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[西洋の古い物語]『パレルモのウィリアム』(第6回)
こんにちは。いつもお読みくださりありがとうございます。
『パレルモのウィリアム』(第6回)です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※画像は近くのケーキ屋さんのウィンドウです。一番下の段はケーキ、上2段はパフェのようなデザートです。通りかかる度に華やかさに目を奪われます。
『パレルモのウィリアム』(第6回)
さて、狼は情報を求めてずっと宮殿周辺に身を潜めておりました。そして、皇帝が犬たちに白い熊を狩らせるよう命令を発したと聞くとすぐに、彼は頭の中でウィリアムとメリオールを救う計画を立てました。彼は猟犬たちの通り道に茂っている藪の中に潜み、猟犬たちがすぐそばに来るのを待ちました。犬たちが近くまで来ると狼はすかさずその鼻先に飛び出していきました。すると、犬たちは直ちに追いかけてきました。彼は犬たちをさんざんに手こずらせました!――山を越え沼地を抜け、ぶあつくからみあったシダの茂みの下をくぐり、広い湖を越えて。二頭の熊が隠れ場所で心地良く横たわっている間に、犬たちは一足ごとに彼らから遠ざかっていくのでした。
ついに、皇帝の忍耐も底をつきました。彼は狩りを断念し、犬たちに追跡をやめさせ館に戻るよう家来に命じました。
「今回は私の手を逃れたが」と彼は言いました。「だが、今に彼らを捕えてやる。褒美を用意し、すべての町の門に掲げさせよ。結局はそれが奴らを捕える最も確実な方法なのだ。」
いかにも、皇帝は正しかったのでした。羊飼いたち、牛飼いたちは、もし城門まで二頭の白い熊を連れてきたら残りの人生は働く必要がない、と言われました。そこで彼らは自分たちの家畜を追いながら、鋭く目を光らせ続けました。ある時、一人の男が実際に二頭の熊を見かけ、皇帝の役人の一人に知らせました。その役人は槍兵の一団を連れて洞窟を取り囲みました。間一髪、もし狼が再び彼らを救出しに来なかったら、彼らは捕えられるところでした。狼は岩の後ろから飛び出し、役人の息子をさらいました。その子は父親に従ってきていたのです。哀れな役人は恐怖の金切り声を上げ、少年を助けるよう大声で叫びました。兵士たちは皆踵を返し、前にそうしていたように狼を追いかけました。
「こうなっては、もとの服装の方が安全だね」とウィリアムは言いました。そこで二人は急いで熊の毛皮を脱ぎ、忍び足で隠れ場所から出ていきました。しかし毛皮を残しては行きたくはありませんでした。なぜなら、彼らはそれが気に入っていたからです。
長い間彼らは森をさまよいました。そして、狼は常に彼らを見守り、食料を持ってきてくれました。そのうちに、どのようにしてかはわかりませんが、ウィリアムとメリオールはもう熊の姿ではなく、いつも着ていた衣服で逃走している、という知らせが方々に広まりました。そのため、人々は彼らを探し始め、一度など数人の炭焼きによってもう少しで捕えられるところでした。そこで狼は牡鹿と牝鹿を殺し、その皮の中に二人を縫い込み、彼らを導いてメッシーナ海峡を越えさせ、シチリア王国へと入りました。
(※メッシーナ海峡 シチリア島とイタリア半島部の間の海峡。シチリアはウィリアムが生まれた地。)
とてもおぼろげではありましたが、子供時代に起った小さな事々を一つ一つウィリアムは思い出し始めました。しかし、以前ここに来たことはないのに自分はなぜこの土地を知っているらしいのか、たいへん不思議に思いました。彼の父上である王はずっと前に亡くなっておりましたが、王妃(彼の母上)と彼の妹はスペイン王によってパレルモの市内に攻囲されておりました。スペイン王は、王女(ウィリアムの妹)が彼の子息と結婚するのを拒んだので激怒していたのです。王妃は大きな苦境にありましたが、ある夜のこと、彼女は一匹の狼と二頭の牡鹿が彼女を救いにやってきた夢を見ました。牡鹿のうち一頭は彼女の息子の顔をしており、二頭とも頭に王冠を戴いておりました。
その夜、王妃はもう眠ることができませんでしたので、起き上がり、窓から眼下の庭園を眺めました。するとそこには、木々の下に、夢で見た牡鹿と牝鹿がいました!喜びに喘ぎながら、王妃は僧侶をお召しになり、彼に夢の話をしました。彼女が話していると、見る間に鹿の皮がひび割れて、下から輝く衣服が現われました。
「貴女様の夢は成就いたしました」と僧侶は言いました。「その牝鹿はローマ皇帝の息女で、牡鹿の皮をまとったあちらの騎士と一緒に逃げてこられたのです!」
喜びに満ちて王妃は身支度をし、すぐに動物たちのところへ行きました。彼らはさまよっているうちに、岩や洞窟がたくさんある庭の一角へとやってきたのでした。王妃は彼らに丁寧な言葉で挨拶をし、彼女に仕えてくれるようウィリアムに頼みました。彼は喜んでそうしました。
「あなた様は盾に何のおしるしをお付けになりますか」と王妃は尋ねました。ウィリアムは答えました。「奥様、私は黄金の盾に狼をつけとうございます。狼は恐ろしく巨大にいたしとうございます。」
「その通りにさせましょう」と王妃は言いました。
盾が絵柄で飾られますと、ウィリアムは王妃に馬を賜るようお願いしました。王妃は彼を厩に案内し、自分で一頭選ぶように命じました。すると彼は亡き王である父上が乗っていた馬を選びました。母上にはわかっていなかったのですが、馬は彼のことをわかっておりまして、純然たる喜びのためにいななきました。この後、ウィリアムは兵士たちを自身の周りに呼び集めました。大きな戦闘が行われ、スペイン勢は敗走を余儀なくされました。パレルモ中で人々は大いに歓喜しました。
敵が遠くへと退却し、ウィリアムが宮殿に戻ってきました。王妃とメリオールが彼を待っておりました。突然、彼女たちは、窓の外を狼が通るのを見ました。狼は通り過ぎながら、まるで慈悲を懇願するかのように前足をさし上げました。
「どういう意味でしょう」と王妃は尋ねました。
「あの狼は私たちに本当に良くしてくれました」とウィリアムは答えました。
「それは結構ですが」と王妃は言いました。「でもあの獣の姿は私に大きな悲しみを引き起すのです。といいますのも、私の美しい息子があのような獣によってさらわれたからなのです。あの子が四つのときのことで、あの子の消息はそれっきり何も聞いておりません。」しかし、彼女は何も言いませんでしたが、心の中では息子を再び見つけ出した、と感じていたのでした。
『パレルモのウィリアム』(第6回)はここまでです。
最後までお読みくださりありがとうございます。
次回をどうぞお楽しみに!
この物語の原文は以下に収録されています。
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