の事なんでッ。楽しみにしてますよッ!あっ、チーフ、どうぞ、仕事して下さいッ。」
代表?が言い。皆がブンブンと、頷きッ!
「楽しみッ!」
「ねえ、何着てく?当然。新調するよねーッ!」
「誰が来るかなー?半端なさそうだねッ!グフフ。」
口々に騒ぎ、サッサと散って行く。
グフフ。は、止めとけ…。CAさんッ。
逆に、一人、取り残された形になった私は…。
全員が、結婚式を楽しみにしている。ってかッ?
超面倒臭いと、思っている本人そっちのけで、こんなに盛り上がってる、結婚式って…。
はあ…。超。超プレッシャーだわッ!どうする…?
チッ。仕事だ。仕事ッ!
無心に仕事をこなし、少ない荷物を纏めた。
ギリギリ退社時間に間に合い。
さて、帰るかと、振り返ると…。
CA達や、機長までが花束を持ち…
「お疲れ様でした。」
と、見送ってくれた。
人並みに、感動して、目頭が熱くなって…。
長く、本当に長く勤めた職場を後にした…。
持ち切れない程の花束を抱え。
自分へのご褒美にタクシーで、タワマンに着いた。
雅から、暫くは騒がしいかもね。余り出歩くなよ。と、言われている。
従って、飯の支度も必要が無い。
まあ、些か、連日の騒ぎにくたびれ気味だ。
荷物と花束を抱え…。ヨタヨタと、エントランスに入った。
「結城様。お手伝いいたしますか?」
フロントマンが声を掛けた。
私は邪魔になると思い、後を振り返る。
ん?ああッ。私だったねッ?ハハ…。
「ご主人様から、言付かっておりまして…。お荷物が多ければ、お声掛けする様にと…。」
はあ…。ご主人様…。凄いね。
雅。その気遣い。惚れるよッ。
「有難う。ギリギリッ。大丈夫です。力は有りますからね。ハハッ。」
私は…雅がうつったのか?余分な事まで言い。
「じゃあ…。エレベーターだけお願い致します。」
と、言った。
エレベーターを降りる準備を始めた。
扉が開くと、又、アイドルのケイが立っていた。
「こんにちは。」
頭を下げられ、一旦、置いた荷物の回収に焦りながらも…。
「こんにちは。ゴメンなさいっ!」
CAの挨拶をする。
私は決めていた。人に会ってしまったら、乗客だと思おうと。
「ええっ?今日…。退社ですかー?」
「ええッ!全くッ。突然にねッ。チッ。」
私の言い方に表情が緩み…。
「ハハッ。会見、拝見しました。大変そう…?」
「お蔭様でッ。超大変ッ。ハハッ。お仕事?」
「いや…。デート?しぃー。ねッ。」
「勿論ッ!しぃー。だよ。楽しんでッ。ハハッ。」
「うん…。今日さ。誕生日なんだ。何が良いのかな?プレゼント。流行りの物?」
「ハッ?ええーと…。言葉かな?特別な日を一緒に過ごせて嬉しいって、君の気持ちの言葉。品物は…解らないなら、その言葉の後で、本人に訊くかな。ハハ。参考にならないなッ?これじゃ。」
彼女は、どうせ…若いだろ?
「ふーん。言葉…か。ねえ、誕プレ、本人に訊くのって有りなの?」
「言い方じゃん?ゴメンね。俺、解らないからさ、一緒に買いに行ってよー。って甘えれば?なんてね。ハハ…。」
「ふーん。それ、喜びそうだな…。有難う。」
荷物を持ち直す間、彼が扉を開けていてくれた。
その間の、会話だったので…。
「こちらこそ、扉を有難う。ちょっとー、私の言葉なんか、余り真に受けないでよねッ。ハハッ。」
「ハハッ。じゃッ。」
「じゃあね。」
いやいや…。参ったな。おばさんに訊くなって!
