目玉商品がなくても売り方で繁盛する
[要旨]
コピーライターの川上徹也さんによれば、上野動物園のように、パンダなどの“目玉商品”がいないため、かつて、集客に苦しんでいた北海道旭川市の旭山動物園が、「行動展示」という方法で入場者を増加させ、現在の入場者数は上野動物園に肉薄しているそうです。このように、目玉商品がなくても、動物の見せ方で顧客の支持を得ることが可能になるそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、コピーライターの川上徹也さんのご著書、「価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川上さんによれば、一般的な農法で栽培されたリンゴ、まわりの葉をとらずに栽培し、果実に栄養をいきわたらせたリンゴ、木村秋則さんが育てた奇跡のリンゴがあった場合、多くの人が奇跡のリンゴを選んで買おうとすると思われますが、これは奇跡のリンゴには心を動かされるストーリーがあるからだということについて説明しました。
これに続いて、川上さんは、かつて、パンダなどの“目玉商品”がいないため、集客に苦しんだ北海道旭川市の旭山動物園が、「行動展示」という方法で入場者を増加させたという事例について述べておられます。「上野動物園の立地は東京と抜群。目玉商品のパンダをかかえ、動物園業界では圧倒的な強さを誇っていました。一方の旭山動物園の立地は、北海道旭川市の外れ。日本最北の動物園で、お世辞にも交通の便がいいとは言えません。しかも、1年の半分近くが雪で覆われます。
目玉と呼ばれるようなブランド商品(珍しい動物)もありません。実際、十数年前から、上野動物園と旭山動物園の入場者数は10倍以上離れていました。ところが、数年前から旭山動物園の入場者数は上野動物園と肉薄しています。このような事態になることを、十数年前に予言できたひとは誰もいないでしょう。マスコミなどでよく取り上げられているので、ご存知の方も多いとは思いますが、旭山動物園が人気を得たのは、『行動展示』という方法にあると言われています。
『行動展示』とは、動物の本来のいきいきとした動きを見せる方法です。空を飛んでいるように泳ぐペンギン。空中散歩するオランウータン。360度あらゆる角度から見られる泳ぐアザラシ。自分をめがけて飛び込んでくるホッキョクグマ。旭山動物園で人気の動物たちは、ほとんどの動物園にいる普通の動物です。特別な商品の力に頼らず、既存の普通の商品を、見せ方を根本的に変えたことで、人気を得ているのです」(50ページ)
旭山動物園の成功事例は有名ですが、このことからもわかるように、旭山動物園に来る人は、柵の外から遠くに見える動物を見に来るのではなく、間近で生き生きと動いている動物を見に来ていると考えることができます。似たような事例に、同じく、北海道のプロ野球チーム、北海道日本ハムファイターズのホーム球場の、エスコンフィールドHOKKAIDOがあります。
同球場は、ファールゾーンが狭い、すなわち、観客席がプレーしている選手に近かったり、2階席、3階席もせり出していて、高い位置でもフィールドを近くに感じることができたりするなど、従来の球場と比較して、観客が迫力を感じることができる球場のようです。また、試合のない日でも、「ホテル・サウナ・キッズエリア・レストラン・球場ツアー等の営業に加え、季節ごとのイベントを実施」し、来場者を増やしているそうです。
その結果、日本ハムのボールパーク事業の業績は、2024年3月期の売上が239億円(前期比68億円増、増加率40%)で、事業利益は前期の5億円の赤字から、19億円の黒字になっています。よく、「この商品は売れない」と、商品そのものを否定的に評価する経営者の方がいますが、モノ余りの時代は、商品の魅力がないから売れないのではなく、売り方に魅力がないから売れないのだと思います。したがって、業績を改善しようとするときは、商品の改善よりも、売り方の改善に着眼することをお薦めします。
2024/9/12 No.2829
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