スタートアップ創出促進保証制度
[要旨]
3月から取扱が始まった、スタートアップ創出促進保証制度は、経営者の保証を不要としていますが、3年後、5年後に、ガバナンス体制についてチェックを受けることが要件になっています。しかし、そのチェック項目は、現在、多くの中小企業では実践できていないものが多く、条件を満たすためには、しっかりとした体制の整備が必要です。
[本文]
3月15日に、経営者の個人保証を不要とする創業時の新しい保証制度(スタートアップ創出促進保証)の取扱が始まりました。これは、もちろん、「経営者の個人保証が起業・創業の阻害要因とならない」ようにするための制度です。この制度で、私は、「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」に注目しています。これは、「本制度により融資を受けた後、会社を設立して3年目、及び、5年目のタイミングで、中小企業活性化協議会による確認、および、助言」を受けるためのものです。
そして、チェック項目は、「経営の透明性」、「法人個人の分離」、「財務基盤の強化」に分かれていることから、経営者保証ガイドラインに示されている、融資を受ける会社に努めることが求められている対応の内容を沿ったもののようです。したがって、このチェックシートは、経営者保証を不要とする会社をチェックするものと言えるでしょう。では、具体的な内容はどのようになっているかというと、ひとつめは、「支援者が必要なタイミング、または、定期的に経営状況等について内容が確認できるなど、経営者とのコミュニケーションに支障がない」と書かれています。
これは、恐らく、最低でも3か月に1度は試算表を提出できる体制にしておくことを求めていると、私は考えています。また、「経営者は、会計方針が適切であるかどうかについて、例えば、『中小企業の会計に関する基本要領』の適用に関するチェックリスト」等を活用することで確認した上で、会計処理の適切性向上に努めており、支援者はそれを確認できる」という項目もあり、中小企業の会計に関する基本要領(中小要領)に基づく会計処理も求められているようです。
さらに、EBITDA有利子負債倍率(銀行からの融資額が、営業利益と減価償却費の合計額の何倍あるかを示す数値)は15倍以内であること、減価償却前経常利益は2期連続して赤字でないこと、純資産については直近が債務超過でないことなどが求められています。この、財務面については、黒字を維持していれば、達成は難しくないと思います。むしろ、実践が難しいのは、情報開示の体制だと思います。とはいえ、迅速な会計情報の把握は、銀行から求められる前に、自社の事業を発展させるために重要なことなのですが、多くの中小企業では、これを実践することは負担になっているようであり、実践している会社は少数のようです。
それでは、もし、このチェックシートで求められている項目を達成できない場合、融資取引を継続できなくなるのかどうかということについては、現時点ではわかりません。ただ、すでに、銀行は、金融庁から、「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の促進」を求められており、前述のチェックシートに該当しないような会社に対しては、融資を断る可能性が高くなると私は考えています。ただし、融資を受けようとする会社は、チェックシートで求められている項目を達成することは、銀行から融資を受けるためだけに必要と考えるべきではないと、私は考えています。
「財務基盤の強化」の項目は、自社の努力だけで実現できない面もありますが、「経営の透明性」と「法人個人の分離」の項目については、これらを満たすことは、自社の体質を強めることでもあります。むしろ、経営環境が激化している現在は、これらを満たせる会社でなければ、早晩、事業は行き詰るでしょう。すなわち、前述のチェックシートは、そういった会社を、起業の時点で振り分けているという性格のものでもあると思います。したがって、銀行から経営者保証なしで融資を受けることができるようにするためには、思い付きだけで起業するのではなく、それなりのしっかりとした体制を整えることが必要ということに尽きると思います。
2023/5/23 No.2351