ビッグブラザー制度で離職率がほぼ0%
[要旨]
松江市にある島根電工では、新入社員にマンツーマンで世話係の先輩社員がつき、半年間にわたって公私ともに新入社員の面倒を見るという、ビッグブラザー制度を実施しています。この制度によって、現在は、離職率がほぼ0%を実現しているそうです。このような効果が得られるのは、同社では、せっかく入社してくれた新人を辞めさせてしまうことは、会社の責任であると考えているからだと考えられます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんは、すべての従業員が優等生である必要はないと考えているそうですが、それは、望ましい会社とは、いろんな人がいて、いろいろな仕事があって、それぞれが持ち味に合った仕事をして、バランスをとっていく会社であり、社長の仕事は、従業員の可能性を引き出して、会社にくるのが楽しくてたまらないという環境やしかけをつくることだと考えているからということについて説明しました。
これに続いて、荒木さんは、先輩社員が新入社員に1対1で指導する制度によって、同社の離職率が低くなっているということについて、述べておられます。「今、当グループでは、3年以内に辞める人間はほとんどゼロです。つい、この間まで、離職率は1%でした。なぜ、私たちのところだけ、これほど離職率が低いのか、理由はいろいろあると思います。社員を大切にする社風、お客さまを感動させる仕事のやりがい、手厚い研修制度、福利厚生の充実……。その中でも、特に、『ビッグブラザー制度』、略して『BB制度』が新入社員の離職を防ぐ要因になっているのではないかと思っています。
BB制度は、昭和45年から、島根電工グループで採用されている、人材育成制度です。新入社員にマンツーマンで世話係の先輩社員がつき、半年間にわたって公私ともに新入社員の面倒を見るというものです。現在は、入社してすぐ行われる、20日間の泊りがけの研修が終わると、お兄さん、お姉さん役のBB社員が迎えに来ることになっています。そして、彼らが新人たちをつれて、それぞれの配属先に変えるのです。その日から半年間、ずっとお兄さん、お姉さんが新人のそばにいることになります。新入社員というのは、こちらが想像する以上に緊張しています。
いつトイレに行ったらいいのか、いつ缶コーヒーを飲んでいいのか、そんな些細なことでもわからないことだらけです。彼らがつまらないことで悩んで会社を辞めないよう、年が近いお兄さん、お姉さん、すなわちビッグブラザーがしっかりついて、面倒をみようというわけです。せっかく、うちの会社に入ってくれた人を簡単に辞めさせたらいけません。もし、辞めさせてしまったら、それはこちらの責任です。大切な人材をしっかり育てるために、大事に面倒をみたいと思います」(137ページ)
島根電工のように、入社したばかりの従業員に対して、先輩授業員に指導をさせたり相談を受けさせたりするという制度は、多くの会社が実践していると思います。しかし、「BB制度」を採り入れたとしても、離職率をほぼ0%にすることは、実際には難しいのではないでしょうか?もちろん、BB制度にも効果はあると思いますが、島根電工の場合、「社員とその家族が1番」という方針を打ち出し、それを実現するためのいくつもの働きかけがある中で、BB制度はそのうちの1つということになっています。
ですから、「社員とその家族が1番」という方針があるからこそ、BB制度が活きてくるのだと思います。でも、多くの会社では、先輩従業員が日常の仕事をする合間に、新人指導をするという状態になっていると思います。とはいえ、日常の仕事をするだけでもたいへんなことであり、その合間に新人指導をすることはさらにたいへんなことです。
しかし、そのような状態では、新人は「自分は会社に負担をかけている存在」と感じてしまい、会社を辞めようと考えるきっかけができてしまうかもしれません。そこで、新人への指導はおざなりにせず、しっかりと実践しなければなりません。そして、島根電工は、このたいへんな活動をきちんと実践できているところが、離職立をほぼ0%にできているポイントになっているのだと思います。
2024/3/6 No.2639
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?