なんだよー。私、普通?の対応が出来るじゃん。
やっぱり。結城雅。以外なら全然、平気だな。
少し、安心した。
いや…。自分の亭主に一番、テンパるってどーよ?
ビロビロジャージに着替えて、花を素敵な花器に分けながら、早く雅の顔が拝みたいッ。グハッ!
なんて、馬鹿な事を考えていた。
でも…。実際は、どうなんだろう?やはり、人気に響いたりしてるのかな?
いやいやッ!仕方ない。考えても、仕方ないッ。
大丈夫。私が観てきた結城雅を信じよう。
私に出来るのは、それだけだから。
軽く掃除を済ませ、お洒落なコーヒーメーカーに暫し、戸間取りながらも、コーヒーを持ち、ソファーに寛いだ。
やはり、寝ちまったッ。失礼。
柔らかな音のチャイムに、癒されていて…。
ハッとした。これ、チャイムだよッ!
慌てて走り寄り、勿論。美顔どアップを食らう。
「ブハッ。ゴメンねッ。おかえりッ。雅。」
「ハハッ。ブハッ?寝てたね?ただいまッ。京香。」
クゥーッ!堪らん。眼福ちゃんのおかえりだッ!
玄関を開け、自分から、抱き着いて…。
「おかえりッ。雅。」 と、キスをした。
グハッ!幸せ過ぎるぅーッ!この、顔ッ!
「う…ウオーッ!幸せ過ぎるぅーッ!好き。京香!好き過ぎるぅーッ!」
人をブンブンと、振り回し…。御乱心デス。 
「ねえ、京香。今日は退社祝いじゃん。出掛ける?ある程度は、予約取れるよ。もし、面倒ならウチでデリバリー?寿司とか?何でも言ってよ。」
雅は…。昨日も今日も、オフが潰れてる。
疲れてるだろうな?
「う…ん。外食。って言いたいけど、雅が疲れるからさ、今日はデリバリーッ!又、オフの時、凄ーい、所に連れてってよッ!しかも…。まだ、話さなきゃならない事も有る…。」
私は遠慮無しに、言った。
「京香ーッ!優しいなッ。好きッ!俺ね。京香に張り付いて居たかったから…。ギャーッ!何、言わすのさッ!嫌だなッ!」

間違えて公開を押しました。まだ、続きます。上げ直しますので…、そちらで続きをご覧下さい。
宜しくお願い致します。

いやいやッ。お前が勝手に言ったんだろ…。
私が居ると、どうしても、会社に来た時とか、会見をしていた時の雅とは、人格が変わるようだな…。良いけどさーッ。
呆れて、チラリと顔を見る。これ以上無い程の、ニコニコ顔で、見た私に首を傾げた。
ばッ!ば…馬鹿可愛いぃーッ!ぷはーッ。
飯前に目だけは、満腹デスッ!デス。
出前を侮ってはいけない。
寿司、イタリアン、中華…。
好きなメニューを一度に食べれる利点が有るッ。
次々に届いたメニューをセッセと広げる…。
「京香。ワインも沢山有るよッ。お酒もあるけど。先ずはビールかな?」
雅が私に、これ以上無い。魅惑的な言葉を掛ける。
イソイソと棚に吸い寄せられて行き。
真剣に酒を吟味する…。
「京香…。今まで俺が見た中で。一番、真剣な顔してるんですがッ!」
バレました?今までの中で一番、真剣デスッ!
いやいや…。言葉ッ。
「え…。そうかしら?雅さんは?何になさる?私がチョイスしたワインでよくって?」
おいッ!変なもんが乗りうつったかい?又。
「ええ…。よくってよ。」 雅が呆れて、言う。
雅…。キモっ。でも…。萌ッ。どっちだいッ?
私は慎重に一本を選び、テーブルに戻る。
グラスが用意されていた。
なっ?そうだと思ったよ!いやいや…。
流石のグラスに頷く。
どうも、イヤラシいブランド癖が抜けん…。
長年の癖とは恐ろしいもんだねぇ?
