こどもの基礎英語力を育てよう|故ロベルジュ教授の視点
ロベ先生こと、今は亡き言語学者クロード・ロベルジュ教授(上智大学名誉教授)は、長年にわたる外国語指導と言語習得の研究を日本のこども達の英語学習に役立てたいと「ロベ先生とはじめてのえいご」という本を出版され、こどもの英語指導に大切な軸を伝える活動をされていました。
2012年、この本を紹介するセミナーで初めてロベ先生にお会いすることができました。それをきっかけに、ロベ先生を囲んだ勉強会に参加させていただけることになり、長い時間をかけてたくさんのことを学ばせていただきました。このnoteでは、ロベ先生が教えてくれたこどもの英語学習の初期段階で大事な5つのポイントをご紹介したいと思います。
みんなの英語の「どうしたものか・・・」
まず最初に、ロベ先生のセミナーには、出席者それぞれが悩みや思いを胸に集まっていました:
・今の英語指導に何かが足りないと感じてる。
・話せる力は大事だと頭でわかっていても
具体的な方法が漠然としている。
・どうしても読み書き中心になってしまう。
・学校の成績や検定に偏らずに、
英語を話せるようにもなってほしい。
・生徒が英語で話すのが苦手のようだ。
・カタカナ英語で困っている。
・発音やフォニックスを指導しているが、
なんだか違う気がする。
いろんな思いがある中で、ロベ先生は一貫して、通用する英語を身につけていくためには、まずは話し言葉から始めること。褒めてくれる温かい大人のもと、適切な英語を繰り返し聴かせて、英語らしいリズムを感じ取って、真似して発話してみる。こどもの英語学習はまずはそこから。とお話しされました。
(1)読み書きやフォニックスはもっと先
でも、読み書きは?、、、発音は?、、、正しい英語を教えないと、、、という声がちらほら聞こえても、「まずは英語を聴いて真似して、英語らしい流れとリズムを感じとっていくことが先。読み書きやフォニックスはもっと後。」とロベ先生。
英語らしいリズムを感じ取れる内容に加えて、表情、身振り、感情を表したイントネーションがたっぷりなシンプルでわかりやすい英語を聴いて→真似して→話してみる、の循環をうまく促すことが、初期段階で指導者がやるべきことと教えていただきました。
(2)英語らしく話すリズムトレーニング
ロベ先生の目標は、こどもたちの聴き取りやすい英語でコミュニケートする力を育むこと。英語として聴き取りにくい英語ではなく、日本語っぽいカタカナ英語でもなく、英語として聴き取りやすい英語です。その土台となる「英語らしい話すリズム」を体得するために、Nursery Rhymeを使った暗唱 (Recite) トレーニングを勧めていました。
詩が韻を踏んでいるNursery Rhymeは、英語圏で何百年と口伝えで伝承されてきています。口伝えで伝承されてきているので、リズムがあり、覚えやすく、口ずさみやすいのが特徴です。ロベ先生は、メロディーにのせた歌ではなく、暗唱 (Recite) を繰り返していく中で「英語らしい話すリズム」を身に付けることを一押ししていました。母語のカタカナリズムに乗っ取られずに、聴き取りやすい英語で話すための基礎作りです。
うまいこと英語を話すリズムを掴んでいれば、細かい発音や間違いがカバーされ通じやすくなります。逆に英語らしいリズムが欠けていると、いくら正しい英語であっても相手は「??」となり通じにくくなってしまいます。
こちらが↓今すぐできるNursery Rhymeによるリズムトレーニングの例です。こどもは文字を読み上げるのではなく、先生の暗唱を耳で聴き真似して唱えます:
他にも、初級英語にぴったりなNursery Rhymesはこちら:
・Hickory Dickory Dock
・Rain, Rain, Go Away
・Pease Porridge Hot …etc…
(3)文字がないテキスト
お次は、発話を促すテキスト「ロベ先生とはじめてのえいご」。このテキストには文字がなく、こどもにとって身近でわかりやすい小さなストーリーがmarini*monteanyさんによるとーっても素敵な絵で描かれています。
