権限委譲で生産効率を高める
[要旨]
阪神佐藤興産の社長の佐藤祐一郎さんは、同社で働き始めたころ、若手に現場監督をさせるようにしました。それにより、生産効率が高まり、事業が拡大すると同時に、同社が、施工会社→施工管理会社→営業会社(元請会社)へと事業形態の転換を行うことができたそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、佐藤さんは、従業員の採用面接のときに、応募してきた学生に対して、自社の現預金が、月商の1億円の9倍もあるので、つぶれることはないとご説明し、また、月次決算書も見せて、クリアな会社という印象を持ってもらい、自社に対する印象を高めているということを説明しました。
これに続いて、佐藤さんは、権限委譲による生産効率の向上について述べておられます。「(佐藤さんが阪神佐藤興産に入社して間もない頃)私が大きな塗替え工事をとってくると、現場監督が足りない状況が続いていました。最初は、ベテランの塗装職人さんに、現場監督をやってもらいました。ところが、27歳の私が50歳以上のベテラン職人さんに指示を出しても、動いてくれないことが、よくありました。困った私は、うちの若手職人(21~25歳)に、こう言いました。
『オマエ、監督やれ』『エッ、そんなんムリです』『オレが面倒見たるから、大丈夫やからやれ!』『………』というわけで、若手の現場監督が誕生しました。みんな経験はなかったけれど、私の言うことをよく聞いてくれて、現場は以前よりすごくスムーズに進みました。このことを、生産効率で考えてみます。1人の職人は、どんなにできる人でも、普通の人の倍くらいです。倍のことを3日も続けると、疲れて休んでしまう。結局、1人の職人は、1人分の生産効率なのです。
しかし、現場監督となると、監督の下に10人以上の職人を使う。作業をする職人は、こちらが管理さえしっかりすれば、外注でもいいのです。うちの若手職人が現場監督になった時点で、簡単に言うと生産効率が10倍になった。同じ人数で10倍の仕事がこなせるようになったわけです。そこからわが社はさらに変化を続けます。現場監督の経験を積んで、塗装以外の建築工事の知識やお客様とのコミュニケーションの取り方を身につけてきた若手に、当時の電子機器(中略)を持たせて、文書作成や通信ができるように、一所懸命に教えました。
デジタルと言っても、幼稚な段階ですが、これが自信になって、わが社の職人たちの中から、営業になるものが複数出てきました。営業になると、現場監督を3人あkら5人くらい使いますから、またまた人的生産効率がアップします。こうして、わが社は、下請の施工会社(職人の会社)、施工管理のできる会社(現場監督の会社)、そして営業会社へと、事業形態を変えてきました。同じ人数で生産効率は何十倍にもなっています。このように、事業形態をかえることと、元請比率を上昇させることを、同時にやってきました」
私が中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、事業が拡大するかどうかは、佐藤さんのように、部下に権限を委譲させ、そして、それを通して部下を育成しているかどうかです。逆に、いつまでも社長がすべてのことを指図していれば、社長が指図できる範囲でしか事業活動が拡大しないでしょう。もちろん、事業拡大することが、常に正しいわけではありません。しかし、経営者自身が事業活動を大きくしたいと考えていながら、一方で、すべて自分が指図しなければ気がすまない、または、自分以外に意思決定をする人がいない状態を放置しておけば、社長の意図するところは実現しないままとなります。したがって、事業拡大をするには、まず、社長が権限委譲と人材育成に目を向けなければなりません。
2023/12/26 No.2568