金利上昇時に日銀納付金は減少するが…
[要旨]
一橋大学の野口悠紀雄名誉教授は、金利が上昇すると、日本銀行の保有する国債の含み損に相当する額が、当座預金の支払利息相当額となって実現し、それは、日本銀行の国庫納付金を減らすことになると批判しています。しかし、これは金利の上昇するときだけに起こるものであり、金利が下降するときは、同じ論理で、国債の含み益に相当する額の収益が増加するので、妥当な批判とはいえません。
[本文]
12月11日に、一橋大学の野口悠紀雄名誉教授が、東洋経済オンラインに、日本銀行が保有する国債の含み損に関する記事を寄稿しておられました。この野口教授の記事の内容には、事実と異なる点があり、また、野口教授の考え方にも誤りがあるため、それを指摘したいと思います。まず、記事の基本的な内容として、日本銀行は546兆円の国債を保有しており、今後、金利が上がったときに、その国債の時価が下がると指摘しています。
具体的には、「日銀の雨宮正佳副総裁は、12月2日、参院予算委員会で、イールドカーブ全体が上方にシフト(金利が上昇)した場合の評価損を問われ、1%なら28.6兆円と答えた」というものです。そして、「(国債の評価損によって)日銀が債務超過に陥れば、日銀納付金はストップする。2021年度の日銀納付金は、1兆2,583億円だった」と指摘しておられます。
国庫納付金(日銀納付金)とは、日本銀行法第53条の規定に基づいて、日本銀行が国に納める剰余金のことです。これは、一般の会社の繰越利益剰余金に相当するものですが、日本銀行の剰余金はそれを繰越さずに、国に納めることなっています。話を戻すと、国債のような有価証券は、売買目的で保有している場合、決算期末で時価で評価し、評価損が発生した場合は、それを費用として計上します。
しかし、日本銀行は、国債を満期日まで保有するので、決算期末に、時価との差額を収益、または、費用として評価しません。したがって、日本銀行の保有する国債に含み損があったとしても、それは、会計処理は行いません。ところが、野口教授は、金利が上昇すると、民間銀行が日本銀行に預けてある当座預金の金利も上昇するので、国債の含み損が会計処理されなくても、その上昇分が含み損に相当する額になると指摘しておられます。
この野口教授の指摘は、論理的には正しいと、私も考えます。しかし、実際には、そうならないと、私は考えています。なぜなら、現在、日本銀行は、ゼロ金利政策を維持するために国債を保有しており、また、民間銀行も、資金の運用先がないために、法律で定められている法定準備預金額を超えて日本銀行に預金をしています。これを、超過準備といいます。したがって、もし、金利が上昇すれば、民間銀行は、日本銀行に預金をせず、それを引き出して、別の方法で運用すると思います。
とはいえ、これは、私の予想なので、野口教授への反論にはならないのですが、ただ、野口教授の指摘は、金利の上昇局面ではその通りである一方、金利の下降局面では、国債の金利が高いまま、当座預金の金利は低下するので、日本銀行は、国債の含み益に相当する金利収入を得ることができるということでもあります。したがって、金利が上昇する局面だけで、多額の国債を保有することに問題があると指摘することは妥当ではないといえます。さらに、野口教授の考え方は、もっと深いところに誤りがあるのですが、それは、次回、説明します。
2022/12/15 No.2192