こどもたちは絵を見ながら、先生によるイントネーションがたっぷりな英語を聴いて、少しずつ理解していき、真似をしながら英語を口ずさんでみます。まずは話しことばから。読み書きはもっと先。ロベ先生の考え方に基づいたテキストです。このテキストには19のストーリーが入っていますが、ここでは二つの例をご紹介します:
絵を見ながらこのようなシンプルな英語を聴くことによって、cow, hen, sheepなどの名詞や、give/givesといった基本的な文法を、耳から感じ取りとり、口ずさみながら習得していきます。語彙や文法の説明は必要ありません。
こんな具合で、絵を指差しながら、ゆっくりと先生がデモンストレーションをします。最初はじーっと観察しているだけかもしれませんが、何回かやってみると、少しずつ真似をし始めます。
(4)こどもに優しいRoberge Mind
そして、ロベ先生のこどもに語学を指導する際の心得は明確で、こどもたちが安心して英語学習に取り組み、自信を育める指導が何よりも大切だと、指導者が意識すべきマインドを繰り返し伝えていました:
学習の主役はこども。大人はこどもの興味や気持ちに寄り添う。
間違えは当然。間違いを恐れずに話す楽しさを優先させるためにたっぷり褒める。
間違いは瞬時に直さない。時間をかけて英語に繰り返し触れていく中で、自身で気付いて修正することを待つ。
こどもに味わってもらいたい気持ちは「英語は楽しい」「もっと話してみたい」という、これからの学習の土台になる前向きなもの。点数や間違いばかりに目を向けず、褒めながらこの気持ちを育てる。
次々と新しい内容や教材に進む必要はない。学習初期段階では、できる範囲で繰り返して、自信につなげながら英語を身につけていくこと。
(5)ロベ先生の指導の中枢は Verbo-Tonal Method
最後に、ロベ先生の指導法には、ふたつのバックボーンがありました。ひとつは、ロベ先生の40年にわたる外国語指導経験。そしてもうひとつが、ロベ先生の師であるクロアチアのぺタル・グベリナ教授(Professor Petar Guberina, 1913-2005)が提唱したVT法(Verbo-Tonal Method)という言語教育理論です。
私たちが日々聴いて話すやりとりは、実際の単語や文章以外に、話すリズム、感情から湧き出るイントネーション、顔の表情、身振り、声の調子、状況などの全体で意味を伝えています。そしてその全てが、外国語を理解したり習得する上で、大きな「手掛かり」や「きっかけ」になります。VT法は、ことばの習得は耳で聴いて口から発するだけではなく、身体全体が大きな役割を果たすと考え、身体とことばの深いつながりを見つめます。
ロベ先生は、Nursery Rhymeを使った「英語らしい話すリズム」を身につけるためのトレーニングを勧めていましたが、更にそこにVT法に基づいてリズムを捉える動きを交えることを後押ししました。この方法は、母語のリズムで固まってしまっている大人にも、カタカナ英語が抜けない子供にも有効です。
所感
こどもが英語を学び始める初期段階を安全に効果的にサポートするロベ先生の指導法は、特に中学に入ってからあっという間に進んでしまうカリキュラムの考えとは正反対で、学校英語についてはそんな悠長なことは言ってられませーん、なんて声が聞こえてきます。
でも、もしもこどもたちが「聴き取りやすい英語でコミュニケートする力」を身につけたとすれば、英語でやりとりする場面にひるまず、できる範囲で意思を伝えることができ、英語が便利な道具となり、世界が広がるでしょう。学校英語や点数に向けた英語から少し離れて「聴き取りやすい英語でコミュニケートする力」にも意識を向けることは、これまで何十年も日本を苦しませてきた「勉強したわりには話せない(汗)」とならないためにとても大事なことだと思います。
一歩外に出れば「聴き取りやすい英語でコミュニケートする力」は欠かせません。将来きっと役に立つバランスのいい英語力を育むためには、安全で効率のいい外国語習得にまつわる言語学者の方法論にも目を向けていきたいものです✌︎('ω')✌︎
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