「京香。お疲れ様。乾杯。」
「ハハハッ!有難う。雅ッ。魔の業務から解放してくれてッ!乾杯。」
高級グラスが、柔らかな音を立てた。
やっぱりなッ!ワインも旨っ。
クゥ…ッ!久しぶりに良いワインを飲んだな…。
雅ッ。顔も込みで。有り難や、有り難やッ!
又、手を合わせた。
例によって、苦手な寿司のネタを、雅に渡す。
雅がニコニコ顔で、私の好物ネタを…。
「じゃあ、はい。グハッ!やだなーもーッ!超仲良しじゃんッ!俺達。ねッ。京香ッ!」
ええ。呆れる程。ね。
「アアッ!」
「ええーッ!何ッ?もしかして、京香。寿司が嬉しくて発狂したのッ?」
雅…。失礼だよ。
「それも、有るけど…。」 有るんかいッ!
「結婚式だけどぉ…。」
私は全員が超楽しみにしている事が気に掛かって。
「ええーッ!京香。嫌なのッ?俺、今日、京香の上司にも言っちゃったよッ!社長なんか張り切っちゃってて…。京香はやっぱり、面倒臭ッ。嫌かも…。なの?こりゃ、参ったな…。」
雅が、マジで困った様に言った。
「いや…ね。ちなみにですね…。雅や、社長さんはどう言った、お考えがお有りで?」
私自信としては、聞くのも怖いんですがね…。
「うん。俺ってか。社長は、形式的な式を親族と内輪で済ませて、その後に。大ホール貸切ってね…。芸能関係者全員呼んじゃって、ああ。勿論。京香の方の出席したい人も皆、来て貰ってですね…。披露宴?を立食形式で…。一気に済ませたら楽だね?って言ってましたけど…。」
大変ッ。言いずらそうに、雅は私の顔色を伺う…。
そうですかッ!もう、こうなりゃ、私の憂鬱なんかは、二の次三の次だなッ。シフトを狂わせ迷惑を掛けたし、あれ程、皆が喜んでるんだ、仕方ないデス。死。
「きょ…局もね、流石に、披露宴中は多分…。入らないと思う。きょ…京香だって。沢山、呼ぶ人居るだろ?費用は、全ー部。会社持ちだって、社長が言ってるし。来たい人は、皆、来て貰ってよ。気楽に参加して…欲しいな。なんて…。」
雅には雅の事情が有るんだろう。
ましてや、今回の事では、社長に、自分の好き勝手させて貰った恩?も有る。
必死に私を説得していた…。
「グハッ!良かったーッ。いやいやッ!しかし、助かるなッ!いやーッ。どうなる事かと思ったよ!社長の意見に大賛成だよッ!私。大で賛成ッ!」
もうさー。皆が来たがってるし、実はッ。現実問題。費用の事も頭痛の種だったッ!
雅に丸投げって訳にはいかないしな…。なんて、考えてもいた訳で…。
会社の関係者を呼んでの会社払いなら、私も甘えやすい。よな…?
しかもッ!身内とは、別々に…披露宴を…なんて、言い出されたらッ。芸能人、目当ての…。失礼。ドレスまで新調して張り切る、ミーハーCA達をガッカリさせるだろうからなッ。ハハ…。
いやいや、社長ッ。どこまでも。ナイスッ!
