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大量の情報の中に良質の情報がある
[要旨]
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、貴重な情報とは、忖度や配慮のない情報、何気ない話の中に潜んでいることが多く、例えば、マスキングテープで急成長したスリーエム社では、同社の日常的風景である試作品の失敗談を聞いていた営業社員の発想から、同製品が生まれたそうです。したがって、同社のように、どんな話にも丁寧に応じ、ありがたいと感謝して聴く、受け取る側の姿勢がより大切だということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、人差し指を相手に向けた時には、中指、くすり指、小指の3本は自分に向いているように、自責と他責は3:1の割合と考えるべきであり、責任転嫁は成長機会の自己否定であって、よりよいリーダーとなるためには、自責を基本姿勢としなければならないということについて説明しました。
これに続いて、新さんは、 情報を伝えてくれた人は歓迎するべきであるということについて述べておられます。「貴重な情報とは、忖度や配慮のない情報、何気ない話の中に潜んでいることが多い。ヒット商品「ポストイット」を世に送り出したスリーエム社は、マスキングテープで急成長した会社である。マスキングテープは、同社の日常的風景である試作品の失敗談を聞いていた営業社員の発想から生まれた。ワクチンの草分け、種痘は、牛飼いは天然痘患者がいない、天然痘にかかっても軽いという噂話を、ジェンナーが耳にしたということからはります。
バッドニュースや何気ない情報が、あちこちから入ってくるようにするには、ルールづくりだけでは十分とはいえない。どんな話にも丁寧に応じ、ありがたいと感謝して聴く、受け取る側の姿勢がより大切なのである。人間というのは、基本的に忠告好きであり、噂話好きである。ただ、こうした忠告は一皮むけば、忠告者本人の自尊心を満足させるためのものであり、噂話ともなると事実関係さえ怪しい、ゴシップやつまらない話が多い。
だからといって聞く耳を持たず、つまらない話をするなど、邪険に扱うと、誰も何も言ってくれなくなる。たとえバッドニュースや噂話であっても、よい話をしてくれた、ありがたいと、丁寧に感謝の意を示せば、相手はこんなことで感謝されるならと、いっそう『情報提供』に熱心になってくれるものである。悪いニュースを持ってきたメッセンジャーを撃ってはならない。大量の情報の中には、良質の情報が含まれていることもある」(161ページ)
私もこれまで何度も述べてきましたが、悪い情報ほど歓迎しなければならないということは言うまでもありません。そして、新さんは、悪い情報だけでなく、「どんな話にも丁寧に応じ、ありがたいと感謝して聴くという、受け取る側の姿勢が大切」ということです。そのような姿勢をとっていたスリーエムの経営者や、英国の医師のジェンナーは、偉大な製品を世に送ることができたのでしょう。
ちなみに、岡山県倉敷市のカモ井加工紙の装飾用のマスキングテープがヒット商品になったのも、スリーエムのマスキングテープと同様の事例だと思います。同社には、2006年に、ある女性から、マスキングテープのガイドブックをつくるために、工場を見学させて欲しいという依頼があったそうです。
それまで、同社では、工業用以外にマスキングテープの用途があるとは考えていなかったので、当初は断ろうとしたそうですが、依頼者の話に興味を持ったことから、工場見学に応じたそうです。それがきっかけで、2008年に、装飾用のマスキングテープを商品化するに至ったそうです。また、見学希望者は、同社に工場の見学を依頼するまでに、別のメーカー数社にも、同様の依頼をしていたそうですが、すべて断られたそうです。
もし、別の会社が工場見学を断っていなければ、その会社がヒット商品を開発できた可能性があります。このように、さまざまな情報に前向きに接することは、ビジネスチャンスを広げることになります。確かに、入手できる情報の中には、収益機会につながる情報の方が割合としては少ないと思いますが、自力でヒット商品を開発するよりも、外部からの情報を吟味してヒット商品を開発することの方が、全体の労力は少なくなると、私は考えています。
2024/10/29 No.2876