職務記述書はコミュニケーションツール
[要旨]
人材マネジメントの手法のひとつに、職務記述書の活用がありますが、これを詳細な部分まで記述してしまうと、従業員の方の自由度が失われてしまうという欠点があります。しかし、上司が部下に対してどのようなことを期待しているのかを両者で確認し、士気を高めてもらうためのツールとしての効果が期待できます。
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今回も、前回に引き続き、慶應義塾大学大学院特任教授の高橋俊介のご著書、「人材マネジメント論-儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント」を読み、私が気づいた部分について述べたいと思います。高橋教授は、人材マネジメントについて、都度、指示を出す方法、マニュアルに基づく方法、職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づく方法について述べておられます。このうち、職務記述書については、高橋教授は、やや否定的に述べておられます。
「マニュアルよりも、もう少し抽象性の高いものに、職務記述書がある。これは、新公民権法への対応を、企業が求められるようになった、1960年代のアメリカで、ピラミッド組織を科学的に管理していく一手法として、急速に広まった。職務記述書とは、定例業務のように、何を仕事として認識すればいいかや、アカウンタビリティ(説明責任)の基準を、ポジションごとにまとめたものである。しかし、仕事の範囲は示してあっても、その仕事をどのようにやるかまでは、詳しくは規定されていないのが普通なので、仕事における自律性や判断は、ある程度、個人に任されることになる。
しかしながら、この職務記述書も、あまり徹底し過ぎると、従業員から、『仕事は自分で創造的につくりあげるもの』という意識が失われて、変化に対応できなくなってしまうという欠点がある。また、現在のように、仕事環境の変化が、あまりに激しいと、職務記述書の中身を頻繁に書き換えなければならないという煩雑さがつきまとう。ひとつのポジションにつき、A4用紙5~6枚のボリュームからなる職務記述書があって、それが5万人の組織で、8,000ポジション分あるとすれば、それだけの分量を変化に応じてメンテナンスするのは、物理的に不可能である。だから、シリコンバレーなどでは、最初から職務記述書をつくらないのが当たり前になっている」(97ページ)
高橋教授のご指摘は、私はその通りだと思います。しかし、私は、職務記述書の内容の前に、経営者やマネージャーと、部下の間でのコミュニケーションツールとしては、効果があるものと考えています。というのは、中小企業の多くは、上司が部下に対して何を期待しているのか、部下の側から見て分かりにくいという場合が多いようです。
また、上司の側からみても、部下にいろいろと要望はあるものの、きちんと伝える機会を持てないでいることがあるようです。そこで、シリコンバレーの会社のような膨大な量の職務記述書ではなくても、上司が部下に期待する内容を明文化したものを、部下と確認するためのツールとして活用することは、私は有効だと思います。もちろん、職務記述書を活用するだけで、人材に関するすべての課題が解決するわけではないのですが、6か月、または、1年に1度の頻度で、上司と部下が面談することは、部下の方の不安感を取り除いたり、士気を向上させたりする手法としてお薦めします。
2022/10/6 No.2122