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後継者の条件は1つ上の視点を持つこと
[要旨]
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、新さんがJ&Jの社長時代に、優秀な部長を後継者にしようと考え、役員に引き上げたものの、その部下は、他人の欠点ばかりに目が向いてしまい、認めることができなかったことから、自分も他人から認められず、数年で辞めてしまったそうです。この経験から、新さんは、後継者候補には、部長は社長の視点と持つというような、1つ上の視点を持つことが欠かせないと考えるようになったそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんは、かつて、J&J日本法人の社長に就任するとき、当時のアメリカ総本社CEOジェームズ・バーク氏から、「君が社長職をまっとうしたとき、どんなに業績を伸ばしたとしても50点であり、在任中に後継者を育て上げなくては100点にならない」と言われたそうですが、これは、業績と人財育成の両面で評価するのは、アメリカのエクセレトカンパニーに共通する特徴であり、企業は“Going Concern”(継続的組織体)だからだということについて説明しました。
これに続いて、新さんは、社長の後継者は会社全体を俯瞰する視点を持っている人が相応しいということについて述べておられます。「私がJ&Jの社長のとき、抜群に優秀な部長がいた。私は彼を後継者にしようと役員に引き上げた。任命して数年で、彼は、結局、辞めてしまった。彼はデキル人だった。デキル人ほど他人の欠点や粗ばかりがよく見えてしまい、人を心から認めることができない。以心伝心で人にも信頼されないという結果を招く。
人は自分を認めてくれる人を認めるものだ。自分が人を信頼して、人から信頼されなくては、トップは務まらない。辞められるのは大変残念だったが、このときわかったことがある。後継者、特に重要なポジションの後継者は、仕事がデキルだけではだめで、仕事の実力・実績よりも、価値観の共有度がより重要ということだった。価値観の共有とは、J&Jにあっては、企業理念『わが信条』の共有度・理解度である。理念の共有とともに必要なのが、『1つ上の視点』である。
課長は部長の視点で、部長は社長の視点で、会社といまの自分がどう見えるか想像してみることだ。いま見ている風景とは、違った景色が見えるはずである。そこで、いま見えている風景と1つ上の視点から見える風景を比べてみるとよい。自ずと自分がやるべきことがわかるはずだ。それが後継者として求められていることなのである。いま見ている世界が、世界のすべてと思うのは大きな勘違いだ。視点が上がれば、見える世界が異なってくる」(41ページ)
ビジネスに携わっている人、特に、経営者の方は、部分最適ではなく、全体最適で活動しなければならないということは、ほとんどの方が理解しておられると思うのですが、新さんも、かつての部下のことについてご指摘しておられるように、実際にはなかなか実践されないようです。その原因の一つは、「緊急性が重要性を駆逐する」からだと思います。例えば、人材育成は大切だということは理解していても、日常は目の前の課題に取り組むことで懸命になり、なかなか人材育成に取り組むことができないでいるという経営者の方は多いと思います。
では、経営者の方が、「緊急性が重要性を駆逐」されないようにするにはどうすればよいのでしょうか?それは、経営者の方はマネジメント業務に専念することだと思います。とはいえ、中小企業では、経営者の方が、100%マネジメント業務に専念することは難しい面があると思うので、70~80%はマネジメントに専念するようにすればよいのではないかと思います。しかし、社長がマネジメントに専念することも難しいという会社も少なくないと思います。それは、例えば、部下たちのスキルが低いために、社長がなかなか現場から離れることができないということだと思います。
だからこそ、社長は現場を離れてマネジメント業務に専念する必要があるのです。ただ、社長がなかなかマネジメント業務に専念できない理由には、社長がマネジメント業務より、事業の現場で働くことの方に関心が高いという事情や、「社長」という肩書きはあるものの、マネジメント業務はあまり得意ではないという理由があるのかもしれません。しかし、社長が、なかなか、事業活動の現場から離れることができなければ、計画的な活動はできず、行き当たりばったりの成行的な活動しかできないままとなり、事業活動の成果もあまり期待できるものとはならないでしょう。
したがって、「緊急性が重要性を駆逐する」状態の会社は、最終的には、社長がマネジメント業務に軸足を移そうと強く決断する意外には、抜本的な対策はないと、私は考えています。ただ、冷静に考えれば、社長の本来の役割はマネジメントをすることなので、本当は「社長」という肩書をつけた時点で、その役割を担わなければならないと認識すべきなのだと思います。
2024/10/16 No.2863