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【不在からの再配達】MOT コレクション開館30周年記念プレ企画 「イケムラレイコ Rising Light」「マーク・マンダース Frozen Moment」「小さな光」 東京都現代美術館

私にとって東京都現代美術館と東京都写真美術館は開館当初から通ってきた、共に歩んできた美術館だ。
自分の人生を変える出会いもあった。
10代の頃からたくさんの刺激を受けた美術館が今年30周年を迎える。
存続を続けてくれてただ、ひたすらありがたい。
これからも一緒に歳をとりたい。

そんな感慨深い気持ちを持って、この美術館が集めてきたコレクション品を見る。
毎度のこと厳かな気持ちより「うぇぇ!すげぇえ!!」っていう気持ちを持ち帰っている。これからもそんな驚きや楽しさと共に生きたい。



【3階 展示概要 一部抜粋】


3階では、当館の開館30周年を記念し、イケムラレイコ、マーク・マンダースの特別展示を含む「開館30周年記念プレ企画 イケムラレイコ マーク・マンダース Rising Light / Frozen Moment」を開催します。わき立つ色彩とイメージによって、この世に存在するものの生成と変化の諸相をあらわすイケムラの作品群、そして、静止した瞬間を捉えるマーク・マンダースの張り詰めた空間、それぞれをコレクション以外の作品も交え、特別に構成します。駒井哲郎らの版画作品、ロバート・ライマンやアグネス・マーティンなどの絵画作品とあわせて、ぜひご堪能ください。

東京都現代美術館公式サイトより

【気になった作品たち】


マーク・マンダース


さて、今回一番驚いた体験は「マーク・マンダースFrozen Moment」だ。

マーク・マンダースは2021年に同館開催の「マーク・マンダースの不在」展を見ている。

2021年「マーク・マンダースの不在」展の様子
この途中感。
(2021年)
雨の日見たので現在進行形で溶けてる様だった。
(2021年)


今回この件がボディブローのように効いてきたわけだが、前回展覧会を見ていなくても十分楽しめる。

ちなみに、「マーク・マンダースの不在」展はコロナ禍の影響で開催期間短縮となってしまった展覧会だった。
あんなに大掛かりな展覧会だったのに…さぞかし無念だったろう。

が、しかしその無念を晴らすかのように、作品返却までの間、常設展示室で「マーク・マンダースの保管と展示」と言うタイトルをつけて特別展示を行った時にはちょっと笑ってしまった。「保管」ってこの身の蓋もなさ。

「災い転じてなんとやら」とか「転んでもただでは起きない」という、トラブルをチャンスに変えるその精神、好きよ。

https://www.mot-art-museum.jp/Storage_and_Display.pdf



当時のフライヤー


2021年7月「保管と展示」の様子。
手前の横たわる狐はこの後、美術館近隣の「コーナン」で2時間だけ展示されるという珍事(インスタレーション)も起きた


で、2回の展示を目で見てきたはず、現地で体感してきたはずなのだが、自分の目の節穴具合をまざまざと実感した25年1月。

ある事に気がつくのに4年ほどかかったということだ。

何の話かというと作品の素材の話である。

※「ネタバレを踏みたくない」「まだマーク・マンダースを未体験」という方はこの項目を飛ばしていただけたら。いつか見てほしい。
関西だと国立国際美術館に常設品がある。
「そんなのとっくに知ってたよ」という方は笑い飛ばしていただきたい。
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今回は所蔵品と共に個人蔵の作品も持ち出し、マーク・マンダース本人がディレクションしたという展示である。
2021年には来日ができなかったので3年後の2024年秋にやっと来日できた、ということなのだ。

