計画はいくつかのステージに分ける
[要旨]
目標を達成するための事業計画は、まず、そこに至るまでの状態を、3~5年かけていくつかのステージに分けます。さらに、実践すべき項目を重点的に絞り込み、徹底的に経営資源を注ぎ込むことが大切です。そして、経営者は、経営環境、労務、財務などを知り尽くし、達成できる計画とシナリオを描ける能力を持たなければなりません。
[本文]
今回も、Bリーグチェアマンの島田慎二さんのご著書、「オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか?」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、島田さんが千葉ジェッツの社長時代に、日本一になるという目標を立てたそうですが、漠然と日本一になるというだけでは、リアリティがないため、目標を達成するまでのプロセスを可視化して、目標が実現できる可能性を感じてもらうようにして、従業員の方のモチベーションを高めていたということを説明しました。これに続いて、島田さんは、計画を立てるにあたっては、何段階かのステージにわけることが重要と説明しておられます。
「着実に成功を積み重ねていくためには、計画は3~5年で考え、いくつかのステージに分けた方が賢明です。いきなり、『顧客数を3倍にする』などと計画を立てても、そのためにはやるべきことが多すぎて、すべてが中途半端に終わる可能性が高まります。そうではなく、重点的にやるべきことを絞り込んで、徹底してリソースを注ぎこむ、要するに、『選択と集中』です。スポーツチームの集客計画を例に説明します。年間の集客数を1万人増やすと考えると、それが3年後に目指す姿になります。翌年に達成しようとしても、とても不可能ですから、プロの経営者として『なる』とだんげんできません。そこで、ステージを分けます。
まず、1年目に集客ターゲットの見極めに全力を注いで会場を埋める。2年目には会場のエンターテインメント性向上に注力して、来場者満足度を高める。3年目に、ファンクラブの活動内容を充実させて、リピーターを増やす。このように、絶対にできることを見極めて徹底的にやり切るのです。どこまでなら確実にできて、どのようなステージに分けるべきかは、経営者が本気で考えなければなりません。裏を返せば、その判断ができないのであれば、ゴールへ導くリーダーとして不十分であると言わざるを得ないでしょう。魂を込めて経営理念を掲げた経営者であれば、組織の状況や外部環境、各スタッフの能力、財務、競合の情報などを知り尽くし、本気で達成できる計画とシナリオを描けて当然です」
島田さんがご説明しておられるように、目標達成のためには、「重点的にやるべきことを絞り込んで、徹底してリソースを注ぎこむ」、そして、それを着実に遂行するために、「計画を数段階のステージに分けて実行する」ということは、ほとんどの方がご理解されるでしょう。しかし、「経営者であれば、組織の状況や外部環境、各スタッフの能力、財務、競合の情報などを知り尽くし、本気で達成できる計画とシナリオを描けて当然」という指摘は、とても厳しいと感じる経営者の方は多いと思います。というのも、私が、中小企業診断士として中小企業の事業発展のお手伝いをしている中で、この事業計画に関するご相談が最も大きな部分を占めています。
そのような会社の経営者の方は、会社運営に事業計画が必要であると感じつつも、なかなか思うように作成できないという悩みを持っておられる方たちです。確かに、中小企業経営者の方は、会社を経営しておられるわけですから、何らかの秀でるもの、例えばものづくりの能力や、顧客獲得の能力をお持ちです。でも、島田さんがご指摘しておられるように、購買→生産→販売という事業の中核部分だけでなく、それを支える、労務面、財務面や、経営環境分析と対策立案までカバーしなければならないということになると、なかなか難しいかもしれません。
ただ、年を追って、組織的な活動で事業に臨まなければ競争に勝てない時代になってきていますので、島田さんのご指摘するような能力は欠かせなくなってきています。繰り返しになりますが、現在は、ちょっとした販売方法の対応や、新製品の開発をするだけでは十分な競争力を得られない時代です。着実に遂行できる事業計画を立てて、組織としての能力を高めていくこと、ますます重要になっています。もちろん、直ちにそのような計画を立てることが難しいという経営者の方は、専門家の助力を得ながら、その能力を身につけていくことをお薦めします。
2023/7/23 No.2412
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