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経営分析の役目は将来の見極め

[要旨]

会社の過去の業況は、財務分析で行うことができますが、融資審査は、過去のデータから、将来、どうなるかを分析した結果で判断します。そこで、これまで業況が良かったとしても、それが将来も続くかどうかを判断する情報を銀行に提供すると、融資審査に有利に働くことになります。

[本文]

経営共創基盤CEOの冨山和彦さんのご著書、「IGPI流経営分析のリアル・ノウハウ」を拝読しました。経営共創基盤はコンサルティング会社ですが、冨山さんは、かつて、産業再生機構のCOOとして、多くの会社の事業再生に携わっておられ、会社の目利きについて優れた見識をお持ちの方です。そして、同書には、その冨山さんの「経営分析」のノウハウが書かれているわけですが、これは、銀行の融資審査の目線の理解に役立つと思いましたので、今回から数回に分けて、私が気づいたことについて述べたいと思います。

今回は、潜在的なリスクについてです。「もし、売上の大半を占める商品があるとしたら、その企業の最大の課題は、その商品の価格が崩れたらどうすべきかということだ。値崩れするリスクがどれくらいあり、そういう場面に遭遇したらどう対処すべきかを考えておかなければいけない。そもそも、その価格が今まで通ってきた理由が何かも見ないといけない。例えば、あるマーケットで独占的地位を築いてきたからだとすれば、独占を崩すような競争相手が出てくるか、何らかの理由で独占禁止法に引っかかったりしない限りは、その企業の収益基盤は安定している。多少、人件費が高かろうが、間違いないはずだ。

逆に、明確な背景理由がなくて、たまたま価格に変化がなかったという場合は、今の価格体系が維持できるかどうかは予測がつかない。崩れた瞬間に一気に業績が悪化することもありうるだろう。このように、リアルな経営分析では、その企業が抱えている潜在的なリスクは何か、ということも視野に入ってくる。過去を評価するのではなく、将来はどうなるのかを見極めるのが経営分析の役目だからだ」(26ページ)

銀行が融資審査をするときは、当然、融資の申し込みをしてきた会社の利益率を計算します。そして、その利益率が高ければ、よい会社ということです。この利益率が高いかどうかという分析は、財務分析です。しかし、融資の可否の判断は、財務分析の観点だけでは、行いにくいものです。それは、冨山さんの述べておられる通り、販売しているの利益率が、これからも続くかどうかという観点からも判断しなければなりません。もちろん、これまで赤字だった会社よりも、黒字の会社である方が、融資審査に有利です。

しかし、過去が赤字であっても、これから黒字になる見通しが高ければ、融資を可と判断できるし、逆に、過去が黒字であっても、これから赤字になる見通しが高ければ、融資を不可とする判断に至ることになるでしょう。そこで、融資を受けている会社の経営の方は、自社の業績の見通しがどうなるのかという判断材料を、銀行に提供すると、融資審査に有利な判断材料になります。例えば、自社製品の競争力の高さは、特許技術を使っている、受注してから納品するまでの時間がライバルと比較して短い、顧客を組織化して、常に需要に対応した製品を販売しているといった強みを銀行に伝えると、自社製品の将来の値崩れのリスクは少ないと、銀行に判断してもらえるようになるでしょう。

ただ、もし、自社の強みを正確に把握していないという場合は、商工会議所などから経営コンサルタントを紹介してもらい、そのコンサルタントに自社の強みを分析させ、その結果を銀行に提出するという方法もあります。少なくとも、「この会社がこれまで業績が良かったのは、単に運がよかったからだ」と、銀行に判断されるようなことは避けたいものです。

2022/9/19 No.2105

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