マニュアルは初心者が加筆・修正する
[要旨]
変圧器メーカーのNISSYOでは、マニュアルを作成することで、新入社員にも質の高い製品を製造することを可能にしています。ただし、そのマニュアルのベースは、ベテラン社員が作成し、電気初心者にも理解しやすいものにするために、初心者に記載内容の見直しを担当させています。これを繰り返すことで、マニュアルが、より実践的で精度の高いものとなっているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない! 町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、NISSYOの技術的な強みは、特注品を、短納期、高品質、低価格で納品できることですが、それは、多くのスペシャリストを揃えることではなく、スペシャリストの技術をデータベース化することで、コアテクノロジー以外は、できるだけ職人技に頼らず、作業の標準化を進め、初心者を即戦力化することで実現しているということについて説明しました。
これに続いて、久保さんは、マニュアルを整備することで、新入社員でも、ベテラン社員がつくる製品と、同品質の製品をつくることを可能にしていると述べておられます。「NISSYOでは、『文系大学出身の新卒社員』、『パート』、『ベトナム人』など、電気の初心者が、設計、製造の第一線で活躍しています。新入社員であっても、ベテラン社員と『同じ品質』で製造することが可能です。
初心者でも即戦力になるのは、スペシャリストの職人技をデータベース化した『マニュアル』(手順書)を共有しているからです。(中略)マニュアルを作成する上で大切なのは、『初心者にも理解できること』、『常に見直しをして、更新すること』です。(中略)そこで、まず、ベテラン社員(高い製造技術を持ったスペシャリスト)に、マニュアルのベース(叩き台)をつくらせて、個人の経験に頼った曖昧な情報を、精査・数値化しました。
ですが、ベテラン社員がつくるマニュアルは、どうしても専門的になりすぎて、電気初心者には分かりにくい面がある。マニュアルの難易度を下げるため、当社では、初心者(新入社員など)に記載内容の見直しを担当させています。実際にマニュアルに沿って実務を体験させ、その後、初心者目線でマニュアルの加筆・修正をを行なっているのです。新しい人が新しく仕事をするたび、『自分が困った点』を書き入れ、マニュアルを改訂して次の担当者に渡す。この繰り返しによってマニュアルの精度が上がります」
マニュアルというと、一般的には、一度作成されれば、それを使い続けることになると思います。しかし、NISSYOでは、初心者に理解でき、かつ、新入社員がベテラン社員と同じ品質の製品をつくれるようにするために、見直しをしています。このように、マニュアルが作成されれば、それで終わりということではなく、きちんと効果が得られるようになるまでマニュアルの改善を繰り返しているることが、NISSYOの強みの鍵になっていると思います。
そして、これは、久保さんが言及していないので、私の想像で述べるのですが、マニュアルの改善作業を通して、特に、ベテランではない従業員の方たちは、参画意欲が高まっているのではないかと思います。もちろん、品質の高い製品をつくるためのマニュアルの幹の部分は、ベテラン社員がつくっています。しかし、それに磨きをかけて、実践的なよりよいマニュアルにしているのは、初心者の方たちです。
初心者も、実際にマニュアルを見て製品を製造しながら、それと同時に、マニュアルの精度を高めることを通して、暗黙知を形式知にしていく作業に関わっているわけです。すなわち、会社の競争力を高める作業に、直接的に関与していることになり、そのことは、仕事に関する士気を高めていると思います。こういったことの積み重ねが、NISSYOの強みをより大きなものとしているのではないでしょうか?
2024/2/16 No.2620