価値観は全社員に賛同されなくてもいい
[要旨]
岩崎裕美子さんが起業した会社では、かつては、岩崎さんに聞かなければ、何も判断できない状態でした。その理由は、会社の価値観が明確になっていなかったためです。そこで、岩崎さんは、すべての従業員に賛同されなくても構わないという前提で、「挑戦」を会社の価値観とするということを、社内に公表しました。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社ランクアップの社長の岩崎裕美子さんのご著書、「ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩崎さんの会社は、働きやすくしたいという岩崎さんの思いから、従業員の方のノルマを設けていないのですが、そのことが、却って、従業員の方が会社から認められていないと感じてしまう要因になっていたことから、従業員の方が、自分自身は事業活動に貢献しているという実感を感じることができる仕組みをつくることが重要ということについて説明しました。
これを踏まえて、岩崎さんは、現状を改善するために、会社の価値観を従業員の方に明確に示すことが大切と考えたようです。「当時の私たちの会社は、なんでも社長の私に聞かないと判断できない会社でした。社内に判断基準がなかったのです。もちろん、私には自分なりの判断基準がありましたが、それを説明していないので、社員からは、『社長は昨日はいいと言ったのに、今日はダメと言っている、言っていることがコロコロ変わる』とよく言われ、社員を混乱させていました。
実際に、みんなで話し合って決めたことを、翌日になって、私が変更することも多かったので、社員は私に毎日のように振りまわされていました。そうなってしまったのは、私が判断基準を明確にしていなかったためです。早速、私たち(岩崎さん、および、岩崎さんと一緒に起業した日高さん)は、また新たな人事コンサルタントの指導のもと、私たちが、『何を大切な価値としているのか?』を話し合ったのです。
そのときに(中略)、2人で考え抜いて出した答えは、『挑戦』だったのです。(中略)このとき、私と日高が考えていたことは、たったひとつ、自分たちの価値観を発表し、それを知ってもらうこと、別に賛同されなくてもいいのです。社員から、『あぁ、この2人は挑戦が好きなんだ』と思ってもらい、『この会社にいるためには、挑戦しなくてはならない』、または、『挑戦が嫌いだったとしても、この会社に残るなら、挑戦を好きなふりをしなくてはならない』と浸透すればよかったのです」(135ページ)
冷静に考えれば、「価値観」は、一般的には会社や人によって異なるわけですから、すべての人に賛同されないことがあったとしても、それは当然です。ただ、人は、他の人から反感を持たれることは避けたいという気持ちもあり、自分の価値観をあまり明確にしようとしないことも少なくありません。岩崎さんも、そう考えていたのかどうかはわかりませんが、従来は、会社の価値観を明確にしていなかったことが、逆に、「すべて岩崎さんに聞かないと判断できない会社」になっていました。
でも、そのような状態は改めなければならないと岩崎さんも感じたことから、「全員に賛同されなくても構わない」という前提で、岩崎さんの考え方を明確にしました。このことについては、「もし、従業員の価値観が、経営者の価値観と合わない場合、その従業員は、無理して経営者の価値観に合わせたり、または、自分の価値観と合う会社に転職したりしなければならないのか」という疑問を持つ方もいるかもしれません。
でも、結論は、その通りということです。価値観に、よい、悪いはないので、自分に合うか合わないかでしか判断できません。そして、経営者は、一般の従業員よりも、比較的大きな責任をもって会社経営に臨んでいるわけですから、価値観も経営者のものが優先されることになります。さらに、前述のように、経営者の価値観が明確になっていなければ、事業活動で必要となる判断は、都度、経営者に仰がなければならなくなってしまう、すなわち、事業活動が非効率になるわけですから、逆に、そのようになることこそ、さけなければならないでしょう。
2023/8/16 No.2436