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1つの業務しかしていない人はリスク

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、1人の人が1つの業務を長く担当することは専門性が高まったり、関係する人たちとの人間関係が深まったりするなどのメリットがありますが、一方で、属人化が進み、既得権益が発生するというデメリットがあります。そして、長期的に見れば、属人化によるデメリットが大きくなることから、経営者の方には、定期的な人事異動を行うことが求められます。

[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、従業員への評価は会社からのメッセージであり、明らかな基準で給料に差を設けることで、評価されなかった人はそのことを正しく認識し、危機感が芽生え、その後、必死で頑張るようになり、その人自身も成長し、また、会社の業績も伸びることにつながるということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、属人化を防ぐために人事異動を行うことは有効であるということについて述べておられます。「繰り返し伝えている『属人化』を防ぐためにも、『人事異動』は有効です。識学では、原則的に『3年に一度の人事異動』をおこなうようにしています。それは、どんなに仕組み化によって考え方を切り替えていても、同じ部署で同じ業務を続けていると、『属人化』が生まれてしまうからです。

1つの業務に慣れてくると、できるだけ頑張らずに作業をこなすようになります。複数の部署があるならば、人事異動が効果的です。もし、営業職で多くを占める会社であれば、そういう人事はできないかもしれません。その場合では、配置換えや担当変えをおこないます。『扱う商品やサービス内容を変える』、『エリアや担当者を変える』など、新しく頭を切り替えるような変化を加えます。

放っておくと、同じ得意先へのルーティン作業だけで目標をクリアし続けられるようになってしまいます。その状態は、『属人化』の一歩手前です。そのタイミングに人事異動などをおこなうことで、また一から試行錯誤する状態にリセットができます。リセットといっても、前の業務スキルを引き継いでいるわけですから、さらに大きな視野で次の業務に当たることができます。そうやって、1つ1つの壁を越えていくことで、より大きな視点を獲得していく人が『出世』をします。

これがもし、1つの部署しか経験していない人が叩き上げで出世したら、どんなことが起こるでしょう。たとえば、営業だけをやってきた叩き上げの人が、営業部長になるとします。そして、その営業部長が自分で稼ぐようになります。いつまでもプレーヤーの動きを統けて、『自分のやり方』を全員に押し付けて、画一化します。さらに、それに対して何も言わない人だけを過大評価し、副部長や課長に昇進させます。上司・部下の関係性でも、『既得権益』は生まれるのです。

ずっと同じ上司・部下の関係が続くと、そこに『悪い権利』が出できます。簡単に言うと、『仲良くなりすぎる』ということです。『この上司についていくためだけに頑張る』という状況を生みます。この感情は(中略)『カリスマ性』と同じく、短期的にカを発揮するかもしれません。情がわくことで、やる気が出る部分はあるからです。しかし、長期的に見ると、デメリットもあります。その上司が部署異動や退職をしたときに、部下たちがそれを不満や会社への不信感に捉えてしまうのです。

個人としての成長を考えたときに、『1人でどこでも生きられるようにする』、『どんな組織でも働けて、結果が出せるようにする』ということを期待すベきです。なので、人事異動と同じく、上司・部下の組み合わせも、定期的に変える仕組みが必要です。同様の理由で、営業先のクライアント担当なども配置換えをしたほうがいいでしょう。異動したり、転勤したりすると、担当者が変わります。そうすると、お客さまのほうから、『前の担当者がよかった』、『担当者を変えるなら、御社との付き合いはなくします』というようなことを言われるかもしれません。

しかし、組織が正しく機能していれば、うまく引き継ぐことができるはずです。『誰が担当しても同じバフォーマンスを出すことができる』という仕組みをつくることができるからです。そのためには、自分の仕事をマニュアルに落とし込んだり、人に伝えられるようにしておくことが求められます。仕組みの発想があれば、担当替えのリスクも回避できるのです」(180ページ)

人事異動をしないことにはいくつかの利点があります。それは、従業員の専門化が進む、従業員同士や従業員と顧客との人間関係が深くなる、人事異動によるコストを減らすことができるというものです。その一方で、人事異動をしないことによるリスクもあり、それは安藤さんがご指摘しておられる通りです。そして、特に、中小企業では定期的な人事異動、すなわち、ジョブローテーションは避けられる傾向にあります。その理由は、従業員数にあまり余裕がなく、ジョブローテーションを行うことで生じる負担をなくしたいということのようです。

その結果、当然のことながら、会社内で不祥事が起きたり、従業員と顧客の癒着による不正が起きたりします。また、表面化しにくいものの、従業員が自分の担当する業務だけを優先するようになる、すなわち、部分最適を目指すようになり、会社全体からみた最適化を目指すという全体最適の視点を欠くことになり、事業活動の効率化が損なわれます。さらに、ジョブローテーションを行っていれば、従業員の多能化、すなわち、複数の業務の習得が進み、経営環境に合わせた柔軟な人事を行うこともできるようになります。

ただ、ここまでの論理は容易に理解できるものの、実際に定期的な人事異動を行おうとすると、やはり、負担がかかるということから、なかなか、踏み切れないという経営者の方が少なくないようです。でも、繰り返しになりますが、長期的な視点かれみれば、ジョブローテーションを避けることは、リスクが高まり、同時に、競争力を弱めることになります。したがって、経営者の方は、一見、負担となると思われるジョブローテーションを着実に実践する重要な役割を担っていると、私は考えています。

2025/1/7 No.2946

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