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初めから100点を目指してはいけない

[要旨]

ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんが、同社社長時代は、改善の指示を出す際に、組織のキャパシティを超えた指示は出さないようにしていたそうです。それは、もし、それを超えるような指示を出すと、現場が疲弊し、接客業務の質が落ちるなど、悪影響が出ると考えたからだそうです。したがって、経営者は、初めから100点を目指さず、根気強く改善の指示を出しながら、100点に近づけて行くような働きかけを行うことが望ましいということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんがミスターミニットの社長だったとき、コミュニケーションを密にすることは、会社が「病気」になることを防ぐと考え、従業員の方と可能な限り接触したり、複数の経路のコミュニケーションを確保するようにしていたということについて説明しました。

これに続いて、迫さんは、経営者は組織のキャパシティを考慮することが大切ということについて述べておられます。「(現場の声を吸い上げる仕組みなどをつくった後で、経営者が)肝に銘じておくべきことがひとつある。はじめから100点の祖式を目指し、一気にすべての課題を解決しようとしないことだ。例えば、『ある部材の品質が落ちている』という課題に対しては、『品質低下の原因が製造元にあるのか、輸送や保管工程にあるのかをチェックし、同時に新しい製造元候補のリストアップも行う』というアクションをとるだろう。(中略)

恐らく、これら一つひとつの方針は間違っていない。だが、それが何十個も積み重なるとどうなるか?現場はパンクし、悲鳴をあげる。あるいは面倒くさくなって、そのうち誰も報告すらしなくなる。(中略)『責任は、個人ではなく、すべて仕組みにある』という社会学的な考え方に基づけば、担当者のアクションが鈍くなったら、それは組織のキャパシティを超えてしまったという『サイン』だ。課題を解決するときに、リーダーが意識すべきなのは(中略)、重要な課題だけを徹底的に追いかけることだ。

一度にすべてを解決しようとすると、現場は疲弊し、本当に大事な『明るい接客』すら失われかねない。いきなり100点を目指し、周りに指示を出すことは簡単だ。しかし、リーダーに本当に必要なのは、1点ずつ100点に近づけていく『根気強さ』なのだ」(184ページ)

私も、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、中小企業の経営者の多くは、部下や現場の要改善点に敏感なのですが、目についた時点で改善の指示を出してしまいがちであるということです。確かに、改善を要することは、すぐに改善することが望ましいのですが、迫さんがご指摘しておられるように、組織にはキャパシティがあるので、それを超える指示を出してしまうと、改善の指示は実践されなくなってしまいます。

すなわち、経営者の方は、改善のための働きかけはしなければならないものの、そのための指示は、思い付きだけで出すことなく、改善点を整理して、最も効果が出るような方法で指示を出さなければなりません。ちなみに、私は、改善点を整理する方法として、戦略マップを作成することをお薦めしています。戦略マップを使うと、改善点同士を体系的に関連付けられるので、改善点の取捨選択が容易になり、また、改善点を体系的に打ち出すことで、より効率的な改善活動を行うことができるようになります。話しを戻して、迫さんのように、組織のキャパシティを見極め、それに合わせて、適切な改善の指示を出すことも、現在の経営者に求められている重要なスキルであると、私は考えています。

2023/10/23 No.2504

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