創業時に個人保証を求めない新しい制度
[要旨]
岸田総理大臣は、信用保証制度において創業時に個人保証を求めない新しい制度を創設すると表明しました。このことは、起業時の障害を減らすことにつながりますが、融資審査は、より、事業の内容を重視することになると思われます。
[本文]
6月2日、岸田総理大臣は、総理大臣官邸で行われた日本スタートアップ大賞2022表彰式で、「起業にチャレンジする人を増やすために、融資の際の個人保証慣行を変えていきます。具体的には、商工中金のスタートアップ向け融資の経営者保証を原則廃止するとともに、信用保証制度においても創業時に個人保証を求めない新しい制度を創設いたします」と述べました。同様の内容は、6月6日に公表された、「中小企業政策審議会金融小委員会中間取りまとめ」にも記載されています。
まだ、具体的な制度については公表されていませんが、これが具体化すれば、「起業関心層が考える失敗時のリスクとして、『借金や個人保証を抱えること』と回答した者が77%」(前出の中間とりまとめ)となっている状況にあって、起業をするときの障害が低くなるでしょう。しかし、銀行が経営者の個人保証を求める理由には、融資を回収するにあたっての、経営者の資産をあてにするという側面は、あまり強くありません。そもそも、起業するときに、会社が融資を必要とするのは、経営者ではまかないきれない額の資金が必要になるからであり、そのような状況で経営者が潤沢な資金を持っているということは、ほとんどないでしょう。
それでは、銀行は、なぜ、経営者の個人保証を求めるのかというと、それは、「規律付け」を求めているからです。この規律付けとは、経営者が業績向上のために努力してもらうことで、融資の返済がより確実になるようにすることを狙ったり、会社が借りた融資を、経営者の私的なことに流用することを牽制したりすることです。したがって、創業者向け融資に個人保証が条件とならない場合、新たに始める事業の内容の妥当性が、より厳格に審査されるようになると私は考えています。個人保証を求めない融資が増えることは好ましいことですが、だからこそ、事業の内容も十分に検討され、銀行から見て説得力のあるものとしなければならなくなって行くでしょう。
2022/6/9 No.2003