会社を継続させるため利益は最小にする
[要旨]
MVV経営の大前提は、事業活動が継続することであり、したがって、利益を獲得することは、目的ではなく、事業活動を継続するための手段であると言えます。そこで、ドラッカーの最小利益という考え方に基づき、会社の成長のために、将来に対して適切な投資や資源配分を行うことが大切です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、岩田松雄さんがスターバックスの社長時代に、店舗数の拡大、無償Wi-Fiの導入、コンセント数の増大、一人席の拡充など、顧客満足度を高める取り組みを行った結果、ライバル店より高価格で商品を販売することができましたが、この結果から、岩田さんは、売上はミッションの達成度とリンクしており、もし会社の売上が落ちているときは、ミッションと事業活動に齟齬があると考えるようになったそうです。
これに続いて、岩田さんは、最小利益について述べておられます。「『ミッションでは飯が食えない』、そんな声も聞いたことがあります。MVVに沿った経営が大切だと書きました。では、利益は?もちろん、大切です。企業は世の中を良くするためにあるのですから、その大前提としては、『存続する企業』があります。つまり、MVV経営の大前提は、継続する(Going Concern)ことです。つまり、利益は目的ではなく、存続するための手段なのです。では、どれくらいの利益が必要かといえば、ドラッカーの言っている『最小利益』を目指すのです。
では、その最小利益とは?お客様に価値に見合った適正な価格で商品を提供し、従業員に適正な給料を払い、取引先から適正な価格で商品を購入し、適正な税金を納め、最後に株主に適正に配当して、残った利益が最小利益です。企業の成長のために、将来に対して適切な投資ができる適正な内部留保も必要です。社会の公器として、いわゆるステークホルダーと(将来も)適正に付き合っていくための利益です。ミッションと株価、短期と長期など、一見矛盾することに『折り合いをつける』ことが経営者の仕事です」(150ページ)
岩田さんが言及しておられる「最小利益」は、ドラッカーが、彼の著書、「チェンジ・リーダーの条件」の中で述べている、「必要最小限の利益」のことのようです。この必要最小限の利益は、正確さを犠牲にして、分かりやすく説明すると、顧客、仕入先、従業員などのステークホルダーに対し、将来、自社が得られる利益を最大化するために必要な費用を支払い、現在、自社に残る利益は最低限にするべきという考え方のようです。
すなわち、現在の利益の最大化のために、現在の支出を減らすことは、短期的視点による活動であることに対し、将来の利益の最大化のために現在の支出を増やすことは、長期的視点による活動であり、ドラッカーは、後者の考え方が望ましいと考えているということです。ところで、私は、「折り合いをつける」という言葉にも注目しました。というのは、事業活動は、ドラッカーも述べているように、長期的な視点に基づく活動が望ましいと考えられがちです。
しかし、将来のために、現在の支出を増やすと、利益が減るので、株主の受け取る配当も減ることになります。したがって、長期的視点による活動は、株主からは、歓迎されない面もあります。そこで、私は、将来の利益のために費用を支出するだけでなく、ある程度は、現在の利益を確保する必要もあると、考えています。そして、株主だけでなく、株主以外のステークホルダーも同様に、お互いに利害が対立する関係にあります。そこで、経営者は、ステークホルダー間の利害を調整し、折り合いをつける役割があると、岩田さんはご指摘しておられます。
繰り返しになりますが、何れかのステークホルダーの満足の度合いを高めると、他のステークホルダーの満足の度合いが低くなります。これは、すべてのステークホルダーが、同時に、100%の満足を得ることができないということです。そこで、各ステークホルダーが100%の満足を得られなくても、継続して協力を得られるよう、資源の配分や費用の支出などの折り合いを、各ステークホルダーに対して行なうことが、経営者に求められます。この折り合いをうまく行うことができないと、事業活動に支障がでるため、経営者の調整能力も業績に反映されるということになります。経営者というと、リーダーシップを発揮する役割があると考えられがちですが、調整能力も重要な役割ということができます。
2024/4/18 No.2682