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多項式の根とWilsonの定理〈龍孫江の環論道具箱〉
前回,Wilsonの定理を証明しました.今回は引き続き,Wilsonの定理を環論的な考え方で考察してみましょう.今回の考え方の骨子は多項式の根の数です.
有限体$${\mathbb{F}_p}$$の単元群$${\mathbb{F}_p^\times = \mathbb{F}_p \setminus \{ 0\}}$$は位数$${p-1}$$の(アーベル)群なので,すべての$${x \in \mathbb{F}_p^\times}$$に対し$${x^{p-1} = 1}$$です.これを整数の合同式に読み替えると,次の定理を得ます.
定理(Fermatの小定理)
$${p}$$を素数とする.整数$${x \in \mathbb{Z}}$$が$${p}$$の倍数でなければ
$${ x^{p-1} \equiv 1 \pmod{p}.}$$ □
Fermatの小定理は,$${\mathbb{F}_p^\times}$$の各点が$${\mathbb{F}_p}$$上の多項式$${T^{p-1} - 1 \in \mathbb{F}_p[T]}$$の根であることを示しています.$${\mathbb{F}_p}$$は整域なので,この多項式$${T^{p-1}-1}}$$の根はたかだか$${p-1}$$個です.つまり$${\mathbb{F}_p^\times = \{ 1, 2, \ldots, p-1 \}}$$で根は尽きているのです.イニシャル係数を合わせて考えると
$${T^{p-1} - 1 = (T-1) (T-2) \cdots (T-p+1)}$$
と分解されます.両辺の定数項(または$${T = 0}$$を代入した値)を比較すると
$${-1 = (-1) \times (-2) \times \cdots \times (-p+1) = (-1)^{p-1} \times (p-1)!}$$
となります.$${p}$$は素数なので$${(-1)^{p-1} = 1}$$で,
$${\mathbb{F}_p}$$においては$${ (p-1)! = -1}$$
を得ます.これを整数の合同式に読み替えると,Wilsonの定理を得ます.
定理(Wilsonの定理)
素数$${p}$$に対し,$${(p-1)! \equiv -1 \pmod{p}}$$.□
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龍孫江の群論道具箱
群論の初歩について,基本事項をまとめます.群論について,学び始めた人,もう少し良く知りたい人におすすめです.月6回ほどの更新と,おまけテキ…
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