急激な修正よりも着実な成長を促す
[要旨]
千葉ロッテの吉井監督は、選手を急いで育成しようとすると、途中で伸び悩んでしまうので、時間がかかってでも、成長が止まらないペースで育成する方が、成長が持続し、また、最終的な能力も高くなると考えています。そして、これは、ビジネスパーソンにもあてはまると考えているそうです。
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今回も、前回に引き続き、千葉ロッテマリーンズ監督の、吉井理人さんのご著書、「最高のコーチは、教えない。」を読んで私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、コーチは、自分ができたことは選手もできると考えてしまうと、必ずしも適切な指導ができるとは限らないので、選手に合わせて指導をすることが大切ということを説明しました。これに続いて、吉井さんは、選手に急激な軌道修正を求めるよりも、着実な成長を促すことが重要ということを述べておられます。
「ビジネスの世界では、自分の課題を見つけ、それをすぐに修正し、自分の行動を変えていくスピード感が問われるという。先程のポジティブなタイプの選手への対応は、これと正反対の方向に進んでいるように見えるかもしれない。しかし、僕は、急激な軌道修正をしない方が、むしろ、早く変化すると思っている。つまり、スピードを求め過ぎると、結局、途中で伸び悩み、ゴールに到達しないと思っているのだ。反対に、急激な軌道修正をしなければ、歩みは遅いかもしれないが、止まることはない。回り道をしても、ゴールに到達する可能性は高い。
しかも、いったん、ゴールに到達すれば、なかなか能力は落ちないと思っている。人に何かを言われてすぐに変える人は、思考や行動の起伏が激しい。逆に言えば、すぐに変えさせなければ思考や行動は安定して推移する。起伏が激しい人は、上がるのも急激なら、下がるのも急激だ。落ちたときの反動が怖い。安定して長く活躍して欲しい人には、結果をあまり急がせない方が、逆説的に、成長スピードが早まる」(179ページ)
人材育成は、一朝一夕では効果が現れないという吉井さんのご指摘も、多くの方が理解すると思います。ましてや、経営環境が複雑化する時代であれば、さらに、人材育成に時間を要することになるでしょう。しかし、実際には、人材育成をしなかったり、人材育成の効果を短期間に求めようとしたりする会社は少なくないように、私は感じています。そして、そのような会社は、離職率が高くなり、経営者の思いとは逆に、なかなか業績が向上しない結果となります。
では、なぜ、そのような会社が人材育成の効果を短期間に求めようとするのかというと、その理由はひとつだけではないと思いますが、最も大きいと考えられるものは、経営者が人材育成に関心が低いか、人材育成が不得手だからだと思います。これは当たり前と思われるかもしれませんが、競争力を高めるための要素は、人材育成が大きな比重を占めているのですが、そうとは考えず、提供する商品に注力すれば競争に勝てると考えている経営者が多いのではないかと思います。
確かに、かつては、「もの」消費、すなわち、性能のよい商品さえあれば、従業員の能力にあまり左右されず、業績を高めることができる時代がありました。でも、現在は、「こと」消費の時代であり、「もの」、すなわち、商品そのものは性能が高くて当たり前であることから、商品開発能力や、販売方法の差で勝負が決まる時代です。でも、従業員教育にあまり労力や時間をかけようしない経営者は、そういった時代の変化を認識できていないのでしょう。
2023/5/18 No.2346