会社と屏風は広げ過ぎると倒れる
[要旨]
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、「会社と屏風は広げ過ぎると倒れる」と例えられるように、やりたいことがたくさんあると、結局、何もできないまま終わってしまうので、よい結果を出したいと思うならば、目標の数は3つか最大4つに絞り込むことが原則であり、多すぎる目標は実行を妨げる要因としかならないので、何を実行するかに関しては、優先順位を決めることが重要ということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、貴重な情報とは、忖度や配慮のない情報、何気ない話の中に潜んでいることが多く、例えば、マスキングテープで急成長したスリーエム社では、同社の日常的風景である試作品の失敗談を聞いていた営業社員の発想から同製品が生まれたことから、同社のように、どんな話にも丁寧に応じるという姿勢が大切ということについて説明しました。
これに続いて、新さんは、事業活動は絞り込みをすることが大切ということについて述べておられます。「会社と屏風は広げ過ぎると倒れる。(中略)つまり、やりたいことがたくさんあると、結局、何もできないまま終わってしまうのだ。よい結果を出したいと思うならば、目標の数は3つか最大4つに絞り込むことが原則である。『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』式のやり方では、成功率が低い。目標は実行が伴って達成される。
多すぎる目標は実行を妨げる要因としかならず、どんどん目標達成から遠ざかることになる。何を実行するかに関しては、優先順位(Priority)を決めることだ。具体的には、(1)必ずやらなければならないこと、重要な仕事(Must)、(2)やった方がよいこと(Desirable)、(3)やらなくてよい(Dispensable)に分類し、(1)のみに集中するのである。
『一利を興すには一害を除くにしかず、一事を生ずるは一事を減ずるにしかず」という格言がある。モンゴル帝国の丞相(総理大臣のような立場)を務め、元王朝の礎を築いた耶律楚材(やりつそざい)の言葉とされる。その心は、物事を成すには、あれもこれもと数多く積み上げるよりも、悪いものを減らしていった方がよい、何かを創造しようとするなら、何かを捨象することからはじめた方がよいということだ。優先順位とは、『あれもこれもよ、さようなら、あれかこれかよ、こんにちは』ということである」(162ページ)
事業活動を絞り込むことは、経営環境が複雑になっている現在に適している手法として、規模の大小を問わず、多くの会社で実践されているようです。この絞り込みで私が思い出すことは、経営コンサルタントの山田修さんが、かつて、米国の製紙会社のミードの日本法人の社長に就いて、同社の改革を行った手法です。
その山田さんが実施した手法は、具体的にはABC分析だそうです。同社の顧客は120社あったそうですが、これを販売額で、Aグループ5社、Bグループ25社、Cグループ90社に分けたそうです。AグループとBグループの基準は私は把握していませんが、Cグループは年間販売額が1,000万円以下の会社にしたそうです。そして、山田さんは、C社には営業マンを訪問させず、すべて、電話で注文を受けるようにしたそうです。
また、同社が顧客のCグループの会社の工場に置いてある機械が故障しても、自社の従業員を派遣して修理させることはせず、自社が紹介したメンテナンス会社に顧客から電話してもらい、修理代も顧客に負担してもらうようにしたそうです。(同社は、複数の缶飲料などをまとめて手にかけてぶら下げて持てるようにする紙パックを販売しており、顧客の工場には、顧客の製品をパック詰めする機械を置いていたようです)
その結果、1年以内に、Cグループの顧客のうちの半分が、取引解消になったそうです。しかし、この手法で、山田さんが着任する同社の前年の売上は約40億円、経常赤字は約22億円でしたが、山田さんが着任した後の半年間で売上を前年比で20%改善し、利益も黒字になったそうです。そして、翌々年から、売上高経常利益率は8%に改善したそうです。
もちろん、事業の黒字化は、従業員の方たちの努力も大きな要因になっていると思いますが、顧客をカテゴリー分けして、活動の効率化をしなければ、それらの努力はあまり報われることがなかったでしょう。一方、会社経営者の方の多くは、多くの製品や多くの顧客を対象とする事業活動の方が、収益機会を増やすことになると考える傾向にあると思います。しかし、全方位的な事業は、前述したように効率化を妨げとなるという点に注意しなければなりません。
2024/10/30 No.2877
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