『良いものは売れる』という誤謬
[要旨]
経営者の中には、「良いものを作れば売れる」と考える方がいますが、それは、独りよがりの製品となることがあり、必ずしも売れるとは限りません。そのような、経営者の独りよがりは、顧客体験価値に経営者の目が向いていないからと考えられます。したがって、独りよがりを防ぐためには、顧客体験価値を提供することに目を向けることが重要と考えることができます。
[本文]
KRBコンサルタンツ株式会社の代表取締役の椢原浩一さんの、東洋経済オンラインへの寄稿を読みました。「『本当に良いもの』を作れば、お客さまは買ってくれる、食べに来てくれる、必ず売れるはずだ、こう考えている経営者は少なくありません。しかし、この『本当に良いもの』という言葉で、多くの経営者が判断を誤ってしまうのです。経営者が真面目であればあるほど、『良いものを作れば、良い仕事をすれば、お客さまは買ってくれるに違いない』と思ってしまうのかもしれません。
ところがこれは、経営者、すなわち販売側、メーカー側、サービス提供側の独りよがりのものになってしまい、顧客に受け入れられないことが多々あるのです。経営者である以上、顧客のニーズに合ったものでなければ売れるはずがないことはよくわかっているはずです。にもかかわらず、『良いものを作れば、良い仕事をすれば、お客は買ってくれるに違いない』と考え、独りよがりの商品やサービスを生んでしまうのです。経営者でありながら、独りよがりの商品やサービスを生んでしまうのは、なぜでしょうか。私は、『企業経営に対する経営者の基本姿勢』が間違っているのではないかと思っています」
私も、これまで多くの中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた中で、「独りよがりの商品やサービスを生んでしまう」経営者の方を何人も見てきました。これについては、アカデミックな説明をすると、マーケティングマイオピア(近視眼的マーケティング)という考え方で説明することができます。しかし、椢原さんもご指摘しておられるように、「独りよがりの商品やサービス」を販売しようとする経営者が少なからずいるというのは、そういう経営者は、「良いものを作れば、良い仕事をすれば、お客は買ってくれるに違いない」と考えてしまうからだと思います。
傍から見れば、「経営者の考える良いもの」と、「顧客が求めるもの」は、必ずしも一致しないのと考えると思うのですが、前述のような独りよがりの経営者の方は、自分の価値観と同じ価値観を持っている顧客は多いと考えてしまうようです。これは、上から目線で恐縮なのですが、経営者の方に自惚れている面があるからと考えられます。確かに、かつては、「良い製品」を作れば売れる時代がありました。しかし、現在は、顧客の感じる価値は、製品そのものの価値よりも、製品を入手して得られる顧客体験価値に比重が移りつつあるということは、多くの方が認識していると思います。
しかし、製品を提供する立場に立つと、顧客体験価値にはなかなか目が向かず、製品そのものの良し悪し、それも、経営者の価値観による良し悪しで製品を判断してしまうようです。これを言い換えれば、経営者でありながら、顧客に価値を提供しようとする立場に立っているのではなく、単に、自分が作りたいものを作ることだけを考えているのではないかと、私は考えています。
したがって、経営者の方は、これからは、製品やサービスを提供して勝負すると考えるのではなく、顧客体験価値を提供して勝負すると考えなければならないでしょう。繰り返しになりますが、どのような顧客体験価値を提供するかを考えていれば、独りよがりの製品やサービスを提供する失敗を防ぐことができるようになると、私は考えています。ただし、顧客体験価値を提供することは、経営者の取り組む課題として難易度が高いという面もあると思います。すなわち、それは、これからは、経営者のスキルが増々重要になっているということでもあるでしょう。
2023/10/26 No.2507
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