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仕事を手放すことがリーダーの仕事

[要旨]

ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんは、かつて、マザーハウスに勤務していましたが、その時、同社の台湾進出に際し、現地に詳しい日本人に現地のマネジメントを任せたことがありました。それまで、迫さんは、マイクロマネジメントをするタイプのマネージャーでしたが、台湾進出に際してはマネジメントを委任せざるを得ませんでした。しかし、かえって、その方が、迫さんがリーダーの本来の仕事に集中できるようになり、組織のパフォーマンスが向上したそうです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ミスターミニットでは、かつて、経営者の機嫌を損ねた従業員は降格させられていたため、経営者が不機嫌になるような情報を伝えることはタブー視されていたことから、同社の業績を改善しようとして社長に就いた迫俊亮さんは、この状況を改善するため、現場の本音を伝えてもらうよう、現場と経営は上下関係はなく、対等なのだということを伝えていったということを説明しました。

これに続いて、迫さんは、かつて、ご自身がマザーハウスに勤務していたころのご経験を通して考える、リーダーシップについてご説明しておられます。当時、迫さんは、マザーハウスが台湾に進出するときに、同社代表の山口さんと一緒に台湾に行き、現地で紹介された松岡光一さんについて述べておられます。松岡さんは、台湾に10年間住んでおり、中国語を話すことがてきることから、山口さんは、台湾でのリーダーとして松岡さんを採用することにしたそうです。

しかし、そのことは、それまで自分が3人分働くことでリーダーシップを発揮してきた迫さんにとっては、言葉の問題などから、自分のいままでのやり方が通用しないことになり、不安を感じていたそうです。「戸惑いや不安がなかったと言えば、ウソになる。しかし、言葉の壁を超えられない僕は、実務やオペレーションに関する業務は、すべて、松岡さんを信頼して任せるしかなかった。すると、どうなったか?驚くほどいろいろなことがうまくいくようになったのだ。(中略)現地社員やアルバイトのマネジメントも、一人ひとりの能力や性格は僕には分からないから、松岡さんに適材適所の配置を任せる--。

それまで自分が管理していた様々な仕事を任せた結果、組織全体を見渡せるようになった。そう、リーダーの本来の仕事に集中できるようになったのだ。一方で、松岡さんも、重要な仕事を任せて行く中で、みるみる成長していった。(中略)『リーダーの仕事は、スーパーマンのように、すべてを一人でこなすことじゃないんだ』なんでもかんでも口を出し、最終的に手まで出すマイクロマネジメントしか知らなかった僕にとって、その気づきは相当なインパクトだった」(94ページ)

この、権限委譲を進めればマネジメントがうまくいくという考え方も、多くの方がご理解されると思います。私も、これまでお会いしてきた中小企業経営者の方を見ていると、「自分は何もすることがない」と口にしている経営者が経営している会社ほど、業績が高いということを実感しています。ただ、迫さんが述べておられるように、「驚くほどいろいろなことがうまくいくようになった」という点については、私は、直接の因果関係がないので、論理的ではないと思います。

しかし、かつて迫さんが実践していたマイクロマネジメントが、会社内に行きわたることでしか満足できない人からすれば、そう感じるのではないかと思います。でも、人によって仕事のやり方は異なるわけですから、会社内では、ある程度の足並みが揃うことにはなるものの、権限委譲を受けた部下たちが、完全には、経営者と同じ判断をして活動するとは限りません。でも、そうであっても、一人の経営者が、マイクロマネジメントを実践するよりは、業績は高まることには間違いないと思います。

そのような観点から、権限委譲によって、「驚くほどうまくいった」ということをであれば、迫さんの指摘は説得力があると、私は考えています。そして、それは、迫さんが、「リーダーの本来の仕事に集中できるようになった」と述べておられることからも分かるのではないかと思います。逆に、細かいことに口を出すことに生きがいを感じているような経営者の方が経営する会社は、これから経営環境がますます激しく変化する時代にあっては、ライバルとの競争に勝てなくなっていくと思います。

2023/10/11 No.2492

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