『メガネの着替え』という新しい世界
[要旨]
メガネブランドのモンキーフリップでは、「メガネを着替える」という発想で、メガネの新しい需要を創りました。この新しい需要は、見つけることは容易ではありませんが、顧客の動向を探る中で発見することができれば、価格に左右されにくい商品とすることができるでしょう。
[本文]
今回も、小阪裕司さんのご著書、「『価格上昇』時代のマーケティング-なぜ、あの会社は値上げをしても売れ続けるのか」を読んで、私が気づいたことについてご紹介します。小阪さんは、ご自身のご経験として、名古屋市にある、「モンキーフリップ」というメガネ店についてご紹介しておられます。
「もう、20年近く前のことになるが、私が、その直営店である、名古屋本店に行ったときのことだ。そもそも、なぜ店に行くことになったのかというと、そのきっかけは、同社の社長である岸正龍氏が、当会(小阪さんが主宰する『ワクワク系マーケティング実践会』)が主催する合宿に参加したときのことだ。その際、岸氏は、何本もメガネを持参し、1日のうちに何度もメガネを『着替えて』いた。同ブランドのデザイナーでもある岸氏だけに、『さすが、おしゃれだね』と話題になったが、私には衝撃だった。私には、『メガネを着替える』という発想がなかったからだ。(中略)
そこで、後日、モンキーフリップ本店を訪れた。店に入った私を、『お待ちしておりました』と、店の女性スタッフが対応してくれたのだが、お店に並ぶさまざまな商品は素通りし、トレイの上に置かれた1つのメガネが差し出された。そして、彼女は、『今日は、小阪さんにこれをかけていただきたいと思っています』と言った。自分がメガネ店に行って選ぶとしたら、絶対に選ばない、というか、目にも留まらない、奇抜な色とデザインのメガネだ。(中略)そして、半信半疑、というか、ほぼ『疑』でそのメガネをかけたとき、驚いた。実に似合っていたのである。
それからというもの、足しげくモンキーフリップに通うことになり、その都度、スタッフのみなさんから、『今日はこれをかけていただきたいと思っています』と、さまざまな(そして、たいていは意外な)提案をもらった。(中略)これぞ、マスタービジネスだ。私にとって、モンキーフリップは、知らなかった世界へ誘ってくれたマスターだ」(183ページ)メガネは、本来は、視力を調整する道具でしたが、徐々に、ファッションとしての性格が高まってきていました。そして、モンキーフリップでは、メガネを衣類と同様に位置付けて販売しているところを、小阪さんは評価しておられるのでしょう。
ちなみに、メガネとは少し違いますが、最近は、マスキングテープも、本来の使い方ではなく、ファッション性の高い文具として販売されるようになりました。このマスキングテープを製造しているメーカーのひとつのカモ井加工紙は、岡山県倉敷市で、1923年にハエ取り紙の製造を始めた会社だそうです。そして、同社には、年に1回、2週間にわたって行う工場見学イベントに、全国から約8,000人もの来場者が詰めかけているそうです。
同社の場合、モンキーフリップとは異なり、製造する側が使い方を開発しているのではなく、利用者の側が主体となって新しい使い方を開発しているようですが、新たな需要を拡大しているという点では共通しています。メガネもマスキングテープも、製品は同じなのに、新しい使い方を提案すれば、市場も新しくなるという点には、注目すべきところだと思います。とはいえ、この「新しい世界」は、コロンブスのたまごのように、見つけることは容易ではありませんが、日常の事業活動で顧客の動向を探る中で発見することができれば、価格に左右されにくい商品とすることができるでしょう。
2023/1/23 No.2231
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