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すべてのチャンスは外にある

[要旨]

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、ドラッカーは、「すべてのチャンスは外にある、内にあるのはコストのみ」と述べており、事業活動は顧客志向でなければならないそうです。しかし、会社組織では、どうしても自分の評価を気にするあまり、従業員の視線は本社や上司に向いてしまいがちになるので、経営者は、上役ばかりを見ている「ヒラメ社員」を減らすような働きかけを行わなければならないということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、陽明学には、正しい判断をするためには、多面的に、長期的な視点で、根本に戻って考えるという教えである「多長根」という考え方があり、これは大局観を持つということだそうですが、経営者がこの大局観を持つことで、より的確な経営判断ができるようになり、長期的な会社の発展につながるということについて説明しました。

これに続いて、新さんは、経営者の方は、全社員の視線を外に向けるようにしなければならないということについて述べておられます。「『すべてのチャンスは外にある、内にあるのはコストのみ』とは、ピーター・F・ドラッカーの言葉である。すべてのお客さまは外にいる。したがって、トップ以下、全社員の視線は重点的に外に向かっていなければいけない、ということだ。ところがサラリーマンの悲しい性で、ついつい社内ばかりを見てしまう。

支社・支店の人間は、顧客よりも本社に注意が向かう。組織に働く人間にとって、最も関心の高いことは、いまも昔も、組織にとって最も内向きなことである人事だ。人事の季節になると、どこの会社でも社内がゾワゾワしはじめるものだ。しかし、企業であれ役所であれ、外に向かうことなしに、組織の存在理由はあり得ない。この原理原則を忘れては、組織が成り立たないことはいうまでもないだろう。社長が社長室に閉じこもって、一歩も外出しないような会社では成長が危ぶまれる。リーダーが自分のデスクから離れず、部下を呼びつけるだけのチームも弱い。

ヒューレット・パッカード社がMBWA(Management By Walking Around)、歩き回る経営を標榜したのも、それが組織を強くし、企業を健全に成長させる方法と信じたからである。社内にヒラメ社員が増えて横行するようになると要注意だ。それは穴熊組織になった兆候である。ヒラメ社員とは、目が上に向かってついているヒラメのように、上役ばかりを見ている社員のことである。上が気になって仕方ない社員は、外に出たら不安で仕方がないので、いつも社内にいてじっと上役の顔色をうかがうこととなる」(118ページ)

社内や上司に目を向けてばかりいるヒラメ社員はいない方がよいということは、ほとんどの経営者の方がご理解されると思います。それは、新さんがご指摘しておられるように、役職員は社外の顧客に目を向ける方が本来の活動であり、効率も高いからです。しかしながら、現実には、ヒラメ社員をなくすことはなかなか難しいようです。その理由の1つ目は、仕事の成果があまり得られていない社員にとっては、自分の評価を下げられたくないと考え、上司におもねる行動をとりたくなってしまうのは、ある意味、自然のことと思います。

2つ目は、上司としても、表向きは社外に目を向けるようにと言っていても、やはり、自分の意向にそわない部下よりも、自分に従順な部下の方を評価してしまいたくなるものです。3つ目は、社長や部長という肩書を持つ人に対して、その下で働く部下の立場では、どうしても委縮してしまいがちです。だからといって、ヒラメ社員が少なくなるための働きかけはしなくてもよいのかというと、もちろん、経営者の方は、その働きかけに注力しなければならないことに変わりはないと思います。

では、具体的にどのような働きかけをすればよいのかというと、それは1つだけではありませんが、私は、ドン・キホーテのように、経営理念を明確に、会社内に浸透させることだと考えています。同社では、「(同社の企業理念集の)『源流』こそ真のCEOであると規定し、全ての行動規範とすべく、全従業員が切磋琢磨している」そうです。この「源流」では、「『顧客最優先主義』を企業原理とする」と規定しており、社員がこれに従えば、目は社外に向くことになります。しかし、もっと重要なことは、「源流がCEOである」と述べていることです。

これは、社長も「源流」に従って行動するということであり、たとえ部下が社長に気に入られたとしても、企業理念通りに活動していなければ評価されないということを明確にしているわけです。さらに、社長自身を特別扱いすることなく企業理念に忠実に従って活動していれば、部下たちも社長に倣って活動するでしょう。そして、これは、私が何度もお伝えしていることですが、このような働きかけは、直ちに効果が現れません。そこで、根気強く働きかけを続けなければなりません。でも、このような働きかけを続ける会社はあまり多くないことから、実践を続けた会社こそ、ライバルに勝てる競争力を備えることができるようになるでしょう。

2024/10/24 No.2871

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