「ええーッ!き…京香ッ。良いのッ?本当にッ?あんなに、嫌がってたのに…。」
雅は私が又、仕事関係に気を使い言っていると思ったらしく…。
そのとばっちりが?自分に来るのを怖がっている。
要は、厄介な事をさせた芸能人の雅を嫌いになると思っているらしいのだ。
私はこの、不安そうな顔も又、素的な眼福ちゃんを安心させないと…。
「イヤね。ぶっちゃけッ。私は。面倒臭いってか…この歳で気恥ずかしいッ!嫌だよ。でもね…。雅が会社から帰った後にさ。部署に戻ったら、CAがズラーッと並んで、私を待ってたのよ。結婚式の事だけを訊く為にねッ!」
雅は目を見開き、驚きの表情だ。
なッ!なんて、綺麗な瞳…。吸い寄せられ…吸い寄って行きそうなんですがッ!私ッ。
いやいや…。失礼。
「でね。雅がさ,上司に結婚式の事を言ってたから、後で上を通して連絡するって。思わず、言っちゃったのよ。そーしたら…、私はね。雅の来賓も一緒だなんて、一ッ言もッ。言って無いのに…。勝手に解釈してね、楽しみッ!だの、ドレスまで新調するだのって。大騒ぎしてだね。私は、身内だけかもよ。って言いたかったのにッ。ギャーギャー騒ぎながら、サッサと散って行きやがたッ!」 失礼。
私は、ガブガブと酒をあおり、熱弁を続け…。
雅は段々、含み笑いの顔に変わっていた。
グハッ!実に可愛い…。まあまあ…。
「真っ青になったよッ!まさか、沢山の著名人さんの中に、こっちから参加させてくれって、頼めるような次元の話しじゃないじゃんかッ。しかも…。あれだけのCAを披露宴に呼ぶのかよッ!って、費用の事でも白髪が増えそうだったッ!いや、実質?増えたかもよッ!上司は浮かれてる。CAは、はしゃいでる。誰一人、私と雅を祝ってなくてもだねッ。もう。私が一人が、面倒臭ッ。嫌かも。なんて、悠長な事を言える状況じゃ無いのッ!」
私はワインを飲んでいたが…。興奮して…
何故か?置いて有ったスルメに手が出る。
私のマネをして雅もスルメに手を出した。
もうッ。可愛いんだからーッ。失礼。続けます。
「そうしたら。だッ。今の雅の話しだよッ!今の私は、本心から、社長さんッ。ナイスッ!としか言いようが無い。もう。突然、辞めて迷惑を掛けたCA達に喜んで貰えるなら…。十二単でも、ローブデコルテでも…チンドン屋さんの格好でも、リオのカーニバルだろうが…。それは…ちょっと…。でもねッ!全てをそちらの思い通りに致しますッ!どうぞ、宜しくッ!」
私は勢いで言い切った。
「ブーッ!」
リオのカーニバルで、又、雅が吹き出した。
私は又、雅の口を拭くが…。
「ハハッ!ヤッターッ!俺は、逆に言いたいねッ!CAさん達、ナイスッ!だよッ。マジで、こっちが助かったッ!社長が妙に張り切っちゃってるからさ、まあ。息子みたいなものだからね。じゃあ、このまま、話しを進めるよ。会場が特殊だろ?日時は…こっちの都合に合わせて貰っても?」
雅は、ハタと真顔に戻り…
「む…娘さんを下さい。って両親を連れて行く時間さえ無いけど…。それは俺が電話して、京香のご両親に、謝るよ。ゴメンね。京香…。」
言い。悲しそうな顔をした。
「ハッ?のしを着けて、差し上げますッ!って言われるだけだわッ!そう言うのも、現地で一気に済まそうよ?そうで無くても、憂鬱なのに。マジで、面倒臭ッ。嫌かも…。ってなるよ?私。」
私は決め台詞を口にした。
「あわわッ!京香ッ。お酒はッ?ス…スルメには、お酒だろッ!八海山もしめはりづる?とかってのも、有るよッ!見たら?ねッ?ねッ!」
今度は雅が熱弁を振るいだした。
「うん…。実は、私。ケーキが食べたくてさッ。ああ…。買っておくんだったなッ!チッ。」
私はこのウチに帰って、コーヒーを飲んだ時点で、既に。ケーキが猛烈に食べたかった。
ご承知の通り…。一旦、こうと思うと、私の脳は、欲する物を手にしない限り、承知?しない。
「ええーッ!京香ッ。スイーツを食べるのッ?」
おーいッ。おいッ!何気、且つ、非常ーッに、失礼発言だなッ!それッ!
