MVVの明確化でティール組織を目指す
[要旨]
リーダーが、組織のミッション、ビジョン、バリュー(行動指針)、すなわち、MVVを明確にし、メンバーの様々な意思決定の拠り所とすることで、リーダーに、都度、伺いを立てることなく、自発的に活動できるようになります。このことによって、ティール組織、すなわち、フラットな自走式組織形態に近づいていくことが可能になります。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、誰かの真似ではなく、自分自身の価値観や信念に根ざしたリーダーシップである、オーセンティック・リーダーシップが注目されてきており、それは、『自分らしさ』を大切にしながら、いろいろなリーダーシップを使い分ければ、そのような態度が人々から共感を得られ、よい成果につながるからということについて説明しました。
これに続いて、岩田さんは、組織のミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Vlue=行動指針)(MVV)を明確にすることが大切ということについて述べておられます。「組織の全員が、MVVに積極的に取り組むように促すことが、リーダーの大きな役割です。MVVがトップを含めた全社員の様々な意思決定の拠り所となるべきです。(中略)
人々がMVVを実現するために、様々な障害を取り除き、会社の方針や慣行やシステムを変え、MVVに忠実に行動できるようにすることが、リーダーの役割です。そうすれば、人々は、リーダーにいちいちお伺いを立てるのではなく、自発的にMVVを拠り所として、自由に動けるようになっていきます。いわゆる、究極的にフラットな『ティール組織』(個々の社員に意思決定権があり、社員の意思によって目的の実現を図ることができる、フラットな自走式組織形態)に近づいていきます。
私は、よく、社長時代に、『社長に忠誠を尽くす必要はない。会社のミッションやバリューには忠誠を尽くして欲しい。社長の私自身が背くことがあれば、遠慮なく指摘をして欲しい』と言っていました。国単位で言えば、MVVは憲法のようなものです。国のトップである総理大臣といえども、憲法には従わないといけません。それと同じです。オーナー系企業には、それを忘れて、『俺がミッションだ』と言う人が多くいます。会社を私物化してはいけないのです。
しっかりとしたMVVがあって、組織に浸透していけば、単に、利益や株価を上げるためだけではない、偉大な組織になっていきます。素晴らしいMVVは、自分達の仕事に対する誇りと意義を喚起し、自分達が素晴らしい組織に属しているのだという自負心を生み出し、仕事に対するコミットメントが増します。MVVは、すべてを正しい方向に向かわせてくれる羅針盤となっていくのです」(127ページ)
ティール組織は理想的な組織ですが、だからといって、リーダーがMVVを明確にするだけでは実現することは難しいと、私は考えています。というのは、従業員の方が、MVVを理解したとしても、直ちに、自ら意思決定を行い、自律的に行動できるようにはならないからです。自ら意思決定できるようになるには、ある程度の経験や訓練が必要であり、何よりも意思決定して活動しようという意欲を持たなければなりません。特に、中小企業では、従業員の方を育成するための余力が少なく、その結果、経営者が細かいことまで指示を出したり、意思決定をしたりしなければならない状態が続いていることが現実のようです。
そのような状況は、経営者が意図していなくても、外部からは、経営者の方が「俺がミッションだ」と考えているように映る場合もあるかもしれません。とはいえ、VUCAの時代は、ティール組織が最も効率的な活動を実現することができるし、高い成果も得ることができることに間違いありません。したがって、時間と労力を要することになるとしても、経営者の方は、自社をティール組織にしていくことが、業績を高めるための鍵になると思います。
2024/4/15 No.2679