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過去の栄光が変化の障害になる

[要旨]

経営者の方は、過去に成功した事例を持っていると、それを維持しようとしてしまうために、経営環境の変化に応じて変化することに躊躇してしまいがちです。しかし、それにとらわれ過ぎていると、顧客を失い、事業活動を継続できなくなるので、経営環境に応じて上手に変化することは避けることはできません。

[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、売上計画を前年並みとしたりするなど、現状維持をしようとすることは、経営者の方が変化を嫌うことの現れであり、その方針で事業活動に臨んでいると、事業は安定的に発展しないので、避けなければならないということを説明しました。これに続いて、渡辺先生は、変化できない会社の要因として、過去の栄光が重荷になっていることがあるということをご指摘しておられます。

「過去の栄光には、3つのタイプがあります。1つ目は、新しいこと自体が、過去に自分が成功してきたことへの否定であることです。例えば、ラーメン屋の券売機があります。出始めのころ、その導入には、かなりの抵抗もありました。ラーメン屋では、オーダーを受けるとき、配膳の時、お客様からお金をいただくときに、お客様と接点を持ちます。その接点でちょっとした会話をしたり、心意気を伝えたりすることで、心遣い、常連客を作ってきたという店主さんもいらっしゃいます。そうした人に券売機をお勧めしても、納得できるはずがありません。(中略)

2つ目は、業界の文化が新しいことを拒絶してしまうパターンです。例えば、寿司業界には、日本の文化を伝えるという重要な役割があります。箸を使う場合は箸置きを使用し、醤油は専用のお皿を利用し、ネタの端に少しだけ醤油をつけ、新鮮なネタを味わいます。(中略)しかし、最近の回転寿司では、受付はロボットやスマホのアプリで行い、席に案内も番号札の自動化、席に着けば、箸置きもなければ、醤油は直接かけ、お吸い物はレーンから運ばれ、お茶もセルフ、自動化により機械で注文し、お会計も無人レジでキャッシュレス決済という、かつての寿司の業界では考えれないことが当たり前になりました。(中略)

3つ目には、自社の存在感を分かってもらえないことへの怒りの感情です。例えば、学習塾の経営者には、勉強だけでなく、子供への人間教育を担ってきたという自負をお持ちの人もいらっしゃいます。(中略)しかし、最近の学習塾は、合格率やテストの点数など、親御さんの求めているものが『結果そのもの』になりつつあります。(中略)時代に合わせ、結果志向にならなくてはいけないのはわかっているけれど、変わりたくないという感情が芽生えることは正直なことなのかもしれません」(37ページ)

私は、人間は、心の深いところで変わりたくないと考えるものなので、ある程度の強い意識を持たないと、変化することが難しいと思っています。ただ、それだけでなく、渡辺先生のご指摘するように、過去のやり方にそれなりの根拠があると、さらに、変化に応じることができなくなると思います。それが、文化や慣習となると、なかなか動くことができないことも理解できます。

ところで、50年以上続く、アニメ番組のサザエさんには、三河屋という酒屋さんの住み込みの従業員の三郎さんというキャラクターが登場していますが、ときどき、磯野家を訪れて、勝手口を開けて、サザエさんに御用聞きをします。この三河屋さんのように、かつての酒屋さんといえば、近所に御用聞きをしながら、お酒を配達するというスタイルが主流だったようです。これはこれでよいスタイルだと思うのですが、いまは、核家族化が進み、共働き世帯が増えているので、御用聞きスタイルの酒屋さんを利用したいと望む顧客は極めて少なくなっているでしょう。

この酒屋さんの例は極端な例ですが、事業活動は、顧客(自社の直接の顧客だけでなく、顧客の顧客である最終顧客を含む)のライフスタイルの変化に合わせて、変えざるを得ないのだと思います。私も古い人間なので、渡辺先生の示しておられる事例にもあるように、回転寿司店の利用者が増えることで、日本の食文化が変わってしまうのではないかという残念さも残っているのですが、それはそれとして、事業活動は、常に変化しなければならないと考えなければならないようです。

2023/3/30 No.2297

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