「何かね?私がスイーツを好むのが、そんなに驚きかねッ?雅君ッ!」
しかし…まだ、驚いたままの雅は…。
「いや…。酒飲みって、甘い物を食べないのかと…スルメとか、塩?」
塩?じゃねーよッ!葬式帰りかッ?
「私。甘い物が大好きで、有名店の物は全て、頂いておりますッ!しかもッ!和菓子も大変ッ。好んで頂きますがッ!何かッ?」
力一杯、雅を睨む。
「ええーッ!和菓子もッ。」
この男…。まさか、マジでッ。私がスルメしか食ってないと思ってるんじゃねぇよな…ッ?失礼。
「ええ。お陰様で。茶道も少々、たしなんでおりやしたッ!若くなくてもッ。甘味は全般的に大好きでござんすッ!」
ま…又、変なモノが乗りうつったなッ!岡っ引き?
「ハハッ。京香が、又、可笑しくなってるぅ。いやいや、笑い事じゃ無いッ!今なら、間に合うよ。そこのお店に二人で選びに行こうッ!実は…俺、ケーキ。大好きッ!わーいッ!」
ええ。存じております。雅データーは全て、押さえて御座いますのでッ。グフフ。じゃ無くてッ。
「ええーッ?まだ、ケーキ屋さんやってるのッ?マジかッ。は…早く行こうッ!このままでも?」
ビロビロを指して訊いた。
「勿論。良いよッ!俺もこのままッ。それより、急ごうよ。ねッ!ハハッ。た…楽しいぃーッ!」
いやいや。貴方のジャージは…良いよッ!
しかも、この急ぐ時に…。
グフフ。張り付いちゃって。甘えん坊ッ。違うッ!
「おいッ!急ぐぞッ!」
私は雅を引っぺがして…?
「は…はいッ!」
二人で部屋を飛び出した。
ケーキ屋さんで、私は四つケーキを選んだ。
雅は目を剥きながら…三つ選んだッ。
たいして、変わりないって話しよッ!
マンションに戻り、エレベーターを待っていると…
「アーッ。今晩はッ。わー。ビロビロジャージだ!」
ケイが余分な…いや、失礼な事を叫びながら、走って来た。
ええーッ!ヤバいッ。こんなに早いお帰りとは?
ま…まさか、私の言った事を実践して…失敗ッ?
とか…?いやーッ!嫌だッ!怖っ。
ああ…。来ちゃったよッ!
「今晩はッ。」
もう一度、雅に頭を下げた。
「おうッ。仕事終わり?」
雅が訊き…。
「いや。さっきは、有難うッ!マジ。聞いて良かったよ。大成功だったッ!今日は、俺、時間が無いからさ。又、一緒に買いに行くんだッ!マジ。大喜びしてたッ。ハハハッ!本当。有難う。」
私に報告を兼ね、礼を言う。
「ハハッ。気持ちが、伝わったんだよ。私は何もしてないッ。でも、良かったねッ。」
ピンッ。
エレベーターに皆で乗り込むも…
雅は…訳が解るハズも無く。池の美鯉?だ…。
「な…何事かな…?」 訊くも…。
「いや…。誕プレじゃん?本人に訊くって…。思いもしなかった。しかもね、甘えたのが、堪らなく嬉しそうだったな!ハハッ。」
ケイは、話し続け…。
「でしょ?甘えられると、弱いんだわッ!私も…。そうじゃん?ハハッ。」
私は、雅をチラリと見る。
「ハハッ。確かにッ!雅さんに、激甘そうッ!」
ケイもチラリと雅を見る。
「お陰様で…。チョコレートも、溶ける程。ハハ…」
ピンッ。エレベーターが、止まり。
仲間はずれにされ、終いには、少々おこな、ウチの眼福ちゃんに、ケイは…。
