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日本建築の技のショーケース、田母沢御用邸がすごかった
こんにちは、建築ライターのロンロ・ボナペティです。
日光ですごい建築に出会ったので、ご紹介したいと思います。・・・・・・日光の建築といえば、東照宮だよね! という方がほとんどなのではないでしょうか? もちろん僕もその一人でした。この「日光田母沢御用邸」を知るまでは。
日光田母沢御用邸記念公園は、大正天皇が皇太子の時代に静養地として造営された御用邸が一般公開された公園です。
さすがは御用邸というべきか、これでもかとリソースが注ぎ込まれた日本建築を堪能することができます。
まずはこちらの写真を御覧ください。
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こちらは御用邸で販売されている冊子の表紙に掲載された御用邸の全景がわかる空撮写真です。
増築を重ね、複雑につながり合う構成が興味をそそりますね。
江戸時代に建てられた邸宅を移築した後、5度にもわたる増築を経て現在の姿になりました。
江戸・明治・大正と時代をまたいで増殖していったこれらの棟は、なんと3階建ての一箇所(写真右下、青っぽい屋根の部分)を除き全体が一枚の屋根に覆われています。
「一枚」といっても巨大な金属板を切り抜いて被せたわけではもちろんなく、銅板を重ねて全体をつなげていったということなのですが、それにしても総面積7,000㎡もの屋根が一体化されている様子は壮観です。
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職人さんが一枚一枚手作業で重ねていったと考えるとものすごい作業量ですね。
内部のつくりにも圧倒されます。
これだけの規模の建築の場合、通常は同じパターンが繰り返されて次第に飽きてしまうところ、室ごとに取り入れられている手法が異なり、その微妙な差による空間の印象の違いに驚かされる体験はなかなか味わえないものでした。
廊下の設えだけでも、これだけのバリエーション(本当はもっとあるのですが)が見られます。
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天井を貼るのか、貼らずに構造を表しにするのか、
突き当りに壁を立てて視線を止めるのか、外部まで抜けさせるのか、
廊下の片側を外部空間として縁側とするのか、1室設けて間接的な外部空間とするのか、
頭上に垂れ壁を設置するのか、しないのか、
空間のプロポーション(廊下幅と天井高の比率)はどのようにするのか、
などなど、細かな選択の違いとその積み重ねで多様なバリエーションを生み出しています。
特に皇室に使用された建築ということもあって、空間ごとに格調を変える必要があり、様々な手法が使い分けられているのだそう。
こうした各空間に採用されている手法がパネル化されて解説もされており、今教わった知識を目の前の現物で確認できる、お得さも兼ね備えています。
例えばこちらの写真、赤く斜線を引いた箇所は蟻壁といって、あえて柱を天井より低い位置で止め、帯状の白い壁面がぐるりと一周するように見せることで、空間に伸びやかな印象を与えています。
天井高の高い空間において、壁面の材料構成が間延びしてしまうのを避けるために用いられ始め、次第に格式の高さを表す意匠として定着したのだとか。
下の写真と比較すると違いがよくわかりますね。
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こちらは3階建ての展望室部分の写真で、天井高の低い空間ですが、これはこれで味わいのある意匠になっています。
襖の半月型の引手や2種類の垂木を用いた天井など、遊び心が伺える少しリラックスした空間演出です。
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こうした技の数々、そして全国から集められた一級の材料が楽しめる日光田母沢御用邸、日光へおでかけの際はぜひ立ち寄ってみてください!
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