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【美術館の解体は避けたい】コレクション解体新書Ⅱ 1970年代以降の作品を中心に 目黒区美術館


目黒区美術館のコレクション展示企画。

この美術館は面積の関係でコレクション展示室を持っていない。
なので年に数回ほど、企画展のない時期にコレクション展をしている。

ここ数年、企画展ももちろん好きだが各美術館が
どんな方針で
どれぐらいの時期から
どんな作品を
集めてきたのか、が気になる。

解説には社会状況の背景や予算に悩まされたり、どんなコレクションを工夫し来たのか、また、現在の建築を活かした展示方法を常に模索してきたことが非常にわかりやすく記されていた。
その文章からは建物に対するへの愛着も感じる。手向けにも感じる。
もちろん苦戦したこともあるのだろう。
でもだからこそ、の今まで素晴らしい展覧会をしてきたのではないか。
この素晴らしいコレクションが年に数回しかお目見えしないのは本当にもったいない。
願わくば常設コレクション展示室を設置してほしい。

展示作品からいくつか抜粋


高松次郎 「写真の写真」


1991年に作家が再選定したものを45点一気に収蔵したという。
最初の展示は1994年。2回目が1999年。
今回の展示は3回目。
24年ぶり3回目の出場である。なぜそんなに間が空いたのか。善光寺のご開帳よりスパンが長い。
それはこの美術館の展示へのこだわりが理由なのかな、と考えた。

まず、写真としての展示の形態にびっくりしたのだ。

プリントしたものが生で壁に張り出され展示されている。

写真作品はとにかく光に弱いので、まず額縁、アクリル板、ガラスを挟む展示が主流であるが、印画紙、生である。

何でしょうね、このフィルターが無い感じにすごく感動をした。
高松さんがプリントして見たそのもののが、私の裸眼で確認できるこの感じ。
もちろんこれには展示側の意図があり、「写真の写真」という作品の展示においてこういう形態が良い、と判断した美術館の意図があるわけです。
その解説が素晴らしく、すっと腹に落ち着いた。

こういう展示をする、とこだわると展示機会が減ってしまったのではないか?次に見れるのはいつなのだろうか?と思って複雑な気持ちにもなった。

・写真に映り込むもの

高松次郎さんは武蔵野地域で制作していた。
とは、聞いていたが今回それを実感できたのがこの「写真の写真」に写り込んだ情報だった。
数枚の写真に敷かれた新聞紙が写り込んでいた。最下段の地域広告の部分には「京王」やら「方南町」という地名の記載されている。
自宅での撮影、らしいが、こういう地域広告の載った新聞が配達される地域に住んでいたのだ。
辻褄が合うというか、リアルに感じることができてこの写真の写真のコンセプト以外のところにも魅力を感じた。

吉田克郎 版画集『LONDON Ⅱ』

70年代のロンドンで過ごした作者の視点が伝わる作品。

こちらの画廊に詳細がある。エディションナンバーがついているので複数ある。

トラファルガー広場を写した作品には腰掛ける少年と鳩。
現在Gグルのストリートビューで作者と同じ場所、角度を確認してみたくなった。

この角度だった。背後を拡大すると…
あ!鳩!


2023年のストリートビューにも鳩が写っていて、嬉しくなった。

村上友晴

一見ではわからない面白さ。
黒の2画面。

黒。


言葉にしてしまうとそれで終わってしまうのだが、この黒一色にしても様々な表情があるのだ、と気づかせてくれる。

表情豊かな黒。どこまで接近したら気づくか、どこまで離れるとテクスチャーが埋もれるのか。
自分の目との戦いのような、そんなゲームをじっくり見ながら楽しんだ。

美術館の複合施設化

目黒区美術館は現在の建物を解体する計画がある。
コレクションを他館へ移行ということはなく、区民センターの建て替えとセットに考えられているとのこと。
所謂、複合施設化。
大きなハコの中の一部を美術館機能とする、と。目黒区の計画書には記載があった。計画書を読むと今の面積より狭くなりそうである。
「コレクションを持っていても常設展示室を持たないから年に数回しか出せない」と展覧会の初めの解説が頭をよぎる。
複合施設化するならば、せめて今よりもより良い計画とし欲しいと願ってやまない。

おまけ

図録市が行われており、1冊破格の350円。
6冊購入。
最近気になっていた丸山直文氏の画集は嬉しい。
95年4月の展示図録にはこの前現美のコレクション展で出ていたものばかり。

3キロぐらい。腕が千切れそうになりながら帰った
価格のバグ。



95年4月の図録は、展示品の所属記載がちゃんと東京都現代美術館となっていてる。因みに東京都現代美術館の開館は95年3月。所蔵先の記載も耳慣れなかったのだろうなぁ…と。

あと、初めて目黒区美術館へ見に行った展覧会の図録も手に入れる事ができた。目黒区の新人アーティストという括りである。今、名前を見ると鈴木康広氏の作品も確かここで見て面白くてよく覚えている。先日の赤瀬川原平さんの未発表写真のセレクト者の1人となっていたのも感慨深い。

そして石川直樹氏もここが初見だった。まだ雪山の写真になる前の頃。大学所属当時だったのか、記載がそうだった。


こうして育んできた様々な事柄を思い出すと、建物の解体はただ、寂しい。
せめて自分ができる意思表示はしよう、と小さな行動をした。

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