「ハハッ。ご馳走様ッ。雅さん。詳しくは家で、ゆっくり甘えながら、聞いて下さい。ハハッ。失礼します。おやすみなさいッ!」
ケイは手を振り、ご機嫌で言った。
「は…?甘えながら…。グハッ。おやすみな…?」
雅は首を傾げた。
「ハハッ。喋っちゃうよ!おやすみッ!」
私は手を振り、言う。
「雅さんなら、OKスッ!」 ケイが答えた。
「き…京香ッ!俺に内緒で…」
「ああ…。コーヒーとケーキを食べながらじゃないとな…。面倒…。」
「ええーッ!あわわ…ッ。鍵、鍵。さあ、京香。早く、食べようねッ。それで、早くッ。話そう。」
雅はコーヒーを落とし…私は、お皿とフォークを出しながら…。
うーん。ウルサく言われそうだな…。
「ねえねえ、雅ッ。こうやって二人で用意してるのって、なんだか…照れるねッ?」
と、微笑み掛けた。
「き…ギャーッ!京香ッ。なんて事を言うのッ!殺す気ッ?嬉し死ぬぅぅーッ!」
やっと、ハイテンションになった、コーヒーを落とす雅に…。
「コーヒーを落とす姿さえも…。尊いッ!ああ、眼福ッ。大好きだよ。雅。」
と、後ろから抱き着いたッ!
こ…これは。マジッ!作戦と言うよりは…
お洒落キッチンに立つ姿が、余りにも似合い過ぎる雅に…。
オ…オフショットッ!キターッ!
ご馳走様デスッ!デス。だったから。グハッ!
「き…京香ッ!コーヒーが途中だけどッ。お姫様抱っこして、連れてっちゃうよッ!俺。ヤバっ。は…鼻血、大丈夫?心臓、大丈夫ッ?」
いやいや、言葉ッ!結城雅ッ。鼻血。NGッ!
「ええー。気にならないの?ケイの話し。ケーキ食べて話さなきゃねー。」
雅は、コーヒーをカップに注ぎ。
「アアッ。それも、気になるッ!ねえ、京香?まさか、浮気じゃないよねッ?」
は…はぁ?大丈夫か?この眼福ちゃん…。
何処に、相手の目の前で浮気するヤツがいるんだ?
会って…。みたくは無いな。
「ハハッ。今日、たまたま、会社帰りにね…。」
私は話し出して…。
「叔母さんに訊くなって話しよッ。多分。ケイは、時間も無くて。私が、腐ってもCAだから、ブランドにでも、詳しいって思ったんだなッ?」
雅はケーキを突きながら。
「だ…駄目だ。ケイ…。京香に惚れたかもしれないよ…。もーッ!」
いやいやッ!駄目なのは、貴方の頭デスよねッ?
さっき…。彼女と上手くいった。って聞いてましたかね?
「き…京香ッ!ケイに迫られても、俺を選ぶよね?だって、俺の方がカッコ良いもんねッ?」
ブハッ。出たなッ。ナル男めッ!
いや、マジ。そーッスね。ハハ…。違うッ!
「ねえ。彼女と上手くいったって言ってたでしょ?しかも、雅に私が甘々だって、バレてたねッ?ちょっと。照れたよッ!私。」
これも…。マジッ。いい歳して…ってねッ。
「あのね…。京香の言葉はさ…。ヤバいんだよ。ああ、そうかもしれない。って…。動かされるんだ。やってみようかな?ってさ。京香は、もし自分だったら…って、真剣に考えて、答えてくれるからね。普通の人なら、プレゼントの品を考えるし、流行りのブランドを言って、終わりだよ。ケイは、ついてたな。京香に訊けて。ああ…。嫌だなッ。京香に惚れてないといいけど…。」
又、京香教?の信者だよ…。
おいッ。それ、嫌がらせかッ?
