絞らないことは全ての顧客を捨てること
[要旨]
かつては、全国民向けの商品が売れる時代がありましたが、現在はモノが溢れているため、顧客を絞り、その顧客に合わせた商品でないと、売れなくなってきています。一方、顧客を絞ることは、対象とならない顧客を捨てることになると考えられがちですが、絞らないことは、すべての顧客からの支持を得られないと考えなければなりません。
[本文]
今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の佐藤義典先生のご著書、「図解実戦マーケティング戦略」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、自社の商品が強いかどうかは、絶対的なものではなく、競合相手と比較して相対的に強いかどうかで決まるということを説明しました。そこで、自社の商品が相対的に強くなるための手法として、佐藤先生は、同書で、セグメンテーションについて説明しておられます。
「お客様を分けていく手法が、セグメンテーションです。(中略)顧客を絞ると、必然的に、狙っていない顧客からの支持は得られない、得なくてもいい、ということになります。『顧客を捨てるのは問題だ』という意見はよく出るのですが、逆に、『絞らない』ということは、すべての顧客の支持を得られないことにつながります。なぜなら、現在は、競合商品が豊富にある時代だからです。例えば、私は30代男性ですが、『全国民向けの本』よりは、『30代男性向けの本』を選びます。そして、30代男性向けの本は市場に存在するのです。
20代女性の方は、『20代女性向け』の本を買いたいと思うでしょう。すると、『全国民向けの本』は、誰にも売れないことになります。ですから、『絞らない』ということは、『すべての顧客を捨てている』ということなのです。昔のように、モノが少ない時代なら、『全国民向け』でもよかったかもしれませんが、モノで溢れている現代では、『絞らないで全部を捨てる』か、『絞って一部を捨てる』という選択肢しかないのです。ただ、『捨てる』といっても、足蹴にするのではなく、『支持されなくてもかまわない』ということです」(46ページ)
モノで溢れている時代だからこそ、標的顧客を絞り込むことは、標的顧客からも反応を得やすくなり、また、直接的に競合する相手を減らすことになるので、自社の商品が勝つチャンスが増えるということになるでしょう。ただ、経営者にとって、顧客を絞ることはなかなか難しい面もあるようです。例えば、トヨタなどの自動車メーカーは、近年、生産体制を合理化するために、製造する車種を減らしました。その結果、製造する自動車は、コンパクトカーなど、どんな属性の顧客にも販売できる、実用的な自動車が中心になりました。
つまり、あまり特徴がない自動車ばかりが製造されるようになり、街で見かける自動車は似たようなものだらけになったということです。このことは、自動車を単なる移動手段と考えず、それを所有することによってステータスを感じる人たちに対して、自分が乗りたい特徴のある自動車を購入しようとする意欲を下げることになったのではないかと思います。すなわち、全国民向けの自動車を中心に製造したことにより、さらに自動車を欲しがる人を減らすことになってしまったのだと思います。
ただ、その前に、自動車の販売台数が減少してきていたために、生産体制の合理化も避けられない状況にあったので、難しい判断だったと思います。一方、中小企業は、大企業と異なり、機動性があります。だからこそ、中小企業は、顧客を絞ることの意義が大きいと、私は考えています。
2023/1/29 No.2237
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