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ron.204
2024年12月28日 01:45
仕立ての良い空色のワンピースに、白いロングカーディガンという装いで、私は車からそっと降りた。このワンピースは、夫からプロポーズを受ける時に、母が買ってくれたものだ。母の想いが、私に自信を与えてくれる。「行こう」夫は優しい声で私を導き、夫の実家の玄関のベルを鳴らした。「普段は呼び鈴なんて鳴らさないんだけど、今日は鳴らした方が両親もあわてないだろうから」照れくさそうな夫のセリフ
2024年12月22日 22:47
朝、泊まっていたホテルの部屋に、柔らかな光が差し込んだ。こんなにも朝日がきれいに差し込む部屋は、ここが初めてだった。自然の光は、不思議と心を前向きにしてくれる。新しい家族との対面の日である今日、緊張よりも楽しみな気持ちが勝ったのは、この明るい光のお陰だろう。夫はまだ隣で寝ていて、寝顔を覗きこむと、安心しきった表情をしていた。私はベッドから起き出し、例のシルバニアファミリーのお家
2024年12月20日 04:43
、、、遅い。遅い、ぞ?今、何皿目だ?もうメイン来たっけ?そろそろ話題も尽きそうだけど、、、ホテルのレストラン会場。丸いテーブルに白いテーブルクロスがかけられた、清潔感のある上品なひと間。ご時世もあってか、客同士は十分な距離が保たれていて、レストランは和やかな雰囲気で会食を楽しめる空間が整えられていた。そこで私たちは夕食に、フレンチのコース料理を食べていた。食べ始めて
2024年12月10日 20:25
その日の宿は、その地域で歴史あるホテルを夫が予約していてくれた。「こういう外観好きでしょ」夫は得意げに言った。旅館にするか迷ったんだけど、この建物に泊まるの、君、テンション上がるんじゃないかと思って。と選定理由を付け足した。私はファンタジーが好きで、洋館なんかを見るとワクワクするのだ。学生時代通った学校も、見た目で選んだミーハー人間である。実際、この歴史ある建物は、西洋美と日本
2024年11月23日 18:17
高原を後にしたら、次は牧場に連れて行ってくれた。ミルクの味の濃いソフトクリームは、とてつもなく美味しくて、自然と笑顔になる。牛と記念撮影をして、羊を眺めた。高度があるからか、夏なのに随分涼しい。手を繋いで、牧場をプラプラ散歩した。広くて豊かな土地で、草をはむ動物たちがのんびり過ごしている様子は、とてものどかで、動物園とはまた違う趣きがあった。私も田舎出身だけれど、田園風景が延
2024年11月17日 11:38
夫の故郷に着いて、一番に連れて行ってくれたのは、爽やかな高原だった。夏にもかかわらず、車から降りると少し冷んやりとした空気が私を包んだ。「少し歩くけど大丈夫?」「うん、大丈夫」私たちは、きれいに整備された木の階段を登った。傾斜のゆるやかな階段は、歩きやすくて、ちょっとしたハイキングにもってこいだった。車の中にきゅうきゅうに押し込めていた身体をうんと伸ばして、リズミカルに歩く
2024年11月4日 20:52
外が十分明るくなった頃、やっとのことで夫の生まれた県にたどり着いた。「次のサービスエリアで停まるから、お化粧してきたら?」再びうとうとしていた私に、夫が声をかける。夜中眠って行くプランだったから、私はすっぴんで車に乗っていたのだ。「うん、そうする」ついでに顔も洗おう。そんなことを思いながら、大きめのボストンバッグの中を探った。…ない。ないぞ?一気に眠気が吹き飛ぶ。
2024年10月29日 07:55
目を覚ますと、私を乗せた車は、まだ暗い高速道路を静かに走っていた。仕事の疲れもあったのか、随分ぐっすり眠ってしまっていたらしい。「今、何時?」頭がぼーっとする中、夫に聞いた。「3時。まだまだ夜中だよ。もう少し寝ていたら」夫は優しく私に言った。クーラーで冷えた車内で、柔らかい毛布の触感が心地よく、もう一度眠りに落ちるのは容易いことだった。けれど、車のダッシュボードに飲みかけ
2024年10月21日 19:30
私たちが暮らす家が決まった頃、夫が帰省に誘ってくれた。「そろそろ世間も落ち着いてきたし、僕の実家に行ってみようか」ご挨拶はもう少し先になるかと思っていたので、このお誘いはとても意外だった。そして、とても嬉しかった。丁度月末にふたりが4連休を取れる週末があったので、3泊4日で旅行も兼ねて伺うことになった。私は以前見せてもらった、夫のご家族の写真を思い出した。夫と同じ優しい眼差しを
2024年10月11日 08:13
約ひと月、私たちは週末に物件を見て回った。夫の納得する家を一緒に探そうと心に決めてからは、内見も楽しめるようになった。写真を撮ったり、ベランダからの眺望にうっとりしたり。だいたい似たり寄ったりな造りのひとり暮らし用のアパートと違い、外観から間取り、壁紙や雰囲気まで、それぞれの物件に個性があるため、ファミリー向けの分譲マンションを見てまわるのはとても楽しかった。ここに冷蔵庫を置いて、
2024年10月3日 00:45
プロポーズ、私の両親への挨拶、小旅行。順調にイベントを進めてきた私たちは、次は一緒に暮らす家を探すことにした。ふたりの勤務地を鑑みると、自然とエリアは絞られたので、その地域の不動産屋さんに夫が予約を入れてくれた。何度かひとり暮らしをしていたから、不動産屋さんが初めて、という訳ではなかったけれど、ひとり用の気軽なワンルームを探すのと、結婚に向けたふたり暮らしの部屋探しというのは、随分重み
2024年9月15日 23:39
旅館の朝ごはんが好きだ。普段の朝ごはんの概念を遥かに超える品数がずらりと並ぶ、贅沢な朝ごはん。とても食べきれないのではないかと一瞬怯んでしまうけれど、薄味で計算されたバランスの食事は、不思議とスルスルと身体に吸い込まれていき、心地良い満足感に満たされるのだ。なめこのおみそ汁と、大きなだし巻き玉子をお膳に見つけて、それだけで今日の朝ごはんは大正解だな、と心が踊った。ごはんの硬さはかた
2024年9月7日 11:35
夜、私たちは眠った。きちんと手入れされた、清潔で温かな布団に身を包まれたら、ふたりともすぐに眠りに落ちてしまった。充実した旅の疲れが身体をまとっていて、いつもよりも重力を強く感じたほどだ。どのくらい眠っただろう。空気が震えるほどの地響きを感じて、私は目を覚ました。キョロキョロと左右を確認すると、それは夫のいびきだった。夫は、息を大きく吸い込むと、身体中を震わせながら大きな大き
2024年8月1日 22:52
私が大浴場から戻ると、ちょうどよい時間だったので、夕食会場に向かうことにした。夕食会場は半個室の和室で、ゆったりとくつろげる空間だった。和食の懐石料理に舌鼓を打つ。見た目にも美しく、薄味だけれどお出汁をしっかり感じられる繊細なお料理で、心と身体が満ち足りていくのを感じた。温泉に入ってさっぱりした身体で食べるお料理は、なんて美味しいのだろう。私と夫は、交互に美味しいと言い合ったり