何処に43歳を取り合う、男優とアイドルが居るッ?
本気でッ。会いたいわッ!私。違うッ!ああ…。
「ところで、雅君。あのデスね。先程は興奮致しまして。過ぎた事を申しましたが…。まさか、本当に十二単とか、リオのカーニバルの格好をさせやしまいね…?」
思い出し、青くなって訊いた。
「リ…ッ。ブーッ!」
雅が又、吹き出した…。リオのカーニバルに弱いらしいな…?

晴天の空と対象に…どんよりした顔の私と、太陽に負けない程、輝く笑顔の眼福ちゃんが、見世物さながら、正面に座り…。
馬鹿が着く程に盛大な披露宴が、始まったッ。
先程、形式的な式は神前形式で行われた。
バカ殿の相方か?と、二度見しそうな私と…。
白無垢を萌鼻血が染め上げそうな?袴の雅が、妙に真剣な顔で、盃を交わす…?
いやいや、そっち系じゃ無いからッ!
式が始まる前に、私の家族と雅のご両親と社長さんが、軽く、顔合わせをしたのだが。
社長さんが来て…。
「いやいや、雅が、何故かッ?会わせないので、ご挨拶が遅れまして…。社長の保坂です。素敵な方だと、想像しておりましたが…。想像以上でした。才色兼備ですな…。ハハッ。」
ハッ?さ…才色兼備ッ?山賊刑事じゃ無くて?
なんのこっちゃ…?それッ!
嫌がらせかッ?このオヤジ?失礼。
「私の方が、ご挨拶が遅れまして…申し訳御座いません。雅の話しに出てくる社長さんの言動に…密かに憧れを抱いてておりました。ハハッ。」
私と社長が、過剰な褒め合いをし、笑い合うと…。
「ハイッ。終わりね。終わりッ!い…忙しいんだからさッ。さあ、京香ッ!行くよッ!早くぅー。」
我が家の眼福ちゃんが、又、おこで…。引っ張る。
「おいおい。雅…。取りやしないぞ!今日のところは…。なッ!ハハッ。」
社長がセンスの良い?冗談を言い。
「ハハハッ!あ…。」 笑ったが…。
雅が目を剥き…。「き…京香ッ!」
又、プンプンだよ…。もーッ。可愛いんだからッ!
年の差が16歳ッ。有ると、聞いていたが…。
全然ッ。感じない,素敵なご夫婦の、ご両親に…。
「杉浦京香です。この度は…。」
挨拶をしかけたが…。
「雅の母です!ねえ…?京香さん。雅もどうせ…大変でしょッ?ベタベタと甘えてッ!」
私の堅苦しい挨拶を遮り、お義母さんが、言う。
「いやいやッ!その言い方ーッ!僕が君に甘えてるみたいじゃないかよぉーッ。もー。嫌だなあッ。ああ、雅の父です!」
お義父さん。話し方が。もう、甘えた全開…デス。
雅と被って…可笑しくなった。
「ハハッ。親子ですねッ!そっくり…ッ!」
私は思わず言い…。
「やっぱりねッ!」 お義母さんが、頷くと…。
「な…ッ何それッ!」 
雅とお義父さんの二人が目を剥いた。
「ああ…。ウルサいッ!」
お義母さんと同時に言い…。「ハハハッ!」笑う…。
次は…?兄が…ヨロヨロと、私に近寄り。
「お…おいッ!京香。ゆ…結城雅が居るぞ…。」
震えながら、言う。
そりゃ…。結婚式だ。居るわな?
妹が、そこにサッサと獣の様に?近寄って来て…。
「お…お姉ちゃんッ!ゆ…結城雅。本人だよ…。」
いや…。そっくりさんに来られても困るんでッ!
