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適正な人員配置でチェック機能を構築

[要旨]

公認会計士の安本隆晴さんは、経理担当と財務担当は、内部統制の観点から、別の人が担わねければならないと考えているそうです。もし、両者を同じ人が担当すると、例えば、顧客から売掛金10万円を回収しても、2万円を横領し、8万円だけ回収したと記録することが可能になるからです。そして、このような体制は、会計記録の信頼性を損なわせてしまうことになります。

[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安本さんが、ファーストリテイリングの監査役に就任し、上場のための準備を始めたとき、同社は、まだ、管理部門の業務が属人的になっている状態だったため、柳井社長に改善を依頼し、経理部門の従業員を中途採用してもらうことにより、管理部門の体制を強化し、同社は上場を果たせるようになって行ったということについて説明しました。

これに続いて、安本さんは、適正な人員配置が内部統制を機能させるために必須であるということについて述べておられます。「一般的に、『経理』は会社全体の会計の取りまとめ、帳簿記入、決算作業を行い、『財務』は、現金・預金・手形などの現物を扱い、銀行借入などの資金繰を担当します。経理と財務は同じ人がやってはいけない業務の代表格です。同じ人が行うと、不正や間違いが起きやすいので、内部牽制上、別の担当者が必要なのです。例えば、売掛金の回収担当者と、帳簿記入担当者と、預金担当者が、同じ人だったらどうでしょう。

今、売掛金10万円を、得意先から現金で回収してきたとします。8万円しか回収しなかったことにして、8万円を帳簿記入上入金処理し、それを預金し、残りの2万円を横領する、なんてことが可能です。ここでは、各担当者を分け、相互チェックする体制を整備・運用していれば、このような不正は防げます。実は、こういう不正ができないような組織にしておくのは、経営者の責任なのです。適正な人員配置とチェック機能を持った諸手続きの制度こそ、不正や間違いを予防・発見するための基礎なのです。難しい言葉で言うと、内部統制制度ですが、これが会計思考を支える土台とも言えます」(49ページ)

安本さんは、ここでは直接的な言及はしていませんが、会計的な考え方では、会計記録は真実でなければなりません。これは当たり前のことなのですが、だからこそ、不正などによって、真実でない記録がしばしば行われることがあると、会計記録そのものの信頼性がなくなり、目的を果たすこともできなくなってしまいます。そこで、会計記録が正確であることを維持することは、会計的な観点でとても重視されています。それに加えて、不正はコンプライアンスの観点から問題である上に、年を追って、会社のレピュテーション(不評)は重要になりつつあります。

これまで何度もお伝えしてきましたが、管理部門は、かつては、コストセンターというネガティブな評価をされてきました。しかし、現在は、しっかりとした管理が行われなければ、利益を生み出すための強力なプロフィットセンターを維持できないと考えるべきでしょう。残念ながら、現在でも、管理部門を強化することは、コストを増やすことになると考えられがちですが、土台である管理部門がしっかりしているからこそ、強力なプロフィットセンターを構築することができるという考え方をすべきでしょう。

2024/1/6 No.2579

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