融資申請の前に既に方針は決まっている
[要旨]
銀行は、6か月ごとに、融資相手の会社の業況や融資取引の状況に基づいて、その会社への取引方針を決めています。したがって、現状維持方針や縮小方針の会社は、融資が必要になり、銀行に融資を申請したとしても、その申請の前に、結論の大勢が出ていることになります。そこで、安定的な資金調達を行うためには、融資が必要になる都度、銀行に自社の業況を説明するのではなく、3か月毎程度に、銀行へ業況を説明することが大切です。
[本文]
前回の記事では、日本の銀行界では、メインバンク制度という不文律の慣行があり、ある会社に対する融資取引方針は、他の銀行も、メインバンクの方針に従うことになっているので、自社がメインバンクとの関係を強化することで、自社がピンチになったときでも支援を継続してもらうことで、他の融資取引銀行もそれに従うようになるということを説明しました。では、このメインバンク制度の慣行については理解できるけれど、そのメインバンクとの関係の強化は、どのように行えばよいのか、その方法がわからないという会社経営者の方も多いと思います。
これについては、私が、中小企業の資金調達のお手伝いを行ってきた経験から感じることは、ほとんどの中小企業では、新たな融資契約をするときだけ、銀行に説明をすればよいと考えているということです。ある意味、融資が必要になったときに、その融資が必要になる理由や、融資金額、融資期間などの希望する条件を伝えなければならないのだから、それは当然と考える方が多いと思います。でも、銀行は、その時の申し出内容だけで融資を判断していません。
具体的には、銀行は、年に2回、6月30日と12月31日時点での、融資相手の会社の業況や、融資取引の状況(延滞の有無や融資額の増減など)等を確認し、その会社に対する取引方針(積極方針、現状維持、縮小方針)を決めます。これは、自己査定という作業であり、もともとは、銀行の融資金の回収できる可能性を点検する目的で行われるものです。このとき、融資相手の会社の業況をもとに、その回収の可能性を計算するので、結果として、融資相手の会社への取引方針も決まるわけです。
そこで、個別の融資の申請への回答は、その融資の申請を行った時点で判断されるのというよりも、自己査定が行われた時点でおおよその方針が決まっているということです。その上で、個別の融資申請があった時に、すでに決まっている融資方針に基づいて、その融資に応じるべきかどうかを、最終的に決定しています。したがって、ここまでの説明から分かる通り、個別の融資申請を行う前に、それに応じるかどうかは、ほぼ、決まっています。
そこで、もし、銀行の自社に対する融資方針が、現状維持か消極方針の場合、融資を受けたいタイミングで申請をしても、手遅れになっている可能性があります。そこで、最低限、自社の決算書ができあがった時点で、自社の現在の状況や、今後の方針を説明することが効果的です。もし、自社の業況が思わしくない場合でも、ある程度の時間を取って、自社の特徴や、改善を試みている内容などを銀行に伝えれば、ポテンシャルを評価してもらえる可能性が高くなります。
さらに、このような自社の業況の説明は、年に1回よりも、3か月毎に、できれば1か月毎に行うことが望ましいことは、言うまでもありません。ただ、3か月毎に説明をしようとしても、多くの会社は、月次決算(ここで指す月次決算とは、翌月の10日ころまでに、当月の業況を把握できる体制を整備して実践していることを指します)を実施していないので、説明に行くことができないという会社も多いでしょう。
それに加え、前述したとおり、融資申請は、融資が必要になった時に行えばよいと考えている会社が圧倒的に多いので、このような考え方で銀行に接していると、銀行からは、思うような回答をもらえなくなる可能性は高くなるでしょう。ただし、逆に言えば、定期的に銀行に自社の業況を説明していれば、自社を評価してもらえる機会が増えますし、銀行の自社に対する評価を前もってつかむことができます。
また、銀行へ定期的に自社の業況を説明に行くことは、安定的に融資を受けるためという前に、自社の業績を改善することにもなりますので、能動的に行うものと考えるべきものです。そして、そういう会社こそ、図らずも自社がピンチになったとき、銀行は支援方針を表明し、そして、それに他の銀行も同じ方針を表明してくれるのだと思います。すなわち、銀行への定期的な業況説明を実施することは、融資を受けている会社にとって、メインバンク制度を活かして、自社のピンチを救うことにつながると言えます。
2023/9/9 No.2460