複雑な因果関係は模倣されにくい
[要旨]
イタリアのサッカーチームの守備力は、チーム全体の守り方によるもので、優秀な選手をそろえるだけでは実現できません。ストーリーとしての競争戦略も、同様に、どのように競争するかというストーリーに強みがあり、かつ、打ち手の複雑な因果関係は模倣されにくいので、競争優位性が持続します。
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今回も、一橋大学の楠木建教授のご著書、「ストーリーとしての競争戦略」から、私が気になったところをご紹介したいと思います。今回は、ストーリーの重要性の理由についてです。楠木教授は、ストーリーの重要性について、サッカーに例えて説明しています。
「サッカーでいえば、ロベルト・バッジョやアレッサンドロ・デル・ピエロのように、ずば抜けた能力を持つファンタジスタがいれば、確かに得点は入りやすくなります。しかし、そうした有力選手という要素に依存した競争優位であれば、その選手が他チームに引き抜かれてしまえば、(その競争優位は)失われてしまいます。一方で、ブラジルチームに固有の流れるような攻撃パターンや、イタリアチームのお家芸、「カテナチオ(鍵をかける)」と呼ばれる鉄壁の守備の方法は、チーム全体の攻め方、守り方にかかかわる強みです。
仮にイタリアから数人の有力選手を引き抜いてきても、カテナチオは再現できないでしょう。どうしたらそういうことができるのか、因果関係が複雑でわかりにくいので、真似されにくく、優位が持続しやすいのです」中小企業経営者の方は、「当社にも優秀な従業員がいてくれたら…」と感じることは少なくないと思います。私も、それは理解できるのですが、優秀な従業員をそろえるだけでは、競争力の強化には限界があります。
事業活動は組織的な活動、すなわち、チームプレーなので、どのように戦うのか、そして、チームとしてどのような独自性を出すのかということも、競争力を高める重要な要因です。だからこそ、楠木教授のいう、より太くて長いストーリー作りが重要であり、それは経営者の能力にかかっているということでしょう。さらに、そのストーリーは、部外者からは見えにくいので、模倣もされにくく、さらにライバルに差をつけることになるということを、楠木教授は指摘しています。
経営者の方の中には、競争力を高めるには、優秀な従業員を揃えたり、ヒット商品を開発したりすることが重要と考えている方が多いと思います。それも間違いではないと思うのですが、ライバルよりも1歩先を行くには、楠木教授のいうストーリーに目を向けることが鍵になると思います。楠木教授は、ご著書の中で、「だれが」、「なにを」よりも、「なぜ」が大切と指摘していますが、競争力の高い会社は、経営者が、「なぜ」を徹底的に追及しているのだと思います。