「てぇいッ!落ち着けぇいッ!あれはだな。結城雅と言う名の毛皮を被った?唯々、甘えたのガキだ。狼狽えるでないぞッ!皆の衆。」
だ…誰ッ?あんた…。もはや…解らん。
馬鹿な遣り取りをしている事も知らずに…。
真剣な顔で、世界の平凡を集結した様な私の両親にザ。芸能人の身内然とした?お洒落な雅のご両親と世界の美を集結した雅が、挨拶をしていた。長い?
雅は…挨拶を終え、両、両親?を残し、こちらに来た。
「京香のお兄さんと妹さん。初めましてッ。結城雅です。宜しくお願い致します。」
ペコリと頭を下げた。
ギャーッ!おフランスのお人形さんでしゅかッ?
「は…初めません…。常時、テレビで拝見致しておりまする。」
兄が…馬鹿を丸出しにした。
「初めません…?ギャハハハッ!おりまするッ。って!さ…流石は、京香のお兄さんだッ!」
「は…初めますて…。わ…わたす、妹どす。」
いや…。どこまで、噛んだら気が済むんだいッ?
「どすッ!ギャハハハッ!流石は京香の妹さんだ!わたす…?ギャハハハッ!だ…駄目だッ。俺。愉し過ぎるぅー!」
兄と妹は…
「は…破顔まで…美しい過ぎるぅ…。」
うん。流石は私の血筋だなッ。違うッ!
馬鹿な会話が続き、式は終了した。
続々と会場を埋め尽くす、眩しい芸能人の方々と…全員がッ。今まで見掛けた事の無い、最新のブランドのドレスを纏った。後輩CA達の束。
運良く?リオのカーニバルにならずに済んだ私が、一番、地味じゃんッ?ヘヘッ。ほっとけッ!
何とも、ド派手な…。披露宴が続く…。
後輩が来て…
「こんな…極楽浄土みたいな披露宴。初めてデス!先輩と同僚で良かったッ!私。」
極楽浄土…?かいッ!微妙な挨拶をした…。
他の後輩が私に声を掛けに来ていた時…。
たまたま、ケイが挨拶に来て…。
「今日は、おめでとうッ!昨日さー、買い物に行ったよ!超喜んでた。ハハッ。本当に感謝ッ!」
雅…の隣の私に声を掛ける。
「そうッ?良かったねぇーッ!」
私は自分も嬉しくて、言った。
「ねえねえ?又さ、相談に乗ってよねッ?ハハッ。」
ケイが訊き…。
「勿論だよッ!ハハッ。」 私が笑う。
「き…京香ッ!ケイもッ!俺を無視してッ。」
雅がおこで…言い。
「せ…先輩ッ!余りにもッ!ず…ズルすぎるッ!」
後輩までが…おこだ…。
おいッ。なんで、私が怒られるかなーッ!
私以外のCAは…。それなりに、華やかで、話しも弾んだか…?
大幅にッ!予定の時間を超過しッ。
披露宴は終了の時を迎えた。
隣のチャペルに移り、ラストのセレモニーだ。
「キッスッ。キッスッ。」
キ…キッスッ!デスかッ?マジ…。デス。死。
恥ずか死ぬぅーッ!一般人デスがッ?私。デス。
雅が囃し立てられ…。
「ええー。嫌だなーッ。そうッ?」
全然ッ。嫌だなーッ。じゃなさそうにッ。
仰け反りまくる私に、抱き着き…。
今だ…尊い眼福どアップで私を魅了し…。
キッスをした…デス。
「いやーっ。照れたよッ!俺。ハハッ。」
私もッ!ハハッ。じゃ無ーいッ!
ラストのブーケトスだ…。
半分以上は、ヤケになり…。
私は…長年勤めた大空へと、ブーケを投げた!



















































































































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