働きがいを高める魔法の杖はない
[要旨]
従業員の方にとって、働きがいが高い企業とそうでない企業を比較すると、職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化に大きな差が現れています。ところが、これを改善するための「魔法の杖」はないので、経営者の方は、部下に関心を持ち、声かけをすると言った、地道な働きかけが重要です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、立教大学経営学部の中原淳教授の著書、「チームワーキング-ケースとデータで学ぶ『最強チーム』のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、人間は有機的な存在であることから、公式的な組織だけの関係では、円滑な組織活動が困難になるので、従業員同士が仕事とは関係がない場で、非公式組織がつくられるような対策を行うことが必要ということについて書きました。これに続いて、中原教授は、「ひーこらひーこら働いているのに気が枯れている症候群」について説明しています。
「2017年発表の米ギャラップ社による調査によると、日本は熱意あふれる社員の割合がわずか6%、調査対象139国中132位だそうで、国際的に見てもトップクラスに“低い”状況です。(中略)要するに、日本の働く人々の多くは、朝から晩までひーこらひーこら働いてはいるものの、気(=やる気)が枯れているために、『労働生産性』が低い状態に陥っているというわけなのです。(中略)では、そうしたら『働きがい』を向上させることができるのでしょうか。(中略)
(厚生労働省の調査によれば)働きがいが高い企業とそうでない企業を比較すると、その差が大きいのは、『職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化』がトップであることが分かります。『働きがい』や『モチベーション』など、人についての問題は、結局のところ、『労働時間の短縮や働き方の柔軟化』、『職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化』など、『半径3~5mくらいで起きている職場の問題』を、地道に解決していくしか方法はないのです。人々の働きがいやモチベーションを高める魔法の杖はありません。地に足をつけた地道な習慣--例えば、上司が部下に関心を持ち、日々、声をかけるといった試みの蓄積が重要なのです」(41ページ)
中原教授は、「人々の働きがいやモチベーションを高める魔法の杖はありません」と述べておられますが、これは、裏を返せば、「魔法の杖」を欲しいと思っている人がたくさんいるということなのでしょう。でも、組織を構成する人は有機的な存在ですから、やはり、最終的には「地に足をつけた地道な習慣」の積み重ねしかないようです。結局、経営者としては、この「地道な習慣」を避けることができないということを認識し、経営に臨むことは避けられないということだと思います。
したがって、経営の巧拙の差は、この地道な活動に取り組むかどうかの違いによるということになると思います。この点については、真新しい指摘ではないのですが、経営者の方は面倒と感じている方が多いのではないかと、私は考えています。でも、会社を経営するということは、事業活動だけでなく、組織の管理をすることも重要であり、その比重は、年を追って増していると思います。だからこそ、「地に足をつけた地道な習慣」は、経営者の方がさらに注力しなければならない活動になってきていると言えるでしょう。
2023/4/30 No.2328