作品のキャプションはこちら。

左が所蔵品。右は個人蔵の借用。

展示風景


左「椅子の上の乾いた像(カサカサタイプ)」
右「椅子の上の像(しっとりタイプ)」



左がカッサカサの作品で右がしっとりした作品。
もたれ掛かっている椅子は同じ椅子だろうか。


カサカサタイプしか単独で撮ってなかった。



過去の見た作品タイトルも「乾いた土の頭部」「未焼成の土の頭部」など。

だからこれも像の部分は粘土的なものだと思ってた。

タイトルも左「椅子の上の乾いた像」と右「椅子の上の像」なので「乾くor乾いてない」という時間経過表現に気を取られて、そういう素材だと思っていた。
要は、「乾く」現象が起きる素材だと思っていた。
タイトル=素材とそのまま受け止めていた。

でもこれ作品タイトルなだけであって、作品の素材を示すものではなかった。

もう一度、キャプションの写真を載せる。

作者名、作品名、制作年、素材、英訳の順である。
4段目の素材の羅列を見て欲しい。


「ブロンズに彩色」「木」「紙にオフセット印刷」「アクリル」
キャプション見る限り、どこにも素材に粘土や、石膏、土的な素材名なんて書いてない。


?…

ちょっとまって私は何を見ていたのか。
流石に訳わからなくて、係員の方へ質問したら得た回答がこちら。


椅子の骨組み部分は木材。
下の鉄板は今回の展示の為の演出でカール・アンドレ意識だそうだ。



これは…
左は乾いた像の写実ブロンズ彫刻、
右はしっとりした、乾く前の像の写実ブロンズ彫刻、
だったのだ。

ブロンズを粘土や木材に見える様に写実的に彩色している。

須田悦弘氏は木でリアルなスルメを彫り出したが、マーク・マンダースはブロンズに彩色でリアルな土、粘土感、セメント感、木材の質感を表現していたのか。

はぁあああああ…

4年前…
(作品でっかいなー!これ作るの大変だったろうな。というか設置するのがもろくて大変そう。セメント?石膏?土の像とあるから粘土?
重そう…作りかけ、なのか。作りかけ、を見せているのか)

という、当時の展覧会の記憶を鮮やかに覆す。

東京都現代美術館も素材についての言及は無しだものな。
わかってますよね?という体で他の部分の見どころを語っている気がするけど、素材には触れていない。共犯をずっと続けているんだ。(個人の見解です)

まさに不在から4年かかった「認識」の再配達。
東京都現代美術館が根気よくコレクション品であるマーク・マンダースの展示を続けてくれてよかった。

やっっと私はスタートラインに立てた気がする。


山本高之 《Dark Energy: Tottori》



1階 作品概要 一部

山本高之は小学校教師としての経験をもとに、主に参加型ワークショップの手法を用いて、従来の 価値観やルール、制度を批評的に見るきっかけとなるような作品を手がけてきました。《Dark Energy: Tottori》は、体育館に置かれた 40 個の段ボール箱がひとりでに動き出す不思議な場面から始まります。

パンフレットより引用


これが、めちゃくちゃ面白くて。
次男と一緒に見ていたのだけども、次男は吹き出して笑っててちょっと焦った。周りが皆、真面目に見てる状況だったので。

バラバラワラワラ
2個セット。
4個セット
お得な8個セット。
動きが鈍くなる。
ズモモモモモ…16個セット
32個全合体。
ズゴゴゴゴゴ…



これはなんとも不思議な動きを捉えた映像になっていくのだけども、なぜそうなるのかは誰にもわからない。そのわからなさ、が面白い。


今期も、見どころがたくさん

展示点数自体はそこまで多くはない。でもテーマや見せたいものをその都度しっかり見せる東京都現代美術館のコレクション展示。開館から30年でそのコレクションの持つ意味もどんどん変わってゆく。
1996年〜ぐらいは半年間、コレクション展示品入れ替え無しなんてこともあったが、そんなのは今は昔。
企画展のチケットには必ずコレクション展見学できるチケットがつくので、たっぷり時間をとって訪れてほしい美術館だ。


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