第三十話 ブウとの出会い
港町に滞在をした僕らは、いよいよプルフンティアンへと行く船に乗り込む。
乗客は欧米人ばかり(当時、この島は日本人旅行者にはあまり知られていなかった)。船は釣り船みたいな小さなもの。
船員が笑顔で手を出し、欧米客が次々に乗り込んでいく。
そして、いよいよ僕らの番。
すると船員は僕らの顔を見て、手を出すのを止める。
まあ、僕は元々船に乗り慣れているし問題ないけど、この対応の違いってないんじゃないの?
アジアでは時々、こういう光景を目にします。
欧米人に対しては笑顔とサービス精神旺盛なのに、アジア人やアフリカとかだと、この色気が急に無くなる。
僕は別にそんな事気にせず、皆、対等で良いんゃないのと思ってしまう。
アジアだろうと、ヨーロッパだろうと、アメリカだろうと、アフリカだろうと、何ら違いも感じない。
こういう自分達自身で、心の壁を作ってしまうのはとても悲しい。
そんな態度でいいの?というゼスチャーをする僕に、慌てて手を差し出す船員。手遅れだよ。(手をどかし、乗り込む僕。それをフォローする浅野さん)
まあ、乗船でそんな事はあったけど、実は直ぐにどうでも良くなった。
というのも、この景色。
海は穏やかで、素晴らしく青い。船の上では早速、日焼けする欧米人達。
既に僕は現地の人と同じくらいに黒くなっているので、日焼けの必要はな無いので、船員達と話す。
最初の険悪なムードも嘘のように、どんな魚が釣れるのか?魚はどう調理して食べるか?そんな話しで盛り上がっていました。
彼らも僕らがどんな人間か分からず最初は他人行儀でしたが、むしろ自分達に近いと分かると、最後は昔からの友人のように仲良くなってました。
さて、そんな船の中の楽しいひと時も暫く、ひたすら水平線だった景色でしたが、遠くの方にどうやら島らしきものが見えてくる。
あれか。
この辺りはいくつかの小さな島が点在している場所。
当時、欧米の旅行者達の間では人気が出始めた所で、島々を滞在しながら、旅をしている人達が沢山いました。無人島も沢山あって、キャンプを張るには最高の場所です。
さて、いよいよ島へと上陸する僕達。
真っ白な砂浜。プールのように透明な海。島ではすでに滞在している欧米人達が、ビーチで寛いでいる。笑顔で挨拶をする。
僕達は遂に、念願の「南の島」へと辿り着いたのでした!
ビーチ沿いにはいくつかのコテージと、レストランが建てられている。その後ろはすべてジャングル。ホントに原始のアジアの風景そのものだ。
聞いた事のない機械的な音のセミ達の声が鳴り響く。
宿も決まりお腹も減ったので、先ずはビーチのレストランへと向う事にした。
するとそこでまず驚いたのが、ここを住処とするトラ猫。
こいつの顔が普通の二倍ほどある。
僕は彼(トラ猫)がグダーと床の上に横になっているのを抱き抱え、無理やり持ち上げる。
いや、正確には持ち上げようとした。
こいつ、重い…。
持ち上がらない。立ち上がるとお腹が床についている。まるでまるまると太ったタヌキのようだ。
「なんでこんなジャングルが裏手にあるようなところの猫が肥満に??」
すごく不思議でした。
「さわるなよ。」
猫パンチを喰らわす、トラ猫。
不機嫌そうに、また床の上でゴロッっと横になるデブ。
長い尻尾まで太っている。(フサフサで)
そんな狸のようなおデブちゃんに、僕は「ブウ」と命名した。
そのブウに、お腹を突っつき、ちょっかいを出していると、料理が運ばれてくる。
一番初めに注文するのはナシゴレン(チャーハン)。
これは僕の旅では定番でした。
「うまそうだなあ」
僕はスプーンとホークを持ち食べ始める。
するとブウ、今まで寝そべっていたのに、目をカッっと見開き、僕の膝の上に乗ってくるのです。
「飯よこせよ」
とブウ。
「お前、重いんだよ!暑いし!絶対にやらないよ。ほら、降りろ。」
僕は、膝の上からブウを降ろそうとするが、やっぱり重い。
「こいつ…。これで太っていってるんだな。こんなもんばかり毎日旅行者からもらって」
すると今度は同じ船で到着したオランダ人の女のコのところに愛想を振りまき、ご飯を貰いに行く。そして骨付きチキンを貰う。
調子いいなー、あいつ。
するとブウは、骨ごとバリバリと食べてしまったのです。
「この骨、噛み砕けるの??」
僕も同じように噛み砕こうとするが、固い。
無理だろこれは。
という事で骨だけ、ブウにあげる。
やはりバリバリと食べてしまう。
やっぱりここの猫は違うようでした。
(というか、ブウだけかも)
お腹も一杯、満足そうにのんびり寛ぐ、ブウ。そして、僕らも。
浅野さんはその後、ハンモックで昼寝。僕は港町で買ったシュノーケリングSETで海に潜る。
やっぱり綺麗でした。(魚の数は多くはないけど、人気のクマノミもかなり沢山いる。)
今日から期限なし、この島でのんびりと滞在する事に決定。
この島では、
ブウの新たな一面を発見。
そして、色々な自然との出会い。
そんな数々が、ここプルフンティアンで展開されていくのでした。
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