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快適ゾーンは同時に危険ゾーンでもある

[要旨]

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、経営者や従業員の間で家族的な付き合いばかりをしていると、ついつい、それが快適になってしまいますが、一方で、それは危険な状態でもあるということです。なぜなら、経営環境の変化に気づきにくくなり、危機への対応力が身に付けられなくなるからだそうです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、事業活動が順調な時は、その勢いを維持し、変更はしない方がよいと考えてしまいがちですが、その場合、経営環境の変化に対応しないことになってしまう可能性がありるので、事業が順調であっても、改善や革新を行うことが大切ということについて説明しました。

これに続いて、新さんは、社外の人たちとも接触し、新たな情報を得たり、感性に触れたりすることが大切ということについて述べておられます。「快適ゾーンとは、社員同士と支え合う組織や構成する個人にとって、家族のような大切な組織である。ぜひ大切にしたい。だが、快適ゾーンは同時に危険ゾーンでもある。快適ゾーンは心地よいゾーンだが、反面、タコツボでもあるからだ。タコツボはタコにとって居心地がよいため、そこから出ることができず、出ようともしない。

社内の居心地がよいことは、色々な意味で恵まれているものの、会社の外へ出なければ得られないものも多い。快適ゾーンは文字通り快適でのんびり、ゆったりできるが、同時に、そこに居続けることで失うものもあるのだ。それが危機への対応力であり、危機を素早く察知する感性である。純粋を徐々に冷やしていくと、零度以下になっても凍らずに、液体の状態のままでいる。

外から見る限り水のままだが、温度は氷点下である。これを過冷却水という。過冷却水は、少し振動を与えるだけで、たちまち氷になってしまう。本来、氷であるはずのものが、液体の状態でいたのが、過冷却水なのだ。氷と気づいたときには後の祭りである。気づかずタコツボの中に居続けていたタコは、ユデダコならぬ冷凍ダコになってしまう。タコツボの中にいては、単なる水と過冷却水を見分けることができない。

タコツボから出て、温度を体感して、はじめて正しい環境を認識できるのである。快適ゾーンから出て行けば、外の寒さに凍えることもあれば、外敵に襲われて傷を受けることもある。しかし、寒さに耐え、傷を受けることによって得られる強さもある。中国のITメーカー、ファーウェイの社内には、次のような詩が掲げられている。『累々たる傷なしに、どこから肉厚の皮が得られようか。英雄は古来より困難により磨かれるものだ』

一度、あええて、快適ゾーンから外に出てみよう。異業種の人、外資系で働く人、歳の離れた人などと会うことにより、社内では得られない情報や感性に触れることができる。ときには驚くような気づき、発見もある。多様化の時代、自分とは異なる多様な人と付き合うことにより自分の幅を広げよう。社内の人は『同様化』の人が多い。そこには刺激も摩擦もない」(143ページ)

新さんの、「タコツボから出て、温度を体感して、はじめて正しい環境を認識できるのである」というご指摘は、これも多くの方がご理解できると思います。しかし、タコツボから出ない人は、特に、大きな会社や、既得権益のある会社には多いと私は感じています。例えば、私が、かつて働いていた銀行は、タコツボに入ったままの人が多い会社の代表例だと思います。

1990年代の後半は、バブル経済の崩壊という時代背景があったとはいえ、多くの金融機関が破綻した要因は、金融機関の経営者の多くがタコツボに入っていたということは否めません。多額の不良債権を抱えて、本来なら事業を継続できない状態になっていたにも関わらず、粉飾決算によって方面を取り繕っていた金融機関が、金融当局の検査で粉飾決算を指摘され、経営破綻を表明したという状況は、まさに、新さんが例えに出した過冷却水が、ちょっと振動を加えられて氷になったという状態でしょう。

それでは、会社の経営者や従業員がタコツボに入ったままにならないようにするにはどうすればよいでしょうか?これについては、私は悲観的に考えています。いわゆる優良企業は、人材育成に費用を惜しまず、継続して従業員のチャレンジ精神を涵養し、長期間、組織の活性化を継続しています。しかし、私を含め、人は、どうしても、安易な道を選択してしまうという習性があるようです。

そこで、いまでも経営者や従業員がタコツボに入ったまま過ごし、気がついたときには、もう対処法がないという状況になってしまうという会社は後を絶ちません。したがって、タコツボに入ったままにならないようにするには、経営者、従業員が、どれだけ危機感を持ち続けることができるのかにかかっているという、極めてミクロ的な要因に帰すると私は考えています。

2024/10/26 No.2873

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