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[要旨]

公認会計士の安本隆晴さんは、会社の財務諸表を、単に、従業員に公開しただけでは、財務諸表の数字が大きいので、実感を感じてもらうことができないものの、従業員1人当たりの損益計算書を作成すると、1人当たりの売上高や利益額を把握でき、身近な数字としてとらえやすくなるということです。そして、このようなアプローチで、自社の財政状況を理解することで、日々の活動に、より、当事者意識をもって臨んでもらうことが期待できるということです。

[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安本さんは、会社が成長するにつれて、従業員数も増加していきますが、それぞれの規模にそれぞれの課題が発生するので、経営者は、単に、売上の増加だけに注力するのではなく、組織体制の適正化に注力する必要があるということについて説明しました。これに続いて、安本さんは、「社員1人当たり損益計算書」について述べておられます。

「そもそも、決算書は、会社全体の活動結果を現しているので、相当、大きな数字であることが多いのです。それを身近な数字に置き換えることによって、経営状況そのものが、より、身近なものに見えてきます。1人当たり損益計算書を作るには、損益計算書のすべての科目の数字を、単純に、全社員数で割ってみます。ちなみに、トヨタ自動車の2011年3月期の連結ベース(グループ会社全体の連結決算書)の売上高、営業利益、当期純利益(同社は米国基準で決算書を作成しているので、経常利益は存在しません)は、それぞれ、18兆9,936億円、4,682億円、4,081億円と、莫大な数字です。

これらを、連結会社全体の従業員数(平均臨時従業員数を含む)384,112人で割ってみると、売上高4,940万円、営業利益120万円、当期利益110万円となります。年俸500万円の人であれば、売上高は9.88倍、営業利益は0.24倍、当期純利益は0.22倍となります。より身近な数字として感じられるというよりも、こんな利益しか出ていないの?大丈夫かな?と思われるかもしれません。財政状態は良好なものの、ここ数年は若者の車離れや円高が進んだためか、減収傾向にあり、収益性・成長性は決して良いものではありません」

安本さんのご指摘しておられるように、会社の財務諸表(損益計算書)を社内に公表したとしても、数字が大きくて、従業員の方には、なかなか、当事者意識をもってもらうことは難しいと思います。でも、従業員1人当たりの損益計算書を作成すれば、その数字は身近に感じてもらうことができ、日々の活動の際に、意識してもらうことが容易になるでしょう。そして、トヨタというと、4,000億円(2011年3月期)の利益を得ている優良企業ですが、従業員1人当たりでは110万円しかなく、決して安泰とは言えないということも理解しやすくなります。

中小企業の場合、従業員1人当たりの財務諸表を作成するかどうかという前に、財務諸表を公開するかどうかということについても考えなければなりませんが、まず、経営者自身で、従業員1人当たりの財務諸表を作成してみるのもよいのではないでしょうか?そして、もし、業況が決して安泰ではないと感じたのであれば、これを従業員の方たちと共有することによって、社内の結束力が高まるのではないかと、私は考えています。

2024/1/10 No.2583

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