PDCAは事業改善のための基本的活動
[要旨]
PDCAを実践することによって、事前に銀行に対して自社の情報を提供することができ、より円滑な資金調達が可能になります。しかし、PDCAを実践することは、自社の事業改善に役立ちます。むしろ、業績のよい会社は、PDCAを実践しているという基盤があることから、さらに、難易度の高い改善策を実践することができるようになっています。したがって、PDCAは、資金調達のために行うのではなく、自社の事業を発展させるための基本的な活動と考え、そして、それによって副次的に資金調達も容易になると考えることが妥当です。
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先日、ポッドキャスト番組等を製作している、岡田正宏さんのポッドキャスト番組にゲスト出演しました。ポッドキャスト番組では、銀行からの円滑な融資の受け方についてお話しましたが、その概要は、自社でPDCAを行い、定期的に銀行へ業況を報告にいくことにより、銀行は、事前に自社の情報を多く把握することになるため、融資審査に有利に働くことから、自社が融資を拒絶されるリスクを減らすことになるということです。今回も、この内容について、さらに掘り下げて説明を続けたいと思います。
ここまで、PDCAの実践が重要ということを述べてきましたが、PDCAを実践している中小企業は、残念なことに、あまり多くないようです。これについて、客観的な資料はありませんが、ある税理士の方にお伺いしたところ、その税理士の方の顧問先では、10%程度しかないそうです。ちなみに、月次試算表が作成されている会社は少なくありません。税理士事務所に顧問を依頼している会社のほとんどは、月次試算表は作成されていると思います。
しかし、(1)翌月の上旬までに当月の月次試算表が作成され、(2)それを基に、事業の改善を要する点の有無を確認し、改善が必要とする場合に改善策の検討が行われているという会社は、前述したとおりのようです。ところで、PDCAを実施していない会社の経営者の方のほとんどは、「PDCAは実践した方がよいことは分かっているが、目の前の仕事をこなすだけで手がいっぱいで、それを実践するまでの労力の余裕がない」と考えていると思います。確かに、PDCAは必須でない場合もあります。それは、その会社の業界に追い風が吹いているときです。
すなわち、言い換えれば、追い風が吹いていることによって、その業界の会社は、マネジメントなしでも、会社が黒字になるということです。ただ、このような業界は、かつては少なくなかったかもしれませんが、現在は極めて例外的でしょう。だからこそ、PDCAを始めとしたマネジメントが、より重要になっています。ここで、PDCAは、銀行から安定的に資金を調達するために行うというよりも、自社の事業を安定的に発展させるために重要ということがわかると思います。
業績を改善させるためには、何か、派手な改善策を行う必要があると考えている、または、そういうものに期待している経営者の方は少なくないと思います。仮に、そのようなものがあるとしても、PDCAを実践して基礎が固まっていない会社にとっては、派手な改善策は難易度が高く、実践は困難なのではないでしょうか?一方、業績のよい会社は、あまり知られていないようですが、PDCAは当たり前のように行われています。例えば、ニトリでは、1か月後に情報を得ても遅すぎるということで、1週間ごとに業況を確認しているそうです。
そして、1週間で業績を確認するために、同社では自社で会計システムを構築したそうです。このような、迅速な検証システムがあるからこそ、同社では難易度の高い改善策にいくつも挑戦することができるのでしょう。そして、それらを積み重ねることによって、業績を高めてきたのだと思います。話しを戻すと、PDCAによって、銀行は自社の情報を多く得ることになりますが、それは、同時に、自社の事業改善にとっても有益であり、業績を高める手段でもあるということです。
むしろ、資金調達を円滑にするためにPDCAを行うというよりも、まず、自社の事業を発展させるために、PDCAは基本的な活動であり、それによって得られた情報を銀行に提供することで、副次的に資金調達も容易になると考えるべきでしょう。そして、PDCAは、労力がかかることではなく、マネジメントそのものだと思います。ですから、「PDCAは労力がかかる」と考えることは、マネジメントに向き合おうとしない考え方であり、これを変えない限り、事業活動は成行的で不安定なものになってしまうでしょう。この続きは、次回、説明します。
2023/10/29 No.2510